お友達や彼氏とお出かけしようと思っていたのに、あいにくの雨。どうせ写真は撮れないしカメラはジャマになるから家に置いていこう……。と、考えているあなた。ちょっと待った! その気になれば、雨の日でもいい写真は撮れます。いえ、雨の日だからこそ撮れる写真もあるのです!
(使用カメラ:キヤノン「EOS Kiss X8i」、モデル:入江早紀さん)
「地面に落ちていた花びらは、実は踏まれたり土が付いていたりして見栄えがよくなかったのですが、マクロレンズならこのように美しいポートレートに仕上げることができますよ(くわしくは後ほど解説)」
今月は「あえての“雨の日ポートレート”」ということで、雨が降る日を狙ってロケに行ってまいりました! いつもは人で賑わっている公園も雨の日は人もまばらで撮り放題。そう、そこは贅沢な自然界のスタジオです。さぁ気合を入れて、晴天下では表現できない雰囲気のある写真を撮りに出かけましょう!
とはいったものの、やはりカメラやレンズに水滴は避けたいもの。まず、雨対策として準備しておきたいものをあげておきます。
1.傘(自分用とモデル用)
カメラマン専用レインコートなども市販されていますが、小雨であれば私は傘派。
2.カメラに被せるタオル(濡れたら交換するために数枚用意)
シャワーキャップをカメラに被せたりする人もいますが、水滴が流れ落ちてくるのが嫌で、私の場合は雨がはじきやすい素材のタオルをカメラに巻き付けます。
3.カメラ用乾燥剤(乾燥剤入りの簡易ボックスを作っておく)
撮影後、使用したカメラやレンズを隅々まで掃除し、すぐにその中に入れ湿気を取り除きましょう。
では、いよいよ撮影開始! まず、カメラの設定で変えてみたのがホワイトバランスです。
写真1 WB:オート、F3.2、1/80、ISO125、レンズ「EF-S60mm F2.8 マクロUSM」
写真2 WB:白色蛍光灯、F2.8、1/80、 ISO125、レンズ「EF-S60mm F2.8 マクロUSM」
写真1はホワイトバランス(以下WB)をオートで撮ったものですが、肉眼で見るよりも黄色っぽく見え雨の日という感じが伝わってきません。そこで写真2ではWBを白色蛍光灯に変えてみました。白熱灯独特の青みが加わり、雨の日らしいしっとりと落ち着いた感じに。ということで、今回の撮影はすべてこのWBで撮ることにしました。
WBを決定したところで……、上の両写真を見て何か不思議な感じがしませんか? そう、手前も後ろもボケていて人物だけにピントがきていますよね。これらは60mmのマクロレンズで撮影しているのですが、じつはマクロレンズは接写の時だけでなくポートレートを撮る時に使うと独特のボケ効果が得られ、かなり面白いのです。
下の写真3は、モデルさんにしゃがんでもらい地面に落ちている花びらを背景に撮影したもの。実際は、雨で濡れた花びらには泥が被っていたりしてさほど美しい光景ではありませんでしたが、マクロレンズを使うと、たとえ背景と人物が近くても、このようにきれいにボケてくれます。
写真3 F3.2、1/100、ISO125、レンズ「EF-S60mm F2.8 マクロUSM」
マクロレンズですから、もちろん写真4のようにかなり近距離での撮影もできます。
写真4 F5.6、1/80、ISO3200、レンズ「EF-S60mm F2.8 マクロUSM」
話はWBに戻りますが、この白色蛍光灯の青みを生かして幻想的でちょっとメルヘンチックな写真が撮れないかと思い、木の形を生かして写真5を撮影。全体の色味を薄くするために、露出オーバーになるのを承知で露出補正を+1でかけました。木の黒だけが強調されて非現実的な世界に仕上がりました。
写真5 F5.6、1/80、ISO1600、レンズ「EF-S10-18mm F4.5-5.6 IS STM(17mm)」
ところで、雨の日の撮影では何色の傘を持ってもらうのがいいでしょうか? 傘の色にも注目して、以下の写真3枚を見比べてみてくださいね。
写真6 F11、1/80、ISO400、レンズ「EF-S18-55mm F3.5-5.6 IS STM(31mm)」
写真7 F4.0、1/100、ISO1600、レンズ「EF-S60mm F2.8 マクロUSM」
写真8 F4.0、1/100、ISO400、レンズ「EF-S60mm F2.8 マクロUSM」
写真6のようなピンクや赤っぽい傘は、顔にピンク色が写り込んで可愛いらしくなりますが、暗く成りかねないので、ちょっとアゴを上げて上を向いてもらいました。これはこれでOK! 写真7は、黒い傘で。この日のように白い服を着ていると、カメラの露出計が暗いほう(黒の傘の暗い部分)に合わせてしまい、白い服や背景がすっ飛んでしまいます。写真8のビニール傘では、上からの露光も受けて明るく抜け感があり、傘に付いている雨粒もいい感じに。というわけで、ビニール傘に軍配があがりました!
