ソニー・インタラクティブエンタテインメントが「PlayStation史上最高の映像美」を実現するゲーム機として「PlayStation 5 Pro」(以下、「PS5 Pro」)を昨年11月に発売した。ここでは、AVプレーヤーとしての「PS5 Pro」の実力をレビューしていく。
結論から言えば、“無印”の「PlayStation 5」(以下、「PS5」)と同条件であれば再生画質はほぼ同等。いちばんのポイントは8K出力が可能ということだ。筆者を含め、ビクターのプロジェクターなど「8K表示」が可能なディスプレイユーザーは「PS5 Pro」の8K出力に注目していただきたい。
「PS5 Pro」は、簡単に言えば「PS5」の性能向上版である。ゲームプレイ時のレンダリング速度が最大で45%向上するなど性能が向上し、レイトレーシング技術やAIを活用したアップコンバート技術などでグラフィック表現力を高めている。
こうした高性能は「PS5 Pro」専用ソフトだけでなく、以前からの「PS5」用ソフトでも活用でき、グラフィックの強化や安定性の向上が得られるという。このほか、Wi-Fiは最新のWi-Fi 7に対応するなど性能向上は十分と言えるが、昨今の半導体の高騰などもあり、希望小売価格は119,980円(税込)と家庭用ゲーム機としては割高感のある価格になってしまった。同性能のPCと比べれば安価と言うこともできるが、なかなか手を出しにくい価格であることは確かだ。
ゲーム機能の進化の具合は以下動画と関連記事を参照いただきたい。
ゲーム機として進化しているのはわかった。「PS5 Pro」は「PS5」と同様にゲーム以外でも、Ultra HDブルーレイなどの再生機能(別売りのディスクドライブを購入・増設する必要がある)、YouTubeなど多くの動画配信サービス対応といったAV関連の機能もある。ここでチェックするのは、そんなAVプレーヤーとしての「PS5 Pro」の実力だ。
「PS5 Pro」は “無印”の新型「PS5」に近いデザインとなっていて、厚さや奥行きが若干コンパクト。横置き時の横幅が伸び、横幅だけは初期型「PS5」に近い大きさになっている。
また、ディスクドライブは付属しておらず、必要な人は別売りのディスクドライブ(「PS5」と共通)を購入する必要がある。「PS5 Pro」本体は筆者所有の実機を使用しているが、ディスクドライブは今も品薄で入手できていないので、ディスクドライブだけをお借りして取材を行った。
オプションのディスクドライブ。ドライブ本体のほか、外装カバーと設置用のロングフットが同梱されている
ディスクドライブのない「PS5 Pro」は、横置き時3点支持となっていて、うっかり横置き時に天面に手を置くとグラついてしまう。ディスクドライブ増設時はドライブ部分の厚みがあるので4点支持となって安定性も増す。「PS5 Pro」用の横置きスタンドもあるが、こうしたアクセサリーを使わないのであれば、ディスクドライブを装着したほうが安定感は増すだろう。
起動するとディスクドライブの登録が行われ、その後は「PS5」とほとんど変わらない。ユーザーインターフェイスもほぼ同じだし、OSも内部では違いがあるのだろうが、設定メニューなどは基本的に共通だった。
しかし、「PS5」との間にはひとつ大きな違いがある。それが「PS5 Pro」は8K/60pの出力が可能であること。筆者の所有するビクターのプロジェクター「DLA-V90R」は8K入力が可能な8Kプロジェクターなので、対応するゲームの8K表示が可能なのだ。
スクリーンとビデオの設定画面。「8K出力を有効にする」という項目が増えていて、対応するディスプレイを組み合わせている場合は8K映像出力が可能になる
8Kテレビや8Kプロジェクターを所有する人はあまりいないと思われるが、逆に筆者のような8Kプロジェクターユーザーにとっては、「PS5 Pro」は貴重な8K映像を楽しめる機器でもある。現状では(8K出力が可能な)PCなどでYouTubeの8K動画を見るくらいしか8K映像を見る機会がないので、ゲームとはいえ8K出力ができるのはありがたい。8Kに対応しているゲームソフトも多くはないのだが。
