カメラやレンズの基本的なことから最新のトピックまで、知っているとちょっとタメになる情報をお伝えする連載「曽根原ラボ」。第7回で取り上げるのは、手軽に焦点距離を伸ばせる「テレコンバーター(テレコン)」です。
一眼レフカメラが全盛のころは、「テレコンを使うと性能が落ちる」というのは一般的だったと思いますが、ミラーレスカメラが主流になって、このイメージが大きく変わってきています。今回、ニコンのフルサイズミラーレスを使って確認してみました。
今回の検証は、ニコンのフルサイズ機「Z 8」と超望遠ズームレンズ「NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S」を使って行いました。必要に応じてニコン純正のテレコンを装着しています
テレコンバーターはレンズとカメラの間に装着して焦点距離を伸ばすアクセサリーです。現在は焦点距離を1.4倍または2倍に伸ばす製品が主流ですね。
テレコンを使用するうえで覚えておきたいのは、使用すると「開放絞り値が大きくなる」ということ。1.4倍テレコン装着時は1段分、2倍テレコン装着時は2段分暗くなります。1.4倍だと明るさが半分になり、2倍だとさらに半分の明るさになるわけです。
今回使用した超望遠ズームレンズレンズ「NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S」の望遠端を例にすると、開放絞り値はレンズ単体でF5.6ですが、1.4倍テレコン装着時はF8、2倍テレコン装着時はF11に大きくなります。
「NIKKOR Zレンズ」用の1.4倍テレコン「Z TELECONVERTER TC-1.4x」
「NIKKOR Zレンズ」用の2倍テレコン「Z TELECONVERTER TC-2.0x」
遠くの被写体を「もっと大きく」という、撮影者の切実な願いをかなえてくれるテレコンですが、一眼レフでは、「テレコンを使うと画質とAF性能が落ちる」と言われてきました。
画質に関しては、マスターレンズとカメラの間に焦点距離を伸ばすレンズ(テレコンのこと)を装着するので、どうしても解像感が落ちてしまう場合があります。AFは、一眼レフでは位相差AFセンサーの測距点に光束の制限があるため、開放絞り値がF8を超えると動作しない測距点が多く、テレコンを付けると明確に「AFの性能が落ちる」「AFの使い勝手が悪くなる」と言えました。
ただ、最新のミラーレスは この2点が大きく改善されていて、もはや「過去の話」と言ってもいいくらいです。今回、筆者が実際に使ってみるとともに、しかるべき確かな筋(メーカー)に本当のところを聞いてみました。
まずは、レンズ単体、1.4倍のテレコンバーター、2倍のテレコンバーターを使って撮影した写真を見て画質を確認していきましょう。
使用した機材は、ニコンのフルサイズミラーレス「Z 8」と、超望遠ズームレンズ「NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S」。テレコンは「Z TELECONVERTER TC-1.4x」と「Z TELECONVERTER TC-2.0x」です。
1.4倍のテレコン「Z TELECONVERTER TC-1.4x」を装着
2倍テレコン「Z TELECONVERTER TC-2.0x」を装着
以下の写真は、飛んでいるトビをレンズ単体の望遠端(焦点距離400mm)で撮影したものです。「NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S」は、テレコン対応なのはもちろん、高度な設計指針と品質管理で光学性能を追求した「S-Line」レンズですので、描写性能を心配する必要はありません。写りのよさはさすがのひと言で、くたびれた羽の細部まで非常に鮮鋭に写せています。
Z 8、NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S、400mm、F5.6、1/2000秒、ISO800、+0.3EV、ホワイトバランス:オート、ピクチャーコントロール:スタンダード
撮影写真(8356×5504、18.2MB)
次に、ニコン純正の1.4倍テレコン「Z TELECONVERTER TC-1.4x」を使って撮影したウミネコの写真をご覧ください。テレコンを使っているので画質が劣化するかと思いきや、少なくとも筆者には変わらず鮮鋭な画像に見えます。
