タムロンからユニークなスペックを持つ広角ズームレンズ「17-50mm F/4 Di III VXD」が登場
タムロン「17-50mm F/4 Di III VXD(Model A068)」は、本日2023年10月19日に発売された、ソニーEマウント用の新しい広角ズームレンズです。17〜50mmというユニークな焦点距離をカバーするフルサイズ対応モデルで、発売日時点での価格.com最安価格は89,100円。開放F4遠しの広角ズームとしては比較的お買い求めやすい製品です。
今回、本レンズをいち早く試すことができたので、特徴をレビューしていきたいと思います。
筆者はタムロンのレンズをレビューするときに、「ユニークな特徴を持つレンズを商品化するのに長けたメーカー」という話をよくしていますが、「17-50mm F/4 Di III VXD」もタムロンらしいユニークなスペックを持つレンズのひとつです。
本レンズのサイズは74.8(最大径)×114.4(全長)mmで、重量は460g。望遠端が焦点距離50mmということもあって全長はやや長いものの、レンズの全体的なボリュームとしては、他社の「16-35mm程度/F4通しの超広角ズーム」とさほど変わらないといったところでしょうか。
特に重量460gというのは、このスペックにしては明らかに軽いです。ここは、サイズ感に対して小型・軽量化に注力する、タムロンらしさを感じるところです。
広角ズームとしては幅広いズーム域をカバーしていますが、サイズや重さはよく抑えられています。フィルター径は67mmで、タムロンのミラーレス用レンズの多くと同じ仕様です
インナーズームを採用しているため、ズーミングしてもレンズの全長は変わりません。重量バランスの変化も最小限に抑えられています。こうしたところは、静止画撮影はもちろん動画撮影でも歓迎されるでしょう。
また、望遠側にズーミングすると鏡筒内で前玉が内側に後退する仕様なので、望遠側ではサイドからの余計な光を遮って撮れるのも細かい点ですが見逃せないポイントです。
左は広角端時で、右は望遠端時。望遠側にズーミングすると鏡筒内で前玉が内側に後退します
操作性では、このクラスの広角ズームレンズとしては珍しく「フォーカスセットボタン」(ソニーでの名称は「フォーカスホールドボタン」)を備えている点に注目です。
「フォーカスセットボタン」は基本的にフォーカスホールド機能として使われるボタンです。望遠レンズではおなじみですね。フォーカスホールドだけでなく、静止画撮影では「ピント拡大」や「瞳AF」、動画撮影では「動画撮影」や「録音レベル」など、好みに合わせてさまざまな機能を割り当てられるので意外に便利に使えます。
鏡筒左側面に備えられた「フォーカスセットボタン」
「フォーカスセットボタン」にはさまざまな機能を割り当てられます
レンズの基部付近には、最新のタムロンレンズでは基本仕様とも言える、USB Type-C端子が備わっています。このUSB端子はPCもしくはスマートフォンと接続してレンズをカスタマイズするためのもの。PC用は「TAMRON Lens Utility」、スマートフォン用は「TAMRON Lens Utility Mobile」というアプリが用意されており、アプリ経由で最新ファームウェアへアップデートできるほか、レンズの機能もカスタマイズできます。
レンズの基部付近にUSB Type-C端子を装備
花形のレンズフード「HA062」が付属します
続いて、本レンズの広角端と望遠端の画質をチェックしていきましょう。
α7 IV、17-50mm F/4 Di III VXD、17mm、F4、1/320秒、ISO100、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(7008×4672、32.7MB)
左は中央部、右は周辺部を等倍で切り出しています
広角端17mmの絞り開放F4で撮影しました。焦点距離17mmの超広角から標準域の焦点距離50mmまで広いズーム域をカバーするレンズですので、広角端の描写性能は犠牲になる部分もあるかと思いますが、結果は思ったより上々です。
中央部の解像感はまったく問題なく、周辺部にいくと像が乱れ始めますが、それでもスペックを考えるとよく抑えているほうだと思います。スナップやポートレートなど画面全域で解像感を求めない撮影であれば、絞り開放でも問題なく使えるでしょう。
α7 IV、17-50mm F/4 Di III VXD、17mm、F8、1/80秒、ISO100、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(7008×4672、33.7MB)
