せっかく「高画質」なテレビを購入しても、実は多くの人がそのポテンシャルを引き出せていないまま映像を見ていることをご存じだろうか? 今回は、自宅にあるテレビ本来の映像を引き出す「画質調整」の必要性を解説! その入門編として、誰でもできるテレビ画質調整の基本をご紹介する。
一般消費者を対象にしたアンケートでテレビ選びのポイントをたずねると、必ずと言っていいほど1位にあがるキーワードが「高画質」だ。また、テレビ製品の広告に目を向ければ「4K」「8K」「HDR」「有機EL」などなど、こちらも新時代の「高画質」を訴求するキーワードがびっしり。
さらにユーザーを惹き付けようと、メーカー各社は独自の「高画質エンジン」など、さまざまなアイデアや技術をアピールしている。そう、当たり前だがテレビは映像を楽しむもので、「高画質」はテレビにまつわる最大の関心事と言える。
しかし、ここで重要な問題がある。せっかく画質を重視してテレビを購入しても、約7割の家庭で、そのポテンシャルを最大限に発揮できていない可能性があるのだ。その鍵は「映像調整」。「画質調整」とも言う。
テレビと名の付く製品は、例外なく「映像調整機能」を備えていて、各ユーザーの設置環境や用途に応じた調整をすることで、最大限の「高画質」を引き出すことができる。しかし、筆者がこれまでテレビにまつわるさまざまなアンケート調査を見てきたところ、約7割の購入者は「映像調整機能の存在自体を知らない」、あるいは「映像調整をしたことがない」という結果が出ることが多い。
つまり、ほとんどの人が、テレビを購入したときのデフォルト映像設定のままで映像を観ているのだ。実際、筆者の家族や親戚にテレビ設定について確認してみた経験からも、この結果には納得している。
最近のテレビでは、画質を自動調整してくれる「オート」の映像モードがデフォルトの設定になっていることが多い。もちろんこのままでも悪くはないが、画質調整すればより「高画質」に近づける
というわけで、以下より、テレビの画質調整にまつわる基礎知識と、誰でもできる入門編のテクニックをご紹介したい。別途お金をかけず、リモコン操作だけでテレビの設定を調整して「高画質」を得るポイントを解説しよう。
テレビ以外に購入が必要なものはない。画質調整に使うのは付属リモコンだけ。リモコンで設定操作して、よりよい「高画質」環境を手に入れよう
まずは準備体操としてクイズ! 以下2つの写真、どちらが「高画質」だろうか?
……正解は、「どちらかわからない」。(いきなり引っかけ問題で失礼!)
写真「B」を見ると、空の青、芝の緑、キャラクターの赤が鮮やでキレイに見える。ところが、撮影者である筆者が実際に見た光景は写真「A」に近い。撮影した北カリフォルニアの空は群青色に近く、キャラクターは強い日差しに晒されて劣化したかのように黒ずんで見えた。
そう、そもそも高画質とは、「見た目がキレイに感じれば高画質」という考え方もあるし、「制作者の意図したイメージを家庭のテレビでも忠実に再現するのが高画質」という考えもあり、どちらも一理ある。
……が、ここで気を付けたいのは、一般的にテレビ製品は、「見た目がキレイに感じれば高画質」(上の写真のBタイプ)の方向でセットして出荷されているケースが多いということ。これは、テレビを購入したユーザーが「映像が暗い」「色が薄い」「鮮明さに欠ける」など、パッと見で不満を持つことを懸念したものである。先述の通り、約7割のユーザーが映像調整をしないと考えると、妥当な措置かもしれない。しかし、「見た目がキレイに感じれば高画質」には、注意が必要なのである。
では多くの人が惹きつけられやすい「見た目がキレイに感じれば高画質」とはどういうことなのか? その主な要素と、実使用上の問題点について、画像例を交えながら解説していこう。
1) 映像が明るい(短時間だとキレイに感じる) → まぶしくて目が疲れやすい
2) コントラスト強調 (メリハリを感じる) → 不自然。黒潰れや白飛びも起こりやすい
