気づけば、今年もあっという間に終わりが近づいてきた。2021年は昨年から続くコロナ禍をはじめ、これまでにないさまざまな出来事が続き、働き方や遊び方などのライフスタイルも大きく様変わりする転換の年になった。なかでもイヤホン・ヘッドホンは、外出中だけでなく自宅にいる時も、オンライン会議での活用や長くなったおうち時間を存分に楽しむため、使い勝手のよい、音質面でも納得のいく製品にニーズが集まっていたと思う。
こういったタイミングだからこそ、皆さんには音と使い勝手の両面で高い満足感をもたらしてくれる、上級モデルのイヤホン・ヘッドホンに注目してほしい。コスパ重視の低価格モデルは、音も使い勝手も不満が生じやすく、特に音質に関しては、比較的騒音の少ない室内だと粗が目立ちやすいため、長時間聴き続けるとかえってストレスになってしまうことがある。おうち時間を満喫するためには、心地よい音、自分の好きな音のイヤホン・ヘッドホンを選び出すことがとても重要なポイントとなってくる。
そこで、この機会に、今年1年頑張った自分へのご褒美としていつもよりハイグレードなイヤホン・ヘッドホンを入手してみるのはいかがだろうか。音のよい、使い勝手のよい製品を手に入れることで、おうち時間も充実してくれるはず。また、製品によってはオンライン会議など、仕事でも活躍するだろう。今回は、イヤホン・ヘッドホン、有線・ワイヤレス織り交ぜた2021年登場の注目8製品を紹介しよう。この記事を参考にしつつ、ぜひ、ポータブルオーディオ環境をグレードアップしてほしい。
HiFiMAN「Deva Pro」
室内での使用がメインのなら、音質面でも有利なヘッドホンが大活躍する。なかでも開放型ハウジングを持つ製品は、装着感、音色ともに良好な製品が多く、呼び鈴や家族の声もそれなりに聴こえてくるので利便性も高い。音漏れが若干するので、自分の使用環境にマッチしているかどうか次第だが、ぜひチェックしてみてほしい。
HiFiMAN「Deva Pro」も、そんな開放型ハウジングを持つワイヤレスヘッドホンのひとつ。3万円台の価格でありながらも、上級モデルに多い平面磁界型ドライバーを採用しているのが特徴だ。また、Bluetoothワイヤレスは内蔵ではなくモジュール形式となっていて、取り外すことが可能なため、有線とワイヤレスどちらの接続でも楽しむことができる。
注目は付属の専用モジュール「Bluemini R2R」だ。こちら、DACパートにHiFiMAN独自のFPGA+ディスクリートR2R構成の「HYMALAYA DAC」を採用、aptX HDやLDACコーデックにも対応しているので、ワイヤレスでも良質、かつ自然な音色のサウンドを楽しむことができる。
実際のサウンドはというと、清々しさと勢いのよさが巧みにバランスしているのが特徴。アンプの設定やチューニングが絶妙なのだろう、豊かな低域によって落ち着きのあるサウンドキャラクターを持ち合わせている。おかげで、音量を上げて好きなアーティストを存分に楽しむことも、音量を控えめにしてBGMとして音楽を長時間楽しむこともできる。さらに有線では、歪み感が少なく解像感の高い、とてもピュアなサウンドを楽しむこともできる。正直、平面磁界型ドライバー採用というだけでもこの価格はリーズナブル。コストパフォーマンスの高い製品だ。
ULTRASONE「Signature NATURAL」
音漏れがなく、ダイレクト感の高いサウンドを楽しめる密閉型ヘッドホン。そのなかでも、独のオーディオメーカーULTRASONEの製品は、単に軽量というだけでなく、音質と耳への負担軽減を両立させる「S-Logic」などの独自技術を搭載するなど、長時間ユースにマッチするさまざまな特徴を持ち合わせている。
「Signature NATURAL」は、そんなULTRASONEの最新モデル。同時発売された密閉型有線ヘッドホン「Signature MASTER」「Signature NATURAL」「Signature PULSE」のうちのひとつで、価格的にはミドルクラスに位置している。しかしながら、搭載ドライバーユニットなど基本的な仕様については「Signature MASTER」と同じで、サウンドチューニングが異なっている。「Signature MASTER」とは上位下位のポジションというよりも、バリエーション違いというのが妥当だろう。ハウジング部のパーツがシルバーとなっていたり、イヤーパッドにプロテインレザーが2セット付属するなど、見かけもセット内容も両者で差別化が図られている。
