レビュー
デジイチ動画の未来を感じる!

キヤノン「EOS-1D X Mark III」5.5K/12bit RAW&Canon Log 動画撮影レビュー

ついに発売されたキヤノンのデジタル一眼レフカメラのフラッグシップモデル「EOS-1D X Mark III」。デュアルピクセルCMOS AFによる正確無比な高速フォーカスや、秒間最高16枚の高速連写などの機能を備え、スポーツや報道などの分野の第一線で活躍するプロフェッショナル向けの製品です。

本機は、基本的に写真撮影において強みを発揮するカメラではありますが、実は動画撮影機能も“超”が付くほど強力。業務用のシネマカメラに匹敵する5.5Kの12bit RAWでの動画撮影という性能は大きな魅力です。そこで今回は、その実機をお借りし、近所のお寺からドバイまで縦横無尽に撮影をしてきたので、その結果をレポートします。

※ 本記事におけるドバイでの撮影は外務省による渡航自粛勧告がなされる以前に収録したものです。

なお、今回はRAWとCanon Logでの動画撮影機能にフォーカスしていますので、写真撮影について興味がある方は下記の記事をご覧ください。

キヤノンの新フラッグシップ「EOS-1D X Mark III」の“進化したAF”を体験した!

12bit RAW動画は何がすごいのか?

「EOS-1D X Mark III」の動画撮影における目玉機能として語られるのが12bit RAWでの動画撮影です。これは一体何がよいのでしょうか? それを理解するにはまず、12bitとRAWの2つを別々に理解する必要があります。

ビット深度

「bit(ビット)」というのは、撮影データのビット深度(ビットデプス)のことです。この深度とは「1つのピクセルに割り当てられる色のデータ量」のことで、この数値が大きければ大きいほど記録できる色が豊かになり、また、編集時の加工もしやすくなります。

ちなみに、ソニー「α7 III」は内蔵ストレージに記録できるのが8bitまでで、手軽に買えるシネマカメラとして人気の「Blackmagic Pocket Cinema Camera」シリーズも10bitまでです。もちろん、価格帯が大きく異なる製品ではありますが、デジタル一眼カメラとして12bitの内部記録を真っ先に実現した「EOS-1D X Mark III」は、フラッグシップのポジションに恥じない性能を備えていると言えるでしょう。

RAW動画の特徴とメリット

そして、もうひとつのキーワードがRAWです。こちらは写真でもよく耳にする単語のためなじみのある読者も多いと思います。動画におけるRAWも写真と同じく、撮影時にデータを圧縮せず、後から加工や編集をしやすい形で記録する方式です。

なお、動画向けのRAWにはAdobeの「Cinema DNG」、アップルの「ProRes RAW」、Blackmagic Design「Blackmagic RAW」などの規格がありますが、「EOS-1D X Mark III」が採用しているのはキヤノン独自のRAWとのことです。

「EOS-1D X Mark III」で5.5K/12bit RAW動画を撮る

RAW動画の本領が発揮されるのは色の豊かさが求められる場面です。そこで今回は朱色の五重塔や緑の松、淡いピンクの桜などのさまざまな色が撮れる場所へ行き、テスト撮影を行いました。

なお、今回撮影に使用したレンズはキヤノンの「EF16-35mm F2.8L III USM」と「EF70-200mm F2.8L IS III USM」の2本です。

内部記録にはSanDisk「CFexpressカード」(仕様は後述)を使用。これにH.264 MPEG-4 AVCとRAWの動画を記録し比較しています。外部レコーダーは使用していません

「EOS-1D X Mark III」で撮影したMPEG-4とRAWの比較

「EOS-1D X Mark III」を使用して撮影してきた下記の動画で「8bit MPEG-4 AVC」と「12bit RAW」の違いをご覧ください。なお、書き出し時に4Kにダウンコンバートされており、またYouTubeにアップロードした後にデータが圧縮されることもあるため、オリジナルデータと比較すると多少は画質が下がってしまいますが、それでも十分12bit RAWの美しさが伝わるはずです。

