ここでレビューするハイセンス「E6K」シリーズは人気上昇中の国際ブランド、ハイセンスが送り出す4K液晶テレビのエントリーモデルだ。ネット動画機能を充実させた標準速(60Hz)駆動タイプで、サイズ展開は75/65/55/50/43V型と豊富だ。基本性能をしっかり備えた4Kスタンダードという位置付けで、価格の優位性もあって、価格.comでの注目度も高い。
ちなみに「A6K」シリーズという4Kテレビも存在するが、これは販路が異なる同一モデルと考えてよいだろう。
ここで解説するのは、ハイセンスの「E6K」シリーズ。サイズは75/65/55/50/43V型の5種類。この中から液晶パネル方式の異なる50V型と43V型を借用して、画質などを確かめてみた
「E6K」シリーズのラインアップ
●75V型 「75E6K」 解像度:4K(3,840×2.160)
●65V型 「65E6K」 解像度:4K(3,840×2.160)
●55V型 「55E6K」 解像度:4K(3,840×2.160)
●50V型 「50E6K」 解像度:4K(3,840×2.160)
●43V型 「43E6K」 解像度:4K(3,840×2.160)
●格安で手に入る4K液晶テレビ
●パネルの仕様は「等速」(60Hz)駆動
●50V型のみVAパネルでそのほかはADSパネル
2024年6月5日の記事「テレビが売れない今、急激に人気を集めるハイセンスと苦心する国内メーカーの“差”とは?」によれば、価格.com「液晶テレビ・有機ELテレビ」カテゴリー主要メーカーで閲覧者を伸ばしているのはTVS REGZAのみで、ほかメーカーはほぼ横ばいかわずかに減少傾向にある。こうした状況下、にわかに存在感を示しているのが、ハイセンスだ。その閲覧者数は大手“国産”メーカーに並ぶほどで、現在、同一傘下にあるTVS REGZAと合わせると、ダントツのトップだ。
では、価格.com「人気売れ筋ランキング」中、ハイセンスの最上位テレビはどれか? 2024年7月25日時点でランキングの1位が「E6K」シリーズの43V型モデル「43E6K」だ。
冒頭のとおり、「E6K」シリーズは等速(60Hz駆動の)パネルを搭載した4K液晶テレビのエントリーモデル。4Kテレビとして比較的安価でありながら、Netflix、Amazonプライム・ビデオ、YouTube、Hulu、Disney+、TVer、ABEMAなど、さまざまなネット動画サービスに対応している。Google TV/Android TVのように汎用的なアプリの追加には対応していないが、通常利用の範囲では不便を感じることはないだろう。
独自の「VIDAA」OSを採用し、合計20のネット動画サービスに対応する(2024年5月時点)。対応サービスのアプリは基本的にプリインストール済み(一部要ソフトウェアアップデート)なので、こうした操作が得意でない人にも使いやすいだろう
昨今は主にNetflix、Amazonプライム・ビデオ、Disney+などで4K&HDR映像で配信される作品が増えているが、これをフルHDやHD解像度のテレビで視聴する場合、はじめから強制的に2K&SDR仕様の映像が再生されてしまうという実に残念な状況となる。4K&HDR映像が変換されることなく、オリジナルの状態で楽しめるのは「E6K」シリーズの大きな強みだ。
リモコン下部にはネット動画サービスへのダイレクトボタンも用意される。Bluetooth対応リモコンなので、基本操作はテレビのほうを向けなくても可能だ
映像処理エンジンは、TVS REGZAと共同開発したという「HI-VIEWエンジンLite」。現在TVS REGZAはハイセンス傘下にあり、基本的なプラットフォームを共有している。ただし製品開発自体は独立しているため、両ブランドのテレビは機能も画質も微妙に異なる
iOS(iPhone)でもAndroidでも、スマートフォンの画面を簡単にテレビに投影できる。こうしたスマートテレビ的機能が充実していることが特徴だと言える
外付けHDDを接続すると、放送番組の録画が可能。番組視聴中に“裏番組”の録画ができるほか、番組の切り替わりに自動でチャプターを打つなど、ごく基本的な録画機能を搭載している
75〜43V型、5種類のサイズラインアップだが、実は液晶パネルの種類が一様ではない。メインは視野角による画質への影響が少ないADS(Advanced super Dimension Switch)だが、唯一、50V型のみVA(Vertical Alignment)を採用している。LEDバックライトについては、すべてパネル直下の配置で、部分駆動は行っていない。