耳なじみのよい高域と、低域から高域まで一体感のある表現が特徴。メリハリを強調することなく、バランスのよいサウンドを聴かせてくれるので、クラシックからJポップまで、さまざまな楽曲を素直に楽しめる。ちなみに、解像感の高さやキレのよさなどは「Signature MASTER」に劣るものの、クセのない表現なのでモニター用としても十分に活用できそう。モニター、リスニングの両方で活用できる、使い勝手のよい製品だ。
SHURE「AONIC 215 Gen 2 Special Edition」
完全ワイヤレスイヤホン(TWS)は外れやすく落としやすいので、購入を躊躇している、という人にピッタリなのが「AONIC 215 Gen 2 Special Edition」だ。
こちら、“シュア掛け”と表現されることの多い、ケーブル耳掛け型モニターイヤホンを得意とするSHUREならではのユニークな耳掛け型デザインを採用している完全ワイヤレスイヤホン。第2世代モデルになってからは、左右どちらのイヤホン本体からも通話が可能となり、片耳での通話やビデオ会議の利用が可能となった。ANC機能は非搭載だが、イヤホン本体部分のSE215はステージモニターとして活用されているため、最大37dBの遮音性を持ち合わせているため、不足感はない。
また、Bluetoothモジュールは着脱可能となっていて(MMCXコネクター採用)、SHURE製イヤホンや他社製MMCXコネクター採用イヤホン(シュア製以外は保証対象外)を簡単にワイヤレス化することができる。ちなみに、シュアはアプリも秀逸で、EQや外音取り込みレベルの設定に加え、音楽再生もできるようになっている。
Bluetooth SoCとは別体の専用のアンプが搭載されている恩恵が、メリハリのよい、スピート感あふれるサウンドを楽しむことができる。ボーカルも生き生きとした闊達な表現だ。
装着性の確かさ、マイク性能のよさなども含め、なかなかに使い勝手のよい製品だ。
ソニー「WF-1000XM4」
屋外も室内も1台の製品で済ましたいという人にもってこいの製品がある。最新の高性能完全ワイヤレスイヤホンの代表格にして高い人気を集めているモデルが、ソニーの「WF-1000XM4」だ。集音マイクやスマートフォン内のGPSを活用して場所や環境に応じて自動的にANC(アクティブノイズキャンセリング)機能の効き具合を切り替えてくれたり、環境に応じた2つの外音取り込みモードを持つなど、ヒアラブルデバイスとしてみても魅力的。また、接続安定性や連続再生時間の長さ、小型化されたイヤホン本体による装着感のよさなど、さまざまな面で満足度の高い製品に仕上がっている。
音質面でもなかなかの優秀さを誇っている。完全ワイヤレスイヤホンとして初めてLDACコーデックに対応、格段のきめ細やかな表現で、良質なサウンドを楽しむことができる。低域は十分な力感が確保され、高域も伸びやかだが、ドンシャリとはまったく逆の方向、自然で聴き心地のよいサウンド表現だ。特に歌声などは、アーティストそれぞれの声の特徴がストレートに伝わってくる、リアルでダイレクトな歌声がとても楽しい。聴きやすく、それでいて鮮明。絶妙なサウンドチューニングといえる。
発売されて半年経過し、価格もこなれてきた。いままさに“買い”の製品と言えるだろう。
プレシードジャパン「AVIOT TE-BD21j-ltd」
いつでもどこでもいい音で楽しみたい。けれども、完全ワイヤレスイヤホンならではの利便性は捨てがたい。そんなユーザーにぜひ注目してもらいたいのがAVIOT「TE-BD21j-ltd」だ。
