6畳間であっても存分に満足できるサラウンド空間を作りたい。そんな気持ちではじめた“ミニマムシアター”。悩みに悩むスピーカーは最後までとっておくことにして、現在は4K対応プロジェクターをどれにしようか検討をしている。
まずはLGエレクトロニクス「HU810PB」を試し、独自のwebOS搭載によるネットコンテンツの扱いやすさ、機能性の高さ感動したものの、黒の階調表現に若干不満をもってしまったため、続いてBenQ「X3000i」をテスト。やや派手目の映像表現ながら、黒の階調もそこ確保されていることから、長期借用していろいろと試行錯誤している。
そんな最中、もうひとつの気になる製品が登場した。それがJVCのDLPプロジェクター「LX-NZ30」だ。
4K/HDRに対応するJVCのホームプロジェクター「LX-NZ30」
2019年末に発売された「LX-NZ3」の後継モデルとも呼べるDLPプロジェクターで、「BLU-Escent」と呼ぶ独自のレーザー光源や0.47型サイズのTI製DMDの採用、上位モデルで培ったe-shift技術による4K映像(3,840×2,160)などを継承しつつ、約20,000時間の長寿命を保ちつつ輝度を約10%向上させ3300ルーメンとなった。
ブルーレーザーダイオード光源「BLU-Escent」を新たに採用し、3,300ルーメンの高輝度と2万時間の長寿命の両立を実現。HDRコンテンツを投写したときのピーク輝度も向上している
また、最大240Hz入力(フルHD)をサポートし、遅延1.5フレーム以下(4K60Hz時)の低遅延モード設定も新たに実装。2つあるHDMI端子もHDCP2.3対応となったほか、DisplayPortやUSB Type-C端子も用意されており、ゲーム機やPCなどを接続して大画面かつなめらかな映像で楽しめるようになったのもポイントとなっている。
HDMIは最新のHDCP2.3対応に。DisplayPortやUSB Type-C端子も用意され、AV機器やゲーム機だけでなく、PCとも接続しやすくなった
端的にいえば、マイナーアップデートながらもなかなか使い勝手がよさそうな製品に進化した「LX-NZ30」だが、最大の魅力といえばやはり“JVC”ならではの絵作りだろう。独自のwebOSを搭載する「HU810PB」や、Android TV搭載メディアストリーミング端末を同梱する「X3000i」など、マルチメディア機能を統合したプロジェクターと、あくまでも単体プロジェクターである「LX-NZ30」は比較すべき対象ではないかもしれないが、価格や明るさ、レーザー光源の耐久性、筐体サイズなど、近しいものは多々あるので、この価格帯のプロジェクターをチェックしている人にとって、どうしても気になる存在だと思う。ということで、今回「LX-NZ30」を借用し、いろいろと使い込んでみた。
「LX-NZ30」の付属リモコン。単体プロジェクターなので、動画配信サービス系のボタンなどは一切用意されていない
「LX-NZ30」を使うため、さっそくミニマムシアターへ設置してみたのだが、設置時に重宝し、とても扱いやすかったのがレンズシフト機能だ。「LX-NZ30」には全手動ながら左右と上下のレンズシフト、さらに1.6倍ズームが備わっている。これがもう、かなり便利なのだ。
SDRのみの対応が引退のきっかけとなったJVC「DLA-X700R」は、高級モデル故に電動レンズシフト機能が搭載されていて、細やかな設定が可能だった。30万円クラスのプロジェクターだとレンズシフト機能が備わっていないものが多く、あっても手動だったりシフト範囲が狭かったりと、設置時に多少の工夫が必要だ。製品としてのキャラクターが違うといえばそれまでだが、たとえば「X3000i」は視聴者よりも前、テーブルの下や天井に取り付けるのにベストな投写角度になっていた。対して「LX-NZ30」は上下だけでなく左右にもレンズシフトできる(そしてズーム機能もある)ので、設置場所の自由度は断然高い。
本体天面には、上下、左右それぞれ独立したレンズシフトノブが用意されており、細かな調整がしやすい
ミニマムシアターでは6畳間の長辺側を使って投写、スクリーンの反対側にある天袋にプロジェクターを設置している(プロジェクター設置位置としては一般的ではない)ため、置き方に工夫が必要だった。特に「X3000i」の場合は、前後を斜めにおく必要があるなど、かなり特殊だったことは否めない。
