4Kテレビの普及が進み、今や43V型以上の大きさは基本的に4Kテレビだと言える状況だ。そのいっぽうでグローバル市場を見るとHD/フルHD解像度の2Kテレビの構成(台数ベース)は約40%にもなるという。小型HDテレビの需要が一定数以上存在するというわけだが、ハイセンスではエントリークラスのHD液晶テレビを一本化。高コストパフォーマンスのスマートテレビとして仕上げたのが、ここで取り上げる「A4N」シリーズだ。
ここで解説するのは、ハイセンスの「A4N」シリーズ。サイズは40/32/24V型と3種類ある中から液晶パネル方式の異なる32V型と40V型を借用して、画質などを確かめていこう
「A4N」シリーズのラインアップ
●40V型「40A4N」 解像度:フルHD(1,920×1,080)
●32V型「32A4N」 解像度:フルHD(1,920×1,080)
●24V型「24A4N」 解像度:WXGA(1,366×768/WXGA)
●録画/再生やネット動画再生機能が充実した、いわゆる「スマートテレビ」
●40/32/24V型をラインアップする小型HD/フルHD解像度モデル
●32V型は珍しいフルHD解像度
2018年、東芝のテレビ事業を手掛ける東芝映像ソリューションを傘下に収めた中国の家電大手、ハイセンス。以降、ハイセンスとREGZAブランド両テレビの表示パネル調達や製造を統一することで着実にコスト削減を進め、2つのブランドに大きな恩恵をもたらした。
新製品の開発は、今もそれぞれ独立した体制で行われているが、基本画質を大きく左右する映像処理エンジンについてはハイセンスとREGZA(TVS REGZA社)での共同開発となり、これがハイセンス製テレビの画質改善に大きく貢献している。実際にここ数年で、国内テレビ市場でのハイセンスの存在感は高まっており、今最も勢いのある“海外ブランド”テレビと言ってよいかもしれない。
ハイセンスの「A4N」シリーズは、REGZAの実質的なエントリーモデル「V35N」シリーズのハイセンス版とも言える。ハイセンスの4Kテレビ「A6K」シリーズ同等であるという機能性が自慢だ。具体的には、各種ネット動画再生、スクリーンシェアへの対応に加えて、音声操作も可能なBluetoothリモコンなど、価格を考えるとなかなか豪華な仕様だ。
独自OSを採用するハイセンスのテレビでは、各種ネット動画のアプリがプリインストールされている。拡張性の面でAndroidなどには譲るものの、改めてインストールする必要性がないため、親切な面もある。2024年5月時点では、「BANDAI CHANNEL」が追加され計20サービスに対応している
iOS(iPhone)でも、Android端末でも、スマホとの連携はスムーズ。同じネットワーク(LAN)に接続していればスマホの画面を簡単にテレビに映し出せる
地デジ、BS/110度CSデジタル放送ともにチューナーは2基搭載。1つの番組を視聴中でも同時放送中の“裏番組”を録画できる仕様だ。連続ドラマなどの自動録画、オートチャプター機能など、ひと通りの録画機能を備えている
内蔵チューナーは地デジ、110度BS/CSデジタルともに2基。外付けのHDDを用意すれば、いわゆる裏番組録画が可能だ。ただユーザーの好みに合わせて自動で録画したり、録画番組の見たいシーンが素早く呼び出せたりといった「V35N」シリーズのような独自の便利機能はない。
とはいえ、計20サービス(2024年5月時点)をサポートしたネット動画機能、スマホ画面を表示するスクリーンシェア機能など、エントリーモデルとして機能面の不安は感じさせない。
必要最低限の機能性と言ってよいかもしれないが、実際の操作性は思いのほか良好だ。特にネット動画については、リモコン下部分に12個のダイレクトボタンが配置され、ワンタッチで呼び出しが可能。
操作時の反応は、今回のAmazonプライム・ビデオの視聴ではコンテンツの検索や再生、早送り/戻しと動作がスムーズで、じれったさを感じるようなことはなかった。
