6畳間であっても存分に満足できるサラウンド空間を作りたい。そんな気持ちではじめた“ミニマルシアター”だが、2021年にLGエレクトロニクスの4K対応プロジェクター「CineBeam HU810PB」を導入。映像周りに関しては4K HDRを実現することができた。
「CineBeam HU810PB」はDCI-P3(Digital Cinema Initiativesが提唱したデジタルシネマ規格)のカバー率が97%だったり、デュアルレーザー光源による2,700ANSIルーメンの明るさを確保していたりと基礎体力が高く、さらにHDR規格は、HDR10に加えて新4K8K衛星放送に採用されているHLGにも対応。加えて、同社製テレビと同じ「webOS」採用による使い勝手のよさなど、クオリティ、ユーザビリティの両面で満足度の高いモデルだった。
しかしながら、使い込んでいくうちに不満もわずかながら生じてきた。DLP+レーザー光源という組み合わせのクセなのか、全体的な明るさはかなり高いものの、暗部の階調が確保しづらいのだ。それに気がついたのは劇場アニメ『閃光のハサウェイ』を見たときのこと。この作品、戦闘シーンは大半が夜中なのだが、そういったシーンを「CineBeam HU810PB」で見ていると、画面全体が暗すぎてなにが起こっているのかがわかりづらいのだ。
最初、自分の目が加齢によって衰えたのかとも思ったが、試しに一度取り外したJVC「DLA-X700R」を設置し直して同じシーンを見てみると、しっかりと見て取れる。SDRで見られてHDRで見られない、というのは自分がなにか設定をミスしているのかと思い、映像セッティングなどをいろいろと変更するなど試してみたが根本的な解決には至らず。これが価格差なのか、お金がすべてなのか、と涙する日が続いたが、もしかすると単に製品の得手不得手なのかも、と考え方を変えてキャラクターの異なる製品を試してみることにした。
そこでピックアップしたのが、BenQのゲーミングプロジェクター「X3000i」だ。こちら、フルHDのDLPデバイスで画素ずらし技術を使い4Kを実現している4K UHD対応モデルで、以前使っていた「DLA-X700R」に近いイメージだ。最大3840×2160という画素数的には変わりないものの、方式的には「CineBeam HU810PB」に対してスペックダウンといえる。また、光源もレーザーから4LEDへと変わっていたりと、そもそものキャラクターがだいぶ異なっていたりもする。
BenQのゲーミングプロジェクター「X3000i」。比較的コンパクトな筐体サイズなので設置の自由度は高い
いっぽうで、基礎体力面でかなりの良質さもアピールされている。たとえばDCI-P3カバー率は100%となっていて、明るさも3000ANSIルーメンと「HU810PB」を超えるスペックを持ち合わせている。また4K/60Hz動作時で16.67ms、1080p/240Hz動作時で4.16msという低遅延を確保、ゲームの種類によるデフォルト設定も用意されるなど、ゲームユースにも十分活用できそうな内容を持ち合わせている。
DLPデバイスで画素ずらし技術を使い4Kを実現。光源はLEDで、明るさは3000ANSIルーメンだ
もうひとつ、Android TVを搭載しているのも個人的な魅力ポイントだ。実は、BenQのポータブルプロジェクター「GV30」と同じようなスティック型のAndroid TVユニットが「X3000i」にも内蔵されており、Android TVとしてAmazonプライム・ビデオやYouTubeなどさまざまなコンテンツを楽しむことができるようになっているのだ。ネットへの接続はスティック自身に搭載されているWi-Fiのみだが、大半の配信サイトを高画質で楽しむことができるだろう。
「X3000i」の中にスティック型のAndroid TVユニットが内蔵できるようになっている
Android TVのトップ画面を映したところ。Amazonプライム・ビデオやYouTubeなどを手軽に楽しめる
付属のリモコン。こちらでAndroid TVの操作のほか、プロジェクターの電源操作なども行える
ちなみに、内蔵するスティック型Android TVユニットが交換できるか試してみたところ、Amazon「Fire TV Stick 4K Max」は物理的に装着できず、「Fire TV Stick」のみ装着可能だった。「Fire TV Stick 4K Max」は背面のHDMI端子に接続して活用するのがよさそうだ。ちなみに、「X3000i」の背面には電源供給用のUSB Type-A端子も配置されているので、装着はスマートに行なえる。
Amazon「Fire TV Stick 4K Max」はなんとか入るもののUSB電源端子が接続できないため使えない
