TVS REGZAの「V35N」シリーズは、パーソナルユースを強く意識した小型液晶テレビ。REGZA(レグザ)ブランドの実質的なエントリーモデルであり、従来モデル「V34」シリーズも含めて価格.comの「人気売れ筋ランキング」での注目度も高い。
ここでは、いわゆるスマートテレビ関連機能を充実させている「V35N」シリーズ(32V型の「32V35N」)をじっくりとチェック。まだまだ需要があるという小型のHD/フルHD解像度テレビとしての実力をレビューしていく。
ここで解説するのは、TVS REGZAの「V35N」シリーズ。サイズは40/32/24V型と3種類ある中から32V型を借用して、画質などを確かめていこう
「V35N」シリーズのラインアップ
●40V型「40V35N」 解像度:フルHD(1,920×1,080)
●32V型「32V35N」 解像度:HD(1,366×768/WXGA)
●24V型「24V35N」 解像度:HD(1,366×768/WXGA)
●録画/再生やネット動画再生機能が充実したいわゆる「スマートテレビ」
●40/32/24V型をラインアップする小型HD/フルHD解像度モデル
●実は画面サイズによって「パネル」が違う!
念のために確認しておくと、REGZAは、TVS REGZA社のテレビブランド。かつては「東芝のREGZA」だったが、2018年にREGZAブランドが東芝から中国の家電大手ハイセンスグループの傘下に入ったのは周知のとおり。
以来、各種部品の調達や製造がハイセンスとREGZAで統一され、さまざまな合理化が進められたわけだが、新製品の開発体制についてはあくまでそれぞれの独立性が守られ、REGZAの画質に対する強いこだわりは今も変わっていない。
REGZA自慢の映像処理技術はブラウン管の時代から脈々と受け継がれ、時代とともに進化している。作為を感じさせない自然体の映像がその特徴だ。
冒頭のとおり、「V35N」シリーズは実質的なREGZAのエントリーモデルに当たる液晶テレビだが、スマートテレビ的な機能はとても充実している。ネット動画、地デジなど放送番組に関わらず好きなタレントの出演番組がすぐに見つかる「ざんまいスマートアクセス」や、ユーザーの好みに合わせて自動で録画する「おまかせ録画」、あるいは録画番組の見たいシーンが素早く見られる「シーンリスト」などなど、REGZA独自の便利機能を搭載している。
リモコンには主要ネット動画サービスのダイレクトボタンが用意されるので、インターネットにアクセスできる環境であれば、テレビひとつでYouTube、Amazonプライム・ビデオ、Netflixなどさまざまなコンテンツにアクセスできる
外付けHDDを用意すればテレビ放送番組の録画が可能。地上デジタル、BS/110度CSデジタルともにチューナー数は2個。1つの番組を視聴中でも、同時に放送されている他局の「裏番組」を録画できる。番組をあえて指定せずともよく見る番組を自動で録画してくれる「おまかせ録画」が便利だ
録画機能は一般的なテレビと同等と言ったところだが、「V35N」シリーズでは録画番組やネット動画をシームレスに検索できる。ここがならではと言えるポイント。小型テレビでも録画とその視聴機能は充実していてほしい、というユーザーにぴったりの機能だ
多彩なネット動画に対応し、録画/再生機能が充実していても、どうしても操作時のレスポンスが緩慢になったり、思うように画面が切り替わらなかったり、操作性にその弊害が生じがちだが、この「V35N」シリーズでは、そうしたじれったさはほとんど気にならない。
たとえば録画番組の見たいシーンを呼び出せる「シーンリスト」の機能(対応番組に限る)。リモコンの「シーンリスト/出演者」ボタンを押すと、瞬時に時系列でリスト化された番組内容を表示してくれる。
そこからお目当てのシーンを選び、決定すると、その場面に切り替わるわけだが、待ち時間は1秒前後と、ストレスを感じさせない。ひと昔前のテレビに比べると、反応が素早く、動きもかなりスムーズになったことは確かだ。
「シーンリスト」など、録画番組の視聴/体験方法までを提案するのがREGZA流
「V35N」シリーズに付属するリモコン。「シーンリスト」「録画リスト」や「ざんまい」など、録画に関する項目が用意されるのがREGZAらしい。メーカーの言うとおり、確かにテレビとしては動きがスムーズ。エントリーモデルでも機能性に手抜きがない
iOS(iPhone)でも、Android端末でも、スマホとの連携はスムーズ。同じネットワーク(LAN)に接続していればスマホの画面を簡単にテレビに映し出せる
画面サイズは40/32/24V型の3種類。いずれも1秒あたり60枚の画像を表示する標準速(60fps=ノーマル駆動)タイプだ。仕様表を見ると、バックライトは「全面直下型LED」とされている。これはLEDバックライトがすべてパネル裏に配置される直下型ということ。
安価なテレビにありがちなエッジ(画面上下や左右などの)配置ではない。とはいえ、絵柄の明暗に応じて部分的にLED光量を調整していく部分駆動(ローカルディミング)処理は行っておらず、この「全面直下型」という仕様自体にコントラスト面の優位性はないだろう。
