昨年2017年9月に発売された、ニコンの35mmフルサイズ一眼レフ「D850」の人気が止まらない。発売から4か月が経過した現在でも品薄で、大手量販店やカメラ専門店では入荷があるとすぐに売り切れる状況が続いている。価格.comでも人気は高く、「価格.comプロダクトアワード2017」では「カメラ部門」で大賞を受賞。「デジタル一眼カメラ」カテゴリーの売れ筋ランキング・注目ランキングはともに1位(2018年1月23日時点)。ユーザーレビューの満足度も高く、2018年1月時点では価格.comの「デジタル一眼カメラ」カテゴリーにおいて“人気ナンバーワン”と言っていいカメラだ。今回、この人気カメラを1週間程度試用することができたので、使ってみて特に魅力を感じた点をレポートしたい。
写真愛好家から高い人気を誇るニコンD850
D850は「高画素・高速・高機能」というこれまでにはなかったスペックを実現したフルサイズ一眼レフで見どころの多い製品。多くの魅力が詰まったカメラだが、実際に使ってみて特に強い魅力を感じたのは「高画素での高画質撮影」が可能なことだ。価格.comのユーザーレビューを見ても画質に対する評価が高く、その分期待値も高かったが、その期待を超える高画質であった。
一般的に画素数が高くなればなるほど画素ピッチは狭くなり、ダイナミックレンジや高感度画質で不利な面がある。D850は、有効約4575万画素という高画素ながら、シャドーからハイライトまで階調が豊かで、高感度でもノイズが少なく解像感の高い画質が得られるのがすごい。有効約4575万画素で解像力が高いというだけでなく、高画素のデメリットを感じさせない画質を実現しているのだ。
また、14bit記録対応のRAWで良質な画質が得られることに加えて、JPEGのクオリティが高いのも見逃せないポイント。「EXPEED 4」以降のニコンの傾向でもあるが、色かぶりが少なく、クリアで発色がよい画質は、JPEG撮って出しでも作品作りに活用できると感じた。裏面照射型の撮像素子と最新の画像処理エンジン「EXPEED 5」を新たに採用したことが大きいのだろう。画質については現時点で最高レベルのクオリティを持つ一眼レフのひとつだ。
ホワイトバランスに新たに追加された「自然光オート」。晴天や曇天、晴天日陰といった自然光下の光源であれば幅広い状況で最適なホワイトバランスが得られる設定だ
従来モデル「D810」と同様、ベース感度がISO64に設定されているのもほかにはない特徴。一般的なISO100と比べると半段程度の違いではあるが、明るいシーンで絞りを開けてボケ表現を得たい場合にも、より高画質に撮れるのはうれしい
逆光で撮影した1枚で、JPEGの撮って出しとなる。被写体がシルエットにならないように露出を少し明るめに設定して撮ってみたが、光源近くのハイライトが極端に飛ばずに、シャドーからハイライトまで階調がしっかりと残っているのがすごい。手前のオブジェも金属の質感が強く出ており、表現力の高さを感じる。奥のビルの上のほうがうすくかすんだ感じになっているのもリアリティが高い
D850、AF-S NIKKOR 16-35mm f/4G ED VR、16mm、F14、1/100秒、ISO64、WB:自然光オート、ピクチャーコントロール:オート、アクティブD-ライティング:しない、JPEG
撮影写真(8256×5504、22.6MB)
外部ストロボ(Profoto A1)をスプリットライティング気味に設定して撮影したポートレート作例。オートホワイトバランスで撮っているが、滑らかで質感のある肌に仕上がっている。全体的に極端に色かぶりしている感じがなく、薄く曇った天気の雰囲気が表現できているのもポイント
D850、AF-S NIKKOR 85mm f/1.4G、F6.3、1/250秒、ISO200、WB:オート0、ピクチャーコントロール:ポートレート、アクティブD-ライティング:しない、外部ストロボ(Profoto A1)使用、RAW(撮影時の設定のままJPEGに変換)