撮って出し、無加工のMPEG-4動画でも動画のクオリティに不満はありません。色味が極端に鮮やかになっていたり、シャープネスがきつくかかり過ぎていたりすることもなく、自然な色合い。記録と同時に不可逆圧縮がかかるので編集時の自由度は下がるものの、加工を前提にしないならこれで十分と言える映像が撮れています

RAWで撮影した動画のコントラストと色味を軽く調整した結果がコチラ。空の青さを少し強めに出し、朱色は抑え気味にしています。データの加工幅がとても広いので、編集ソフト(詳細は後述)を使用すれば色味の調整は驚くほど自由です

極端な加工の例

RAW動画の加工幅の広さを示すデモンストレーションとして、実用性はさておき、極端な色味の変更をしてみました。以下の画像は、撮影時に肉眼で見た昼間の景色に近くなるように調整した結果です。

まったく同じデータを夕方っぽく加工したデータが以下の画像です。筆者の力不足ゆえ少しもの足りない感じではありますが、赤と黄色を加えて日没直前のような雰囲気にしてみました。加工の腕前はさておき、元の青空から大きく色味を変えてもデータが破綻していないことは確認できます。

「EOS-1D X Mark III」に搭載されている、電子式手ブレ補正は、MPEG-4とCanon Logの撮影時に使用できますが、RAW撮影時には使用できません。スクリーンショットでは伝わらない部分なので、ぜひ、この記事の上に埋め込んである動画での比較をご覧ください

RAW動画の撮影時は電子式のブレ補正をオンにできないため、200mmの望遠レンズの手持ち撮影だと少しガタつきを感じる映像になってしまいました。望遠でなければさほど気になりませんが、RAWで撮影をする場合は三脚をつけるなどして撮影をするほうがベターです

暗所での撮影時には、カメラ内でノイズ低減をしたあとデータを保存するMPEG-4形式でなら比較的クリーンな映像が撮影できます

RAW形式の場合は編集時にノイズリダクションをかける前提のため、何もしない場合はISO1600程度でもブロックノイズが目につく結果になりました

RAW動画の撮影と編集はハードルが少し高い

「EOS-1D X Mark III」は12bit RAW の撮影データを内部記録できるため、Atomosなどの外部レコーダーやSSDなどを使用する場合に比べて、カメラの取り回しが行いやすい点がメリットです。しかし、知らないと手こずるかもしれない点もいくつかあります。

今回の撮影にはSanDisk「Extreme PRO 512GB」を使用しました

今回の撮影にはSanDisk「Extreme PRO 512GB」を使用しました

RAW動画の記録に対応するCFカードの仕様は「CFexpress 1.0 (330MB/秒以上)」。今回は仕様を満たすSanDiskの「Extreme PRO 128GB」を最初に試したのですが、残念ながら使用できませんでした。「EOS-1D X Mark III」の公式サイトで動作確認済みとして紹介されているSanDisk「Extreme PRO 512GB」を試したところ無事に動作。そのほかの動作確認済みのCFカードはProGrade Digital「Cobalt 325GB」とLEXAR MEDIA「Lexar 128/256GB」のみです。仕様を満たしたCFカードではなく、公式サイトで動作確認済みのCFカードを使うよう注意が必要です。

撮影したRAW動画のプレビューや編集は、キヤノン製の無料ソフト「Digital Photo Professional」で行います。MacやWindows標準のファイルビューワーでは閲覧や編集はできません

メジャーな編集ソフトの中で「EOS-1D X Mark III」で撮影したRAW動画の編集に対応しているのは、記事作成時点(2020年3月下旬)でアップルの「Final Cut Pro X」のみです。また、RAW動画の読み込みを可能にするには、専用の無料プラグインをインストールする必要があります

プラグインをインストールするとRAW動画のファイルが「Final Cut Pro X」で読み込み可能になります

プラグインをインストールするとRAW動画のファイルが「Final Cut Pro X」で読み込み可能になります

業務用のシネマカメラで撮影をする場合と比較すると、「EOS-1D X Mark III」でのRAW動画撮影はとても手軽になっていますが、それでも高価な記録メディアやプラグインの設定などが必要な点は注意が必要です。とは言え、編集時における加工の自由度の高さは多少の苦労を補っても、なお余りある魅力と言えるでしょう。

Canon Logとは?