しかし、「LX-NZ30」では水平を取るだけで済み、左右位置も微調整に活用しただけで済んだ。もう少しセッティングを突き詰めれば、左右のレンズシフトは使わずに済みそうだったりもする。そして、ズーム、ピント合わせも手動ながら、すべての操作性がしっかりしていて、調整がスムーズに完了できた。このあたりは、さすがJVC、筐体の作り込みが細やかで大いに楽をさせてもらった。
ひとつわがままを言わせていただくと、ピント調整だけは電動だとありがたいと思った。やはり、画面近くにいたほうがピント合わせが細やかにできるため、できればそうしてほしいところ。とはいえ、金額的にかなり高くなってしまいそうな気配もあるので、悩ましいポイントではある。
ほかにも、メニュー画面内には台形補正はもちろん、コーナー補正、さらにはスクリーンに凹凸がある場合に役立つワーピング補正なども持ち合わせている。ここまできめ細やかに設定が行える製品は、この価格帯だとそうそうない。このあたりは「LX-NZ30」ならでは、しいてはJVC製プロジェクターならではのメリットと言える。
本体天面に用意されている操作パネル。台形補正専用のボタンも用意されており、本体から直接台形補正を行うことができる
では、いちばん気になる画質はどうだろうか。しっかりと設置や投写のセッティングをしたのち、さっそく映像を確認してみた。まずはデフォルトのピクチャーモード「Natural」で視聴してみる。
まずはデフォルトのピクチャーモード「Natural」からチェック
パッと見ただけでも驚かされた。精細感が高く、それでいてエッジが尖りすぎず、メリハリのある明るさ、それでいて不自然な派手さのない、なんとも絶妙な映像を映し出してくれているのだ。4Kのドラマを見ても映画を見ても、精細できめ細やかな印象を感じる。
視聴したコンテンツの中では、映画『ジュラシック・ワールド/炎の王国』とは抜群の相性で、見やすくて迫力満点の映像を楽しむことができた。いっぽう、ほかの映画もいくつかチェックしてみたが、『ダークナイト』『アラビアのロレンス』などは「シネマ」モードのほうがフィルムグレンの質感が違和感なく感じられるので、そちらのほうが個人的に好ましいと感じた。
そして、筆者がいちばん気にしていたのが、HDRコンテンツである『閃光のハサウェイ』の再現度。さっそく映像を流してみたが、戦闘シーンは全体的にやや暗めだが、ディテール表現はしっかり把握できた。ただし、ビームなどの明るい部分が平坦に見える傾向がある。実はこれ、「X3000i」とも似たような表現だが、「LX-NZ30」は輝度が低く抑えられているのか派手さは感じない。相性のよかった設定は「Animation」で、こちらに切り替えると普通の画面は少し落ち着いた印象に、肝心の暗部はしっくりしつつもしっかり見え、ビームは派手に光っている。映像モードを変えるだけでこの映像表現が得られるのは大収穫だ。
あえて「LX-NZ30」の弱点をあげるとすれば、黒浮きだろうか。DLPプロジェクターであれば大なり小なり黒浮きは感じられるが、ここ最近使用した「HU810PB」や「X3000i」と比べると、いちばん黒浮きしているかもしれない。ただし、これはデフォルトの設定だからであって、輝度を少し(数値で2から3)下げれば解決するが、そうすると今度は暗部が沈み込んでしまう。環境に合わせた細かな調整が必要そうだ。
視聴環境や視聴コンテンツの種類によってはやや黒浮きが気になることもあったが、元々の画質ポテンシャルが高いので、しっかりと追い込んであげれば画質はしっかりと答えてくれる。ぜひ、環境に合わせて細かく調整してみてほしい
今回、JVC「LX-NZ30」をミニマムシアターに導入してみたが、結論としては当初の想像どおり“映像面で大きなメリットをもつ”ことに加え、“設置性のよい”製品でもあることを実感した。
いっぽうで「X3000i」は部屋がそこそこ明るくてもよいが、「LX-NZ30」はできれば部屋を暗くしてベストな映像を見たくなる、そんな趣向も感じた。狭いながらもAV向けの部屋に作られていること、プロジェクターにマルチメディア性能を求めなくてもよいミニマムシアターにとって、「LX-NZ30」はなかなかマッチングのよい製品と言えるかもしれない。
ヘッドホンなどのオーディオビジュアル系をメインに活躍するライター。TBSテレビ開運音楽堂にアドバイザーとして、レインボータウンFM「みケらじ!」にメインパーソナリティとしてレギュラー出演。音元出版主催のVGP(ビジュアルグランプリ)審査員も務める。