今回紹介するのは、折りたたみのミニベロ(小径自転車)を中心に展開している台湾の自転車ブランド「ターン」が発売するミニベロタイプのe-Bike「HSD P9」。フレームの折りたたみ機構は搭載されないモデルだが、実用性にフォーカスした仕上がりとなっているのが特徴で、チャイルドシートを装着することもできる。利便性の高いミニベロe-Bikeや、一般的な子乗せタイプの電動アシスト自転車とはひと味違うスタイルを望むならチェックしておきたいモデルだ。
小径タイヤを履いた車高の低いミニベロタイプのe-Bikeは、小回りがきき、ストップ&ゴーもしやすいことから街乗りユーザーに人気が高い。ただ、デザイン性を優先し、キャリア(荷台)や前カゴを装備していないモデルも多く、たくさん買い物をするような用途には向かない傾向にある。そうした点もカバーできるのが、今回紹介する「HSD P9」の特徴だ。標準時の車体にはリアにキャリアが装備されているだけだが、そこに荷物をくくりつけたり、バッグを付けるなどすることで積載性は高まる。さらに、フロントラックやボックスといったオプション(別売)を取り付ければ、もっと積載量を増やすことも可能だ。しかも、もともと子乗せモデルとしても使えるように設計されているため、チャイルドシートを装着することもできる。こうした装備品は別売だが、必要に応じて積載性を拡充でき、必要がない時には取り外して一般的なミニベロのように使うというように、用途やライフスタイルに合わせて使い分けできるのはメリット。コンパクトな車体だが、耐荷重は170kgもあるので、ある程度重さがある荷物も積載できる。
たくさんの荷物や子どもを乗せても安定して走れるように、車体の全長は163cmと長めに設計されている。ホイールベースを長くすることで、走行安定性を高める狙いだ
フレームサイズは1種類だが、サドル位置を2段階で調整する機構が装備されており、そのレンジが広いので適応身長は150〜195cmと幅広い
リアキャリアは標準で装備されている。耐荷重は60kg
ライダーも含め、170kgまで乗る(載せる)ことができるHSD P9には、力強くスムーズなアシストと静音性を両立するボッシュのドライブユニット「Active Line Plus」が採用されている。さらに、1×9の変速ギアや油圧式ディスクブレーキを装備し、高い走行性能も確保。300Wh(36V/8.4Ah)の容量を持つバッテリーを装備しており、最長100kmのアシスト走行が可能だ。
ボッシュ製ユニットの中では街乗り向きに位置づけられる「Active Line Plus」を採用。シティサイクルタイプの電動アシスト自転車よりもスムーズなアシストフィーリングが特徴だ
前後のタイヤは20×2.15と太いもの。フロントにはサスペンションも装備し、段差を越えた際などの安定性にも配慮している。最大170kgの荷重に耐えるためにも欠かせない装備だ
前後とも油圧式ディスクブレーキを装備。高い制動力とコントロール性を確保する
変速ギアはシマノ「アリビオ」グレード。長いチェーンが外れないように補助的なスプロケットを採用している。チェーンカバーも装備されているので、裾が汚れにくい
長く伸びた車体の中央にバッテリーを搭載するというユニークな設計。重心を中心に配置することで、安定性を高めている。なお、標準装備されているバッテリーもボッシュ製。充電は車体に装着したままでも取り外した状態でも行え、バッテリー残量ゼロの状態から満充電になるまで2.5時間かかる
アシストモードは「TURBO」「SPORT」「TOUR」「ECO」の4モードが用意されており、左手側の「+/−」ボタンで切り替える。最長100kmのアシスト走行が可能
日常使いしやすい装備も、しっかり完備。バッテリーから給電して点灯するライトやスタンドのほか、ドイツで名高い鍵メーカー「ABUS」のサークル錠も備えられている。
バッテリー給電のフロントライトは、ディスプレイ部にあるスイッチでオン/オフ可能。フロントライトを点灯するとテールライトも連動して点灯する
標準装備されているスタンドは片足式
後輪に装備されたサークル錠は、信頼性に定評のあるドイツのABUS製。施錠の操作は両手で行わなければならないが、標準装備されているのはありがたい
ディスプレイにはバッテリー残量やアシストモード、速度だけでなく、時計機能も装備されている。走行中に時間が確認できて便利。大型のディスプレイなので、視認性も高い
ハンドルの高さと角度も工具なしで変えられる。乗りやすいライディングポジションに調整しよう
まず、車体に何も装着せず、そのままの状態で走行性能をチェックしてみる。
シティサイクルタイプの電動アシスト自転車とは異なるアシストフィーリングに調整されたドライブユニットを採用しているため、漕ぎ出しの感覚はe-Bikeらしい自然なもの。ペダルを踏んだ時にグッと車体を押し出すようなアシストではなく、ペダルを踏み込んだ力に対してアシストがきれいに上乗せされていく。シティサイクルタイプの場合、発進時に思った以上に車体が進んでしまい驚くこともあるが、HSD P9ではそうした心配はない。それでいて、アシストは強力。しっかり加速してくれるので、25.7kgという車体の重さを感じることもなく快適に走行できた。
e-Bikeとしては重量級の車体だが、それを感じさせないパワフルで自然なアシストだ
登坂力も確かめておこう。挑むのは、電動アシスト機能を搭載しない普通の自転車では、まず登ろうという気さえもおきないような傾斜のキツイ坂。自転車から降りて、押して登っている人がほとんどだ。電動アシスト機能を備えた自転車でも、パワーの弱いモデルだとスルスルと登れないこともあるほどなのだが、HSD P9はギア比を気にする必要がないくらい余裕で登り切ってしまった。
アシストの強さに定評があるボッシュ製のドライブユニットを採用しているだけあって、激坂も難なくクリア。その様子は下の動画で確認してみて!