リモコン下部に大きめに各種ネット動画サービスのダイレクトボタンが用意される。動作速度は、テレビとしては十分スムーズだった
画面サイズは40/32/24V型の3種類。いずれも1秒あたり60枚の画像を表示する標準速(60fps=ノーマル駆動)タイプだ。こう説明すると「V35N」シリーズとまったく同じように思えるが、実はパネル解像度が異なる。40V型のみフルHD(1.920×1,080)の「V35N」シリーズに対して、「A4N」では40/32V型ともにフルHDで、24V型のみHD(1,366×768)パネルを採用しているのだ。
理由は定かではないが、家庭用テレビの一つのボリュームゾーンとなる32V型に対するハイセンスの意欲の表れと見てよいかもしれない。
●VA液晶パネル「40A4N」と「24A4N」の
・メリット:正面から見たときの映像にメリハリがある
・デメリット:斜めから見ると色が変わりやすい
●ADS(IPS)液晶パネル「32A4N」の
・メリット:斜めから見ても色が変わりにくい
・デメリット:映像のメリハリはVAよりも得にくい
ハイセンスでは液晶パネルの表示方式もスペックシート上で公にしており、40/24V型が正面から見たときのコントラスト感に余裕があるVA(Vertical Alignment)で、32V型については斜めから見ても画質の変化が少ないADS(Advanced super Dimension Switch)方式としている。
VAは正面から見ると、黒が締まり、メリハリのきいた映像が楽しめるが、正面から外れて斜めからの視聴となると、全体的に色あせて白っぽく見えてしまうという弱みがある。
対するADSは正面コントラスト(特に黒の締まり、黒の黒らしさ)ではVAに劣るが、斜めから見ても画質の変化が少なく、色調も変化しにくい。ADS液晶という方式は聞き慣れないかもしれないが、内容的には一般的なIPS(IN-Plane-Switching)と同等と考えてよい。
製品による違いが大きいため、どちらかが画質的にすぐれているとは一概に言えないが、この方式の違いもレビューしていく。
映像処理エンジンはTVS REGZAと共同開発された「HI-VIEWエンジン 2K」。HD/フルHDテレビ専用の新世代エンジンだという
続いて画質を見ていきたいが、ハイセンスの製品はTVS REGZAと共同開発した映像処理エンジンを積んでいるという触れ込みだけに、その仕上がりが気になるところ。まずはその前に映像処理エンジンの最新事情について、少し解説しておこう。
現在、家庭用テレビの映像処理エンジンには、1枚の基板(チップ)上に半導体など各種素子を実装したSoC(System on a chip/システム・オン・チップ)という技術が使われている。SoCを手掛ける半導体メーカーは少なくないが、テレビ用となると2〜3社に限定されるという。
テレビメーカー各社は半導体メーカーからSoCを入手してセット開発するのが一般的で、一種の汎用部品と考えられる。ただ既製品のままではテレビとしての特徴が出しにくくなるため、購入時にカスタムで独自の技術、機能を仕込んでもらうことも多い。
さらに開発コストに余裕がある高級機になると、SoCとは別設計の専用チップを配置して、他社とは明らかに異なるような高度な画像処理にチャレンジすることもある。具体的にはREGZAの「Z970N」シリーズ、ソニーの「X95L」シリーズなどが、このケースに該当する。
「TVS REGZAと共同開発」という触れ込みからすると、「A4N」シリーズはREGZAの「V35N」シリーズと同等の映像処理エンジンを搭載していると考えられる。とはいえ、当然ながらその使いこなしやチューニング、機能性など、テレビ設計に関わる部分についてはまったく同じというわけではない。
