日本国内では初となる本格的なマウンテンバイクタイプの電動アシスト自転車「XM1」を2017年にリリースしたパナソニックが、その後継機として発売した「XM2」には高性能なドライブユニットに2段階の変速機構を内蔵するというユニークなシステムが採用された。このシステムが搭載されたことにより、乗り味はどのように変わるのか。里山に持ち出して体感してみた。
近年、世界的に人気が高まっているスポーツタイプの電動アシスト自転車「e-Bike」の中でも、特に盛り上がりをみせるのがマウンテンバイクタイプの「e-MTB」だ。オフロードを走ることに長けたマウンテンバイクの車体に電動アシスト機能を備えることで登りがラクにこなせるようになり、普通のマウンテンバイクよりも1日で遊べる量が劇的に増える。実際に、2017年に登場したパナソニックのe-MTB「XM1」に試乗した際には、電動アシスト機能があるありがたみを大いに実感するともに、アシストユニットやバッテリーが搭載されているにもかかわらず、下りでは普通のマウンテンバイクと遜色ない安定した走行性能を発揮する完成度に驚いたものだ。
今回紹介する「XM2」はXM1の後継モデルで、変速機構を内蔵した「マルチスピードドライブユニット」を備えているのが大きな特徴。一般的に山道を登り下りするマウンテンバイクは、ロードバイクなどよりも軽いギアを選べるように前側の変速を2段、あるいは3段装備しているのだが、e-Bikeの場合、装備するとモーターが配置された部分の厚みが増すこともある。MX2は、その機構をドライブユニットに一体化させることで、自転車としてのバランスを保ったまま、ギアをリアのみの10段変速から前2段×後10段の20段変速とした。また、通常の外装式ギアは段差などを通過する際、チェーンが外れるリスクもあるが、マルチスピードドライブユニットは電子制御で変速するので、その心配はゼロ。変速スピードもわずか0.5秒と速いうえに、外装式と異なりペダルを止めた状態でも変速できるのもメリットだ。
サイズは1,850(全長)×690(全幅)mm。外観デザインは前モデルと大きく変わっていない
内部に2段の変速機構を備えたドライブユニットにより、前2段×後10段の20段変速が可能となった
リアの変速パーツはシマノ製「SLX」グレードを採用。軽さと操作のしやすさ、そしてコストのバランスがよく、多くのマウンテンバイクファンに支持されているグレードだ
ホイールは前後ともに27.5インチ径で、幅2.2インチの「MAXXIS IKON e-bike」タイヤを履く。ノブが低めで舗装路でも走りやすいタイヤだ
効きがいいだけでなく、タッチやコントロール性にもすぐれるシマノ製「SLX」グレードの油圧ディスク式ブレーキを装備
フロントのみサスペンションを搭載する「ハードテイル」。サスペンションは130mmトラベルのSR SUNTOUR製「AION RLR」を採用している
バッテリー容量が36V/8Ahから36V/12Ahに大容量化されたため、車重は2.2kg増し、24kgとなった。バッテリー残量ゼロの状態から満充電まで約4時間かかる。アシストモードは「HIGH」「AUTO」「ECO」の3種類で、最大約107kmアシスト走行可能
フロントにはバッテリーの電源で点灯するLEDのヘッドライトを装備。街乗りだけでなく、薄暗い山の中でも重宝しそうだ
ギアの選択肢が増えたMX2は、特に低い(軽い)ほうのギア領域が拡大されていることから登坂性能の向上が期待できる。そんなドライブユニットの実力を体感すべく、前モデルのレビューでも訪れた里山でテストラン!
フロント側の変速操作は、ドライブモードの切り替えなどと同じく左手側に装備されたボタンで行う。スムーズな操作性で、使いづらさはない
選択しているギアは、ハンドル中央に装備した液晶モニターで確認できる。視認性も良好
平坦な道では高い(重い)ギアはスピードの乗りがいいが、山では軽いギアがいい。特に登りならなおさらだ。そのまま坂を登ってみると、より軽いギアが選べるようになったため、前モデルよりもさらに余裕を持って登れてしまった。以前、前モデルで走った際は、電動アシスト機能があればフロント側の変速はなくてもいいと思っていたが、今回のテストで軽いギアの選択肢が増えることのありがたみを実感。登りがラクになるだけでなく、斜度や速度に合わせて最適なギアを選べるほうがもっと山道を楽しめる。
フロント側のギアを軽いほうに入れると、よりラクに! オフロードでは、タイヤがすべらないようにペダルを踏む力を加減しなければならないが、そうした力の調整もやりやすい
ペダルを踏む力に合わせてアシスト力が加わる設定なので、すべりやすい未舗装路でもアシストが強過ぎてグリップを失うようなことはない。高いケイデンス(ペダルの回転数)にも対応しているため、ペダルをくるくる回すだけでスルスルと登っていける(下の動画参照)。
登りだけでなく、山道では平坦でも軽いギアのほうが走りやすい。土はアスファルトに比べて抵抗が大きく、重いギアを踏み続けると疲れてしまうのだ。このようなことからも、軽いギアがより選べるようになったことはありがたい。
気がつけばフラットな部分も、ほとんど軽いほうのギアで走っていた。山道で出すくらいのスピードであれば、軽いギアでほぼカバーできる
下りではあまりペダルを踏まないので、ギアが増えたことのメリットは感じなかったが、ハンドル幅が広がったことで飛躍的にコントロールがしやすくなった。前モデルもやや長めのホイールベースで、下り坂でも不安を感じない車体だったが、本モデルでハンドル幅が適正化されたことで、より安定感がアップ。下りのタイトなカーブを攻めるような走りには向かないかもしれないが、初級・中級者が安心して下れるe-MTBだ。
前モデルに乗った際に、もう少し幅を広げてほしいと思っていたので、ハンドルが100mm広い680mm になったのはうれしい
広くなったハンドルのおかげもあり、下り坂の途中に木の根などのギャップがあっても安心して乗り越えていけた
パナソニックのe-MTBは、ボトムブラケット(クランク軸周辺のこと。BBと称される)とリアタイヤの距離が一般的なマウンテンバイクに比べて少し広い。この距離が狭いほどコントロール性にすぐれるのだが、逆に、安定性は若干低めとなる。モーターを搭載するe-BikeはBBとリアタイヤの距離をつめにくいものだが、他メーカーのe-MTBではさらに狭くしているモデルもあることを考えると、パナソニックのe-MTBはあえて安定感が得られるようにしているのかもしれない。
ペダルの軸となるBB(ボトムブラケット)とリアタイヤの間は少し距離が開いているが、このことが走行中の安定感をもたらしている
実際に、前モデルで走行した際も安定性がバツグンで、長距離も疲れなそうな特性であった。これが、山道だけでなく、舗装路でも同じ印象で、自宅から山道までアプローチするのにも最適。車重は前モデルより2kg強増量したが、その分、バッテリー容量がアップしているので、目的地までのアプローチで電力を消費したとしてもバッテリーを気にせず使えるだろう。未舗装路では重いギアにしてスピードを乗せ、山道では軽いギアで遊ぶ。今回試した感じでは、前モデルと操作性や安定感は変わらず、登坂性能がよりよくなった。XM2は自走で山道まで行き、オフロード走行を楽しんだあと、また走って帰宅するような使い方にぴったりだろう。
カメラなどのデジタル・ガジェットと、クルマ・バイク・自転車などの乗り物を中心に、雑誌やWebで記事を執筆。EVなど電気で動く乗り物が好き。