ただ、坂の先にあった階段では自転車を押して登らなければならず、ここでは車体の重さを感じた
最後に、HSD P9の特徴のひとつである積載量を増やすオプションを紹介しておく。リアキャリアやフロントに取り付ける純正のバッグやバスケットやラックなどのアクセサリーが複数ラインアップされているだけでなく、サードパーティー製のものもたくさん用意されている。もちろん、バイクパックに使われるバッグを使ってもいい。そして、チャイルドシートを装着すれば子乗せタイプの自転車になる。
日々の買い物をするなら、前カゴはあるほうが便利。純正のアクセサリーにはボックス型からL字型まで、形状の異なるフロントラックが複数用意されている。その中から、今回は「Transporteur Rack」(価格19,800円/税込)を取り付けてみた。
HSD P9のフレームとTransporteur Rackに設けられた穴にクイックリリースの軸を差し込むだけで装着完了
Transporteur Rackのサイズは430(幅)×420(奥行)× 267(高さ)mm。耐荷重20kgで、300×400mmの箱を載せられるほど大きい。ただ、深さがあまりない。フロント部とサイド部の深さは70mm(筆者測定)なので、段差などの振動でラックから荷物が飛び出るのではないかという不安がある。これについては、後ほど検証してみよう
フレームの隙間を上手に使った純正アクセサリー「HSD Cache Box」(価格7,700円/税込)もある。シートステイ下に固定する仕様となっているので、目立たないのが魅力。HSD P9のデザイン性を損なわず、ちょっとした収納が欲しい時にうってつけだろう。
シートステイの下にある空間にぴったり収まる。容量は1.9Lあるので、レインカバーやチェーンロックなどを収納しておくのもよさそうだ
HSD Cache Boxはボトルで固定するため、工具が必要。HSD Cache Box自体は盗難されにくいが、開閉機構にロック機能は付いていないため、貴重品を入れたなら、自転車から離れる時には取り出して携帯するほうが安心だろう
チャイルドシートは、リアキャリアの上に取り付ける。純正アクセサリーとしては販売されていないので、HSD P9に適合するものを選んでほしい。ただ、日本国内ではチャイルドシートの装着をメーカーは推奨していない。「HSD」はヨーロッパなどの海外でも展開されているモデルということもあり、日本国内で推奨されているチャイルドシートを装着する自転車の規格とは若干違う部分があるのだ。とはいえ、規格外でもチャイルドシートを取り付けている人はかなりいる。法律違法にはならないが、何かトラブルが起こった際は完全に自己責任になるので、HSD P9を子乗せ自転車として使うかどうかはしっかり検討してからにしよう。
Thule「Yepp Maxi」(価格28,600円/税込)のチャイルドシートは、工具なしで簡単に装着可能。このほか、Yepp「Nexxt Maxi」(価格28,600円/税込)やBobike「GO Maxi」(2021年5月14日時点の価格.com最安価格17,736円/税込)も適合する
チャイルドシートを使う際は当然だが、通常スタイルでも安定性を求めるなら両足スタンドを取り付けたほうがいい。標準装備のサイドスタンドとは違う場所に装着するので、サイドスタンドは付いたままにしておいてもOK。
両足スタンドは、耐荷重が60kgある純正の「ERGOTEC CENTER DOUBLE KICKSTAND」(価格13,200円/税込)。安定性は高いが、ロック機能は装備されていない。なお、取り付けには工具が必要
フロントにラックやバスケットを装備せず、リアキャリアにバッグを装着するという方法もある。純正の「HSD Panniers」(価格17,600円/税込)や、キャリアに取り付けるタイプのバッグを使うといい。今回選んだオルトリーブ「バックローラークラシック QL2.1」(価格23,100円/税込)は、キャリアに取り付けるクイックフックシステムを備えており、簡単に着脱できるのが特徴だ。
