足付き性にすぐれ、ストップ&ゴーがしやすい小径タイプの自転車は、おしゃれに見えるデザインのモデルも多く、街乗りを中心としたユーザーに人気が高い。今回紹介するターン「Vektron(ヴェクトロン) S10」は、ミニベロ(小径自転車)に電動アシスト機能を搭載したe-Bike。折りたたみできる機構も備えており、電車や自動車などに持ち込んで輪行もできる。いくつもの折りたたみできるミニベロタイプのe-Bikeに乗ってきた筆者から見ても、本製品は屈指の完成度と思うモデルに仕上がっていた。
「Vektron S10」は、ミニベロ(小径自転車)でも走りを重視したいというユーザーから高い支持を得ているベストセラーモデル。大きめの容量のバッテリーを備えた車体は重量が19.8kgあるものの、パワフルなボッシュ製ドライブユニットを備え、ツーリングも十分に楽しめる約100kmのアシスト走行を実現している。さらに、変速コンポーネントにはシマノ製「ティアグラ」グレードの10速を搭載し、前後のブレーキには制動力に加え、微妙なコントロール性にもすぐれるドイツの老舗メーカー「MAGURA(マグラ)」製の油圧ディスクを採用。このほか、グリップも人間工学に基づいた設計で、握りやすさと疲れにくさに定評があるエルゴン製とするなど、走りへのこだわりが感じられる。
前後20インチ(406規格)のタイヤを装備した「Vektron S10」は、ミニベロにありがちな華奢なイメージはなく、迫力があるスタイルだ
2.15インチの太いタイヤを履いていることも、力強い印象にひと役買っている
ボッシュ製「Active Line Plus」は街乗り向けのドライブユニットで静かだが、トルクフルなアシストを実現する
バッテリーも同じくボッシュ製。車体の中央に近い位置に搭載することで、低重心化にも寄与。バッテリー容量は300Wh (36V/8.4Ah)で、バッテリー残量ゼロの状態から満充電になるまで2.5時間かかる
アシストモードは5段階で切り替えでき、最長100kmのアシスト走行が可能。なお、ディスプレイは大きめで見やすいボッシュ製「Intuvia(イントゥーヴィア)」
1×10速の変速機構は、ロードバイクのエントリーグレードなどに採用されるシマノ製「ティアグラ」
フロントのギアは52Tと大きいサイズが装備されているので、小径タイヤでもスピードが出しやすい
少ない力で高い制動力を発揮する油圧のディスクブレーキも搭載。速度が出やすくなるので、Vektron S10のような走りにこだわったモデルには付いていてほしい装備だ
ミニベロではめずらしい、コントロール製に定評があるマグラ製のブレーキを採用。グリップは手のひらを受け止める形状となっているので、疲れにくそう
フレームは折りたたみできる機構となっているが、かなり剛性が高そうなしっかりした作り。この部分の設計が、走行性の良し悪しを大きく左右する
高い走行性能を担保するパーツを採用しているだけでなく、ミニベロの用途として多い「街乗り」に役立つ装備も充実。バッテリーから給電されるライトや標準装備のサイドスタンドなど、普段使いしやすい仕様となっている。
フロントライトはかなり大柄で明るい
フロントライトと同様に、リアにもバッテリーから給電されるライトを装備。フロント側を点けると連動してリア側も点灯する
重量のある車体をしっかり支えられるよう、サイドスタンドもがっしりとした作り
ここからは、Vektron S10の試乗へと移るが、その前に、ライディングポジションを調整しておこう。Vektron S10は、サドルとハンドルの高さが調整できるようになっており、適応身長は147〜195cmと幅広い。身長差のある家族で共用する際も、それぞれがラクで安全な状態で乗ることができるのは、とても大きなメリットだ。
サドルは2段階で調整できる。38cmの身長差に適応するだけあって、伸縮差はかなりのもの
ハンドルも工具なしで高さを調整可能。写真左のようにハンドルを前に倒して低くすると前傾姿勢が取りやすく、写真右のようにハンドルを立てると体が起きたライディングポジションとなる