左は中央部、右は周辺部を等倍で切り出しています
広角端で絞りをF8まで絞って撮影しました。風景写真などで厳密な解像感を求める場合は、やはり絞り値はF8以上にする必要が出てきます。
画質をチェックすると、さすがに四隅は完全には結像しませんが、これは普及タイプの超広角ズームではわりと普通のこと。価格.com最安価格(2023年10月17日時点)が89,100円という価格を考慮すれば、非常に健闘していると言えると思います。
α7 IV、17-50mm F/4 Di III VXD、50mm、F4、1/400秒、ISO100、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(7008×4672、30.9MB)
左は中央部、右は周辺部を等倍で切り出しています
広角端の作例と同じ場所で、望遠端50mm/絞り開放F4で撮影しました。広角端よりも描写性能が向上しているように見えるのは、広角ズームレンズの光学設計上のお決まりと言えるところでしょう。絞り開放から画面全体で非常に安定した画質を実現しています。
α7 IV、17-50mm F/4 Di III VXD、50mm、F8、1/100秒、ISO100、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(7008×4672、32.3MB)
左は中央部、右は周辺部を等倍で切り出しています
望遠端では、F8まで絞ると、周辺部までほぼ完璧と言えるまでにすぐれた解像性能を発揮します。
広角端よりも望遠端のほうが、画面全体の描写性能が高いことは予想していましたが、実際は広角端・望遠端の両方で実用的な解像性能を持つレンズだと感じました。
ところで、上に掲載した広角端17mmの作例は、水平がずいぶん歪んでいるように見えます。これは地球が丸いからではなく、今回使用した「α7 IV」では、本レンズを装着した場合の「歪曲収差補正」がデフォルトに「切」になっているためです。
つまり、本レンズは(少なくとも広角側において)、ボディ側のデジタル的な補正を前提とした設計になっているということなのだと思います。デジタルだからこそ可能な補正を生かすことで、よりコンパクトなレンズで高画質が得られるのであれば、それは決して悪いことでないと筆者は考えます。
本レンズを静止画撮影で使用する際は、ボディ側の「レンズ補正」の「歪曲補正」を「オート」にするのがおすすめです
ボディ側の「歪曲収差補正」を利用すれば、多少の画角縮小はありますが、歪みなどなく素直な画質を得ることができます。ただし、特に動画撮影では、臨場感を出すために、むしろ歪みがあったほうが効果的な場合もあると思います。撮影シーンや狙いに合わせて使い分けていきましょう。
α7 IV、17-50mm F/4 Di III VXD、17mm、F4.0、1/60秒、ISO100、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(7008×4672、21.9MB)
最短撮影距離が短く、被写体を大きく写せるのもタムロンレンズの得意とするところ。本レンズもご多分に漏れず、広角端での最短撮影距離は0.19m、最大撮影倍率は1:4.6(約0.22倍)と広角マクロに強いです。
レンズのマウント面から先端までの長さが114.4mmありますので、レンズフードを装着して迫れば、「被写体はもうすぐそこ」という状況になります。焦点距離17mmでここまで寄れる近接撮影性能は驚異的と言えるでしょう。
α7 IV、17-50mm F/4 Di III VXD、17mm、F4.0、1/30秒、ISO100、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(7008×4672、17.6MB)
いっぽう、望遠端50mmでの最短撮影距離は0.3m、最大撮影倍率は1:3.8(約0.26倍)です。最短撮影距離は広角端より長くなりますが、さすがに撮影倍率は望遠端のほうが大きいです。
背景を広く入れつつ被写体に迫る広角マクロな撮り方を必要としないなら、むしろ望遠端での接写のほうが使い勝手がよいのではないでしょうか。特に、小物などを印象的に写したいテーブルフォトなどでは、大いに活躍してくれることと思います。
