近年、話題となる電動アシスト自転車は「e-Bike」が多いが、性能が高いぶん、それなりに高価。円安などの影響で価格は上昇傾向にあり、街乗り向けのエントリーグレードでも40万円近いモデルも少なくない。そんな話をしているとき、価格.comマガジンの編集者に「e-Bikeじゃないスポーツタイプの電動アシスト自転車なら10万円台で売っていますが、どうなんですか?」と質問された。
ここ数年、e-Bikeに注目度は奪われているものの、スポーツタイプの電動アシスト自転車も進化している。そこで、今回はクロスバイクタイプの電動アシスト自転車のなかでもリーズナブルな価格のヤマハ「PAS CRAIG(パス クレイグ)」に試乗してみた!
e-Bikeには、ロードバイクやマウンテンバイク、クロスバイクなどスポーツタイプの車体を採用したものから小径タイプ(ミニベロ)まである。明確な基準があるわけではないが、日本では「スポーツタイプのドライブユニット」を搭載している電動アシスト自転車をe-Bikeと呼ぶことが多い。
スポーツタイプのドライブユニットにはいくつか種類があるが、ペダルを踏んだ力に対して自然な感じでアシストが上乗せされるアシストフィーリングが得られ、高いペダルの回転数(ケイデンス)に対応するように設計されている。
一般的な電動アシストはペダルの踏力が伝わるクランク軸とアシストの力をチェーンに伝える軸が分かれた「2軸タイプ」が主流なのに対し、e-Bikeはペダルを踏んだ力を伝えるクランク軸にアシストの力が伝わる「1軸タイプ」を搭載していることが多い
ヤマハは1軸タイプのドラブユニットを搭載した電動アシスト自転車をe-Bikeとしており、「YPJ」シリーズとして展開している。
2024年10月16日時点のラインアップは、グラベルロードバイクタイプの「WABASH RT」(メーカー希望小売価格は463,100円)、クロスバイクタイプの「CROSSCORE RC」(メーカー希望小売価格は341,000円)、スマホ連携機能を搭載した「CROSSCORE Connected」(メーカー希望小売価格は366,300円)、マウンテンバイクタイプの「YPJ-XC Final Edition」(メーカー希望小売価格は435,600円)、「YPJ Pro Shop」のみで販売となるマウンテンバイクタイプの「YPJ-MT Pro」(メーカー希望小売価格は748,000円)の5モデル※価格はすべて税込
それに対し、今回取り上げる「PAS CRAIG」は、通勤や通学、ショッピングなどに使う、いわゆる“ママチャリ”タイプ(シティーサイクルタイプ)から子乗せタイプまで幅広いラインアップを揃える「PAS」シリーズのひとつ。ドライブユニットは「PAS」シリーズ共通の2軸タイプだ。
「PAS CRAIG」のサイズは1,860(全長)×595(全幅)mmで、重量は21.6kg(ワイヤー錠含む)。メーカー希望小売価格は129,000円(税込)。マットラベンダー(写真のもの)、マットジェットブラック、マットグレイッシュベージュの3色を用意している
「PAS」シリーズと同じドライブユニットを搭載。ドライブユニットにバッテリーを挿し込んだ設計を採用している。スポーツタイプの自転車はBB軸(ペダルが付いている軸)とリアホールの軸の距離(リアセンター)が狭めなので、e-Bikeの場合、リアセンターを抑えるため、このタイプのドライブユニットを採用することは少ない
2軸タイプのドラブユニットは、小さい歯車を介してアシスト力がチェーンに伝達される
ドライブユニットが一般的な電動アシスト自転車と同じ2軸タイプでも、車体構成によって走行性能には違いが出る。「PAS CRAIG」は細身のスチール製のフレームを三角形に組んだダイヤモンド形状を採用。ロードバイクやクロスバイクで採用されている形状で、スポーツ自転車に求められる剛性とスマートなシルエットを両立している。さらに、ロードバイクやクロスバイクに使われることの多い大径の700C(29インチ相当)のタイヤを履いているため、スピードが出しやすく、速度維持もしやすい。一文字のハンドルを備え、クロスバイクらしいライディングポジションに設計されているので、シティーサイクルタイプや子乗せタイプの「PAS」シリーズよりも長い距離を走るのに適している。
スチール製フレームは細身の仕上がり。ボトルケージを取り付けるためのダボも設けられている
前後とも700×38Cのタイヤを装着。やや太めなので衝撃吸収性にもすぐれる
25.5V/8.9Ah(容量約227Wh)のバッテリーを搭載。走行モードは、パワフルにアシストする「強」モード、走行状況に合わせて自動で最適なアシストに切り替える「スマート」モード、節電しながらアシストする「オートエコ」モードを備えている。最大アシスト距離は70km
