Bowers & Wilkinsの「Pi8」。同時発売される「Pi6」と基本形状は同じ
Bowers & Wilkins(B&W)から、アクティブのイズキャンセリング機能対応の完全ワイヤレスイヤホン(TWS)「Pi6」「Pi8」が発表された。いずれも発売は2024年9月で、「ブランド史上最も快適で最高のサウンドクオリティ」と「所有欲を満たすラグジュアリーな外観」そして「ファッション性ある豊富なカラーバリエーション」をコンセプトとした高級モデルだ。市場想定価格は、「Pi6」が45,100円(税込)、「Pi8」が72,600円(税込)。
「Pi6」は写真の4色展開。カラーバリエーションが豊富なことも製品の重要な特徴だ。なお、「Forest Green」のみ2024年12月下旬発売予定
「Pi8」も4色展開。形状は同じだが、配色は異なる。「Jade Green」のみ2024年12月下旬発売予定
念のため確認しておくと、Bowers & Wilkinsは、アビーロード・スタジオやスカイウォーカーサウンドなど、音楽や映画の制作現場で信頼される「スタジオモニター」(スピーカー)メーカーとして広く知られている。「True Sound」を標榜し、スタジオで制作された音源を制作者の意図どおりに再現することを製品コンセプトとしている。
「Pi6」「Pi8」は、由緒正しいスピーカーメーカーBowers & Wilkinsが真剣に音質に取り組んだ完全ワイヤレスイヤホンであり、冒頭のように「最高のサウンドクオリティ」を目指した意欲作だ。同カテゴリーの製品で重視されるスペックを改めただけでなく、イヤホンの心臓部と言えるドライバーユニットも一新し、さらなる音質アップが図られた。
従来モデル「Pi5 S2」「Pi7 S2」とはまったく異なるフォルムからもフルモデルチェンジであることは明らか。その内容を見ていこう。
「Pi6」が「Pi7 S2」の後継機種、「Pi8」はさらに上位グレードの新機軸という位置づけ
さて、新製品で気になるのは、従来製品との差分つまりはグレードアップした部分だろう。「Pi6」「Pi8」では、イヤホンの本質を音質と考えるならば、間違いなく最重要部分のひとつであるドライバーユニットが改められている。
どちらも12mm径のダイナミック型ドライバー一発という構成だが、素材が異なる。「Pi6」はバイオセルロースで、「Pi8」はカーボンコーティングされたドライバー。これらの違いはそのまま同社製ヘッドホン「Px7 S2e」と「Px8」から来ている。これは、従来までは別だったヘッドホンとイヤホンのチームが統合され、ヘッドホンの担当チームが合流したことによるようだ。
「Px7 S2e」はカスタム設計のカーボンセルロース、「Px8」はカーボンコーティングの40mmダイナミック型ユニットを搭載する。それらを応用したのが「Pi6」「Pi8」それぞれのユニットだ
つまり、「Px7 S2e」「Px8」に採用されたすぐれたダイナミック型ドライバーをイヤホン向けに翻案したものを搭載しているということ。そのまま小型にできるものではないとしても、同様の素材をベースにイヤホン用12mmドライバーに落とし込んだものを採用したようだ。
何となくフルレンジドライバー一発よりも2ウェイ構成のほうが豪勢に思われるかもしれないが、原理的には余計な帯域分割(クロスオーバー)はないほうがよい、というのはスピーカーでもイヤホンでも同じこと。「Pi6」「Pi8」のフルレンジ構成は、一発で全帯域をカバーできるすぐれたドライバーを搭載しているという自信の表れとも言えるかもしれない。
「Pi6」(左)も「Pi8」(右)もタッチコントロール対応。ロゴの入った面が操作パネルにもなっている
旧モデルを含めた主要スペックの比較表。ドライバーのほかにはBluetooth対応コーデックなどに主な違いがある。マルチポイント対応や防塵防水性能の向上がスペックアップの注目すべき点だ。また、従来よりも大幅にバッテリー性能が向上したことが特筆される
音質だけでなく、両モデルともデザイン部分にもかなり力を入れたそうだ。“おしゃれ”的意味合いだけでなく、多くの人の耳にフィットするよう、デザインされているとのこと。矢印部分はフィン状のゴム素材になっていて、ここを耳に引っ掛けるように装着する
