ニコン「NIKKOR Z 70-180mm f/2.8」は、Zマウント用の新しい望遠ズームレンズ。ズーム全域で開放絞り値F2.8の明るさながら軽量コンパクトなのが魅力だ。
今回は、香港と千葉県の館山で撮影した写真作例とともに本レンズの使い勝手や画質をレビューしよう。
2023年7月14日に発売された「NIKKOR Z 70-180mm f/2.8」(カメラボディは「Z 8」)。高性能な「S-Line」のレンズではないものの、「NIKKOR Zレンズ」らしいすぐれた描写力を実現している
まずは外観から見てみよう。本レンズのサイズは約83.5(最大径)×151(全長)mmで、重量は795g。高性能な「S-Line」の望遠ズーム「NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S」(全長約220mm、三脚座なしの重量1360g)と比べると、全長は約69mm短く、重量は約565g軽い。
大口径の標準ズームレンズ「NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S」(全量約126mm、重量約805g)に近いサイズ感で、フルサイズ対応で絞り開放F2.8通しの望遠ズームレンズとしては非常に小型・軽量。筆者がホールドするとちょうど片手でホールドできてしまうくらいだ。
筆者の手のひらよりも少し大きいくらいで望遠ズームレンズとは思えないほどコンパクト
外観は「NIKKOR Zレンズ」らしくシンプルで、操作系としてズームリングとズームロック、コントロールリングを装備。レンズの回転角が浅く、瞬時に70mmから180mmまでズームできるのも特徴だ。防塵・防滴に配慮した設計なので、ほかの「NIKKOR Zレンズ」と同様に安心して使用できる。
ズームロック機構を搭載。ロックしておけば、持ち運んでいるときなどに発生する不用意なズーム動作を防げる
専用のレンズフード「HB-113」が付属する。花形フードでレンズ装着時のバランスがよい。ちなみにフィルター径は67mm
本レンズは、ほかの多くの「NIKKOR Zレンズ」と同様、STMモーターを採用しているためAFの動作音は非常に静かだ。今回は「Z 8」と組み合わせて使用してみたが、カメラの高性能なAFシステムに対してしっかりと反応する印象。近接から遠景まで十分なAF速度・精度で撮影できた。
暗い香港の夜をスナップしたときもAFはしっかりと動き、的確に被写体をとらえてくれた。レンズの描写は解像感が高く、この写真ではトラムに書かれている文字までクリアに認識できる
Z 8、NIKKOR Z 70-180mm f/2.8、165mm、F2.8、1/80秒、ISO1600、-0.3EV、ホワイトバランス:自然光オート、ピクチャーコントロール:スタンダード、アクティブD-ライティング:しない
撮影写真(8256×5504、20.2MB)
本レンズの画質に関しては、筆者が想像していた性能をはるかに上回っていた。
EDレンズ5枚、スーパーEDレンズ1枚、非球面レンズ3枚を含む14群19枚のレンズ構成によって、諸収差をしっかりと補正している印象。カメラの設定を見てみるとレンズの自動補正はオフにできないようになっているので、カメラ側とレンズ側でベストな補正をしていると思われる。
遠景を撮影した際は画像の周辺までしっかりと解像し、シャープに記録することができた。都市風景、自然風景ともにしっかりと性能を発揮してくれる。
F8まで絞り込んで周辺までシャープになるように遠景を撮影。対岸の街並みを見てみるとビルの窓1つひとつまでシャープに描写していることわかるだろう。厳しく見ればレンズ中央に比べると周辺は若干画質が下がるが十分に実用できるレベルだ。遠景の場合は少し絞って撮影するとよい
Z 8、NIKKOR Z 70-180mm f/2.8、135mm、F8、1/500秒、ISO100、ホワイトバランス:自然光オート、ピクチャーコントロール:スタンダード、アクティブD-ライティング:しない
撮影写真(8256×5504、28.8MB)
ボケに関しては開放F2.8という明るさのおかげできれいなボケ感を堪能できる。近接時のボケは大きく、とろけるような大きな背景ボケを楽しめる。丸ボケに関しては縁取りの輪線が少し目立つものの、街の明かりのきらめきなどをしっかりと表現できるのが好印象だ。
海岸にあった風よけを撮影。前後に広がるボケ感をテストしてみたが、やわらかく自然にぼけていることがわかる。大口径ならではの大きなボケ表現を手軽に楽しめる
Z 8、NIKKOR Z 70-180mm f/2.8、80mm、F3.2、1/2500秒、ISO64、+0.3EV、ホワイトバランス:晴天、ピクチャーコントロール:スタンダード、アクティブD-ライティング:標準