オルトリーブ「バックローラークラシック QL2.1」はチャイルドシートを取り付けた状態でも、リアキャリアに装着可能。容量が40Lあるのでたっぷり入れられる。走行中のバランスが気になる人は、両側に付けるといいだろう
バッグ背面に装備されている「QL2.1システム」(バッグ中央と下にもパーツが装着されている)のおかげで、下の動画のように持ち手を引っぱるだけで簡単に取り外すことができる。動画には映っていないが、キャリアに取り付けるのも簡単だ
サッと取り外せるので、手軽に持ち運びできる。買い物先に持参し、買ったものを入れたバッグをリアキャリアに取り付けるというように、ムダな動きなく行動できて便利。なお、「バックローラークラシック QL2.1」はIP64の防塵・防水機能を備えている
今回紹介したアイテムをすべて取り付けた際の走行感も確かめてみた。
雰囲気を出すため、チャイルドシートには人形を乗せてみた(笑)
取り付けたアイテムの中で、重量増に大きく影響しているのはチャイルドシート(4.6kg)とフロントラック(2.4kg)くらいだが(「バックローラークラシック QL2.1」にも少し荷物はいれているが、それほど重くない)、走行感は標準装備で乗った時とほとんど変わらない。安定性は非常に高い印象だ。
ホイールベースが長く重心位置が低い設計は、子どもや荷物を載せて走行するのに相性がいい
フロントラックに入れた荷物が落下しないかも確かめてみた。カバンはそのままラックに入れ、ビニール袋の荷物はカサがあり、袋自体が滑りやすいのでラックに結んでいる。その状態で段差を乗り越えてみたが、ラック内のカバンや袋が落ちることはなかった
実用性や積載性の高さが特徴的なHSD P9だが、筆者が個人的に気に入ったのは走行性能の高さ。実は、筆者は以前、HSD P9でツーリングに出かけたことがあるのだが、ホイール径が小さいため30km/h以上で巡航するような走り方は得意ではないものの、アシストの効く24km/hまではクロスバイクタイプのe-Bikeと遜色ない安定した走りを見せてくれた。ミニベロタイプとは思えないほどの高い安定感を実現できたのは、長く設計されたホイールベースのおかげだ。それでいて、ストップ&ゴーが気軽にできるミニベロならではの魅力も兼ね備えている。足つきがよく、漕ぎ出しが軽いので止まることが苦にならない。こうした乗りやすさは街中だけでなく、郊外をツーリングする際にも役立つ。ちょっといい景色に出会った時に、すぐに自転車を止めて景色を眺めたり、写真を撮ったりできるからだ。普段は街乗りに使い、週末にはツーリングに行けるような懐の深さを持つモデルなので、さまざまな利用シーンで存分に活躍してくれるに違いない。
海沿いの田舎道をツーリングするようなシーンでも、クロスバイクのように風を感じながら巡航できた
エルゴノミック形状のグリップが採用されているので、長時間乗っていても手首が疲れにくいのも◎
チャイルドシートの取り付けに関しては規格の問題もあるのでじっくり考えてほしいが、チャイルドシートが必要な期間はそれほど長くないので、子乗せスタイルと普通のミニベロスタイルが切り替えられるのは魅力的。チャイルドシートは使わなくても、さまざまなオプションを装着し、その時に必要な自転車に変身させられるので、先々を見据えてHSD P9を選ぶのもいい。もちろん、普通のミニベロタイプのe-Bikeとして乗るだけでも価値のあるモデルだと思う。
フレームは折りたたみできないが、ハンドルは折りたたみ可能。自動車に乗せて運ぶ際などは、ハンドルを折りたたみ、サドルを下げれば入れやすいだろう
実は、リアキャリアを利用して車体を立てることもできる。安定感は想像以上に高いが、風や振動の影響を受けやすいので、置いておく場所には注意が必要