撮影写真(8256×5504、23.0MB)
大口径中望遠レンズ「AF-S NIKKOR 105mm f/1.4E ED」を使い、大きなボケ味を狙って撮ったスナップ作例。明るい屋外で撮っているが、ベース感度がISO64と低いため、NDフィルターを使わなくても絞り開放F1.4、シャッタースピード1/8000秒で適正露出が得られた
D850、AF-S NIKKOR 105mm f/1.4E ED、F1.4、1/8000秒、ISO64、WB:自然光オート、ピクチャーコントロール:オート、アクティブD-ライティング:しない、RAW(撮影時の設定のままJPEGに変換)
撮影写真(8256×5504、21.7MB)
D850のスペックでは、高画素ながら高速連写を実現したのも魅力だ。ボディ単体で最高約7コマ/秒、縦位置グリップ「MB-D18」使用時で最高約9コマ/秒の連写が可能(※約9コマ/秒連写は、MB-D18のほか、バッテリー「EN-EL18b」とバッテリー室カバー「BL-5」が必要になる)。連写の持続性も十分で、14bitのロスレス圧縮RAWで51コマ、12bitのロスレス圧縮RAWで170コマ、12bit圧縮RAWやJPEGでは200コマまで撮影できる。さらに、オートフォーカス(AF)もハイレベルで、フラッグシップ機「D5」と同じ153点の測距点を持つ高性能システムを採用。本格的な動体撮影にも活用できるスペックの高画素一眼レフに仕上がっている。
フル画素でも十分な性能を持つが、注目したいのは、DXフォーマット(APS-C画角)でのクロップ撮影時でも高い解像度が得られること。フルサイズの1.5倍の画角となるDXフォーマット時の画素数は1946万画素(5408×3600)。APS-C機として見ても十分な画素数で撮影ができるのだ。しかも、DXフォーマットであれば、データ量の多い14bitの非圧縮RAW記録であっても最高200コマまで連写が持続。AFも、DXフォーマット時は画面の横幅ほぼいっぱいに高密度な測距点が並ぶ贅沢な仕様になるのも使いやすいところだ。
幅広い撮影ジャンルで作品作りを行う方の中には、「風景やポートレートはフルサイズ機、飛行機や野鳥、スポーツなど動体を望遠撮影する場合はAPS-C機」とフルサイズ機とAPS-C機を使い分けている方も少なくないはずだ。「フルサイズ機をメインで使っているが高性能なAPS-C機もほしい」と考えている方も多いことだろう。その点、DXフォーマットでも十分な画素数となるD850であれば、フルサイズ機とAPS-C機を使い分けることなく、両方のニーズを1台でカバーできる。どちらの撮影ジャンルにウェイトを置いているかにもよるが、風景やポートレートがメインで、動体はその次というのであれば、D850は非常に魅力的なカメラだ。
153点の測距点を持つAFシステムを採用。DXフォーマットでのクロップ撮影時は撮像範囲が青い枠内となり、測距点が画面の横幅ほぼいっぱいをカバーするようになる
望遠ズームレンズ「AF-S NIKKOR 200-500mm f/5.6E ED VR」を使って被写体を追従しながら焦点距離500mmで撮影した1枚。縦位置グリップMB-D18などを装着し、9コマ/秒で連写した。撮像範囲をDXフォーマットに設定することで、競い合う様子を35mm判換算750mmの画角で大きく収めることができた
D850、AF-S NIKKOR 200-500mm f/5.6E ED VR、500mm、撮像範囲:DX、F8、1/2000秒、ISO900、WB:自然光オート、ピクチャーコントロール:オート、アクティブD-ライティング:しない、JPEG
撮影写真(5408×3600、12.7MB)
こちらもDXフォーマットに設定して35mm判換算750mmの画角で撮影。狙った構図に飛行機が入ってくるのを待って、ボディ単体の7コマ/秒連写で撮っている
