今年下半期のノイズキャンセリング機能搭載完全ワイヤレスイヤホンで最注目のモデル、ソニー「WF-1000XM5」が9月1日についに発売される。
先代モデルの「WF-1000XM4」から約1万円値上がりし、市場想定価格は42,000円とこれまで以上の高価格モデルとなったわけだが、発表時に世界最高ノイキャン*を打ち出したこともあり、ノイズキャンセリング機能に関する期待度は抜群の1台だ。
*左右独立型ワイヤレスノイズキャンセリングヘッドホン市場において。2023年4月10日時点、ソニー調べ、電子情報技術産業協会(JEITA)基準に則る
そこで今回は、人気の3〜4万円クラスのノイズキャンセリング機能搭載完全ワイヤレスイヤホンを揃え、ノイズキャンセリング性能の実力をチェックしてみた。
テストしたのは、「WF-1000XM5」と「WF-1000XM4」のほか、多くのiPhoneユーザーから支持されているアップル「AirPods Pro(第2世代)」、過去のイヤホン・ヘッドホン混在比較レビュー(記事はコチラ)でノイズキャンセリング性能トップと評価したBose「QuietComfort Earbuds II」、高音質モデルとして根強い人気を誇るゼンハイザー「MOMENTUM True Wireless 3」、価格.comで人気急上昇のTechnics「EAH-AZ80」の全6機種だ。
3〜4万円クラスのノイズキャンセリング機能搭載完全ワイヤレスイヤホン全6機種をガチ比較
今回のテストでは、ノイズキャンセリング機能が求められるシチュエーションとして電車内、路上、カフェの3か所を設定。実環境と騒音を収録した音源を流した仮想環境の両方でテストを行った。
テスト中は音源を流さない無音状態とし、低域、中域、高域のノイズキャンセリング性能をチェックしたほか、装着感や特定のノイズに対する得意・不得意などを安定性としてチェックした。また、今回用意した6機種すべてに外音取り込み機能が搭載されていたので、こちらも合わせてチェックしている。評価はいずれも5段階評価だ。
電車内のシチュエーションは、実際の電車に乗ってテストを実施
路上を想定したシチュエーションでは、ノイズキャンセリング性能や外音取り込み機能を詳しくチェックした
●ソニー「WF-1000XM4」の評価
低域 ★★★
中域 ★★★
高域 ★★★
安定性 ★★★★★
外音取り込み ★★★
2021年発売で、今回テストした6機種の中では最も古株となる「WF-1000XM4」。大きめのイヤホン本体で耳をふさぎ、パッシブノイズキャンセリングによる遮音性重視のスタイル(僕はこの形状が比較的よくフィットする)と、低域から高域まで全帯域を通してノイズを抑え込むバランスのよいアクティブノイズキャンセリング機能の合わせ技が特徴だ。アクティブノイズキャンセリング機能は今となってはやや物足りない気もするが、どんなノイズに対しても一定の効果を発揮し、シチュエーションを選ばず不得意がないことや、ノイズキャンセリング効果が安定しているのはよいところ。
ちなみに、外音取り込み機能については、中域から高域にかけて実際よりもやや強めに聴こえる。実用性は十分だが、周囲のノイズレベル次第ではイヤホンを装着していない状態より耳につくので注意したい。
●アップル「AirPods Pro(第2世代)」の評価
低域 ★★★★★
中域 ★★★★★
高域 ★★★
安定性 ★★
外音取り込み ★★★★★
2022年9月に発売されたアップルのノイズキャンセリング機能搭載完全ワイヤレスイヤホンの最新モデルが「AirPods Pro(第2世代)」だ。ノイズキャンセリング機能は強力だが、挙動のクセが強いモデル。遮音性の低い装着感も特徴だが、ノイズレベルの大きい電車内は中低域を強烈に抑えて全体をボリュームダウンしてくれる。
また、ノイズキャンセリング機能特有の違和感がはっきりと出てくるため、環境次第ではワシャワシャと不自然な音が残ることも。ノイズレベルが大きくなるほど違和感が強く出る傾向があるのも注意点だ。ノイズキャンセリング機能の強度調整機能もないため、ノイズキャンセリングが苦手という人は一度試してみることをおすすめする。