雨を利用して撮れるショットは、いろいろあります。たとえば万が一レンズに雨が付いてしまったら、慌てて拭く前に水滴がついたまま撮ってみてください。水滴が丸く白っぽく写って雨の感じがそのまま伝わります。同様に、レンズの曇りなども部分的にソフトフォーカス効果(写真用語ではよく「紗がかかる」と表現します)が出て面白いです。大きな水たまりのあるところでは、被写体や背景が写り込んで、ミラー効果が得られます。
また、写真9は、モデルさんに葉っぱに近づいてもらって撮ったもの。雨で濡れた葉っぱが光ってレフ板代わりになってくれています。彼女の眼の中にそれが反射して写り込んで、目がキラキラしてみえますよね(この場合も、ビニール傘じゃなきゃ光を通さないので、やはりビニール傘は雨の日撮影の必須アイテムですね)?
写真9 F3.2、1/80、ISO1250、レンズ「EF-S60mm F2.8 マクロUSM」
午後。だんだん暗くなり露出も落ちてきました。そこで写真10は内蔵ストロボを強制発光モードに設定し、発光。そうするとこのようにブレずに動きのある写真をとることができます。
写真10 F8.0、1/80、ISO400、レンズ「EF-S10-18mm F4.5-5.6 IS STM(11mm)」
写真11では、曇った窓ガラスを建物の中から手で拭いてもらったところを、建物の外から撮りました。まるでソフトフォーカスフィルターを使ったような柔らかな、普段は撮れないちょっと差がつく写真が撮れますよ。
写真11 F4.0、1/80、ISO100、レンズ「EF-S60mm F2.8 マクロUSM 」
雨の日は周りの景色の色味がどうしても地味になってしまいますが、そんな中で1色だけ
持ち物や洋服などにビビットな色を持ってくるとアクセントになり、締まりのある写真になります。次の写真ではモデルさんに黄色いレインコートを着てもらいました。陽の光が差していなくても構図やアングルによって面白い写真が撮れるので、せっかくの誰もいない公園スタジオをフル活用! 写真13に関しては、芝生の微妙な色の違いを強調するために、あえて−1の補正かけました。ビビッドなレインコートの黄色が一段と濃くなっています。
写真12 F10、1/100、ISO100、レンズ「EF-S18-55mm F3.5-5.6 IS STM(18mm)」
写真13 F13、1/100、ISO100、レンズ「「EF-S18-55mm F3.5-5.6 IS STM(18mm)」
ポートレート写真とは、人物をテーマの中心においた写真のことを意味します。顔が写っている写真だけがポートレート写真というわけではないので、被写体となるその人らしさや雰囲気が伝わってくるような写真であればいいわけです。言い換えれば、「撮影する側がどのようにその人物を見ているかがハッキリと現れる写真」とも言えます。だからポートレート撮影は楽しいのです。撮影にはちょっとうっとうしい梅雨の季節となりますが、梅雨の時期こそカメラを持って出かけてみませんか?
オマケのポートレート写真は、今回のモデル早紀ちゃんのお仕事終了後のリラックスした様子です。彼女はとても自然体でほんわかした雰囲気の女の子。彼女の少女のようなあどけなさと、白い服同様に何色にも染まっていない感じが撮れていたらいいなと思います。
このカメラ、手にしてすぐ“便利に作られているなぁ”と感じ、さすが人気シリーズということを実感しました。いろんな操作がわかりやすく、また、撮影時にひんぱんに使用するボタン類が使いやすい部分に集約されていて扱いやすいので、初心者も撮影に集中することができるのではないでしょうか。
デジタル一眼レフカメラ「EOS Kiss X8i」。写真上は「EF-S60mm F2.8 マクロUSM」を装着
そして今回、1番使用頻度が高かった60oのマクロレンズ「EF-S60mm F2.8 マクロUSM」について。この60oというレンズ、ポートレートを撮るうえで被写体との距離感がほどよいということ(たとえば会話をしながらの撮影ができるなど。望遠レンズではそうはいきませんよね。)、そして何より、現実の世界では目に見えていないユニークなボケが距離や角度によって得られる楽しさがあります。「このレンズ欲しいっ!」って思いました。