音声出力に関わる部分は「PS5」とほぼ同じ。機能としてはなかなか優秀で、接続する機器(AVアンプ、テレビ、ヘッドホン)に合わせて詳細なサラウンド設定が行える。接続先のAVアンプやテレビが対応していればDolby Atmosも再生可能。また、テレビやヘッドホンの場合は擬似的に立体音響を再現する「3Dオーディオ」にも対応する。
サウンドの設定画面で、接続先にAVアンプを選択。このあたりは「PS5」と違いはない
サウンドの設定画面に最後には、「音声フォーマット(優先)」の選択肢としてDolby Atmosを選べる
記事の主旨からは少し外れるが、ゲームでの8K表示も軽く紹介しよう。8K対応ゲームのひとつである「グランツーリスモ7」は、8K/60p出力が可能。リアルに再現されたドライビングシミュレーターである本作は、CGで再現される実際の車両のリアルな再現が魅力だが、8K表示ではCG由来のジャギー(斜め線や曲線でギザギザとして輪郭の乱れが生じること)がほとんど消え去り、まさに実車を思わせる再現になる。この映像でレースができるので、実際に車を運転している感覚がよりリアルに感じられる。
天候の変化、路面が濡れた感じなども明瞭にわかるので、その再現性に驚かされた。8K表示時にはレイトレーシングなど描画性能の一部が簡略化されるのだが、ジャギーによるCG臭さが解消される効果が大きいので、全体としてみれば気にならない。8K表示の自然な見た目は明らかにメリットが大きい。
「グランツーリスモ7」の画面を表示してみると、左上プロジェクターの情報画面で「4320p 60B」(垂直解像度が4,320の60fps描画)の表示が確認できる
なお、現在人気沸騰中の「モンスターハンターワイルズ」は8K表示には非対応。その意味では、「PS5 Pro」も8Kプロジェクター/テレビも不要だ。
さて、肝心のUltra HDブルーレイ再生だ。最初に整理しておくと、現在の「PS5」「PS5 Pro」は「3Dオーディオ」をオンにしておけばゲームやブルーレイソフトの再生などでDolby Atmosの再生が可能だ。
ただし、本機能をオンにしてAVアンプで確認すると、2ch音声の作品などもすべて「Dolby Atmos」出力になってしまう仕様のようだ。元々Dolby Atmosである音源以外は、内部的にアップミックスしているのだろう。また、映像は24p出力不可。すべて60p表示となる(不要な動画補間などは行われないようだ)。
こうしたプレーヤー機能は以前から同じ。定点観測として確認してみたが、変化、改善された点はほとんどない。動画配信サービスについてもNetflixを再生してみたが、ディスク再生と挙動は同じだった。このあたりの改善が進んでいない点は少し残念だ。
ホームメニュー最上段にある「メディア」を選択すると、ディスクプレーヤーや各種動画配信アプリを使える。Netflixなど契約しているサービスに合わせて、アプリをインストールしよう
項目は多くないが、ディスクプレーヤーとしての設定もホームメニューの設定画面から確認できる
ディスクプレーヤーの機能としては必要十分と言える。リージョンコードの確認やBD LIVE機能などの設定はホームメニューにあるし、プレーヤーアプリの設定にはデジタル音声出力の選択(ビットストリーム出力など)や映像のノイズリダクション(オフ/1/2の3段階)などもある。
環境にもよるが、「ダイナミックレンジコントロール」は「オフ」を推奨する。「自動」や「オン」だと、思った以上に大爆発などでの大音量が抑制されてしまい、迫力不足になる。深夜の視聴時など必要なときだけ使うとよいだろう。また、両手で操作するコントローラーの再生操作が煩雑に感じる人は、オプションで販売されている「PS5」用のメディアリモコンがあるので、そちらを検討したい。
ディスクプレーヤーアプリのメニュー画面。最下段にある「設定」は要確認
こちらが「設定」を選択したところ。Dolby Atmosを再生するならば「音声フォーマット」を「ビットストリーム」とすることが重要だ
