2018年のカメラ市場は、フルサイズミラーレス一色の1年だったと言っていいだろう。ニコンとキヤノンが参入したことで、フルサイズミラーレスに大きな注目が集まった。本記事ではそんな2018年のカメラ市場を振り返りつつ、2019年に登場する新モデルや展望を予想。「一眼カメラ」と「コンパクトデジカメ」に分けて「2018年の振り返り」と「2019年の予想」をお届けしよう。
左上がニコンの「Z 7」、右上がキヤノンの「EOS R」、左下がソニーの「α7 III」。右下は2019年春の発売が予定されているリコーイメージングの「GR III」
2018年のカメラ市場でもっとも話題を集めたトピックは、ニコンとキヤノンからフルサイズミラーレスが登場したことだ。ニコンは8月23日に「Z 7」「Z 6」を、キヤノンはそれに続くように9月5日に「EOS R」を発表。フルサイズミラーレスはそれまでソニーが先行して市場を広げていたが、トップメーカー2社がこの市場に参入するということで、カメラ関連以外のメディアでも大きく取り上げられた。カメラ関連の新製品では、ここ数年の中でもっとも話題を集めたと言っていいだろう。
両社のフルサイズミラーレスで共通しているのは、ニコンは「Zマウント」、キヤノンは「RFマウント」という新開発のマウントシステムを採用し、新マウントによる光学性能の大幅な向上をアピールしていること。撮像素子を中心としたデジタル部分での進化を強みとするソニーとは対極的な展開になっているのが興味深いところだ。ニコンとキヤノンの第1弾モデルでそのポテンシャルのすべてが発揮されているわけではないが、新マウントのフルサイズミラーレスとレンズの組み合わせで得られる画質は、これまで以上の描写力を感じさせるものになっている。
有効4575万画素の高画素センサーを搭載するZ 7
有効約3030万画素センサーや「DIGIC 8」を採用するEOS R
ニコンとキヤノンの参入で盛り上がりを見せるフルサイズミラーレスだが、2018年に登場したモデルの中でもっとも評価されたのは、3月に発売になったソニーの「α7 III」だ。ソニーのラインアップの中ではベーシックモデルの位置付けではあるが、フラッグシップモデル「α9」譲りの高速AFや、最高約10コマ/秒の高速連写など、ベーシックとは思えないハイスペックなカメラとして人気が高い。カメラ関連のアワードを数多く受賞したほか、「価格.comプロダクトアワード2018」でもカメラ部門で大賞を獲得するなど、2018年を代表するカメラとなった。2018年の年末時点では、価格.comの「デジタル一眼カメラ」カテゴリーの売れ筋ランキングでライバルを押しのけて1位をキープ。ニコンとキヤノンからフルサイズミラーレスが発表された後に、売れ筋ランキングが再度上昇して1位に返り咲いたのも人気の高さを裏付けていると言えよう。
高性能なベーシックモデルとして売れ筋ランキング上位をキープするα7 III
APS-Cミラーレスに目を向けると、3月に発売になったキヤノンの「EOS Kiss M」が大きな話題となった。「Kiss」といえばエントリー向け一眼レフの代名詞的な人気ブランドだが、それをキヤノンがミラーレスでも展開するようになったのは、一眼レフからミラーレスへの時代の流れを感じさせた。EOS Kiss Mは、簡単操作で高画質な撮影ができるというKissの特徴をしっかりと押さえた、コストパフォーマンスの高いミラーレスとして人気を集めている。
小型・軽量なAPS-CミラーレスEOS Kiss M
APS-Cミラーレスでは、富士フイルムも積極的に新モデルを投入した。3月には「Xシリーズ」として初めてボディ内手ブレ補正を搭載した「X-H1」を、9月には10bitでの4K/60p ボディ内記録を実現した「X-T3」を発売。特にX-T3はムービー撮影用のミラーレスとしての評価が高い。また、中判ミラーレスの新モデルとしてより軽量な「GFX 50R」をリリースしたのも記憶に新しいところだ。