両者を比較すると、画質調整などを行うGUIのシステムは似ているし、画面(バックライト)の明るさを部屋の明るさ別に調整できる「明るさ詳細設定」も共通の機能と考えられる。ただ映像モードは「自動」「ダイナミック」「スタンダード」「スポーツ」「映画」と、「V35N」シリーズとは明らかに異なり、実際にそれぞれの画質を確認しても、一様ではないことがわかる。
「HI-VIEWエンジン 2K」による映像処理で実現する「映像メニュー」(映像モード)がこちら。環境や再生するコンテンツに合わせた画質最適化機能だ
さて、今回は用意したのはフルHD液晶パネルを装備した40V型(VA)と32V型(ADS)。まずはコンテンツの内容と周囲環境の明るさに応じて画質を自動調整する「自動」モードを選び、ニュース、ワイドショーなど地デジの番組を中心に視聴してみた。
部屋の明るさに応じた画質の最適化を図る「おまかセンサー」を搭載。センサーが動作する映像モードならばどれでも有効だが、基本は「自動」にしておくのがセオリーだ
こちらは初期設定画面。「お好みの映像メニューを選んでください」とあるが、そう言われても困るという人も多いだろう。いちばん上のモード(デフォルト)が「自動」であるため、気にしなければ映像モードは「自動」になっているはずだ
一般家庭のリビングを想定した環境で確認したが、取材当日は雨模様だったことも影響したのか、両機種ともに明るさが際立ち、バックライトの輝度を抑えたいと感じられた。そこで画質調整メニューから「明るさ詳細設定」(下写真)を呼び出して、まぶしく感じない程度に調整してみた。
「明るさ詳細設定」機能はREGZA譲り。特に部屋が暗くなった場合、「自動」モードではまぶしくなりがち。その場合はこちらのグラフを調整してみよう。左右が部屋の明るさで、上下が画面の明るさ。11ポイントの部屋の明るさに応じた画面の明るさを指定可能だ。「調整前に戻す」操作もワンタッチなので、大胆に試してみよう
最も明るい、グラフ中いちばん右の「明」部分を下げていくと、それに連動して中間の明るさも抑えられるというシステムは「V35N」シリーズと一緒だ。これで明るさのバランスが整えられればそれで問題はないが、グラフのラインが真横に表示されるよりも、「明」から「暗」にかけて滑らかに下がっていくようにきめ細かく調整したほうがコンテンツへの対応度が高く、さまざまな絵柄、場面で自然な明るさを確保しやすい。
共同開発の映像エンジンの影響なのか、32V型モデル「32A4N」の見せ方はTVS REGZAの「32V35N」とよく似ている。見た目のシャープネスは強くないが、均一なフォーカスが確保され、ノイズは細かく、階調性も滑らかだ。髪の毛のグラデーションがきめ細かく、ていねいに描きだしていくあたりが、ADSのフルHD液晶パネルの強みと言ってよいかもしれない。
唯一気になったのは、グリーンの発色が強く、全体の色バランスを崩してしまっていたこと。テスト機特有の個体差かもしれないが、これも画質調整から「色あい」を「-10」、「色の濃さ」を「-6」とする調整で、色調の違和感はほぼ改善できた。
「32A4N」(左)で気になった色のバランスが、「40A4N」(右)では安定していた。写真は同じコンテンツを再生したサンプル。あくまで参考用だが、背景の色が大きく異なることが見て取れる(どちらもデフォルト値の「自動」モード)
40V型の「40A4N」でも、基本的な傾向はよく似ているが、発色は安定していて、ニュートラルだ。ただこちらはVA液晶パネルということもあって、「32A4N」に比べると黒が締まり、やや照明を落とした環境でも堪えられるコントラスト感だ。いっぽうで画面の反射は強め。
そして画面サイズが大きくなると、地デジの視聴でもフルHD(1,920×1,080)表示の優位性がより明確になる。現在の地デジの解像度(1,440×1,080)からすると、オーバースペックのように思われるかもしれないが、縦方向をフル画素で表示できるメリットは大きく、輪郭(特に斜め)の滑らかさ、ディテールの緻密さなど、画質的に有利だ。
