6畳間であっても十分に満足できるサラウンド空間を作りたい。そんな気持ちで始めた“ミニマムシアター”作りだが、ここしばらくは仕事の忙しさを言い訳に進化が停滞気味で、唯一、プロジェクター導入のためのテストを繰り返しているのみとなっている。そのプロジェクター選定も、いまひとつ決定までにはいたっておらず、BenQ「X3000i」をつなぎの製品として利用している状況だ。
というのも、プロジェクター選びに関しては3つほど悩ましい問題を抱えているからだ。まず1つめは価格の問題。これまで使用していたJVC「DLA-X700R」の後継にして現行ラインアップの「DLA-V70R」(もしくはその上位機種の「DLA-V80R」)あたりを選べばよいのだが、残念ながらに100万円をはるかに上まわる価格設定のため、おいそれとは手が出せない。
ビクターブランドで展開されている「DLA-V70R」。リアル4Kで8K入力にも対応したホームシアタープロジェクターとしてとても興味があるが、100万円超の価格はさすがに手が出せない
2つめとしては、プロジェクターの使用頻度の問題だ。“ミニマムシアター”は仕事場に設置しているシステムであるためか、「DLA-V70R」は8年間で250時間しか使っていなかったという、筆者もビックリした事実がある。実際、自宅の天井に設置しているシーリング一体型の「Aladdin X2 Plus」は子どものYouTube視聴専用機となりつつあるものの、もっとひんぱんに稼働している。そんな、年間50時間程度の利用のために100万円以上の予算がかけられるかと思うと、厳しいと言わざるを得ない。
そして3つめは、これまで使用していたJVC「DLA-X700R」の映像がなかなかに美しく、それをすべてで上まわるもの、“こちらの映像のほうが好き”と思えるものになかなか出会えないからだ。そのあたりは、さすがJVCというべきだろう、長年にわたって培ったノウハウとも相まって、D-ILAデバイスならではの説得力のある映像を作り上げている。
とはいえ、技術の進化は日進月歩、30万円前後の4Kプロジェクターも魅力的なモデルが増えてきた。この価格帯だとリアル4Kでなくシフト4Kとなるが、精細感や鮮度感にすぐれた映像を見せてくれるし、明暗のダイナミックレンジなどは「DLA-V700R」を上まわってくれている。決して不満があるわけではない。映像美や使い勝手など、新規導入する“説得力”がほしいのだ。
そう思い悩んでいる内に、またひとつ有力な候補が現れてくれた。それがJMGO(ジェイエムゴー)の「N1 Ultra」だ。
JMGO「N1 Ultra」
JMGOは、2011年に中国・深センで設立されたメーカー。家庭用プロジェクターを得意としており、現在500人以上のメンバーによって製品を開発、近年は30か国以上に対して月20万台以上の出荷を行っているという。そんな、新進気鋭のプロジェクターメーカーの新モデルがこの「N1 Ultra」。先日、アッパークラスの「N1 Pro」とスタンダードモデルの「N1」が追加され、現在は3グレード構成となっている。ちなみに、外観デザインは3台ともほぼ同じだが、「N1 Pro」と「N1」はフルHDまで、「N1 Ultra」のみ4K対応モデルと解像度が異なる。
「N1 Ultra」はシフト4Kにはなるものの、4K解像度に対応している
現在発売されている「N1 Ultra」「N1 Pro」「N1」の3モデル共通の特徴となっているのが、左右に360度、上下に135度(「N1」のみ127度)回転できるジンバル一体型設計だ。インテリジェントな画角/ピント自動調整機能と合わせて、あらゆる場所あらゆる角度で素早く最適な映像を映し出すことができる。
実際に、筆者がコーディネイトした某メーカーの新製品発表会でも活用してみたが、ポンと置いてスクリーンに向けただけで細かい調整なしに映像を映し出すことができたため、(やることがいろいろあってとても忙しい)当日は大いに重宝した。
台座の底面部分が360度回転する仕様
本体を左右のフレームで支える形になっており、上下方向の角度も簡単に調整できる
台座と干渉しないように、HDMI入力などのインターフェイスは背面部分に用意されている
カタログスペックの明るさは、2200CVIAルーメン。CVIAルーメンとは、2023年に中国で生まれた新しい明るさの規格になる。これまで使われてきたANSIルーメンと規格が異なるために単純に比較ができないということで、輸入代理店が照度計を使って計測を行ったところ、他社の3200ANSIルーメンのプロジェクターよりも明るかったとのこと。実際、“ミニマムシアター”でもテストしてみたが、「X3000i」と同じくらいの明るさを持ち合わせていたので、明るさに不満はまず出ないはずだ。