Z 8、NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S、560mm、F8.0、1/2000秒、ISO1000、ホワイトバランス:オート、ピクチャーコントロール:スタンダード、Z TELECONVERTER TC-1.4xを使用
撮影写真(8356×5504、23.6MB)
続いて、ニコン純正の2倍テレコン「Z TELECONVERTER TC-2.0x」を使って撮影したのが、以下のムクドリの写真です。さすがに2倍ともなると、相応の画質劣化が起こるかもしれないと思いましたが、この場合でも画像は非常に鮮鋭で、明確に画質が低下したと言えるほどではありません。というより十分にきれいです。
Z 8、NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S、800mm、F11、1/1600秒、ISO4500、ホワイトバランス:オート、ピクチャーコントロール:スタンダード、Z TELECONVERTER TC-2.0xを使用
撮影写真(8356×5504、24.7MB)
上に掲載した3つの写真を等倍表示で厳密に見比べると、テレコンを使用したものはいくらかシャープネスがゆるくなっています。しかし、撮影データ(Exif)を確認すると、テレコンなしの画像はISO800、1.4倍テレコンの画像はISO1000、2倍テレコンの画像にいたってはISO4500という高感度でした(撮影は感度オートで行っています)。個人的には、テレコン使用による画質劣化うんぬんよりも、高感度を使ってよくぞここまできれいに撮れた、というところに驚かされます。
なお、条件を変えながら撮影しましたが、テレコンを使う場合、多くの写真で感度が高くなったり、パッと見では気づかないような極わずかな手ブレやピントのズレが生じたりしたことを報告しておきます。焦点距離が伸び、開放絞り値も相応に暗くなるのですから当たり前と言えば当たり前の結果ですね。
使い比べてみた限り、テレコンバーターを使っても画質は変わらない(ほぼ劣化しない)と感じました。そこで、筆者の感覚が間違っていないのかをニコンイメージングジャパンに問い合わせてみました。ご多忙のところご回答いただき、誠にありがとうございます。
A(曽根原):「Zシリーズ」で試した限り、テレコンを使用しても画質は劣化しないように感じます。実際のところはいかがでしょう?
Q(ニコンイメージングジャパン):「NIKKOR Zレンズ」のテレコンはマスターレンズの高い描写力を生かして焦点距離を伸ばすことができます。画質は低下しません。
適切な回答を得てとてもスッキリしました! やはり、最新のミラーレスカメラ用レンズ(少なくとも「NIKKOR Zレンズ」)では、テレコン使用による画質の低下はない、あるいはほとんどないのです。
テレコンは光学的に拡大するものなので、マスターレンズの光学性能によっては画質のアラが拡大されてしまいます。しかし、最新のミラーレス用レンズ(少なくとも「NIKKOR Zレンズ」)なら、テレコンを使ってもその描写性能はミラーレス用レンズの高度な設計指針から外れないという理解でよいのではないかと思います。
ただし、焦点距離が伸び、開放絞り値が暗くなるということは、それだけシャッター速度が遅くなりますので、感度の上昇や手ブレの発生などには十分に気をつけたいところです。
テレコンバーター使用時のAFについても、同じくニコンのフルサイズミラーレス「Z 8」と、超望遠ズームレンズ「NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S」の組み合わせでテストしました。
まずは、レンズ単体の焦点距離400mmでウミネコを撮影。野鳥を専門で撮っている人にはお恥ずかしい限りですが、一般的には、たとえウミネコでも飛んでいる鳥を超望遠域で画面いっぱいに写すのは結構難しく、レンズとカメラのAF性能が試されるところです。
今回の組み合わせでは、ウミネコを順当に捕捉して、ピントを合わせ続けてくれました。さすが高性能で人気の「Z 8」、さすが「S-Line」の「NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S」と言ったところでしょう。
Z 8、NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S、400mm、F6.3、1/2000秒、ISO400、ホワイトバランス:オート、ピクチャーコントロール:スタンダード
撮影写真(8356×5504、18.0MB)