人の肌を健康的に再現する“美肌”など上位機に搭載されているような特別な機能はないが、今回の視聴ではその必要性を強く感じるようなことはなかった。
VA液晶パネルを搭載した「40A4N」(右)は正面から見たときのコントラスト(メリハリ)にはすぐれるが、斜めから見ると白っぽくなりがち。この点には留意したい。いっぽう、ADS液晶パネルの「32A4N」(左)は斜めから見ても色の変化は小さめだった
部屋の照明を消して、「映画」モードを試す。カーテンを閉めて、光は入るもののかなり暗い状態だ。日常生活の中では、就寝時以外にはない暗さだろう。特に高級テレビは「黒」の再現性がよいものだが、それは暗い部屋でこそ生きる性能なのだ ※写真のテレビは「A4N」シリーズではありません
続いてAmazonプライム・ビデオでフルHD解像度の映画を中心に見ていこう。部屋の照明を消し、映像モードは「映画」を選択。「映画」は暗い部屋で映画、ドラマなどを楽しむための映像モードだが、「V35N」シリーズに比べると色温度が高めに感じられ、基本的な色調は「自動」モード時に近い印象だった。
部屋の明るさを抑えた環境での映画鑑賞となると、やはりVA液晶パネルの「40A4N」のほうが断然魅力的に感じられる。「32A4N」の凝縮感のある再現性も悪くないが、部屋を暗めにした環境下では、黒の締まりが浅く、コントラスト感に物足りなさが残ってしまった。
対する「40A4N」は絶対的な画面サイズの大きさに加えて、黒が締まり、表現力に余裕がある。視聴位置が正面から外れるとわずかに黒が浮いて、人肌も白っぽくシフトして感じられるが、VAとしてはその変化は少なめだ。やはり映画は大きな画面と相性がよい。
「映画」モードの説明には「映画を暗い環境で楽しむときに適した設定です。」とある。こうしたモードは名称が異なるが他メーカーのテレビにもあるので、映画好きは一度試してみてほしい
スピーカーはフルレンジ2基によるごくスタンダードなステレオシステム。アンプの出力は「40A4N」が14W、「32A4N」「24A4N」が12W
フルレンジの小型ユニットによるステレオスピーカーシステムは下向きの開口部で、設置台に反射させて、画面の前に音を前に送り出す仕組み。40V型のみ少しアンプ出力が高いが、基本的な構成は同じようだ。
音質はどうしても置き台の影響を受けやすいが、女性アナウンサーの声は明るく、比較的聞き取りやすい。このクラスとしては平均的なクオリティだと思うが、微妙なニュアンス、息づかいまで把握するのは難しい。
確かにニュースやバラエティなど、情報を把握するだけならば、特に不満を感じることはないだろう。ところが映画、ドラマ、あるいは音楽ライブなどの鑑賞では、ダイナミックレンジが十分とは言えず、心、魂を揺さぶるような感動は期待できない。音質を求めるならば、テレビとは別にサウンドバーやスピーカーを用意するとよいだろう。
●画質も機能もしっかりしたクオリティ
●正面からじっくり映画を見るならば40V型
●REGZAとの差は録画機能と総合的な画質
フルHDのADS液晶パネルを搭載した32V型「32A4N」については、緑が強く出るという色調のクセが気になったが(画質調整で補正が可能ではあった)、そのほかの部分、特に画質は総じてレベルが高く、それなりにしっかりしたクオリティを備えていることが確認できた。
価格.comの「人気売れ筋ランキング」では32V型の「32A4N」が3位(2024年7月17日時点)とより注目されているが、画面サイズの選択は設置場所や楽しみ方、あるいは予算に応じて考えるのがよいと思う。凝縮された緻密な映像を楽しませる32V型も悪くない。ただ1人か2人でソファに座って、正面からじっくり映画やドラマを見るならば40V型の「40A4N」がよいだろう。もしこのサイズを超える大画面に興味がある場合は、4Kモデルを含めて再検討ということになる。