α7 IV、17-50mm F/4 Di III VXD、50mm、F4.0、1/200秒、ISO400、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(7008×4672、17.6MB)
α7 IV、17-50mm F/4 Di III VXD、34mm、F4.0、1/80秒、ISO100、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(7008×4672、21.8MB)
サルビアの花に西日が射し込んでいました。絞りを開放にして光の当たった花にピント位置を決めましたが、前後の景色は形を残しながら気持ちよく自然にボケてくれたので、期待どおりの印象的な写真にすることができました。特徴的なズーム域を持つ本レンズですが、ボケ味についても手抜かりはないようです。
α7 IV、17-50mm F/4 Di III VXD、17mm、F5.6、1/100秒、ISO100、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(7008×4672、17.5MB)
広角端17mmでヒガンバナを広い光景の中に配置してみました。真逆光での撮影なので、画面中央左下付近にゴーストが発生していますが、発生の仕方が素直でフレアはよく抑えられているため、作画に悪い影響を与えることはありませんでした。逆光耐性は強いほうだという印象です。
α7 IV、17-50mm F/4 Di III VXD、19mm、F5.6、1/30秒、ISO100、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(7008×4672、16.8MB)
縁側でお昼寝をするネコに出会いましたので、焦点距離を20mm(にセットしたつもりが実際は19mm)にして撮りました。ネコがくつろいでいる状況が説明できたのではないかと思います。17mmと19mmというと、数値の差は少ないものの、画角変化は思ったより大きいもの。限られた撮影条件で適切な画角を選べるのは広角ズームの便利なところです。
α7 IV、17-50mm F/4 Di III VXD、50mm、F4.0、1/160秒、ISO800、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(7008×4672、18.2MB)
ネコをもう1枚。今度は焦点距離40mmでの撮影です。一般的な広角ズームは望遠端が35mmくらいに抑えられていますが、本レンズは50mmまで届くのが特徴。という話は繰り返ししていますが、実際に使ってみてもこの特徴は非常に便利に感じられます。ちょっと遠いところにいる猫も適切な大きさで撮ることができました。
α7 IV、17-50mm F/4 Di III VXD、35mm、F4.0、1/60秒、ISO400、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(7008×4672、17.1MB)
なぜか片方だけになった下駄を見つけ、不思議と情緒を感じましたので撮りました。レンズのボディデザインがよく、AFも早く快適といった具合に、使いやすさが手伝ってくるためか、目に付いたものをどんどん切り取っていきたくなる楽しさがあります。ストレスのない快適性が本レンズの魅力だと感じました。
タムロンは、超広角域から標準域までをカバーする広角ズームとして、2022年10月に「20-40mm F/2.8 Di III VXD(Model A062)」を発売しています。こちらは、開放F2.8通しの大口径ズームながら、ズーム域を抑え気味にしたことで小型・軽量を実現したのが特徴です。
いっぽう、今回紹介した「17-50mm F/4 Di III VXD」は、開放F4通しとしながら、多少のサイズ感アップを許容したことで、さらにズーム域を広げることに成功したレンズと言えます。望遠端が50mmまで届きますので、広大な景色をダイナミックに収める超広角撮影から、スナップやポートレートに向いた自然な画角の標準域までを、1本のレンズで楽しめるのが魅力。F4通しですのでズーミングしても絞り値が変わらないところも、使いやすくて好印象でした。
動画撮影の需要に応える意味も大きいレンズかと思いますが、静止画撮影においてもこれまでにない自由な楽しさを覚えさせてくれます。
それにしても、2023年10月19日時点での価格.com最安価格が89,100円という、やさしい価格設定はうれしい限り。これも本レンズの魅力のひとつです。