D850、AF-S NIKKOR 200-500mm f/5.6E ED VR、500mm、撮像範囲:DX、F6.3、1/1250秒、ISO800、WB:晴天、ピクチャーコントロール:オート、アクティブD-ライティング:しない、RAW(撮影時の設定のままJPEGに変換)
撮影写真(5408×3600、10.5MB)
操作性では、風景撮影で三脚を使ってじっくりと構図を追い込む場合に、チルト式の液晶モニター(3.2型・約236万ドット)が使いやすいと感じた。一眼レフは、プロフェッショナルやハイアマチュア向けのハイエンドモデルになると固定式のモニターを採用する傾向があるが(徐々になくなりつつあるものの)、D850は、上下方向に動かせるチルト式を採用。タッチパネルにも対応しており、タッチAFなどの操作も可能だ。モニターを上向きに動かしたときにモニターがファインダーに遮られない構造になっており、風景をローポジションで撮るときにも画面が見やすい。約236万ドットの高解像度表示は拡大時のピント確認もやりやすかった。ライブビュー撮影時のAF速度で見劣りする点をネガティブに感じる方もいると思うが、動体には向いていないものの、被写体とじっくり向き合う風景の撮影では問題ない合焦速度であった。
さらに、モニターがしっかりとした作りになっているのも押さえておきたい。可動式モニターを採用するカメラの中には、元の位置に収めたときに微妙にモニターが浮いてしまうものもあるが、D850はそういったことはなく、しっかりと収まるように作られている。実用的な部分ではないとわかってはいるもののモニターの収まりが悪いと使っていて気になるもの。こうした細かいところでの操作感のよさはニコンらしいところだと感じた。
チルト式の液晶モニターを採用。三軸ヒンジ構造により、上向きにしてもモニターがファインダーに遮られないようになっている
雲の流れをよりダイナミックに、かつ海面の波を雲海のように表現することを狙って、カメラのポジションを下げてライブビューで長秒撮影した作例。ローポジションでの撮影だが、モニターを上向きにすることで構図を確認しながら撮ることができた。全体的に青いトーンを強くして、岩の部分のコントラスト高めたかったため、ホワイトバランスは晴天、ピクチャーコントロールはビビッドに設定している。トーンカーブなどは編集していないこともあり、ややアンダー目の仕上がりになったが、シャドーから中間調かけての階調がとても滑らかで、岩の表面の濡れた感じなどディテールもリアルに表現できた
D850、AF-S NIKKOR 16-35mm f/4G ED VR、20mm、F11、30秒、ISO64、WB:晴天、ピクチャーコントロール:ビビッド、アクティブD-ライティング:しない、RAW(WBとピクチャーコントロールの設定を変更してJPEGに変換)
撮影写真(8256×5504、21.6MB)
多彩な機能を持つD850だが、なかでも電子シャッターに対応するようになったのがうれしい。電子シャッターはレリーズ音が出ないので、屋内の音が出せない場所での撮影に便利だ。さらに、電子シャッターは機構ブレも抑えられるため、望遠レンズでの撮影や天体撮影にも活用できる。撮影の幅を広げる機能である。
使ってみて特に便利だったのが、タイムラプス動画用の静止画素材を撮るときに活用するインターバルタイマー撮影で電子シャッターを併用できること。タイムラプス動画用の素材を撮るのに電子シャッターは2つの点で有効だ。
1つ目はメカシャッターの耐久を気にしなくていいこと。タイムラプス動画の素材を撮る場合、一度に大量の静止画を連続して撮ることになる。そうした場合でもメカシャッターが動作しない電子シャッターなら耐久を気にすることなく積極的に使用できる。