こちら、BA型2基+ダイナミック型1基のハイブリッドドライバー構成を持つ完全ワイヤレスイヤホン。国産ブランドとしては初となる、そして国内発売も初、たぶん量産モデルとしては世界2番目くらい?に早い「Snapdragon sound」対応完全ワイヤレスイヤホンであることが大きな特徴となっている。ちなみに「Snapdragon sound」は、クアルコム社がモバイルオーディオ向け最先端技術をひとつのパッケージとしてまとめた新プラットフォームで、96kHz/24bit対応aptX Adaptive(16bit音源に関してはロスレス伝送となるアップデートも発表)や89msec以下の低遅延(しかもパーツ単体ではなく製品としての遅延が求められている)、高品位通話音声通話「aptX Voice」、有線接続時に最大384kHz/32bitのリニアPCM、またはDSDネイティブ再生をカバーするオーディオコーデック「Qualcomm Aqstic Audio DAC」など、音質重視のさまざまな技術が内包されている。
また、外観が同じであるため“ltd”と名付けられているが、ドライバーなどのハードウェアも一新され、音質に関しても0.1dB単位でさらなる追及がなされているなど、まったくの新モデルといっても過言ではない充実したアップデートが行われている。
実際、そのサウンドはなかなかのもの。表現力がグッと高まり、声のニュアンスや楽器のディテールがストレートに伝わってくる。音場的な広がり感も良好で、左右に大きなステージを感じさせる。また、日本人向けチューニングというAVIOTならではのサウンドコンセプトゆえか、メリハリのしっかりした表現を持ち合わせているため、ハードロックやEDMなどもグルーヴ感が高く聴いていて楽しい。最新完全ワイヤレスイヤホンならではの高音質と使い勝手のよさを持ち合わせた優秀機だ。
JVC「Victor WOOD HA-FW1000T」
サウンドキャラクターのよさで注目したい製品がもうひとつある。それがビクター「HA-FW1000T」だ。
こちらは、ビクタースタジオのエンジニアがチューニングを実施した“ビクター”ブランドの完全ワイヤレスイヤホン。同時に、JVCビクターが得意とする“ウッドドーム振動板”を世界で(TWSとして)唯一採用するモデルともなっている。ハイブリッド方式のANCを採用するほか、独自の高音質化技術「K2テクノロジー」を完全ワイヤレスイヤホン製品としては初めて搭載。96kHz/24bitまで伝送可能なaptX Adaptiveにも対応するなど、音質に関しては徹底した追求がなされている。また、イヤービスに専用の「スパイラルドットPro」が新たに開発して付属するなど、付属品についても細部までこだわっている。
同社完全ワイヤレスイヤホンとしては初めて、有線モデル「HA-FW1500」と同じ11mmウッドドーム・カーボンドライバーを搭載。フラッグシップモデル「HA-FW10000」と同じ方向性を目指したというサウンドは、確かに完全ワイヤレスイヤホンであることを忘れてしまいそうになるくらい、WOODモデルらしい、自然な音色とエネルギー感の高いサウンドを聴かせてくれる。弦楽器はピアニッシモまでしっかりと届いてくれる伸びやかな表現だし、金管楽器はほんのわずかに煌びやかな、印象的な演奏を聴かせてくれる。ボーカルや楽器がそれぞれの個性を際立たせてくれる豊かな表現のおかげで、演奏が普段よりも躍動的、情緒豊かな表現に感じられる。聴いていて、とても楽しい。
屋外でも室内でも、WOODシリーズならではのサウンドを満喫したい、けれども完全ワイヤレスイヤホンならではの利便性は捨てがたい、という人にぜひ使ってほしい1台だ。
DUNU-TOPSOUND「DUNU FALCON PRO」
室内がメイン、かつデスク前からひんぱんに歩き回ることもないのでワイヤレスと有線どちらでもOK、という人は、ぜひとも有線イヤホンを最優先候補に挙げたい。というのも、音質的なコストパフォーマンスはまだまだ有線モデルが優位となっているからだ。実は、マイク性能も有線は悪くなかったりする。実際に、2万円台でもなかなかに聴き応えのある製品がいくつか存在しているので、そのなかから注目製品を紹介していこう。