撮影写真(8256×5504、16.6MB)
香港の上環で停車中のトラムを撮影。窓に反射する街の明かりを丸ボケにしてみた。ボケはやわらかく非常に好印象だ。丸ボケ自体は少し硬めではあるが、ボケの縁取りがしっかりとしているので街のきらめきをうまく表現できている
Z 8、NIKKOR Z 70-180mm f/2.8、70mm、F2.8、1/30秒、ISO400、-0.3EV、ホワイトバランス:自然光オート、ピクチャーコントロール:スタンダード、アクティブD-ライティング:しない
撮影写真(8256×5504、18.6MB)
本レンズは、「ナノクリスタルコート」などの高性能なコーティングが施されているわけではないが、逆光性能も申し分ない。かなり強い太陽の光を画面の端に入れてみたところ、目を凝らして見れば小さなゴーストは確認できるものの、十分実用的だと感じた
Z 8、NIKKOR Z 70-180mm f/2.8、70mm、F8、1/1250秒、ISO64、ホワイトバランス:自然光オート、ピクチャーコントロール:スタンダード、アクティブD-ライティング:標準
撮影写真(8256×5504、14.3MB)
本レンズは近接域の撮影が得意なのも魅力だ。
最大撮影倍率は0.48倍(広角端時)とハーフマクロに近い性能を誇る。最短撮影距離は焦点域によって細かく決まっており、焦点距離70mmで0.27m、85mmで0.33m、105mmで0.42m、135mmで0.58m、180mmで0.85m。広角端で0.27m(最大撮影倍率0.48倍)まで寄れるので、花の撮影はもちろん、テーブルフォトでも使いやすい。
望遠端の最短撮影距離付近でブーゲンビリアを撮影。近接域でも十分な解像感があり、背景を大きくぼかすことができた。望遠側を使えば少し離れた場所からでも小さな被写体を大きく撮影できる
Z 8、NIKKOR Z 70-180mm f/2.8、180mm、F3.5、1/800秒、ISO64、ホワイトバランス:自然光オート、ピクチャーコントロール:スタンダード、アクティブD-ライティング:しない
撮影写真(8256×5504、16.2MB)
本レンズはコンパクトながらテレコンバーターを使用できる点も魅力だ。1.4倍の「Z TELECONVERTER TC-1.4x」装着時で最大252mm、「Z TELECONVERTER TC-2.0」装着時で最大360mmまで焦点距離を伸ばせる。「TC-2.0x」装着時でも開放絞り値はF5.6に抑えられるので、望遠が必要な際は積極的に活用できるだろう。
「TC-2.0x」を装着したイメージ。レンズのサイズが小さいのでテレコンバーターを装着してもコンパクトなまま。これで焦点距離360mmまでカバーできるのはとてもありがたい
テレコンバーター装着時の画質は、以下の比較作例をご覧いただきたいが、レンズ単体時と比べて解像感は少し下がるものの十分使用できる印象。AFも、明るいシーンで使ったというものあるが、大きく迷うことがなくストレスなく撮影できた。
非常にシャープで灯台の質感までかっちりと出ている
Z 8、NIKKOR Z 70-180mm f/2.8、180mm、F8、1/500秒、ISO64、ホワイトバランス:自然光オート、ピクチャーコントロール:スタンダード、アクティブD-ライティング:標準
撮影写真(8256×5504、22.0MB)
テレコンバーターを使用するとレンズ単体と比べて少し解像力が落ちるものの、十分実用できるレベルだ
Z 8、NIKKOR Z 70-180mm f/2.8、330mm(TC-2.0x使用)、F8、1/500秒、ISO64、ホワイトバランス:自然光オート、ピクチャーコントロール:スタンダード、アクティブD-ライティング:標準
撮影写真(8256×5504、14.9MB)
岩場にトビが止まっていたので撮影。もう少しアップで撮りたかったが、あまり近づくと逃げてしまうのでギリギリのラインで撮影。テレコンバーターを使用して焦点距離360mmで撮影しているため背景も大きくボケている。欲を言えばもう少し解像感が欲しいところではあるが、2倍テレコンバーターを使用していることを加味すれば十分な画質だ
Z 8、NIKKOR Z 70-180mm f/2.8、360mm(TC-2.0x使用)、F5.6、1/2000秒、ISO160、ホワイトバランス:晴天、ピクチャーコントロール:オート、アクティブD-ライティング:標準
撮影写真(8256×5504、17.5MB)
ビクトリアハーバーを航行しているクルーザーを絞り開放で撮影。被写体との距離はあるが開放F2.8の明るさのおかげで少しだけ背景がぼけ、主題を明確にできた。ピント位置を見ると、絞り開放でも十分な描写力があることがわかるだろう