外音取り込み機能はとても自然で、イヤホンを付けていない状態と区別が付かないほど。この完成度の高さは文句なしだ。
●Bose「QuietComfort EarbudsU」の評価
低域 ★★★★★
中域 ★★★★★
高域 ★★★★★
安定性 ★★★★★
外音取り込み ★★★★
2022年9月発売で、Boseのノイズキャンセリング機能搭載完全ワイヤレスイヤホンとしては第2世代モデルとなる「QuietComfort Earbuds II」。過去のイヤホン・ヘッドホン混在比較レビュー(記事はコチラ)でトップ評価を下したモデルでもある。
やはり今回のテストでも電車内、路上、カフェのすべてのシチュエーションで強烈なノイズキャンセリング性能を発揮。セミカナル型のため遮音性が低いモデルではあるが、アクティブノイズキャンセリング機能をフル活用して高いノイズキャンセリング性能を確保している。
低域から高域まで、どの帯域に対してもノイズキャンセリング機能が効果的に働き、ノイズレベルの大きい電車内でもノイズをしっかりと抑え込むし、カフェではほぼ無音近くになる。路上では車の走行音は多少残るが、ノイズキャンセリングがトップ性能という事実は変わらない。
ノイズの種類を問わず効果が安定しているうえ、強度の割にノイズキャンセリング機能特有の違和感が少ないのも優秀。ノイズキャンセリング機能の強度と外音取り込みの割合を細かく調整できるのも優秀だ。
外音取り込み機能は、ひとつ前に紹介したアップル「AirPods Pro(第2世代)」ほどではないが十分実用的。ただし、中高域側をやや強調する傾向があるようだ。
●ゼンハイザー「MOMENTUM True Wireless 3」の評価
低域 ★★★
中域 ★★
高域 ★★
安定性 ★★★★★
外音取り込み ★★★
2022年発売のノイズキャンセリング機能搭載完全ワイヤレスイヤホンの中でも、音質の高さでユーザーから高い支持を得ているのがゼンハイザー「MOMENTUM True Wireless 3」。
ノイズキャンセリング性能はライバル機と比べてそれほど強くはなく、物理的なパッシブノイズキャンセリングに頼るところが大きいようで、低域はなんとか並程度には抑え込めているが中高域はノイズが若干残り気味。カフェでは中高域以外のノイズに対してはおおむねカバーできてはいるが、全体的なノイズの残り具合はやはり少々大きめだ。
挙動に特別なクセがないところはよい。ただし、ノイズキャンセリング性能のわりに、ノイズキャンセリング機能特有の違和感が若干出やすい点は要注意。外音取り込み機能は中域がふくらむ傾向があり、音の聴こえる方向や定位感がややわかりにくくなるようだ。
●Technics「EAH-AZ80」の評価
低域 ★★★★★
中域 ★★★★
高域 ★★★★★
安定性 ★★★★★
外音取り込み ★★★★
2023年6月の発売直後から価格.com上で大きな話題となり、「イヤホン・ヘッドホン」カテゴリーの人気売れ筋ランキング上位に瞬く間に駆け上ってきたTechnics「EAH-AZ80」。コンチャフィットと呼ばれる耳を自然にふさぐ構造によるパッシブノイズキャンセリングの高さも特徴。今回はアプリ経由でノイズキャンセリングの最適化を実施してからテストを行っている。
ノイズキャンセリング性能は全体的に優秀。電車や路上でも低域側のノイズをすっきりと消してくれるが、中域はディテールも含めて聴こえてくる。これは低域側のノイズキャンセリングが優秀だからこその影響だろう。カフェも全体的にノイズを抑え込んでくれる。
ノイズキャンセリング機能特有の違和感がないところもよい。ノイズキャンセリング機能の強度調整も可能だ。外音取り込み機能も十分実用的だが、取り込んだ音のディテールがやや落ちるようだ。
●ソニー「WF-1000XM5」の評価
低域 ★★★★
中域 ★★★★
高域 ★★★★
安定性 ★★★★
外音取り込み ★★★★
ソニーのノイズキャンセリング機能搭載完全ワイヤレスイヤホンの最新モデルとなる「WF-1000XM5」。本体の小型化により装着形状が大きく変更され、「WF-1000XM4」のようにイヤホン本体の大きさを生かして耳全体をふさぐこととイヤーピースの合わせ技でパッシブノイズキャンセリングを効かせる形に比べると、よりイヤーピース重視の形にシフトしている。なお、出荷時にデフォルトサイズとなっているMサイズのイヤーピースでは「WF-1000XM4」に比べてノイズキャンセリング効果が弱かったため、本機のみLサイズのイヤーピースに交換してテストを実施している。