DUNU-TOPSOUNDは、韓国に本拠を置く新進気鋭のオーディオブランドで、早い時期からハイブリッドドライバー構成の製品をラインアップしてきたことで注目を集めていた。エッジの効いたフォーカス感の高いサウンドが特徴だが、ここ1〜2年はさまざまな価格帯、幅広いサウンドキャラクターの製品を展開している。
数多ある製品の中から今回取り上げるのが「DUNU FALCON PRO」だ。こちら、S316ステンレス素材の削り出し筐体に独自開発の10mm口径ダイナミック型「ECLIPSEドライバー」を搭載。同じくステンレス製となるノズル部は交換可能となっていて、標準の「リファレンス」、高域と音の透明さを重視した「トランスパレンシー」、広大な音場を感じられる「アトモスフェリックイマージョン」の3種類が付属。交換することで、好みのサウンドに調整することができるようになっている。また、MMCX端子による着脱式ケーブルは、独自の着脱機構「Q-Liteクイックスイッチングモジュラーシステム」により、3.5mmアンバランス、2.5mmバランス、4.4mmバランスの3種類のプラグに付け替え可能となっている。
実際のサウンドはというと、ダイレクト感の高い、クリアでストレートな表現が特徴。DUNUらしいというべきか、キレのよいハイスピードなキャラクターを持ち合わせているが、女性ボーカルがヒステリックにならず、生き生きとした歌声を楽しませてくれる。音楽に没頭したい時にもってこいのサウンドだ。
ちなみに、ノズル部を交換するとサウンドキャラクターがそれなりに変化する。「トランスパレンシー」はより低域のフォーカスが高まるのでハードロック系がメインの人に、「アトモスフェリックイマージョン」は低域がボリューミーになりつつも広がり感のよい音になるので、JポップやEDMを心地よいサウンドで聴きたい人に向いている。
水月雨「KATO」
有線イヤホンをもうひとつ推薦しよう。ここ数年で数多のメーカーが登場、日本でもいくつかの製品が入手できるようになってきた中華イヤホン。そのなかでも大きな注目と人気を集めているのが水月雨(Moondrop)だ。現在は幅広い価格帯のラインアップを取り揃えているが、得意としているのは数1000〜数万円あたりの価格帯。このあたりの製品は、音のよさ、コストパフォーマンスの高さによってイヤホン好きの間ではすでに定番となりつつある。今回紹介する「KATO」も、そんな“得意”とする価格帯の製品のひとつで、同ブランドとしてはフラッグシップモデルに位置付けされているようだ。
金属製筐体の中には、2年の歳月をかけて開発したという、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)複合振動板採用の10mm口径「ULT(ウルトラ・リニア・テクノロジー)」ドライバーを搭載。ノズル部分は取り外しが可能で、鋼と真ちゅう2セットのノズルが付属し、材料の違いによる音の変化を体験できるようにもなっている。また、イヤーチップは特殊な拡散構造によって共振を抑制し、高域線形歪みを大幅に低減させた新開発の「Spring Tips(清泉)」が同梱されている。有線ケーブルは、2pin端子による着脱式だ。なお、KATOの名称は、「KXXS Advanced Technology Optimized」の頭文字をとったものだという(「KXXS」は先代のフラッグシップモデル)。あくまでも、某ライトノベルのヒロインをイメージしたものではないらしい。
聴き心地のよいサウンドチューニングが特徴。SN感も良好で、細かいニュアンスが潰れずしっかりと伝わってくる。結果、JポップやEDMなど、エッジの効いたミックスやマスタリングが行われた楽曲であっても、ずいぶんと聴きやすい印象となる。とはいえ、フォーカスが甘くなっているようなことはなく、耳障りなピークやディップを徹底的に排除して、まとまりのよいサウンドに仕上げている、といったイメージだろうか。長時間聞き続けても疲れることが少ない、イマドキのライフスタイルにはピッタリのサウンドだ。
ヘッドホンなどのオーディオビジュアル系をメインに活躍するライター。TBSテレビ開運音楽堂にアドバイザーとして、レインボータウンFM「みケらじ!」にメインパーソナリティとしてレギュラー出演。音元出版主催のVGP(ビジュアルグランプリ)審査員も務める。