Z 8、NIKKOR Z 70-180mm f/2.8、180mm、F2.8、1/1250秒、ISO100、+0.3EV、ホワイトバランス:自然光オート、ピクチャーコントロール:スタンダード、アクティブD-ライティング:しない
撮影写真(8256×5504、23.5MB)
公園を散歩中に見つけた鳥を撮影。もう少し寄って撮りたいところ
Z 8、NIKKOR Z 70-180mm f/2.8、180mm、F2.8、1/1250秒、ISO100、ホワイトバランス:自然光オート、ピクチャーコントロール:スタンダード、アクティブD-ライティング:しない
撮影写真(8256×5504、16.4MB)
上の作例と同じ被写体をDXフォーマット(1.5倍)でクロップ撮影したもの。焦点距離180mmから焦点距離270mm相当の画角に瞬時に変更して大きく撮影することができた。解像感は非常に高く、鳥の羽1本1本までしっかりと確認できる
Z 8、NIKKOR Z 70-180mm f/2.8、180mm、F2.8、1/1600秒、ISO100、ホワイトバランス:自然光オート、ピクチャーコントロール:スタンダード、アクティブD-ライティング:しない
撮影写真(5392×3592、8.0MB)
観覧車を撮影してみたが、ディテールまでしっかりと表現できている印象。サイド光に照らされる観覧車の白い支柱部分は偽色が出やすい部分ではあるが、しっかりと結像してシャープだ
Z 8、NIKKOR Z 70-180mm f/2.8、180mm、F2.8、1/2000秒、ISO100、-0.7EV、ホワイトバランス:自然光オート、ピクチャーコントロール:スタンダード、アクティブD-ライティング:しない
撮影写真(8256×5504、23.0MB)
焦点距離を中間値の125mmにして、丘に上げてあった漁船を撮影。絞り開放ではあるが、線は細くディテールまで驚くほどシャープに表現できている
Z 8、NIKKOR Z 70-180mm f/2.8、125mm、F2.8、1/2000秒、ISO64、+0.7EV、ホワイトバランス:晴天、ピクチャーコントロール:オート、アクティブD-ライティング:標準
撮影写真(8256×5504、20.8MB)
香港の特徴的な看板は徐々に減っているので、最近では貴重になってきた。この写真は、記念に看板を主題に撮影してみた。絞り開放で撮影して背景をぼかし、看板の存在感を強調している。被写体との距離があっても焦点距離が180mm あれば十分に背景をぼかして主題を明確にできる
Z 8、NIKKOR Z 70-180mm f/2.8、180mm、F2.8、1/1600秒、ISO64、ホワイトバランス:曇天、カスタムピクチャーコントロール:トイ、アクティブD-ライティング:しない
撮影写真(5504×8256、13.3MB)
広角端(焦点距離70mm)と望遠端(同180mm)で絞り値をF2.8〜F22まで1段刻みでテスト撮影した作例を掲載する。どちらも、絞り開放からしっかりとした解像感が得られていることがわかる。
広角端では絞り開放からF8くらいまでは非常にシャープな印象。ただし、絞り開放ではビネット(口径食)の影響で周辺が少し暗くなる。周辺減光はF4くらいで改善する。また、F11以降は回折現象によって解像感が失われ始め、F16やF22になると解像感があまり感じられなくなるので注意したい。
望遠端はF11くらいまではシャープで、F16とF22では解像感が失われている印象。ビネットに関しては、絞り開放では周辺がかなり暗くなるがF5.6くらいで改善が見られる。
F2.8で撮影
Z 8、NIKKOR Z 70-180mm f/2.8、70mm、F2.8、1/1250秒、ISO64、ホワイトバランス:晴天、ピクチャーコントロール:スタンダード、アクティブD-ライティング:しない
撮影写真(8256×5504、30.9MB)
F4で撮影
Z 8、NIKKOR Z 70-180mm f/2.8、70mm、F4、1/640秒、ISO64、ホワイトバランス:晴天、ピクチャーコントロール:スタンダード、アクティブD-ライティング:しない
撮影写真(8256×5504、33.0MB)
F5.6で撮影
Z 8、NIKKOR Z 70-180mm f/2.8、70mm、F5.6、1/320秒、ISO64、ホワイトバランス:晴天、ピクチャーコントロール:スタンダード、アクティブD-ライティング:しない
撮影写真(8256×5504、34.4MB)
F8で撮影
Z 8、NIKKOR Z 70-180mm f/2.8、70mm、F8、1/160秒、ISO64、ホワイトバランス:晴天、ピクチャーコントロール:スタンダード、アクティブD-ライティング:しない
撮影写真(8256×5504、34.1MB)