4K/60p動画撮影に対応する富士フイルムの最新モデルX-T3
マイクロフォーサーズでは、パナソニックからスナップシューティング向きの「LUMIX GX7MK3」、オリンパスからはエントリー向け「PEN E-PL9」といったモデルが登場。ただ、フラッグシップ級の上級者向けが登場しなかったこともあり、話題性という点ではインパクトに欠ける1年であった。
チルト可動式のEVFを採用するLUMIX GX7MK3
「PEN」シリーズのエントリーモデルPEN E-PL9
一眼レフに目を向けてみると、ニコン「D850」やキヤノン「EOS 6D Mark II」が登場した2017年と比べるとかなり低調な1年であった。キヤノンとニコンから登場した新モデルはエントリー向けのマイナーチェンジモデルにとどまっている。その中では、リコーイメージングが4月に発売したフルサイズ一眼レフの新モデル「PENTAX K-1 Mark II」が注目を集めた。アクセラレーターユニットの搭載でさらなる高画質を実現したほか、手持ちでのリアル・レゾリューション機能も搭載。ハードウェア交換で従来モデル「PENTAX K-1」をMark IIと同等の機能にアップグレードするという斬新なサービスでも話題となった。
画質と機能性が向上したフルサイズ一眼レフPENTAX K-1 Mark II
2018年はフルサイズミラーレスに代表されるようにミラーレスの話題が多く、一眼レフからミラーレスへの時代の変化を感じる1年となった。2019年も引き続きミラーレスが話題の中心になるのは間違いない。
なかでも、ライカ、パナソニック、シグマによるLマウントアライアンスの動きに注目だ。すでに発表されていることではあるが、パナソニックは、4K/60p動画撮影などのハイスペックを実現する「LUMIX S1R」「LUMIX S1」を2019年初頭に発売する予定。年明けに開催される家電見本市「CES 2019」などで何か動きがあるはずだ。シグマもFoveon(フォビオン)センサーを搭載するLマウントのフルサイズミラーレスを2019年にリリースすると発表している。あのFoveonがフルサイズになるというだけで胸が高まるが、いったいどんなカメラになるのか楽しみだ。
4K/60p動画撮影を実現するLUMIX S1R/S1。2019年初頭の発売予定
ソニーは直近ではAPS-Cミラーレス上位モデルのリニューアルが予想されている。α7シリーズのように光軸上にEVFを配置した一眼レフスタイルに変わるという噂もあり、APS-C機として圧倒的な高速性を実現したカメラになりそうだ。フルサイズミラーレスの新モデルとしては超高感度モデル「α7S」シリーズの後継が4K/60p動画記録対応で登場すると予想する。
ニコンとキヤノンについては、フルサイズミラーレスの第2弾モデルが意外に早く登場するかもしれない。第1弾モデルでは、特にAFや連写、EVFなどのレスポンスでソニーの最新モデルに追い付いていないところがあるのが正直なところで、早急なアップデートを行う可能性はある。特にキヤノンは第1弾のEOS Rではお披露目的な意味合いが強かった印象もあり、ボディ内手ブレ補正などを搭載した強化モデルを2019年内にリリースするかも。エントリー機の開発を検討していることも明かしており、2019年中に何か動きがあるはずだ。
フルサイズミラーレスに関しては、ボディだけでなく、レンズの進化にも注目したい。ニコンとキヤノンは、フルサイズミラーレスで採用した新開発の大口径マウントによる光学設計の自由度の高さをアピールしていたが、第一弾のレンズ群の、開放での色収差の少なさや周辺まで均一な描写など細かいところを見ると、これからどんなレンズが生まれるのか期待が膨らむ。ニコンがすでに開発を発表している、開放F値0.95の大口径・単焦点レンズ「NIKKOR Z 58mm f/0.95 s Noct」など、これまでにはなかったスーパーレンズの登場に期待したい。