もうひとつ、「N1 Ultra」には大きな特徴がある。それは、241(幅)×203(奥行)×236(高さ)mmという比較的コンパクトなサイズでありながら、3色レーザー光源を採用していることだ。こちら、日亜化学工業が新しく作り出したRGBのレーザーがワンパッケージにされたモジュール「QuaLas(クオラス)RGB」を搭載することで、小型ボディでありながら、本格的な3色レーザー光源を搭載することができたという。
「QuaLas RGB」では、高い発光効率を持ったG(緑)のレーザーを開発・搭載することで、広色域を実現。さらに、レーザー光源特有のざらつき感「スペックルノイズ」を独自技術「ライトスペックル低減技術」によって抑制、滑らかな映像も追求しているとメーカーはアピールしている。これは画質面でも大いに期待が持てそうだ。
ほかにも、OSにAndroid TV 11を搭載しており、Amazonプライム・ビデオやYouTubeを手軽に楽しむことができる。スピーカーも、デンマークDYNAUDIO(ディナウディオ)と協業によるステレオスピーカーを搭載。しかもこのスピーカー、音質的にもなかなか良好で、数多ある小型プロジェクターのなかでも格別のクオリティだった。セリフが明瞭かつリアル、SEやBGMもしっかりと届いてくれる。唯一、音の広がり感がそれほど大きくはないが、それでも十分に魅力的なサウンドといえる。
OSにAndroid TV 11を搭載。ネットワークにさせ接続すれば、付属のリモコンを操作するだけでさまざまなネット動画サービスにすばやくアクセスできる
さて、肝心の映像を確認するべく、“ミニマムシアター”におけるプロジェクター定位置である天袋に「N1 Ultra」を置いてみる。まずは新プロジェクター導入の試金石タイトルとなっているUltra HDブルーレイ『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』を再生してみた。
天袋に「N1 Ultra」を設置。写真右側はつなぎの製品として使用しているBenQの「X3000i」
画像サイズとしては、6畳間長辺使いで100インチを越える投写サイズだった。スクリーン両端を越え、ちょうど壁いっぱいまで映り込んでいる。スクリーンをギリギリまで大型化するか?と一瞬思ったものの、今回は少し近い距離(スクリーンまで2.8mほど)に設置した。なお、微妙な傾きは自動補正されない場合があるようなので、本体下にインシュレーターなどを置いて角度を微調整した。ちなみに、メニューを見てみると「画面ズーム」という項目があり、ズームとパンが調整できるようなので、こちらを利用するのもありだとは思うが、活用するか否かは画質(の変化が目立つかどうか)次第だろう。
映像は、3色レーザーの特徴が生かされた結果か、クリアで滲みのない明瞭さが印象的。エッジが尖りすぎることなく、それでいてフォーカス感の高い、鮮度感の高い映像を作り上げている。グリーンの質のよさが色彩調整に余裕を与えているのか、デフォルト設定は色温度がやや高めだが、それでいてクールすぎることもなく、逆に赤が鮮やかすぎることもない。
明暗の表現も十分な幅を持つ。結果、夜の戦闘シーンでも暗部がしっかりと見え、それでいてレーザーなどの明るい部分もまぶしすぎない絶妙なバランスとなっていた。欲をいえば暗部の階調はもうちょっとほしい。このあたりの微調整は必要そうだが、デフォルトでここまで良質な映像を見せてもらえるのは驚きだった。いっぽう、人肌や煙が充満したシーンなどでレーザー光源特有のざらつきが見られたが、よほど注目しなければ気がつかない程度ではある。
使い勝手のよさ、映像に対する満足度の両面からなかなか魅力的な製品と言える。バッテリー駆動ではないが、専用ケースも付属しているので手軽に持ち出すことが可能、簡単に活用できるのはうれしい限りだし、仕事場でのプロジェクター視聴時間が短い筆者としては、仕事場以外の場所にも持ち出して使えるのはありがたい。
キャリングケースも付属しており、手軽に持ち運びできるのも好ポイント
決めた。こちらを導入し、しばらく使い込んでみたいと思う。結構満足できそうな気がする。これがダメなら、いよいよ100万円超の高級プロジェクターの導入を本気で考えないとダメかもしれない。
ヘッドホンなどのオーディオビジュアル系をメインに活躍するライター。TBSテレビ開運音楽堂にアドバイザーとして、レインボータウンFM「みケらじ!」にメインパーソナリティとしてレギュラー出演。音元出版主催のVGP(ビジュアルグランプリ)審査員も務める。