「EOS-1D X Mark III」はRAWに加えて、ダイナミックレンジをより広くとったCanon Logでの撮影も可能です。これはデータを記録する時点では極力コントラストを低くしておき、編集時に加工する余裕を残しておくことで白飛びや黒つぶれが起きづらいようにする記録方式です。

「EOS-1D X Mark III」メイン撮影したVlog動画

光の状況が目まぐるしく変化する場所での撮影などは、編集時にPCの画面でデータを確認して「露出オーバーだった!」と気づくことがしばしばあります。そういった場合でも、Canon Logで撮影をしておけば、リカバリーできる可能性が高まるのです。

そこで、今回はCanon Logの機能をテストするべく、いま流行りのVlog(ビデオ ブログ)スタイルでの撮影をしてきました。

外付けマイクに「VideoMic Pro+」、簡易三脚兼セルフィースティックとして「ゴリラポッド」を装着しています

Canon Logで撮影したデータは色加工の振り幅こそRAWに劣るものの、実用の範囲で不便を感じることはありませんでした。それよりも、広いダイナミックレンジの使い勝手がよく、日差しが強く白飛びが起こりがちなドバイでの撮影ではその恩恵を強く感じられました

サンプル動画の中にはスタジオで撮影したものもあるので、ぜひ、チェックしてみてください

サンプル動画の中にはスタジオで撮影したものもあるので、ぜひ、チェックしてみてください

露出オーバーだったデータのリカバリーの例として、こちらのピザをご覧ください。チーズの部分が完全に露出オーバーで、動画としては使いモノにならない状態です

上と全く同じデータを編集時に補正した結果がこちらです。ベストなクオリティではありませんが、白飛びしていた部分がほとんどリカバリーでき、なんとか使えるデータになっています

まとめ:「EOS-1D X Mark III」の5.5K/12bit RAW と Canon Log で撮影をした感想

デジタル一眼レフカメラ「EOS-1D X Mark III」は、動画機能という点において、価格も性能もぶっちぎりのハイエンドモデルです。ニコン「D6」の発売が延期された今、ライバル不在の1強であることは間違いありません。8K動画の未対応やセンサーシフト式手ブレ補正(IBIS)に対応していない点は残念であるものの、内部記録で5.5K/12bit RAWが撮影できるようになった点は大きなブレイクスルーであると言えるでしょう。

画像はイメージです(ドバイの運河で「EOS-1D X Mark III」の撮影を行う筆者)

画像はイメージです(ドバイの運河で「EOS-1D X Mark III」の撮影を行う筆者)

RAW動画は撮影後に色味を作り込める自由度の高さが魅力なので、腰をすえて風景撮りなどをした後にじっくりとカラーグレーディングをする、といった使い方が楽しそうです。

また、Canon Logに関しては今回のような周囲の状況が素早く変わる中、限られた時間で撮影をしなければならない状況で撮影を強行しても、多少のミスならリカバリーできる点が筆者には大きな魅力でした。

「EOS-1D X Mark III」は大半のユーザーにとってはオーバースペックですが、こだわりのあるプロやハイアマチュアの期待を裏切らない1台となっていました。

Mr.TATE(Masahira TATE)

Mr.TATE(Masahira TATE)

世界50カ国以上を旅したバックパッカー。週刊アスキー編集部などを経て、AppBankに入社。「バイヤーたてさん」として仕入れとYouTubeを活用したコンテンツコマースに取り組み、上場時は広報として企業PRを担当。現在はフリーランスで活動中。

記事で紹介した製品・サービスなどの詳細をチェック
関連記事
価格.comマガジン プレゼントマンデー
ページトップへ戻る