ノイズキャンセリング性能は強烈と呼ぶほどのものではなく、電車内のノイズも全体をバランスよく抑え込むが、すべての帯域でわずかに残り気味。ノイズレベルの小さいカフェでも、中高域側が若干残り気味だった。路上ではどうもノイズレベル次第で効き具合が変化するようで、中高域は比較的よくノイズを抑え込んでいた。本機はイヤーピースに対する依存度が高いので、大きめのイヤーピースでしっかりと密閉してやることが重要のようだ。
ノイズキャンセリング機能特有の違和感がないところは優秀。外音取り込み機能は十分自然と呼べるレベルだが、よく聴き込むと中高域側の輪郭が若干強く出るようだ。
全6機種のノイズキャンセリング機能搭載完全ワイヤレスイヤホンをテストしてみたが、ノイズキャンセリング性能の実力という点ではBose「QuietComfort Earbuds II」が全項目で★5つ評価で文句なしの1位だった。
Boseはノイズキャンセリング機能特有の違和感も小さいし(僕は使っていてまったく違和感がない)、強度が調整できる点も優秀。外音取り込み機能の自然さは「AirPods Pro(第2世代)」が単独トップだった。
今回新たにテストした製品だと、Technics「EAH-AZ80」の結果が優秀だった。Bose「QuietComfort Earbuds II」と比較すると中域が少し残るのと、注意深く聴くと低域、高域もBoseには及ばないが、ノイズキャンセリング性能の総合評価はBoseに次いで2位。ノイズキャンセリング機能特有の違和感も含めてバランスがよく、完成度の高い1台だ。
ノイズキャンセリング性能だけならアップル「AirPods Pro(第2世代)」も評価できるが……こちらはノイズキャンセリング機能特有の違和感が強く出て、長時間装着していると気分が悪くなってしまうなど意外と人を選ぶのが難点。
そして最新の注目機種・ソニー「WF-1000XM5」の評価だが、“なんだ、「WF-1000XM5」の世界最高ノイキャンという売り文句とかけ離れた結果じゃないか”と思ってしまう人もいるかもしれない。たしかに、ソニー「WF-1000XM5」は、電車内、路上、カフェ、どのシチュエーションでテストしてもBoseを上回る結果は出なかった。唯一、イヤーピースをM/Lで聴き比べてLサイズに変更するという特別扱いもしている。
ただ、さまざまな環境でテストしてみると、ソニー「WF-1000XM5」が世界最高ノイキャンの片鱗を発揮した場所もあった。それは下記の地図で示した秋葉原駅前の公園だ。
ソニー「WF-1000XM5」のノイズキャンセリング機能が効果的に働いた秋葉原駅付近の公園
周囲が騒々しく、交通量の多い道路から10mほど離れた地図のポイントは、中高域のノイズキャンセリングでアップル「AirPods Pro(第2世代)」やTechnics「EAH-AZ80」を若干上回り、Boseに迫る効果を得られた。ソニー「WF-1000XM5」のノイズキャンセリング機能は、ノイズレベルが中程度の環境で特に威力を発揮するようだ。また、ノイズキャンセリング機能特有の違和感がほとんどないところも評価すべきポイントだろう。
Bose「QuietComfort Earbuds II」、アップル「AirPods Pro2(第2世代)」は、耳の中の音響環境を測定してノイズキャンセリング効果を個人に最適化する技術が搭載されており、パッシブノイズキャンセリングに頼らずにノイズキャンセリング性能を高めることに成功している。ソニーもこのあたりをブラッシュアップしていけば、さらに進化の余地はありそうだなと想像してしまう。ソニーのさらなる奮起に期待したいところだ。
PC系版元の編集職を経て2004年に独立。モノ雑誌やオーディオ・ビジュアルの専門誌をメインフィールドとし、4K・HDRのビジュアルとハイレゾ・ヘッドフォンのオーディオ全般を手がける。2009年より音元出版主催のVGP(ビジュアルグランプリ)審査員。