上記の画像、「オリジナル」はナチュラルで落ち着いた風合いで、冬のロンドンを表現している。「コントラスト強調」を行うと、メリハリがあって鮮明に見えるが、場所や季節感が感じられず、また、川面が白飛び、木のディテールが黒潰れするなど、色飽和によって情報量も少なくなっている。
3) 色が鮮やか (新鮮に見える) → 実際の色とは異なる。飽和潰れ
上記の画像、「オリジナル」に対して「色が鮮やか」は、色彩が鮮烈で特に空の青や芝の緑がキレイに感じる人も多いと思う。しかし、もし映画やドラマでは制作者の意図が込められている場合、色の違いは「間違い」と言える。ほか、空は飽和によってグラデーション表現が乏しくなり平面に見えがち。
4) 輪郭強調(高解像度に見える) → 映像装置が作り出した人工物。情報は少なくなる
こちらの画像は「オリジナル」に対し、「輪郭強調」は石垣を構成する石のひとつひとつや芝目がクッキリ見え、一見高解像度に感じられる。しかし、この石の隙間の「黒」は、映像装置が作り出した人工物で、情報量は減る方向だ。被写界深度によるボヤケ表現も失われ、画は硬く平面的になる。
5)フレーム補間 (動きが滑らかで残像も少なく見える) → 動きがヌルヌルと不自然
この件については、トム・クルーズがTwitterで、「フレーム補間をOFFに!」と呼びかけ、話題になった。
トム・クルーズ氏のツイッターより。「ミッション:インポッシブル/フォールアウト」を視聴する最良の方法として投稿された(https://twitter.com/TomCruise/status/1070071781757616128)
つまり、これらの要素を適切に設定し直すことで、テレビが持つ高画質性能を100%引き出せるというわけだ。だから、テレビを出荷されたままの状態で見るのではなく、ちゃんと画質調整をしよう! というお話である。
以前は、店頭展示で他社製品よりも目立つために、画面が煌々(こうこう)と明るく、色もド派手な過剰演出を施した「ダイナミックモード」で出荷されることがよくあったが、さすがに近年では稀になっている。しかし非大手メーカーの製品は要注意だ。
なお大手メーカーの場合、初回電源投入時に「店頭用」「家庭用」の選択画面が表示されるケースもあるので、少なくとも「店頭用」を選んでしまわないよう注意したい。
ここまでで映像調整の必要性は理解できたものの、細かな設定をするのは面倒……という声が聞こえてきそうだ。実際、細かいカスタム設定は上級者でないと難しい。しかし今回は入門編ということで、誰でも簡単にできるポイントに絞って、テレビ画質調整のコツを紹介する。大きく「プリセットモード」「色温度」「明るさ」の3項目に分けて解説していこう。
どんなに設定が難しそうに思っても、まずはこれを使えば心配ない。メーカー各社は、いくつもの画質調整要素を用途に応じて適正に組み合わせた「プリセット」をあらかじめテレビに用意していて、大体リモコンボタンひとつで設定メニューから呼び出すことができるのだ。
画像は東芝「REGZA」の映像メニュー(プリセット)選択画面。リモコンの「設定」ボタンを押し、「映像設定」「映像メニュー」と進んでいくと呼び出せる
このプリセットのメニュー項目はメーカーによってさまざまだが、映画やドラマを観るときに最も制作者の意図に近づけるのが、「シアター」または「映画」といったワードを含むものである(上述のREGZAであれば「映画プロ」)。
初めてこれらのモードを呼び出すと、多くのユーザーは「暗い」「色が薄い」「鮮明さに欠ける」とか、「白色部分が、黄味がかって古臭く見える」などいい印象を持たないと思うが、慣れると階調や色に飽和がなく滑らかで、立体感さえ感じる真の高画質を理解することができるはずだ。
DVD/ブルーレイでも配信でもメディア形式を問わず、映像が作り込まれた映画やドラマを見るときは、まず「シアター」や「映画」のモードをお試しいただきたい。
ちなみに、映像配信サービス大手の「Netflix」は、制作者が意図した映像の再現に注力している。制作側には明るさや色の規格基準を明示し、モニターの定期的キャリブレーション(較正)を義務付け、家庭用テレビに対しては「Netflix画質モード」(Netflix Calibrated Mode)を用意している。