パネル解像度は40V型がフルHD(1,920×1,080)、32/24V型についてはHD(1,366×768)。つまり画面サイズによって解像度が異なる。
●VA液晶パネル「40V35N」と「24V35N」の
・メリット:正面から見たときの映像にメリハリがある
・デメリット:斜めから見ると色が変わりやすい
●ADS(IPS)液晶パネル「32V35N」の
・メリット:斜めから見ても色が変わりにくい
・デメリット:映像のメリハリはVAよりも得にくい
40/24V型は、電極を垂直方向に並べたVA(Vertical Alignment)液晶パネルで、32V型のみ電極を水平方向に並べたADS(Advanced super Dimension Switch)液晶パネルを採用している。ちなみにADSの駆動方式は一般的なIPS(IN-Plane-Switching)とほぼ同等と考えてよい。
VAは正面から見たときの画面のメリハリ(コントラスト感)にすぐれる半面、斜めから見ると画面が白っぽくなり、色調も変化しやすい。対するADS(IPS)は正面視聴時、黒の締まりではVAにかなわないが、正面から外れてもコントラスト、色調が安定していている。
正面から見たときの画質を優先するのならVA(「40V35N」と「24V35N」)が有利。ただ複数の人数で見る、あるいは斜めからも見たい場合は、ADS(「32V35N」)の都合がよいという判断が基本となる。
ただこれも製品による違いが大きいため、どちらかが画質的にすぐれているとは一概に言えないというのも事実だ。視聴環境や条件による向き、不向きがあることは頭に入れておいたほうがよいだろう。
「V35N」シリーズには明るさセンサーが搭載されていて、部屋の明るさに連動して画面の明るさなどの画質を調整する機能がある
では実際に画質を見ながら、その実力を検証していくことにしよう。今回はADSパネルを採用した32V型「32V35N」をメーカーから借用し、これを視聴していく。まず、映像モードは「おまかせ」「あざやか」「標準」「放送プロ」「映画プロ」などから選択可能だが、通常は映像の内容と周囲の明るさに応じて画質を自動調整してくれる「おまかせ」の映像モードを選んでおけば、ほぼ間違いない。
「V35N」を購入後、電源を入れると初期設定をすることになる。その際にデフォルトの映像モード(REGZAでは「映像メニュー」)を選ぶ項目がある。深く考えずに決定ボタンを“連打”していけば「おまかせ」になっているはずだ
ちょっと余談になるが、REGZAの“絵作り”を担当するエンジニアが、最も注力する画質モードは何か、ご存じだろうか。画質にうるさいマニアが注目する「映画プロ」なのか、あるいは文字通り、画質の標準となる「標準」なのか。
実は彼らが最も気合いを入れて仕上げているのは、基本、高輝度、高彩度で絵作りされる「あざやか」だ。この映像モードはお客さんの目線を引きつけることを目指した、いわゆる“店頭モード”(店頭展示用モード)で、何より明るさ、鮮やかさが重要視される。
とはいえ、お客さんはその映像を見て、最終的な購入の判断をすることが多いわけで、単に明るく、カラフルな厚化粧の映像では、説得力がない。微妙な色調(特に顔色)、グラデーション(特に肌、髪の毛)を描き分けつつ、自然な質感、雰囲気を残すという絵作りが求められることになる。
それには熟練の技、磨かれた感性が求められ、その仕上がりはメーカー、機種によって千差万別。私の経験では、店頭用の映像モードでバランスのよい映像を再現するテレビは、総じて基礎体力が高く、「標準」、「映画」などの映像モードの画質も悪くない。
往々にして、軽く見られがちな“店頭モード”だが、メーカーとしての主張、意識、哲学を集結させた映像モードであり、そこには絵作りの技術、ノウハウが凝縮されている。ぜひじっくりと量販店で各機種の画質を見比べていただきたい。繰り返しになるが、大事なのは単なる鮮やかさだけでなく、自然な色調やグラデーションの再現力だ。
映像モードとは、簡単に言えば環境や再生する映像(映画やテレビ番組など)に合わせた画質調整機能のこと。最新のテレビではREGZAの「おまかせ」に類似した「自動」などのモードがあることがほとんどのため、ぜひ確認を。店頭でも、操作できる環境であれば「あざやか」系のモード以外も確認してみるとよいだろう
話を戻そう。一般家庭の通常の視聴では「おまかせ」モードを選んでおけば、まず間違いはない。「おまかせ」の自動画質調整は単に明るさを合わせるだけでなく、同時に色調や階調性、シャープネスなどの最適化も行われるため、映像全体のバランスも崩れにくい。
今回の視聴でも「おまかせ」モードの効果はてきめんで、自然なコントラスト感が確保され、人肌の描き分けも安定していた。ただ基本的な輝度パワーが高いこともあって、絵柄によっては明るすぎて、ややまぶしい。