対するソニーは、先行するメリットを生かしてすでに30本のフルサイズミラーレス用レンズを用意しており、特に2017〜2018年は技術的なブレイクスルーがあったのか、たとえば価格.comプロダクトアワード2018のカメラ周辺機器部門で大賞を受賞した「FE 24-105mm F4 G OSS」など、よりコンパクトで描写力にも磨きがかかったものが数多く登場している。ニコンとキヤノンのフルサイズミラーレス用レンズの写りに引けをとるものではなく、2019年はニコンとキヤノンを意識して、驚くようなスペックのレンズを開発するかもしれない。Lマウントアライアンスもライカ、パナソニック、シグマの3社の協業で魅力的なレンズが数多く登場することに期待できる。複数メーカーが参入したことで、フルサイズミラーレスは2019年以降、ボディだけでなく、レンズを含めたシステムで比較する時代になるのは間違いない。
また、東京オリンピックを翌年に控えた2019年は、一眼カメラのフラッグシップモデルの動きにも注目だ。ニコンとキヤノンについては、フルサイズミラーレス市場に参入したとはいえ、ミラーレスでプロ向けの超高速機をすぐに開発・発表するとは考えにくい。一眼レフのフラッグシップが、ミラーレスを含めた一眼カメラ全体のフラッグシップであることに変わりはなく、2019年の後半に(2020年になるかもしれないが)、ニコンは「D5」、キヤノンは「EOS-1D X Mark II」の後継モデルの登場が予想される。対するソニーは、ミラーレスのフラッグシップモデル「α9」の後継をリリースするだろう。α9は最高約20コマ/秒の超高速連写などのスペックでは一眼レフのフラッグシップを上回っているが、プロスポーツの現場ではまだそれほど活用されていないのが正直なところ。後継モデルでは、スペックよりも操作性と信頼性の大幅な向上が求められる。
ミラーレスのフラッグシップでは、オリンパスから「OM-D E-M1 Mark II」の後継モデルが登場すると予想する。OM-D E-M1 Mark IIはミラーレスの高速化を象徴する1台として高く評価されているが、その後継はさらなる高速性を達成するはずだ。オリンパスはカメラ開発をハイエンド機にシフトしており、よりプロ用を意識したカメラになるだろう。
一眼レフについては、ニコンとキヤノンのフラッグシップのリニューアルが控えていることもあり、2019年は2018年よりも多くのモデルが登場すると思う。キヤノンが一眼レフとミラーレスの棲み分けをどう考えているかにもよるが、春先にはKissシリーズのエントリー一眼レフがリニューアルになるはずだ。
2018年のコンデジ市場は、市場規模の落ち込みもあって例年よりも新モデルの数が少ない1年であった。その中でもっとも話題を集めた1台を選ぶとすれば、9月に発売になったニコンの「COOLPIX P1000」になるだろう。35mm判換算で焦点距離3000mm相当の画角に対応する超高倍率の光学125倍ズームレンズを搭載し、圧倒的な望遠撮影能力で注目されているモデルだ。超高倍率コンデジは各メーカーが用意しているものの、光学100倍を超えるのはこのモデルのみ。重量は約1415g(バッテリー、メモリーカード含む)で、一般的にイメージするコンデジのサイズ感ではないが、3000mm相当という一眼カメラでも難しい超望遠の画角で撮れるカメラとしてみれば非常にコンパクトにまとまっている。レンズ一体型デジカメの新しい方向性を示すモデルになるかもしれない。
光学125倍の圧倒的なズーム倍率を実現したCOOLPIX P1000
8月発売の富士フイルム「XF10」も2018年に人気を集めたコンデジだ。COOLPIX P1000とは真逆の方向性のカメラで、APS-Cサイズの大型撮像素子を採用しながら重量約278.9g(バッテリー、メモリーカード含む)と小型・軽量ボディを実現したのが特徴。35mm判換算で焦点距離28mm相当の画角の単焦点レンズを搭載しており、気軽に持ち運んで軽快に使えるスナップカメラとして写真愛好家から高く評価されている。価格.comプロダクトアワード2018ではデジタルカメラ部門で1位となる金賞を受賞している。