ソニーの「BRAVIA」やパナソニック「VIERA」は、ハイエンドモデルを中心にこの「Netflix画質モード」を搭載している。ユーザーはリモコンからワンタッチで、制作者の意図した映像を忠実に受け取ることができる。
・ソニー「BRAVIA KJ-55A8H」
・ソニー「BRAVIA KJ-48A9S」
・パナソニック「VIERA TH-65GZ2000」
もちろん、すべての映像が「シアター」「映画」でよくなるというわけではない。詳細は後述するが、素の状態がよくない映像があるのも事実で、特に地デジ放送番組は要注意。映像に適度な「化粧」を施すほうがキレイに見えてベターというケースは多々ある。
続いて、映像の風合いに大きく影響するのが「色温度」だ。テレビにおける色温度とは、主に白色の見え方に関わるもので、色温度が低いと白色は黄味を帯び、高いと青味を帯びる。実際の映像では、白色に注目すると最も違いがわかりやすいが、すべての中間色も連動して変化するので、色再現性および映像の印象を大きく左右する。
たとえば、以下は正午の風景をとらえた画だ。色温度が低く黄味を帯びると夕方の雰囲気に、色温度が高く青味を帯びると朝方の雰囲気に見える。映画やドラマなら、ストーリを的確に把握するうえでも重要な意味を持つ可能性がある。
色温度を調整すると、画から受ける印象がガラリと変わる
では、正しい色温度の設定方法を紹介しよう。これは、人間の視覚が「白と思う部分」を白と認識しようとする補正機能「色順応」、カメラで言う「オートホワイトバランス機能」がからむので少々複雑だ。
具体的には、青白い照明下では、脳が青味を打ち消すように補正するので、テレビの映像は相対的に黄味を帯びて見える。逆に、電球のような黄味の強い照明下では、テレビの映像は青味を帯びて見える。
テレビと名の付く製品には、必ず「色温度」という調整項目があり、少なくとも「低」「中」「高」の3段階から選べるようになっている。ここを調整することによって、上記の「見え方の変化」に対応した、正しい色味が再現できる。
東芝「REGZA」の色温度調整メニューは、0(低)〜10(高)のステップで調整できるようになっている
こちらはシャープ「AQUOS」の色温度設定メニュー。「高」「高〜中」「中」「中〜低」「低」の5段階で設定できる
日本オーディオ協会が提案する「ホームシアター映像 調整・環境ガイドライン(PDF)」では、テレビの色温度設定について以下のような基準をガイドラインとして提案している。
設定環境として最も理想的なのは、部屋を暗室に近い状態にして、照明による色順応を避け、テレビ画面の色温度を制作基準の6500K(テレビの色温度設定で「低」がおおむねこれに相当)に設定すること。一般家庭では生活や安全が大切なので、ムリに「暗室」をおすすめするものではないが、最高画質を目指す読者の参考になれば幸いだ。
ちなみに、画質を自動調整してくれる「オート」の映像モードを選択していれば、色温度が自動で調整されるケースが多い。ただし筆者の経験上、適切な調整だと感じられるケースは少ないので、特に映画やドラマなど映像が作り込まれたコンテンツを鑑賞する際は、念のため手動での色温度調整をすすめたい。
テレビ映像の明るさは、周囲の明るさによって感じ方が変化する。たとえば、夜間にまぶしく感じる車のヘッドライトが、昼間なら何とも感じないのと同じ理屈だ。
一般家庭の場合、部屋の明るさは刻々と変化するので、それに応じていちいち手動で調整を行うのはナンセンス。今やほとんどのテレビには、スマホと同じく「自動明るさ調整」機能が備わっていて適切に動作するので、この設定をオンにしてくのが得策だ。
ただ自動と言えども、基本となる明るさをどうするかの調整が必要となる。コツは、テレビ画面全体が真っ白のときに、「映像がまぶしく感じない程度まで十分に暗く、かつ、映像の白であるべき部分がグレーに見えない程度」をベースすることだ。調整の際はコマーシャル映像を表示して活用するとよい。映像の冒頭か最後に企業ロゴを表示するとき、背景が白色になるものが多いからだ。
