テレビの音を聞き取りやすくするスピーカー「ミライスピーカー」をレビューしてからというもの、ずっと類似コンセプトの製品が気になっている。結局、その後発売された「ミライスピーカー・ミニ」も実機をお借りして試してみたわけだが、やはり確実に一定以上の効果を感じられたのだった。
そこで今回レビューするAUREX(オーレックス)「TY-WSD20」である。いわゆる「手元スピーカー」と呼ばれる製品で、やはりテレビの音を聞き取りやすくすることがコンセプトだ。デジタル技術を使ったAV家電は得てして「最新が最良」ということになりがち。「手元スピーカー」はひんぱんに新製品が登場するカテゴリーではないが、やはり同じことが言えるのではないか……。これをレビューすることが本稿の趣旨だ。
なお、AUREXを展開しているのは東芝エルイートレーディングという会社。元々は東芝のグループ会社が取り扱っていない(他社ブランドの)家電供給会社として立ち上がった企業で、現在はSSDや白物家電、AV機器のメーカーでもある。
白物家電は東芝(TOSHIBA)ブランドでリリースするいっぽう、AVブランドとして展開しているのがAUREX。東芝のオーディオブランドを2016年に復活させ、現在はロゴも新たにラジカセやポータブルCDプレーヤーを発売している。
テレビとつないで音を無線で飛ばし、手元で音声を聞けるようにするスピーカー「TY-WSD20」。製品寿命が長いカテゴリーでの最新製品だ(2024年8月時点)
テレビの音を出力するスピーカーを手元に置き、音を聞き取りやすくするのが「手元スピーカー」。原理的に音が聞き取りやすくなるのはもちろん、音量上げすぎ防止を期待できる
さて、「テレビの音を聞き取りやすくする」とはどういうことなのか。まずはそこを確認しておこう。
テレビの音質を向上させる製品として、昨今ではサウンドバーがすっかり定番となっているが、こちらはまさに「質」を上げるためのもの。低域から高域まで、音源どおりにワイドレンジに再現し、音楽や映画を鑑賞するためのクオリティを担保するための製品だと言える。
いっぽうで「テレビの音を聞き取りやすくする」とは、主に高齢者など音の聞こえにくい人がテレビから発せられる音(主に人の声)を聞き取りやすくなるように設計されたということ。具体的には、人の声の周波数帯域を強調するのが常套手段だ。
「ミライスピーカー」や「ミライスピーカー・ミニ」はさらに音が部屋中に広がるように設計されていることがポイントだった。「手元スピーカー」は再生周波数帯域を最適化するほか、音を広げるのではなく聴取する人間に音源(スピーカー)を近づけることで音の聞き取りやすさを確保しようとするもの。なかなか力技めいた製品企画だ。
高齢者向け「手元スピーカー」として以外にも、リビングルームのテレビの音を少し離れたキッチンで聞く、という使い方も想定されている
「TY-WSD20」は左の無線送信機と右のスピーカー(と充電器)からなる。テレビと無線送信機をつないでおき、スピーカーへ音声を2.4GHz帯の無線で飛ばす仕組みだ
「手元スピーカー」の使い方は基本的にどの製品でも同じなのだが、仕様と作法は少しずつ異なる。「TY-WSD20」で特徴的なのは、無線送信機と充電器が分かれていること。
類似製品を見ると、オーディオテクニカ「AT-SP767XTV」やソニー「SRS-LSR200」などは送信機側で充電する仕組みのため、手元でスピーカーを使い終わった際には、テレビ脇の送信機へスピーカーを「戻す」というアクションが必要になる。
「TY-WSD20」の接続イメージ。充電しながらでも手元で使えることをメリットとして訴求している。充電のし忘れも防止できそうだ
価格.com「テレビオプション」カテゴリー人気売れ筋ランキング1位(2024年8月5日時点)のソニー「SRS-LSR200」。充電器と無線送信機が一体になっているため、テレビの脇が“定位置”となる。使うときにスピーカーを手元に移動し、終わったら戻すという動作が基本だろう
「TY-WSD20」では送信機と充電機能が分かれているため、手元(机の上など)に充電器を置いておけば、いちいちスピーカーを所定位置に「戻す」必要がないというわけだ。送信機と充電器2つ電源が必要になることがデメリットだが、トータルではこちらのほうが便利なのではないか。このあたりは後発最新製品ならではの使い勝手と言えそうだ。
そのほか、スピーカー部分にはヘッドホン出力を装備するなど、幅広い使い方に対応できる機能も持っている。
「TY-WSD20」の無線送信機部分。これをテレビの脇などに置いておく