持ち運びやすいAPS-Cコンデジとして人気のXF10
このほか2018年のコンデジでは、「RX100」シリーズのコンパクトサイズはそのままに、35mm判換算で焦点距離24〜200mmの画角に対応する高倍率ズームレンズを新搭載した「サイバーショット DSC-RX100M6」や、4/3型高感度MOSセンサーを搭載するコンデジの新モデル「LUMIX DC-LX100M2」なども話題となった。
一眼カメラほどの大きな動きは見られないかもしれないが、2019年のコンデジ市場では、春の発売が予定されているリコーイメージングの「GR III」の期待値が高い。「GR」シリーズとしては約4年ぶりに登場する新モデルということで、スナップ写真家から注目を集めている。すでに試作機の情報は公開になっており、新開発レンズやボディ内手ブレ補正を搭載し、従来から大幅な性能向上を実現したモデルになりそうだ。
ボディ内手ブレ補正などの新機能を多数搭載するGR III(試作機)
このほかでは、キヤノンの1インチコンデジ「PowerShot G」シリーズにおいて、高倍率ズーム機「PowerShot G3 X」などのリニューアルが2019年こそは行われるはずだ(※前回の予想記事では2018年のリニューアルを予想して外れてしまった)。1インチコンデジでは、ソニーの「RX100」シリーズでも新モデルが登場するだろう。キヤノンとソニーからも、富士フイルムのXF10やリコーイメージングのGR IIIのように単焦点レンズを搭載する高級モデルの登場を期待したい。
カメラ市場における2018年の最大のトピックは、ニコンとキヤノンがいずれもフルサイズミラーレスを商品化したことに異論はないだろう。前回の予想記事では2018年中にニコンがフルサイズミラーレスを商品化する可能性が高いと予想していて、キヤノンについては2019年になると考えていた。だが実際は、8月〜9月にかけてほぼ同じ時期に両社から発表になり、大きなサプライズとなった。その後、ライカ、パナソニック、シグマによるLマウントアライアンスも発表され、注目は一気にフルサイズミラーレスに向かうことに。カメラファンの間では2018年は“フルサイズミラーレス元年”として語り継がれることだろう。フラッグシップ一眼レフのリニューアルが控えているとはいえ、2019年も引き続きフルサイズミラーレスが話題の中心になるのは間違いない。
ただ、フルサイズミラーレス以外のところに目を向けると、コンデジを含めて2018年は注目度の高い新モデルが少ない1年であった。フルサイズミラーレス以外が目立たず、ハイエンド向けのカメラ=フルサイズミラーレスという認識が強くなりすぎている感じもあるので、2019年はAPS-Cやマイクロフォーサーズ、レンズ一体型の高級コンデジでも、より話題性のあるモデルが登場することを期待したい。
なお、前回の予想記事では、2018年に登場する新しい一眼レフとして、キヤノンが高画素フルサイズ「EOS 5Ds」「EOS 5Ds R」とAPS-Cモデル「EOS 7D Mark II」の後継をリリースし、ニコンはフルサイズのエントリー機をリリースすると予想したが外してしまった。EOS 7D Mark IIの後継については2019年に登場する可能性はあるが、ニコンもキヤノンもフルサイズミラーレスをラインアップしたので、フルサイズ機に関する動きは読めないところがある。もしかしたら、EOS 5Ds/5Ds Rはミラーレスに移行するかもしれない。2019年は予想がしにくい分、驚きのある展開が生まれそうだ。
フリーランスから価格.comマガジン編集部に舞い戻った、カメラが大好物のライター/編集者。夜、眠りに落ちる瞬間まで、カメラやレンズのことを考えながら生きています。