ハイセンスのテレビはADSパネルを採用したモデルが多く、写真のように斜めから見ても色が変わりづらい点をメリットとしてアピールしている
水平方向に電極を並べ、液晶を横方向に配向させるADSの強みは、正面から外れて斜め横から画面を見ても、コントラスト感や色調が変わりにくいこと。視聴ポジションが一定ではないリビングユースでは、この視野角の広さは魅力だ。表示パネルとしての基本性能は、IPS(IN-Plane-Switching)液晶と同等と考えてよいだろう。
これ対してVA液晶は、前後の電極で液晶を縦(垂直)方向に配向させるタイプで、画面正面からの視聴では、黒が締まり、高コントラストの映像が得られる。斜めから見ると映像が白っぽくなって、色調も変わりやすいのが弱点だが、その変化の度合いは製品によって千差万別。最終的な判断は自分の目で確かめるしかない。
かつて同一シリーズの液晶テレビでは、すべて同じタイプの液晶パネルで統一されるのが一般的だったが、今から7〜8年前からだろうか、同一シリーズでも画面サイズによって特性の異なるタイプの液晶パネルを採用するケースが見られるようになった。
これはソニー、パナソニックといった国産大手メーカーも例外ではなく、当然ながら、パネルによって映像の見え方が変わってくる。液晶テレビの場合、同一シリーズでも表示パネルが違うことがあることを頭に入れておくとよいだろう。
さて、「E6K」シリーズはADS/VAに関わらずすべて等速(標準速とも言う。60Hz駆動)パネルを搭載している。ここがスペック上の高級機との大きな違いのひとつだ。
そこで、液晶パネルの等速(60Hz駆動)と倍速(120Hz駆動)の違いについて簡単に説明しておこう。地デジ、BSなどの放送は、秒60枚の画像を次々に切り替えて表示するためのデータで、それを受けるテレビも秒60枚の画像をそのまま表示する等速表示が基本となる。
ところが液晶テレビは次の画像を表示する直前まで前の画像を表示し続け、上から順に書き換える(ホールド表示する)ため、その切り替え中の画像が残像として残ってしまうという問題が生じやすい。これがいわゆる動きボケだ。
この問題を軽減すべき開発されたのが、秒120枚の画像を表示する倍速表示という技術だ。本来は1秒に60枚表示される画像を、2倍の120枚表示するため、相対的にホールド時間が短縮され、動きボケが抑えられるという仕組みだ。
1秒60枚の画像を120枚まで増やして表示するため、当然ながら画像と画像の間を埋める新たな画像を“補間”することが不可欠だ。前後の画像の中間を予測、生成して挿入するのが一般的だが、方法によっては異様にヌルヌルとした動きになり、逆に不自然に感じられてしまう。これを嫌う映像マニアも少なくない。
このほかに、描画1枚ごとに黒信号を挿入し、映像のボケを1枚ごとに断ち切る「黒挿入」と呼ばれる手法や、バックライトを映像に応じて点灯/消灯を繰り返し、動きボケを見えにくくする「疑似インパルス」などの表示手法を採用しているモデルもある。
また最近は秒間120枚や144枚の描画を求めるゲームに合わせて、こうしたハイフレームレートの映像信号をダイレクトにHDMI入力できる(120Hz/144Hzで駆動する)倍速テレビも増えている。
倍速(120Hz駆動対応)パネルを搭載したテレビの場合、映像補間機能を特徴のひとつとして打ち出すことがある。本来の映像信号の間に、テレビが予測したフレームを作り出して補間する機能だ。映像が滑らかになる半面、特に映画素材特有の質感を害する場合もある
環境や映像素材に応じて画質を最適化する映像モードは「自動」が基本。明るさセンサーを使い、常に映像の最適化を図るモードだ
今回は43V型の「43E6K」(ADS液晶)と50V型の「50E6K」(VA液晶)という異なるパネルの2モデルをメーカーから借用して、実際に画質・音質を中心に確認していく。
TVS REGZAと共同開発した映像処理エンジンを搭載していることもあって、各種メニューなど画面表示のGUIはREGZAとよく似ている。
実際に使ってみると、総じてリモコン操作時の反応は良好で、じれったさを感じるようなことはなかった。チャンネル操作については、もう少し素早く切り替わってほしいと感じたものの、他社テレビと比べて見劣りするというレベルではない。
映像モードは「自動」「ダイナミック」「スタンダード」「スポーツ」「映画」のほか、外部入力時には「ゲーム」「モニター」も選択可能。さらに、Netflix再生時には「シアター」というモードが用意される。一般家庭ではコンテンツの内容と周囲環境の明るさに応じて、画質を自動調整する「自動」モードを基本に楽しむのがよいだろう。