接続端子はデジタル音声入力(光)とアナログ音声入力(3.5mmステレオミニ)が1系統ずつ。音質のことを考えれば、デジタル接続が望ましいだろう。テレビの端子次第で使い分けたい。なお、電源はUSB Type-Cだ
無線送信機とは別に充電器(右)が用意される。使うときにスピーカー移動の必要がないことがメリット。この仕様は比較的新しい製品であるシャープの「AN-WSP1」も同様だ
スピーカーにはアナログ音声入力(3.5mmステレオミニ)とヘッドホン出力(3.5mmステレオミニ)を装備
ヘッドホン出力は子どもの昼寝の際などに使うことを想定した仕様のようだ
付属品一式。充電ケーブルのほか、アナログ音声接続用/デジタル音声接続用それぞれのケーブルが同梱されている親切仕様
というわけで、ちょっと便利そうな「TY-WSD20」に触れてみたいと思い、東芝ライフスタイルにうかがい、実機を聞かせていただいたのだった。いろいろと工夫があることだけでなく、いちばん感心したのは、音の聞こえ方だ。
「ミライスピーカー」などの取材で感じたように、人の声の帯域が確かに聞きやすいのだ。それでいて「ミライスピーカー」ほど極端ではない、ウェルバランス志向だと感じた。元々低音が出ないシンプルなステレオスピーカーシステムであることが奏功しているのかもしれない。この手の製品にありがちなノイジーさもなく(音量を上げてもサーッと鳴らない)、S/Nがしっかり確保されているため、音楽番組を再生しても楽器のアンサンブルの形はしっかりわかる。これは期待以上だ。
「TY-WSD20」はフルレンジユニットによるシンプルなステレオスピーカー
重要な機能として、「声はっきりモード」を搭載。写真のスライドスイッチを「小」「大」と切り替えると、より人の声の帯域が強調される
さらに、「声はっきりモード」の効果と使いやすさも特筆しておきたい。これは人の声の周波数帯域をさらに強調するモードのこと。スイッチがシンプルでとてもわかりやすく、聴感上の効果もわかりやすい。
これには「TY-WSD20」にひと工夫あることがきいているようだ。以下図版のように、「声はっきりモード」を入れると人の声の帯域を持ち上げて強調するだけでなく、あえて低音をカットしているのだ。やや極端なバランスになるものの、少なくとも“健聴者”である筆者にとっては人の声の聞き取りやすさが向上する結果を得られた。
ただし、こういう機能はすべての場合でうまくいくとは限らない。実際に水戸黄門を再生したところ、劇伴のトランペットが悪目立ちしてしまうことがあった。人の声の帯域とかぶってしまうからだ。時代を感じさせるゴージャスな演出があだとなってしまったわけだが、「トランペットがうるさいな」と感じたらスライドスイッチを元に戻せばよいだけ。操作系のシンプルさが使い勝手に直結していて好ましいと感じた部分だ。
こちらが「声はっきりモード」の周波数特性イメージ。「小」(赤)と「大」(黄)のグラフを見ると、低域をあえてカットしていることがわかる
今回「手元スピーカー」を試してみて、音質だけを求めるオーディオ機器とは違った奥深さがあるなと感じた次第だ。
Bluetoothではなく、2.4GHz帯を使った無線伝送であったり、合計アンプ出力が4W(2W+2W)とやや大きめであったり、音質を劣化させない工夫は音質重視のオーディオ機器と同様。それでいて、それとは別の軸で使いやすさや音の聞き取りやすさを確保しなくてはならない、なかなか難しい製品なのだ。
そういう観点で「TY-WSD20」を考えると、最新製品だけあって実によくできている。音の聞き取りやすさ、使いやすさという重要ポイントをしっかりおさえられているという意味で、同カテゴリー製品の最有力候補になるだろう。
ライバル製品との比較で考えても、「TY-WSD20」の(「声はっきりモード」を含めた)音の聞き取りやすさは群を抜いている。しかも価格的にはオーディオテクニカ「AT-SP767XTV」やソニー「SRS-LSR200」よりもグッと安い(2024年8月5日時点)。高いほうが音がよさそう、聞き取りやすそうと思われるかもしれないが、一度「TY-WSD20」を手にとってみていただきたい。
ライバル製品ソニー「SRS-LSR200」の特徴は、テレビのリモコンを兼ねられること。リモコンコードを設定すれば、天面のボタンで基本操作が可能だ。この機能が便利に使える環境であること、無線送信機と充電器が一体であることを許容できること、これらが「SRS-LSR200」を候補にするかどうかのポイントだろう