ゼンハイザーを代表するヘッドホン「HD 600」シリーズと「HD 500」シリーズ。前者は開放型ヘッドホンのベンチマークと呼ばれるほどニュートラルなサウンドを、後者はすぐれた空間表現力による広大なサウンドステージを得意としており、異なるサウンドキャラクターではありますが、いずれも根強い人気を誇っています。
そんな両シリーズのDNAを受け継ぎ、密閉型ヘッドホンでありながら「HD 600」シリーズらしいニュートラルなサウンドと、「HD 500」シリーズの広大なサウンドステージの両方を実現した新コンセプトのヘッドホン「HD 620S」が発表されました。発売日は2024年6月6日、市場想定価格は63,250円前後(税込)です。さっそく新モデルの特徴を詳しく見ていきましょう。
ゼンハイザーの密閉型有線ヘッドホン「HD 620S」
周囲の環境に左右されることなく使える密閉型ヘッドホンでありながら、開放型ヘッドホンのようなニュートラルでバランスの取れたサウンドや広大なサウンドステージを実現することをコンセプトに開発された「HD 620S」は、ゼンハイザーがこれまで培ってきたヘッドホン開発のノウハウが惜しみなく注入されています。
たとえばドライバーユニットには、アイルランドファクトリーで製造する42mmのトランスデューサーが採用されています。こちらは「HD 660S2」と同じラミネート加工を施して柔軟性を高めたDuo Folテクノロジー振動板や、超軽量のアルミコイルなどが使われています。
「HD 620S」の分解図。ドライバーユニットは、アイルランドファクトリーで製造する42mmのトランスデューサーが使われているそうです
また、ゼンハイザーのヘッドホンでは振動板周辺の後ろにダンピング用の素材を配置することが多いそうですが、「HD 620S」ではダンピング用の素材さえもそぎ落とすことで、トランスデューサーの動きの制約をなくし、インパルスレスポンスを向上させているそう。ドライバーの背面のバックプレートには、アコースティックフォームを配置することで、音の反射を吸収、密閉型で失われがちな音の純度も高めたといいます。
トランスデューサーの前方に位置するバッフルも開口率の高いものを使用。ドライバーユニットと耳の間の隔たりを最小限にすることで音をダイレクトに届けられるようになっています
ほかにも、広大なサウンドステージを実現するため、トランスデューサーの配置に角度をつけてサウンドにまとまりを持たせたほか、イヤーパッドに細かなパンチングホールのような孔を設け、通過する音の内部反射を吸収することで、開放型のような音の性質も狙っているそうです。
密閉型ヘッドホンでありながら開放型ヘッドホンような特性を得られるよう、「HD 620S」ではトランスデューサーの配置に角度をつけたり、イヤーパッドに内部反射を吸収する孔を設けるなどの工夫が盛り込まれています
このように、コンセプトを実現するためにさまざまな技術を惜しみなく投入してきた「HD 620S」ですが、そのこだわりは「HD 620S」と「HD 600」の周波数帯域を比較したグラフからも見てとれます。開放型の「HD 600」では実現できていなかったバランスの取れた低域特性はまさに密閉型ならではですし、ニュートラルで比較的フラットな中域特性、なめらかな高域特性は開放型の「HD 600」に通じるものがあります。密閉型でありながらここまで広帯域でニュートラルなサウンドを実現したモデルというのはなかなか珍しく、この部分だけ見でも「HD 620S」はかなり面白いモデルであることは間違いありません。
「HD 620S」と「HD 600」の周波数帯域を比較したグラフ
もちろん、サウンド以外にも、装着時にゆとりのあるイヤーカップデザインや、長時間でも快適な着け心地を得られるソフトイヤーパッド、オプションケーブルを用いた4.4mmバランス接続へのアップデート対応など、ハードウェア自体も細部までこだわって作り込まれています。このあたりはさすが老舗のゼンハイザーといったところでしょう。
ヘッドホン本体はブラックカラーのシックなデザイン。ケーブルは着脱可能で、オプションケーブルを用意することでバランス接続も楽しめます
周囲の環境に左右されることなく安定して使用可能な密閉型ヘッドホンでありながら、開放型らしいニュートラルなサウンドと広大なサウンドステージを楽しめるということで、音楽だけでなく長時間のゲームプレイや動画視聴などのエンタメ用途にも使えそうな「HD 620S」。ハイエンドヘッドホンに一石を投じるまったく新しいコンセプトの1台として注目を集めそうです。
密閉型ヘッドホンで周囲の環境に左右されることなく安定して使用できることから、ゲーミング用途にも十分活用できそうです