準備ができたところで、出発! e-Bikeは、シティサイクルタイプの電動アシスト自転車よりも漕ぎ出しのアシスト感が自然な感覚になるように設定されているが、Vektron S10に搭載されているボッシュ製のドライブユニットは、漕ぎ始めからグイグイ強力にアシストしてくれる特性を持つ。その特性がどのように作用するのかが気になっていたのだが、マウンテンバイクタイプに搭載されているものとは異なり、街乗り向けに調整されていた。スムーズな漕ぎ出しと静音性を重視しながら、力強いアシスト感は健在。シティサイクルタイプのような、ペダルを踏んだ瞬間に突然アシストが立ち上がるような挙動はないが、ペダルを踏んだ分だけ強力にアシストしてくれるので、街中でもグイグイ加速できる。もっともパワフルな「TURBO」モードでは、アシストが強力過ぎて、平坦な道では持て余すほどだ。
街乗り向けに調整されているとはいえ、ペダルを踏むとグイグイ加速するボッシュのドライブユニットの特性は変わらない
激坂も、「TURBO」モードよりひとつ控えめな「SPORT」モードで難なくクリア。街中であれば、最大パワーを使わなくても快適に走行できそうだ。強力なアシストモードで走るシーンが少なくなれば、その分、バッテリーの持ちがよくなるので、充電回数も減らせそう。
もっとも軽いギアは使わずに登り切れてしまったので、まだまだ余力はありそう。この坂は検証でよく使用するが、これまで試乗したe-Bikeよりもかなりラクに登れた印象だ。登っている様子は下の動画でチェックしてみてほしい
小径タイヤを生かした小回りも得意。クイックに曲がることができ、かつ、太いタイヤのおかげで安心して走れる
Vektron S10は重量が重めなため輪行向きではないが、採用されている折りたたみ機構は直感的に操作できて非常にわかりやすい。もちろん、折りたたみや展開は工具なしで行える。収納場所の問題で毎回折りたたむ必要があるなら、Vektron S10はうってつけかも。
ハンドルを支えているロックを解除してハンドルを倒し(1)、フロントタイヤを逆に向け(2)、フレーム中央にあるロックを解除してフレームを折るようにたたみ(3)、フロントタイヤとリアタイヤが並ぶようにセットしてからシートポストを縮めれば作業完了(4)だ。下の動画は、この一連の流れを撮影したもの。30秒たらずで折りたたむことができるほど、簡単だ
折りたたんだサイズは860(幅)×410(奥行)×650(高さ)mm
フロントタイヤとリアタイヤのサイドには磁石が装備されており、これらのタイヤが横並びになるように折りたたむ際、自然とくっつく。こうした工夫が、短時間で簡単に折りたたみできることにつながる
折りたたんだあと、ギアの歯やドライブユニットが地面に付かないように脚のようなフレームが装備されているのも◎
かなりコンパクトに折りたためるものの車重が20kg近くあるので、正直、これをバッグに入れて電車で輪行しようという気にはなれない。純正の輪行バッグもオプションで用意されているが、自動車に積んで移動するか、室内に収納するための折りたたみ機構だと思っておいたほうがいいだろう。
持ち上げて運ぶのは厳しいが、転がして移動すれば比較的ラク。折りたたんだ状態でサドルを握り、タイヤを転がして運ぶこともできる(下の動画参照)
折りたたみ機構を備えたe-Bikeには、バッテリー容量を小さくするなどして軽量化を図り、輪行しやすさを重視したモデルと、軽さよりも走行性能にフォーカスしたモデルがある。Vektron S10は走行性能に重きをおいたe-Bikeとなるが、実際に乗って感じたその性能は想像以上。筆者が今まで試乗したミニベロタイプのe-Bikeの中で、もっともパワフルで乗りやすかった。さらに、アシストが強力なだけでなく、車体やブレーキ、変速ギアなどの完成度が高い印象。自転車としての性能が非常にいいので、“走る・曲がる・止まる”といったひとつひとつの動きのレベルが高く、試乗はずっと快適だった。さすが、2018年に発売されてから今でも高い人気を維持し続けているモデルだけある。走行性能の高いミニベロタイプがほしいなら、Vektron S10は選択肢に入れておいて間違いはない。
なお、今回紹介はしていないが、ラックやバッグなどの専用アクセサリーも充実しており、使い方に合わせてカスタマイズすることも可能。適応身長も幅広いので、家族で共用したい人にもうってつけだろう。