地デジ視聴時の映像モード一覧。いつでも変更可能なので、気になれば変えてみて、好みのや環境に合った画質を見つけてみよう
暗い部屋で映画を見るときに試してほしいのが「映画」モード。「自動」モードは便利ではあるが、100%万能ではないのだ
気になる画質はどうか。まずは「自動」モードでニュース、ワイドショーなどの番組を中心に視聴してみた。4Kテレビで地デジ放送を表示するには2Kから4Kへの解像度変換処理が必須となるわけだが、見た目のフォーカス感は甘くならず、輪郭がすっきりしている。40V型を超える画面サイズになると、フルHDパネルではどうしても見た目の解像感、輪郭の品位、色調の緻密さ、といったところで物足りなさを感じやすいもの。4Kパネルを搭載した「43E6K」「50E6K」では、そのあたりの不満を感じさせない。
また、フルHD/HDテレビにはないより高度な画像処理技術も投入されているため、地デジなどの4K解像度ではない放送番組を中心に楽しむユーザーでも4K表示の恩恵は少なくない。特にADS液晶を採用した「43E6K」の精細感が高く、肌のディテール、洋服生地の質感と、自然なタッチで描きだしていた。これもTVS REGZAと共同開発したエンジンの素姓のよさを感じさせる部分だ。
ここで気づいたのは、「43E6K」は同じADSパネルを採用したハイセンス「32A4N」(32V型/フルHD解像度)と比べて、視野角による画質の影響が少ないことだ。「32A4N」の視野角も悪くはなかったが、30度、50度と、正面から外れた場所から見ても、コントラスト感の変化が少なく、人肌の色合いも安定している。ADS液晶が苦手とする斜め上からの視聴でも、極端に色調が変わることはなかった。
「50E6K」はVAパネルということもあって、正面から見ると黒がキリッと締まり、見た目のフォーカス感も良好、色濃い映像が特徴的だ。さすがに斜めから見ると持ち前のコントラスト感が後退し、色調も変わりやすいが、個人的には画面正面から30度前後までなら十分実用になると感じた。
左が「43E6K」で右が「50E6K」。若干ホワイトバランスが異なるが、画質はよく似ていた。大きさが同程度に見えるのは場所の都合で前後に設置しているから
両モデルを斜めから見ると、やはりADSパネルの「43E6K」は色の変化が少ない。VAパネルの「50E6K」は比較すると色の変化が大きく、写真のように全体が白っぽくなってしまう
「E6K」シリーズでは「自然な色と質感で人肌を再現」するという「美肌リアリティ」機能を採用しているが、「50E6K」ではこの効果が大きい。「美肌リアリティ」のオン/オフを切り替えてみると、機能オン時に全体のグリーンが抑えられ、肌が健康的に再現されるのだ。同時に、黒の引き込みが強くなり、コントラスト感が向上する。「美肌リアリティ」オンの状態で最終的な絵作りを決めている印象だった。
なお、「43E6K」「50E6K」ともに、秒間60枚の映像を表示する等速パネルだが、映画、ドラマ、ニュースなど、基本、フィックスしたカメラで撮影するコンテンツについては、動きボケはあまり気にならなかった(横に高速で流れるテロップは除く)。
問題になりやすいのは、カメラのパンニングが多用されるサッカー、バスケットなどのスポーツ中継だ。カメラが左から右、あるいは右から左に振られると、動きボケによりフォーカス感が甘くなり、これが見づらく、視聴者のストレスになることがある。倍速表示でもこの画像ボケが完全に解消されるわけではないが、軽減されることは確かだ。
「43E6K」「50E6K」いずれもメーカー出荷時の「自動」モードではまぶしさを感じるくらいの明るさで、輝度レベルをもう少し抑えたい。そこで画質調整メニューから「明るさ詳細設定」を指定して、ほどよい明るさまで抑える方向で調整してみた。
「明るさ詳細設定」機能はREGZA譲り。左右が部屋の明るさで、上下が画面の明るさ。11ポイントの部屋の明るさに応じた画面の明るさを指定可能だ。たとえば写真のように右から4番目の画面の明るさを下げていくと、それより左のグラフもつられて下がっていく。「調整前に戻す」操作もワンタッチなので、大胆に試してみよう
使い方にもよるが、最終的には部屋が暗くなるにつれて画面も暗くなるよう、なだらかなカーブを描くと使いやすい
表示されたグラフを見ながら、いちばん右の「画面の明るさ」を下げていくと、それに連動して中間の明るさも抑えられる仕組みで、これは先行してレビューした「A4N」シリーズやTVS REGZAの「V35N」シリーズとまったく同じだ。一度最適な明るさが確保できれば、再調整の必要はない。
