デノンが完全ワイヤレスイヤホン(TWS)2製品を発表した。カナル型の「AH-C840NCW」とインナーイヤー型の「AH-C500W」は、どちらが「上」のモデルということはなく、まったく同じダイナミック型ドライバーを搭載した方式違いの製品として展開される。特に面白いのは「AH-C500W」。“昔ながら”の耳を密閉しないインナーイヤー型でありながら、音質のよさを前面に出したデノンらしい製品なのだ。
左がカナル型の「AH-C840NCW」で、市場想定価格は19,000円前後。右がインナーイヤー型の「AH-C500W」で、同15,000円前後。どちらも本体色は白と黒の2色で、Bluetoothの対応コーデックはSBC、AAC、LC3。マルチポイント(2台)、ワイヤレス充電対応などの基本仕様も共通している
デノンの最上位ヘッドホン「AH-D9200」で採用したダイナミック型ドライバーの技術を転用。正確なピストニックモーションを目指し、エッジのない12mmドライバーとして仕上げた
冒頭のとおり、「AH-C840NCW」と「AH-C500W」は同一ドライバーを使っている。どちらが上でも下でもないという意味で、両製品は“双子”のモデルと言えるだろう。ただし、その性質がかなり異なる。いっぽうがカナル型で、もういっぽうはインナーイヤー型なのだ。
右がバイオセルロース(ナノレベルの繊維にパルプを混合したもの)を使った新ドライバー。左が一般的なフィルム状ドライバー。一般的なドライバーはエッジと呼ばれる周辺部分の面積が大きく、面で一様な動きをするピストニックモーションが難しい
念のために説明しておくと、カナル型とは、付属する「イヤーピース」で耳栓のように耳の穴をふさぐタイプのこと。低音が逃げずに音が鼓膜まで直接届くわけで、音質的には有利だ。さらに、外からの音を耳栓のようにガードできるというメリットがある。
いっぽうのインナーイヤー型は「イヤーピース」が付属していない。現在では主流となったカナル型が登場する以前はイヤホンと言えばこのような形だったので、“昔ながら”という印象もあるかもしれない。以下関連記事では「普通のイヤホン」として紹介されている。
インナーイヤー型のメリットは、耳の穴が密閉されないこと。違和感/異物感が少なく、物理的な耳へのあたりがソフトなので、長時間装着しても耳が痛くなりにくい。
さて、両製品はドライバーこそ共通だが、単に耳をふさぐ方式が違うというだけではない。最も大きな違いは、カナル型の「AH-C840NCW」にはアクティブノイズキャンセリング(ANC)機能があること。
そのほか、本体設計も最適化されていて、保護のためのメッシュについても音質を害さないように入念なサンプル検討をしたとのこと。そして、最終的にはデノンの全製品の音質を決定する「サウンドマスター」によるチューニングが施されている。
カナル型モデル「AH-C840NCW」のトピック一覧。ANC機能はデノンとしては非常に強力だという
充電ケースは口が大きく開くタイプで、取り出しやすさを優先したとのこと。ANCオンでの使用時間は最大7時間(ケース込みで17時間)
インナーイヤー型モデル「AH-C500W」のトピック一覧。ANCには対応していない。また、本体形状が異なるので保護用のメッシュも「AH-C840NCW」とは異なる
「AH-C500W」のケースも形状は似ている。使用時間は最大7時間(ケース込みで17時間)
両製品ともBluetoothの対応コーデックはSBC、AAC、LC3。“いいドライバー”を搭載したこと、入念な「チューニング」(音質検討)を施したこと、という2点が大きなトピックということで、地味に感じられる仕様ではある。デノン「PerL」シリーズのようなハイテク機能のない、シンプルで使いやすい製品を目指したということなのだろう。ポジティブに言えば、いろいろなことをさておいてイヤホンの本質に注力した……という印象だ。
カナル型の「AH-C840NCW」から聴いてみた
まずはカナル型の「AH-C840NCW」を装着してみると、着けた瞬間にわかるのはしっかりとANCがきいていること。もっと強力にキャンセルをかける製品はいくらでもあるが、デノンとしてはかなり攻めていると言える。
これには明確な理由があり、デノンは高域のノイズキャンセリング効果をあえて控えているそうなのだ。高域の音をしっかりキャンセルしようとすると、その基音となる帯域は音楽再生での重要な帯域に被ってしまう。ノイズキャンセルも音楽再生も使うドライバーは一緒なので(ノイズキャンセリング機能のためにドライバーを振幅させると、音楽再生にとってじゃまになる)、音楽再生を極力じゃましない範囲でノイズキャンセリング機能を働かせようという発想になっているのだ。
音質は、中低域にしっかりボリューム感があり、シンバルの鳴り物やピアノはきらびやか。ボリューム感があってもベースラインは混濁しない、なかなか絶妙なラインで聴き応えがある。空間の広がりがあるCautios Clayの「Fishtown」では、リバーブ感がマスキングされることもなく、気持ちよい。
イヤーピースはサイズ違いで4種が付属する。装着しているMに加えて、左からL、Long S、Sサイズ。Long Sは耳の奥までイヤホンを押し込まずにフィット感を高めるためもの
続いて、インナーイヤー型の「AH-C500W」も聴いてみた
そして「AH-C500W」。こちらにはANC機能がないので、装着しても外音はほどよく耳に届く。「AH-C840NCW」と同じ楽曲を再生してみると、当たり前だが音の“形”が似ている。大音量にすれば、しっかりフルレンジでバンドアンサンブルを楽しめる音質は立派だ。コンセプトどおりに低域を確保しつつ、開放感のある装着性を実現している。
楽曲によっては大音量時にやや低域がふくらむきらいもあるが、トータルのバランスを考えれば無理もないことだろう。このくらいのバランスが好み、という人もいそうだし、このおかげで小音量時にもベースラインが崩れない。
フィット感を含めて耳に痛いところのないよいバランスで、どんな音量でも一定以上の聴き応えが確保されている。インナーイヤー型なので当たり前なのだが、音漏れに注意したいということを除けば、普段からずっと着けているのに適した製品と言えそうだ。
というわけで、カナル型の「AH-C840NCW」とインナーイヤー型の「AH-C500W」、どちらもデノンらしい正統派と言える仕上がりだった。つまりは“パッと見”とても地味ということでもあるのだが、特にイヤホンとの接続はAACが基本となるiPhoneユーザーの手堅い選択肢として、一度試してみていただきたいと思う。
音質としては情報量をカリカリに出していくわけではない、ダイナミック型一発らしい自然さが共通した魅力。長く使うほどこの味わいに慣れてくるはずだ。
特に面白いと思ったのは、インナーイヤー型の「AH-C500W」。耳栓のようなカナル型は苦手、でも音質はある程度確保したい……そう思っている人にとっての数少ない選択肢として「AH-C500W」はとてもありがたいと思う。
もし、音質優先でカナル型の「AH-C840NCW」を検討するならば、価格のこなれた「PerL」シリーズも手に取ってみたいところ。上位機種の「PerL Pro AH-C15PL」が今なら21,000円(2025年3月31日時点での価格.com最安価格)。こちらも非常にお買い得だ。