車体はスポーツタイプだが、バッテリーから給電されるライトや標準装備のサイドスタンドなど、装備を見ると普段の街乗りを意識したモデルであることがわかる。変速ギアは内装3段とクロスバイクとしては少なめだが、アシスト機能があれば変速はそれほど必要としない場合が多いので、この段数になったのだろう。
内装タイプの変速ギアは、停止中にも変速操作ができるので街乗りに好適
変速操作はグリップを回す方法なので、スポーツタイプの自転車に乗ったことがなくても使いやすい
e-Bikeはディスクブレーキを搭載していることが多いが、「PAS CRAIG」は前後ともキャリパータイプのブレーキを採用
フロントライトはバッテリーから給電される
スタンドは片側のみのサイドスタンド。フレームに合わせて細身だが、安定性は申し分ない
サドルも細身だが、骨盤をしっかり受け止める形状を採用。クッション性も高そう
走行性能やアシストフィーリングを確かめるため、「PAS CRAIG」で街中を走ってみよう。
その前に、サドルの高さを調整する。スポーツタイプの自転車では、ペダルに足を乗せ、いちばん低い位置に回したときに膝が軽く曲がるくらいが適切。シティーサイクルタイプなど一般的な自転車では地面にぺたっと足がつくくらいまでサドルを下げることが多いが、そのポジションではクロスバイクの特性を感じにくい。もちろん、そうした乗り方がダメというわけではないが、本記事はスポーツタイプの自転車に適したポジションでレポートする。
身長175cmの筆者の場合、思ったより前傾姿勢が強め。ワンサイズのみの展開なこともあるが、予想していたよりもスポーティーな乗車姿勢だ
ペダルを踏んでひとこぎすると、強力なアシストが起動する。グイッと車体を押し出すような加速感だ。車体はクロスバイクでも、「PAS CRAIG」は一般的な電動アシスト自転車と同じドライブユニットを搭載しているので、当然、出だしのアシストを抑えて自然なフィーリングに設計されているe-Bikeとは異なる。
高いケイデンス(ペダルの回転数)時にアシストが抜けることはないが、アシストがそれ以上かかることはないのもe-Bikeとは違うところだ
出だしから力強くアシストが立ち上がるので、登り坂の途中から漕ぎ出すのは楽。アシストまかせにグイグイ登れる感覚は電動アシスト自転車ならでは。結構な急坂だったが、走行モードは「スマート」モードのままで、ギアの段数も気にすることなく走破できた。
グイグイとサポートされる感覚は電動アシスト自転車らしいもの
アシストがゼロになる24km/hを超える速度で走ってみると、前傾のライディングポジションの効果もあり、アシストのない状態でも巡航はしやすい。スポーツタイプの車体を採用しているからこその利点だ。これなら、普段よりも遠出しようという気分になれそう。
筆者は同社のe-Bike「YPJ」シリーズにも試乗したことがあるが、そのなかのひとつ、クロスバイクタイプの「CROSSCORE RC」と比べてみても、「PAS CRAIG」とはアシストフィーリングが異なる。スポーツタイプのドライブユニットを搭載した「CROSSCORE RC」はペダルを踏む力にスムーズにアシストが乗ってくるため、ペダルを回しているといつの間にかスピードが出ている感じ。バッテリーなどの重さやアシスト機能があることの違和感が少ないので、もっと先まで走ってみたくなる特性だ。実際に100km近いツーリングに使用しても快適だった。
クロスバイクタイプのe-Bike「CROSSCORE RC」
こうした自然なアシストフィーリングはe-Bikeの特性なため、「PAS CRAIG」のフィーリングとは異なるが、アシスト力を強く感じられるほうが好みという人もいるので、どちらがいい悪いということではない。ただ、脚や体に負担を感じず快適に走れる距離は、同じクロスバイクの車体でも差が出る。「PAS CRAIG」はシティーサイクルタイプなどの電動アシスト自転車と比べれば、遠くまで走りやすい特性だが、快適に走行できるのは往復10kmくらいだろう。
このように性能はe-Bikeのほうが断然高いが、価格も圧倒的に高い。「PAS CRAIG」のメーカー希望小売価格は129,000円(税込)なのに対し、「CROSSCORE RC」は341,000円(税込)と、2倍以上の価格差がある。普段からスポーツタイプの自転車に乗っている人はe-Bikeのほうが気持ちよく走れると思うが、そうでない人は、どのような乗り方をしたいのか、そこまでの性能を求めるのかなどをじっくり考えて検討してみてほしい。「PAS CRAIG」でもスポーツタイプの自転車に乗っている感覚は味わえるので、手ごろな価格で購入できるスポーティーな電動アシスト自転車としては推せる一台だ。
車体剛性が高く、スピードを出して曲がる際の安定感が高いのも評価できるポイント
●メインカット、走行シーン撮影:松川忍