大音量を抑制する「ダイナミックレンジコントロール」は初期値で「自動」。大きな音で再生する場合に迫力がそがれてしまうので、「オフ」が推奨だ
ディスク再生中の情報表示画面。チャプターや再生時間の確認ができるほか、HDRなどの映像情報や、チャンネル数を含む音声フォーマットが比較的細かく表示される
肝心の画質・音質についても、比較試聴した初期型「PS5」、以前借用してレポートした新型「PS5」(現行の“無印”「PS5」)と比べて大きく変わることはない印象だった。CPUやGPUの性能向上で電源部も強化されているため、多少の変化があるかもと期待したが、ほとんど差がわからなかった。では、AVプレーヤーとしての実力もたいしたものではないかというと、実力そのものは十分だ。
Ultra HDブルーレイでは、「クワイエット・プレイス:DAY 1」を見たが、冒頭のニューヨークの騒音、街の喧騒をリアルに描くし、包囲感や前後左右・高さの定位感もしっかりとしている。音質的にはメリハリの利いたくっきりした音なので、セリフなどが明瞭。正体不明の怪物が出現して街がパニックに陥る場面では、爆発炎上する車や航空機の爆音、あわてふためく人々の様子などを臨場感たっぷりに描く。
映像的にも精細感は4Kソフトとして十分だし、色も豊かに出る。画調としてはコントラスト感のあるくっきりとした画質。同じ「ソニー」だからというわけでもないだろうが、ソニーのテレビが目指す画質に近い感触もある。強いて言えば暗いシーンで黒の引き込みが強いと感じるが、高級プレーヤーと比較してわかる程度の差だし、階調性も十分に優秀だ。
まとめると、「PS5 Pro」はメリハリ型の画質・音質で、ゲームに適したバランスとも感じる。かといって演出過多とか、迫力だけで微妙な再現が苦手というわけでもないので、基本的には不満のない再生が楽しめる。
動画配信サービスの映像もチェックしたいと思い、Netflixで映画やアニメ作品を見てみたが、基本的な傾向は同様。パッケージソフトと比べると少々の差は感じるが、これは配信される映像・音声データの差と考えられる。多少の差はあるが据え置き型のプレーヤーでも感じる違いだ。
ここでの不満も「PS5」をレビューしたときと同様だった。少なくともNetflixのアプリを使う場合、Dolby Atmos出力に対応していないのだ。引き続き、アップデートでの対応を期待したい。
NetflixでDolby Atmos音声で配信されている作品を表示してみた。「PS5 Pro」のアプリでは音声が「5.1」(5.1ch)の表示になってしまう
似たような話がYouTubeアプリにもある。YouTubeでは8K動画の共有が可能で、対応する環境ならば8K映像を楽しめるのだが、「PS5 Pro」のYouTubeアプリでは8Kに非対応のようなのだ。PCならば8Kで配信されている動画でも、3,840×2,160の4K画質までしか選択できない。ここはぜひとも改善してほしいポイントだ。
YouTubeアプリを使い、本来8Kをストリーミング可能な動画で解像度を選択したところ。「2160p 60 HDR」(4K解像度のHDR10仕様)が上限になっている
いろいろと見てみたが、ディスクプレーヤーとしての実力は十分なものではあるが、それは「PS5」でも同様で、画質・音質面での差はほとんどない。ディスク再生や動画配信サービスなどのために「PS5 Pro」を選択するメリットはほとんどないと言ってよいだろう。「PS5」も決して安くはないが、ゲーム機とディスクプレーヤーを兼用するならばこちらで十分だ。
「PS5 Pro」のメリットは8K出力ができること、対応するゲームソフトではよりすぐれたグラフィックスが楽しめること。あくまでもゲーム機としての性能向上版だ。ゲーム機としてのグラフィックス性能の強化やそれがもたらすゲーム体験はさらに豊かになっていることは間違いない。「PS5」と「PS5 Pro」どちらを選ぶべきか? と悩んだら、ゲームをどのような環境でプレイするか(8K出力が必要か、今後導入の見込みはあるか?)を中心に考えるとよいだろう。