2つ目はコマ間の微妙な明るさの違いが発生しにくいこと。タイムラプス動画の制作では、撮影時にいかにちらつきを抑えるかが重要。メカシャッターだとシャッター幕の動作のばらつきによってコマ間で微妙な明るさの違いが発生し、ちらつきの原因となるが、電子シャッターならその心配はない。さらに、D850は、定評のある露出平滑化にも対応している。電子シャッターと露出平滑化によって、タイムラプス動画にまとめた時に気になるちらつきを大幅に抑えることができるのだ。
また、D850のインターバルタイマー撮影は最短0.5秒間隔に設定できるようになった。すばやい動きをより滑らかに表現するタイムラプス動画を作りたい場合に有効な設定だ。記録画素数が8256×5504と非常に高いため、8K UHD(8256×5504)のタイムラプス動画の制作に活用できる点もすごいところだ。
インターバルタイマー撮影でもサイレント撮影をオンにすれば電子シャッターが有効になる。インターバルタイマー撮影は撮影間隔を最短0.5秒に設定できるほか、露出平滑化にも対応している
カメラ内での一括RAW現像に対応。タイムラプス動画用にRAWで大量撮影したデータをJPEG化する際に便利な機能だ
日没後50分間の空の様子を10秒に収めたタイムラプス動画。D850のサイレントインターバルタイマー撮影機能を使って静止画600枚を撮影し、4K UHDのタイムラプス動画(60p)を作成したものになる。撮影は、撮影間隔を5秒、絞り値をF8、シャッタースピードを1/4秒、ホワイトバランスを4000K、感度をISO64に設定。加えて、感度自動制御の低速限界を、5秒の撮影間隔をキープできる3秒とした。こうすることで、暗くなってもシャッタースピードが3秒より遅くなることなく、感度で露出を自動調整して撮ることができた。感度は最終的にISO360まで上がっている。エンコードで圧縮してデータ容量を下げているためグラデーションにムラが出ているものの、空の色と明るさが変化する様子がきれいに収まっているのがわかるはずだ。こうした明るさが大きく変わるシーンをタイムラプス動画にすると映像のちらつきが発生しやすいが、D850は電子シャッターと露出平滑化によってコマ間のちらつきを抑えることが可能。動画制作時のデフリッカー処理をスムーズに行える。
空港のターミナルの様子を撮影した4K UHDのタイムラプス動画(60p)。サイレントインターバルタイマーの撮影間隔を最短の0.5秒に設定して撮影した静止画を使って、およそ25分の時間を約50秒の動画に収めている。撮影は絞り優先で絞り値をF8にし、感度をISO64に、ホワイトバランスを晴天に設定。シャッタースピードで露出を自動調整しながら撮っている。タイムラプス動画の作成で気を付けたいのは、日中の屋外で明るさが大きく変わらない状況であっても、シャッターユニットの動作や、測光時の絞り羽根の動きが原因となるコマ間のちらつきが発生すること。D850は電子シャッターと露出平滑化によって、そうしたちらつきを抑えて撮ることが可能だ。
以上、短い期間ではあるがD850を使ってみて感じた4つの魅力をまとめてみた。今回紹介した項目以外でもD850には数多くの魅力があり、完成度の高いカメラだと感じた。高画素ながらダイナミックレンジが広く、高感度にも強い画質は理想的。カメラを買い替えて画質の向上と作品のクオリティアップを狙いたい方にうってつけのモデルだ。さらに連写性能にすぐれるのもポイント。高画素機ながら動体撮影にも強いには非常に魅力的だ。
ボディ単体で重量が約1005g(バッテリーおよびXQDカードを含む、ボディーキャップを除く)とけっして軽くはないので、スナップに向いているとは言えないものの、あらゆる撮影ジャンルで作品作りに活用できるカメラだと思う。特に、風景やポートレートをメインにして、動体でも作品作りを行っている方にフィットする一眼レフではないだろうか。
フィルム一眼レフから始まったカメラ歴は、はや約30年。価格.comのスタッフとして300製品以上のカメラ・レンズをレビューしてきたカメラ専門家で、特にデジタル一眼カメラに深い造詣を持つ。フォトグラファーとしても活動中。