上の表に「Pi6」と「Pi8」の差は掲載しているが、改めてそれぞれの特徴を紹介しておこう。「Pi6」は、aptX Adaptiveに対応した弟機。ハードウェア的にシンプルなせいか、バッテリーの面ではこちらのほうが有利だ。唯一の省略点と言えるのは、ワイヤレス充電に対応しないこと。
アクティブのイズキャンセル機能についても強化されているそうだが、あくまで音質をじゃましない程度のものであって、ノイズキャンセルの強さを競うようなことはしていないという。この点は両製品で共通している。
専用のアプリが用意され、イコライザー(周波数帯域の補正)などを利用できる
Bowers & Wilkinsが考える完全ワイヤレスイヤホンの“リファレンス”(参照すべき基準)として展開されるのが「Pi8」。つまり、音質を追求したモデルだ。DSP(Digital Signal Processor)、DAC(D/A Converter)、アンプが独立した豪華な構成がポイント。音質的に有利ないっぽうでバッテリーの消費は大きいようだ。BluetoothのコーデックはaptX Losslessにも対応する。
また、ケースがBluetoothのトランスミッターとして使用できる。これは「Pi7 S2」から継承した機能で、任意のプレーヤーやPCとケースをUSBケーブルやUSB⇔3.5mmアナログケーブルなどで接続すれば、そのプレーヤーやPCからの音を「Pi8」で再生できる。主に航空機内で使うことを想定された機能だ。
ケース自体の形は両モデル共通だが、「Pi8」のケースBluetoothトランスミッターとして使える。新たにaptX Adaptiveに対応した
「Pi8」のアプリ画面。イコライザーがより細かく調整可能
「Google Pixel 6a」と接続してApple Musicを再生してみた
最後に、短時間ではあるが「Pi6」「Pi8」を試聴できたので、そのインプレッションを記しておこう。
まず感心したのは、装着感だ。デザインにもこだわったという説明のとおり、少なくとも筆者の耳の奥に“ねじ込む”必要はなく、無理なくフィットしてくれた。
そして音質について、「Pi8」は低音の量感がしっかりしたさすがと言えるピラミッドバランス。安定感があってどんな音源でも安心して聴けそうだ。量感は確保しながら、ともすれば混濁しがちなバンドアンサンブルにもしっかり分離感がある。ボーカルなどが埋もれることがないし、イヤホンながら空間の広さも確かに感じさせる。
音質で感心したのは、この低音の部分だ。「Pi7 S2」では「ファット気味」とすら感じた量感再現だったが、「Pi8」も「Pi6」も低域の解像度が上がり、よりリニアな再現性になったと思う。
「Pi6」は全体の力感や解像感でやや譲るところがあるものの、バランスのよさ、自然な音の広がりは同様のニュアンス。低域の出方が「Pi8」よりは穏やかな分、むしろ長時間の聴きやすさがあるかもしれないと感じた。帯域バランスの好みはイコライザーで調整も可能なので、気になればアプリで調整もできる。“コスパ”で考えれば「Pi6」が有利なのではないか。
どちらの製品も耳に“刺さる”ような刺激のない自然な再現性が魅力的。これは新搭載のダイナミック型ドライバーによるところなのだろう。
音質、デザイン性の高さを両立できる完全ワイヤレスイヤホンを検討すると、どうしても選択肢がかなり限定されるもの。4色ものカラーバリエーションを揃えた「Pi6」「Pi8」は新たな選択肢として有力になるはずだ。デザインにこだわる人にとっては、あまりほかの人と“被らない”こともありがたいポイントになるだろう。
「Bowers & Wilkins」の名前で出すのだから当たり前かもしれないが、「Pi6」「Pi8」はどちらも“おしゃれ”×高音質の良質をしっかり体現した希有な存在だ。「せっかく買うならおしゃれなイヤホンがいいよね」と思っているならば、まず手にとってみては。アクティブノイズキャンセリング機能の性能など、試せていない部分は多々あるものの、2024年の完全ワイヤレスイヤホンの新星として、ぜひ注目していただきたい。