ただ、この設定は入力ごとに記憶される(放送/ネット動画/HDMI入力などが別に記憶されている)ようなので、「明るすぎる」と感じたら、一応、「明るさ詳細設定」のグラフを呼び出して確認するとよいだろう。
部屋の照明を消して、「映画」モードを試す。カーテンを閉めて、光は入るもののかなり暗い状態だ。日常生活の中では、就寝時以外にはない暗さだろう。特に高級テレビは「黒」の再現性がよいものだが、それは暗い部屋でこそ生きる性能なのだ ※写真のテレビは「E6K」シリーズではありません
さてここで照明を消して、Ultra HDブルーレイ「グレイテスト・ショーマン」を再生してみよう。映像モードは「映画」モードを選択。一般的な「映画」モードは色温度が6500K前後まで抑えられ、赤みの強い色調で絵作りされるケースが多いが、ハイセンスのではそこまで色温度を下げず、バランスのとれた見やすい色調に仕上げているようだ。
43V型、50V型まで画面が大きくなっても、粗さを感じさせることはなく、ネイティブ4K素材ならではの、凝縮感のある緻密な映像が楽しめる。HDR(HDR10)の効果については、黒が締まり、よりメリハリの利いた再現性が持ち味の50V型「50E6K」でその優位性が確認しやすい。
「E6K」シリーズはHDR信号の入力、表示に対応する。スタンダードなHDR10のほか、4K放送に使われているHLG、Dolbyの規格Dolby Visionと主要規格をしっかりカバーしている
ここで強く感じるのは、映画鑑賞と4K大画面の相性のよさだ。特に50V型以上に画面サイズが大きくなると、ホームシアターの感覚に近づき、知らず知らずのうちにストーリーに引き込まれていく。再生素材の違いか、映画モードでは「美肌リアリティ」補正効果はやや抑えられる傾向で、人肌も健康的というより本物っぽさが重視されているように感じられた。
また、ADSパネルの「43E6K」では、部屋の明るさを抑えると、どうしても黒の締まりの甘さが気になりやすい。いっぽう、VAパネルの「50E6K」ではそうした不満をほとんど感じることはなかった。
画面サイズに応じてアンプ出力が上がるものの、「E6K」シリーズのスピーカーはすべてフルレンジユニット2基による一般的なステレオシステム。Dolby Atmos対応などの機能はないが、「Eilex PRISM」による補正を利用できる。人の声の通りがよくないと感じた場合は「クリア音声」機能が有効だ
「E6K」シリーズは、フルレンジ仕様のステレオスピーカーシステム(開口部は下向き)を採用している。この構成は基本的にフルHD/HDのスタンダードライン「A4N」シリーズと同等だと言ってよいだろう。実際に試聴した印象としては、ダイナミックレンジが狭く、アナウンサーの声、セリフの聴きやすさを重視した仕上がりだと感じられた。
4K解像度で、しかも画面サイズは「A4N」シリーズよりも大きくなっているのだから、やはりこの音では物足りなさを感じやすい。映像と音のバランスを重要視するのなら、サウンドバーやアクティブスピーカーを用意する必要があるだろう。
●新興メーカーにはない高品位な4K&HDR画質を実現している
●ポイントは等速パネルが避けられない動きボケを許容できるかどうか
●暗い部屋で映画と向き合いたいならば上級機が望ましい
とにかく価格最優先で、安いテレビが欲しい! という意見もわからないではない。しかし、無名の4Kチューナーレステレビを探しても、この「E6K」シリーズと実はそこまで価格は変わらないケースが多い。しかも映像処理エンジンが非力だと、特に地デジ、BSなどのHD解像度素材で、4Kパネルのメリットが感じとりづらい。とすると、映像処理エンジン、表示パネル、絵作り(画質のチューニング)と、4Kテレビとしての基本性能をしっかりとおさえた「E6K」は断然お買い得だ。
放送番組でもネット動画でも、コレという欠点が少ないよくできた4Kテレビではあるが、エントリーモデルの限界もある。具体的には、動きの激しいスポーツ中継を高画質で楽しみたいのなら、動きボケが軽減できる倍速表示モデルのほうが有利だし、真っ暗な部屋で映画とじっくり向き合いたいのなら、黒が締まるLEDバックライト部分駆動(ローカルディミング)対応モデルやMini LEDバックライト搭載モデルが好ましい。
ただこれもメーカー、機種によって持ち味が異なり、得意、不得意が存在するのも事実だ。購入時には、できれば店頭での画質確認に加え、オフィシャルのスペック情報を慎重に吟味して、理想のモデルを選ぶ必要がある。