そこで画質調整メニューから「明るさ詳細設定」を呼び出して、周囲の明るさに応じたレベルに調整してみた。これは専用のグラフを表示させて、暗部から明部まで11ポイントで画面の明るさレベルを調整できるというもの。ここをまぶしくない程度に下げていくだけで、このテレビの見やすさがグッと改善される。
「おまかせ」画質は未調整でも便利だが、「明るさ詳細設定」で自宅に合わせた調整にもチャレンジしたい。写真のグラフは左右が部屋の明るさで、上下が画面の明るさを示している。11段階の部屋の明るさに応じた画面の明るさを設定できるということだ。直感的に操作できるうえ、初期化も簡単。まずは触ってみてほしい
いちばん右の「明」部分を下げていくとそれに連動して中間の明るさも下がるため、よくわからない、という場合はいちばん右を少し下げるだけでも特に問題はない。ただ「明」から「暗」にかけてできるだけ滑らかに調整したほうが、さまざまなシーンで自然な明るさを確保しやすい。
「おまかせ」モードのまま地デジの放送でニュース、ワイドショーなどの番組を確認したが、力みのない、穏やかなタッチ再現性が特徴的で、グラデーションの描き分けも滑らかだ。色調は派手すぎず、ニュートラル。上位モデルで採用される「美肌」などの特別な機能はないが、人肌はほんのりとピンクがかり、ノイズのざわつきもそれほど気にならない。
現在、地デジ放送の解像度は「1,440×1,080」で、HDパネル(1,366×768)との相性は悪くはない。フルHD(1,920×1,080)パネルであったとしても、必ずスケーリング(解像度変換)が必要になる。ただ、斜め線の輪郭の滑らかさ、精細さは、フルHDパネル並みとはいかず、画面に近づくと、もう少し緻密さが欲しいという気持ちになる。もっとも1.5m以上離れると、こうした不満は一掃されてしまうのだが……。使い方次第でフルHDの40VとHDの32/24V型を選び分けたい。
部屋の照明を消して、「映画プロ」モードを試す。カーテンを閉めて、光は入るもののかなり暗い状態だ。日常生活の中では、就寝時以外にはない暗さだろう。特に高級テレビは「黒」の再現性がよいものだが、それは暗い部屋でこそ生きる性能なのだ ※写真のテレビは「A4N」シリーズではありません
続いて「映画プロ」モードを選び、Amazonプライム・ビデオからフルHD解像度の映画を再生してみよう。「映画プロ」は暗い部屋での映画鑑賞用のモードで、全体に明るさ、輪郭補正が抑えられ、同時に色温度が下がり、階調性(特に黒側)重視の絵作りとなる。
「映画プロ」は、一見メリハリがきいた、色濃いタッチの映像に感じたが、さまざまなシーンを見ていくと、ハイライト、黒の引き込みが抑えられ、中間調重視の絵作りであることがわかる。色調は緑、赤、ブルーと、人目を引きつける鮮やかよりも、微妙なトーンの描き分けが重要視され、あざとさはない。
暗い部屋で映画を見る際に使いたいのが「映画プロ」モード。「おまかせ」は万能型ではあるが、映画視聴時は、映画に特化したこのモードが生きる
スピーカーはごく一般的なステレオシステム。音質に不満がある場合は素直にサウンドバーなどの導入を検討するとよいだろう
スピーカーシステムはフルレンジ仕様のユニットをバスレフボックスに収めたシンプルな設計だ。開口部は下向きで、置き台に反射させて視聴者に届けるタイプ。音質はこのクラスでは平均的。可もなく不可もないというレベルだが、人の声帯域を強調する「クリア音声」機能が効果的だ。同機能をオンにすると、音量を抑えても人の声が聞き取りやすくなる。音が聞きにくいことがあれば、試してみるとよいだろう。
●小型テレビの有力候補として間違いない
●画質も機能もしっかりおさえたコストパフォーマンスモデル
●精細感のハイセンスに対して総合画質のREGZA
スマートテレビ関連機能が充実したREGZAのエントリーモデル「V35N」シリーズは、40V型以下のサイズでそれなりにしっかりしたクオリティのテレビを狙いたいという人には、間違いなく有力な候補となる。
機能性、操作性、そして画質と、どれも大きな弱点は見当たらず、リーズナブルな価格で購入可能なコストパフォーマンスモデルだ。内容的に素姓の把握が難しい新興ブランドのテレビで、ここまで洗練された製品は見たことがない。
ただ、もしターゲットを43V型前後まで広げて考えるとなると、候補モデルがにわかに増加し、解像度は4K(3,840×2,160)となる。価格.comの「人気売れ筋ランキング」を見れば、43V型の4Kテレビは5万円前後から購入できるので、サイズと予算が許せばこちらを検討するのもよいだろう。
なお、今回テストした「32V35N」はHD解像度のパネルということもあって、映像の滑らかさ、緻密さ、精細感といったところでは、高級機並みとは言えない。精細感重視なら、同じ32V型でフルHDのADSパネルを採用したハイセンス「32A4N」を選ぶという考え方もあるだろう。
ただし、階調性やS/N、色調なども含めた総合的なまとまりのよさでは、「32V35N」に分があるという印象だった。あとは「V35N」シリーズの録画/再生関連の機能をどう評価するかが選択のポイントとなるだろう。