次は、1.4倍のテレコンバーター「Z TELECONVERTER TC-1.4x」を装着しての撮影です。焦点距離は野鳥撮影では標準的な560mm。動く被写体に対してどこまで対応できるのか少し不安でしたが、使ってみた感じではレンズ単体のときと何ら差を感じませんでした。「あれ? テレコン使ってる?」といった印象です。
Z 8、NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S、560mm、F8.0、1/2000秒、ISO900、ホワイトバランス:オート、ピクチャーコントロール:スタンダード、Z TELECONVERTER TC-1.4xを使用
撮影写真(8356×5504、19.4MB)
続きまして、「Z TELECONVERTER TC-2.0x」を装着しての撮影。焦点距離800mmという望遠になるだけあってウミネコを大きく写せました。若干、被写体ブレしているのは、暗くなった開放絞り値と撮影条件の関係上、シャッター速度を遅くしたことが影響していると思います(被写体を正確に追いきれない筆者の力量もありますが……)。
しかし、AFは間違いなく正確に追従してくれました。焦点距離が伸びてもカメラ・レンズの優秀なAF性能を問題なく使えているように感じました。
Z 8、NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S、800mm、F11、1/1600秒、ISO1100、ホワイトバランス:オート、ピクチャーコントロール:スタンダード、Z TELECONVERTER TC-2.0xを使用
撮影写真(8356×5504、19.5MB)
飛翔する鳥のような被写体では同じ条件で撮影するのが難しいものですが、筆者の感想としては、テレコンバーターの有無に関わらず、良好なAF性能を示してくれたように感じました。
画質と同様、テレコン使用時のAF性能についてニコンイメージングジャパンに問い合わせてみました。重ね重ね、ご回答いただきありがとうございます。
A(曽根原):テレコンを使用してもAF性能の低下は感じられませんでした? 実際のところどうなのでしょうか?
Q(ニコンイメージングジャパン):テレコンを使用した場合、AFの仕様面(使用可能な点数・範囲、使用可能なAFモード/AFエリアモード)での制約や機能制限はありません。開放絞り値が暗くなり、焦点距離が伸びることで、暗いシーンでの合焦速度・精度が影響を受けることがありますが、テレコン使用時でもマスターレンズの性能を最大限引き出すようにチューニングしています。
いただいた回答をまとめると、テレコンを使ってもAF性能は変わらず使用できるということになります。「やっぱりそうだったのか!」と画質と同じくスッキリしました。テレコンを使ってもAF性能は変わらないのです。
ただし、ニコンイメージングジャパンの回答にもありますが、テレコンを装着すると、焦点距離が伸びるとともに開放絞り値が暗くなるため、それが合焦速度や精度に影響を及ぼすことがあるのも確かです。
今回の試写は日中・晴天という明るい条件でしたので、ほぼ問題ありませんでしたが、わずかに暗くなったときにシャッター速度が低下したのは否めません。だたし、暗くなるとAF性能に影響があるのはテレコン使用時に限ったものではなく、カメラを使用するうえでの共通認識でもあります。
今回の検証撮影と、ニコンイメージングジャパンからの回答で、テレコンバーターを使用しても、基本的に画質は劣化せず、AF性能も不使用時と同様に維持されることがわかりました。
テレコンを使用した際に、画質が落ちる、AF性能が落ちる、と感じることがあるのは、焦点距離が伸びたことと、開放絞り値が暗くなったことによる使用上の問題が大きいと思います。条件が変われば、それに対応しなければならないという撮影者側の責任を、筆者もヒシヒシと感じ、実のところ耳が痛いところであります。動体撮影を専門にする人たちが、最終的に「600mm F4」のような、高性能で高価な大砲レンズにいたる理由がよくわかります。
今回、ニコン「Zシリーズ」のカメラ・レンズを使用しましたが、最新のミラーレスがいかに高性能で、テレコンの可能性を広げているのかを理解することができました。今回お話をうかがったニコンからは、「今後、テレコン対応レンズを積極的に拡充していく予定です」とも回答いただいています。
テレコンの性能向上は、カメラ・レンズメーカーの各社が積極的に取り組んでいます。利用する側の我々としても、使いどころを理解して積極的に利用していきたいですね。