F11で撮影
Z 8、NIKKOR Z 70-180mm f/2.8、70mm、F11、1/80秒、ISO64、ホワイトバランス:晴天、ピクチャーコントロール:スタンダード、アクティブD-ライティング:しない
撮影写真(8256×5504、33.1MB)
F16で撮影
Z 8、NIKKOR Z 70-180mm f/2.8、70mm、F16、1/40秒、ISO64、ホワイトバランス:晴天、ピクチャーコントロール:スタンダード、アクティブD-ライティング:しない
撮影写真(8256×5504、30.5MB)
F22で撮影
Z 8、NIKKOR Z 70-180mm f/2.8、70mm、F22、1/20秒、ISO64、ホワイトバランス:晴天、ピクチャーコントロール:スタンダード、アクティブD-ライティング:しない
撮影写真(8256×5504、27.5MB)
F2.8で撮影
Z 8、NIKKOR Z 70-180mm f/2.8、180mm、F2.8、1/2000秒、ISO64、ホワイトバランス:晴天、ピクチャーコントロール:スタンダード、アクティブD-ライティング:しない
撮影写真(8256×5504、27.7MB)
F4で撮影
Z 8、NIKKOR Z 70-180mm f/2.8、180mm、F4、1/1000秒、ISO64、ホワイトバランス:晴天、ピクチャーコントロール:スタンダード、アクティブD-ライティング:しない
撮影写真(8256×5504、29.5MB)
F5.6で撮影
Z 8、NIKKOR Z 70-180mm f/2.8、180mm、F5.6、1/500秒、ISO64、ホワイトバランス:晴天、ピクチャーコントロール:スタンダード、アクティブD-ライティング:しない
撮影写真(8256×5504、29.3MB)
F8で撮影
Z 8、NIKKOR Z 70-180mm f/2.8、180mm、F8、1/250秒、ISO64、ホワイトバランス:晴天、ピクチャーコントロール:スタンダード、アクティブD-ライティング:しない
撮影写真(8256×5504、29.3MB)
F11で撮影
Z 8、NIKKOR Z 70-180mm f/2.8、180mm、F11、1/125秒、ISO64、ホワイトバランス:晴天、ピクチャーコントロール:スタンダード、アクティブD-ライティング:しない
撮影写真(8256×5504、29.7MB)
F16で撮影
Z 8、NIKKOR Z 70-180mm f/2.8、180mm、F16、1/60秒、ISO64、ホワイトバランス:晴天、ピクチャーコントロール:スタンダード、アクティブD-ライティング:しない
撮影写真(8256×5504、28.6MB)
F22で撮影
Z 8、NIKKOR Z 70-180mm f/2.8、180mm、F22、1/30秒、ISO64、ホワイトバランス:晴天、ピクチャーコントロール:スタンダード、アクティブD-ライティング:しない
撮影写真(8256×5504、26.7MB)
今回、「NIKKOR Z 70-180mm f/2.8」を持って、香港と千葉県の館山を撮影してきた。筆者の撮影は広角から標準域がメインのため、普段、旅行の撮影に望遠レンズを持っていくことは少ないが、本レンズはコンパクトなので、カメラバックに入れて持ち運んでも苦にならないと感じた。
本レンズを1本持っていったことで、望遠側で背景を圧縮したり、離れた被写体の背景をぼかしたりして、表現の幅が大きく広がったと思う。使い始めは望遠端の焦点距離180mmはどのような使い勝手か気になっていたが、200mmとほぼ同じような感覚で使用できた。コンパクトなサイズにも関わらず、テレコンバーターを装着できるので、必要であれば超望遠の世界を楽しめるのも押えておきたい点だ。
「Zシリーズ」のユーザーで、望遠ズームレンズを持っていない人はもちろん、すでに「NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S」などを持っている人でも、本レンズのコンパクトさに魅力を感じることだろう。用途にあわせて、本格的な望遠レンズと使い分けるのもおすすめだ。
なお、「Zシリーズ」の純正レンズでは、コンパクトな開放F2.8ズームレンズとして、超広角ズーム「NIKKOR Z 17-28mm f/2.8」と標準ズーム「NIKKOR Z 28-75mm f/2.8」も用意されている。この2本に、今回紹介した「NIKKOR Z 70-180mm f/2.8」を組み合わせると超広角17mmから望遠180mmまでを開放F2.8でカバーするコンパクトなシステムになる。携帯性を重視するなら、これら3本で「大三元レンズ」(開放F2.8通しの広角/標準/望遠ズームのこと)を完成させてみてはどうだろうか。