Amazon「Fire TV Stick 4K Max」などを接続する場合は、本体背面のHDMI端子を活用する。給電用のUSB端子も用意されているので、案外スマートに接続できる
また、HDMI端子は2つのうちひとつがeARCに対応しているので、Dolby Atmosコンテンツをベストなサラウンド音声で楽しむことができる。今回はDolby Atmos再生は試せていないが、将来性を考えるとあるに越したことはない機能といえる。
本体背面には各種接続端子並ぶ。その下にはスピーカーが内蔵されており、音質的にもまずまずのクオリティだ。とはいえ、筆者のレイアウト的にはARCによるAVアンプシステムでの出力、またはBluetoothスピーカーでの出力を利用する予定
とはいえ、「X3000i」をミニマルシアターで試してみたいと思ったのは以前にその映像を確認しているため。その時(映画とゲームの2つ確認した)、発色が自然でありながらクッキリとした映像だったことが印象に残っていたからだ。
ということで「X3000i」をミニマルシアターに持ち込み、まずはテーブルにおいて軽くテストを行ってみた。台形補正はあるものの画面シフト機能はないため、近さというか、角度の調整が必要だ。まずは映像をチェックするための仮設置なので、適当なもので高さを合わせて映像を確認してみることに。
まずはデフォルトのシアターモードでチェックする。一見して驚いた。『閃光のハサウェイ』戦闘シーンが、細部までしっかりと見えるのだ。そうそう、これこれ。求めていたのはこれだ。解像感が4Kとしてはやや甘く感じるものの、明暗表現はワイドで、デフォルトでも暗闇の中の動きがしっかりと伝わってくる。ただしチューニングがマッチし切れていないのか、逆にまぶしい部分、とくに赤が単調な表現に感じられる。
興味深かったのは、その後ゲームモードに変えてみたときのこと。DLPなのにわずかに黒浮きするという不思議感があるものの、シアターモード以上に暗部がしっかりと見えるし、赤が浮きすぎず、まぶしい表現もより自然に感じられるようになった。その後、もう少し普通の明るさの映画をいくつか見てみたが、色合いが自然なのはとても好印象だった。赤だけがやや強調され気味にも思えたが、これは微調整でなんとか好みに近づけられるだろう。正直、ここまで“シアター向け”プロジェクターとして良質な製品だとは思わなかった。
画像モードを切り替えながらテストを実施。ゲームモードは多少黒浮きするが、アターモードよりも暗部がしっかりと見え、赤色も自然な色合いになり、『閃光のハサウェイ』との相性がよかった
もうひとつ、設置の際の操作性がよかったことも気に入った。「X3000i」はズームレンズが搭載されており、こちらとピントはレンズ脇のスライダーで手動設定するようになっている。「ミニマルシアター」では十分な距離が確保できているのでズームを使うことはまったくなかったが、一般家庭の場合は重宝しそう。そしてなにより、ピント合わせがしやすかった。手動ではあるものの、ガタつくことのないカッチリした作りになっていて、スムーズにピント合わせが行えるのだ。
レンズ脇のスライダーを使ってズームやピントを手動調整できる。造りもしっかりしていて微調整がしやすいのがうれしいところ
実は「CineBeam HU810PB」を使っていた際に暗部の階調とこの部分が2大不満だった。スライダーがガタつき気味でピントが合わせづらく、かつ何かの拍子でズレてしまうようで、定期的に調整しなければならなかったからだ。対して「X3000i」はしっかりした造りなので微調整がやりやすく、手動であることを嫌だと思わない。絵もそうだが、こういったハード面での使い勝手のよさはスペック表の数値にはなかなか出てこない部分だが、製品を気に入るか否かの分水嶺にもなる。そういった部分をていねいに作り込んでいるのはありがたいかぎりだ。
そして、最終的にはこの「X3000i」の導入を決断した。その決定打となったのが、映像調整のきめ細やかさ。RGBはもちろん、シアンやマゼンダなどの指標で6色、しかも3桁の数値でそれぞれのサイドや色合い、明るさを調整できるようになっている。ちょっと試したが、こちらを使い、ユーザーモードで赤をちょっと控えめにした色を作ることができた。さらに時間をかけて調整すれば、理想の色合いを作り上げることもできそう。今後が楽しみだ。
カラーマネージメントがかなり細かく調整できる。導入の決断となったポイントのひとつだ
天袋設置を試みてみる。木材を利用して仮設置してみたがなんとか可能そう。最終的な設置を行って、いろいろと設定を追い込んでいく予定だ
ヘッドホンなどのオーディオビジュアル系をメインに活躍するライター。TBSテレビ開運音楽堂にアドバイザーとして、レインボータウンFM「みケらじ!」にメインパーソナリティとしてレギュラー出演。音元出版主催のVGP(ビジュアルグランプリ)審査員も務める。