東芝「REGZA」の明るさ調整メニュー。±15ステップで簡単に変更できるほか、詳細設定に入ればさらに細かく行える
なお、ここでの明るさ調整の指針があいまいな表現になっているのは、適正な明るさが、年齢や好みによって多少異なるためだ。一般的に子どもは光に敏感なので暗めに調整したほうがよく、高齢者は明るめを好む傾向がある。家族みんなでテレビを取り囲むようなスタイルの場合、ちょっと気に留めておくと、団らんもより快適になるだろう。
ほか、調整時に注意すべきは、メーカーによって調整項目の数と名称、役割が統一されていないこと。たとえば「明るさ」という調整項目は、あるメーカーではバックライト調整だったり、別のメーカーでは映像の黒部分の明るさを調整する「黒レベル」だったりする。テレビの説明書をよく読み、正しく調整しよう。ちなみに東芝のREGZAは調整項目が非常に多いが、取扱説明書の説明も詳細かつ非常にわかりやすい。
この記事では、「高画質=制作者の意図に忠実」として、原理原則に従った調整法を紹介してきた。しかし、メーカーの推奨する「オート」的なモードにも一理ある。その理由はテレビで見るすべての映像がきちんと作り込まれているわけではなく、状態がよくない場合も多いからだ。
特にテレビ放送の場合は、映像圧縮によるディテールの消失やノイズも少なくない。こうした制作者が特に意図していない映像の粗は、テレビ側で自動補正して見やすくするというスタイルが理にかなっている。最新のハイエンドテレビに搭載される高度な映像エンジンは、見るコンテンツの種類はもちろん、そのときどきに映るシーンなどにも応じて、瞬時に画質を最適化する方向で補正してくれる機能も備えていて、見やすさ、キレイさ、という点では格段に進歩している。そうした理由で、元の映像を忠実に画面に表示する「シアター」や「映画モード」に固執することもないというわけだ。
なお、各メーカーともコンテンツに合わせて適度な画質処理を行う高画質技術を発展させてきているが、特に筆者が注目しているのは、東芝のクラウド連動する映像エンジン「ダブルレグザエンジンCloud PRO」だ。詳細ジャンルやコンテンツごとの画質特性をクラウドから取得し、映像それぞれにAI高画質処理を施すという芸の細かさ。実際に見ても、その効果を実感できた。
・東芝「REGZA 55X9400」
そのほか、映像をよりダイナミックに表現する「HDR」に関連する調整はどうすればいいの?という声が聞こえてきそうだが、これも原則は同じ。HDR対応テレビは、HDRで収録された信号が入力されると、自動的にそのテレビの能力に応じて「マッピング」を行うので、原則、特別な操作は不要だ。
なお、従来の地デジや衛星の2K放送、ブルーレイやDVDといった非HDRコンテンツは、テレビ側の設定で「HDRモード」をONにするとHDR化することもできる(対応テレビのみ)。これはテレビの映像エンジンによる変換なので、原画に忠実な高画質で楽しみたいなら、変換機能は「OFF」にしておこう。
もちろん、「ON」にすればテレビの能力に応じてダイナミックに拡張される。最近ではこの変換アルゴリズムも賢くなっているので、違和感なくよりメリハリのある映像が楽しめるケースも多い。少し古めのテレビを使っている場合は、設定を確認して、違いを確認するといいだろう(違和感がある場合は「OFF」にすればよい)。
というわけで、テレビの画質調整入門編のまとめとしては、普段の放送番組はデフォルトの「オート」モードを活用しつつ、ここいちばんで映画やドラマを見るときは、「映画」「シネマ」系モードでさらにこだわりの調整を施すのがよい。この記事を参考に、最高の映像美を楽しんでほしい。
オーディオ・ビジュアル評論家として活躍する傍ら、スマート家電グランプリ(KGP)審査員、家電製品総合アドバイザーの肩書きを持ち、家電の賢い選び方&使いこなし術を発信中。