国内メーカーが発売した一眼カメラをまとめながら「カメラ業界の1年」をレポートする、年末恒例の特別企画。2023年は、どんな一眼カメラが話題を集めたのだろうか? 振り返ってみよう。
2023年はニコン「Z f」(左上)、ソニー「α7C II」などのミラーレスカメラが登場した
2023年に登場した国内メーカー製の一眼カメラは15モデル(うち1機種は姉妹モデル)。2020年が19モデル、2021年が15モデル、2022年が13モデル(※価格.comマガジン調べ)なので、製品数に関してはここ数年ほぼ横ばいの状況が続いている。
α7CR(2023年10月13日発売)
α7C II(2023年10月13日発売)
α6700(2023年7月28日発売)
VLOGCAM ZV-E1(2023年4月21日発売)
※「α9 III」は2023年発表で発売は2024年1月26日
Z f(2023年10月27日発売)
Z 8(2023年5月26日発売)
EOS R8(2023年4月14日発売)
EOS R50(2023年3月17日発売)
EOS R100(2023年6月22日発売)
GFX100 II(2023年9月28日発売)
X-S20(2023年6月29日発売)
LUMIX S5II(2023年2月16日発売)
LUMIX S5IIX(2023年6月22日発売)
LUMIX G9PROII(2023年10月27日発売)
※「LUMIX G100D」は2023年発表で発売は2024年1月26日
PENTAX K-3 Mark III Monochrome(2023年4月28日発売)
ニコンは2023年、国内カメラメーカーの中で価格.comユーザーから最も注目を集めたメーカーだ。
2023年に発売したのは「Z 8」(2023年5月26日発売)と「Z f」(2023年10月27日発売)のフルサイズミラーレス2モデル。決して数は多くないが、いずれも、価格.com「デジタル一眼カメラ」カテゴリーの人気売れ筋ラインキングで1位を獲得した。年末の現在でもトップ5をキープする人気ぶりである。
そこまで高い人気を集める理由は、ニコンファンならびにカメラファンが求める「ニコンの一眼カメラ像」を実現していることが大きい。
「Z 8」は、フラッグシップモデル「Z 9」(2021年12月発売)の高性能を小型・軽量化したモデル。驚きなのは、動画の連続記録時間を除いて「Z 9」からスペックダウンしている部分がないこと。通常、下位モデルは上位モデルから何か性能・機能がスポイルされるものだが、「Z 8」はそういった部分がないのが魅力で、ニコンファン・カメラファンの心をつかんだ。
ニコン「Z 8」
「Z f」は、フィルム一眼レフの名機「FM2」をモチーフにしたヘリテージデザインを採用するフルサイズ機。APS-Cミラーレス「Z fc」(2021年7月発売)のフルサイズ版とも言えるモデルだが、真鍮製のダイヤルを取り入れるなどしてより高級感のあるボディに仕上がっている。
性能面でも、「Z 9」や「Z 8」で採用された最新の画像処理エンジン「EXPEED 7」を採用し、9種類の被写体に対応する被写体検出AFや、最高約30コマ/秒の超高速連写(電子シャッター時)などの高性能を実現したほか、最高8段の補正効果を発揮するボディ内手ブレ補正も搭載。こうした充実したスペックを持つのも人気の秘密だ。
ニコン「Z f」
パナソニックも2023年に積極的な動きを見せたメーカーだ。
リリースしたのは、フルサイズミラーレス「LUMIX S5II」(2023年2月16日発売)と、マイクロフォーサーズミラーレス「LUMIX G9PROII」(2023年10月27日発売)の2機種だ(※「LUMIX S5II」をベースに動画撮影機能を強化した「LUMIX S5IIX」もラインアップ)。
「LUMIX S5II」は、同社のフルサイズミラーレスのスタンダードモデルで、写真撮影・動画撮影の両方でトップクラスの性能を実現し、特に映像クリエイターから注目を集めた1台だ。スペック面では、「LUMIXシリーズ」として初めて像面位相差AFを搭載したのがトピック。動画撮影は、C4K 60p/50p 4:2:2 10bitの無制限記録や、フル画角での6K 30p/25p 4:2:0 10bit記録を実現している。
パナソニック「LUMIX S5II」
「LUMIX G9PROII」は、「LUMIX GH6」と並ぶ、同社のマイクロフォーサーズ機のフラッグシップモデル。像面位相差AFを搭載し、全方位でスペックアップを実現した1台だ。仕上がり設定「フォトスタイル」に「LEICAモノクローム」という新しいモードを搭載した点でも話題を集めた。静止画撮影に重点が置かれたカメラだが、5.7K/60p記録や4K/120p記録に対応するなど動画撮影機能のレベルも高い。
パナソニック「LUMIX G9PROII」
フルサイズミラーレスに目を向けると、2023年は、ソニーとキヤノンから上位モデルの性能を継承した下位モデルが登場したのもトピックだ。
ソニーは、小型・軽量なフルサイズ機「α7Cシリーズ」の第2世代モデルとして「α7CR」(2023年10月13日発売)と「α7C II」(2023年10月13日発売)をリリースした。両モデルは重量約510g強(バッテリー、メモリーカードを含む)の同じ筐体を採用し、撮像素子が異なる2機種。「α7CR」は「α7R V」と同じ有効約6100万画素、「α7C II」は「α7 IV」と同じ有効約3300万画素の裏面照射型「Exmor R」CMOSセンサーを採用している。
両モデルとも、ソニーの最新ミラーレスではおなじみの「AIプロセッシングユニット」を搭載し、AFが進化。4:2:2 10bitでの4K/60p記録に対応するなど動画撮影機能も充実している。特に人気が高いのは「α7C II」。価格.com最安価格で27万円を切るというコストパフォーマンスのよさでじわじわと人気が高まっており、2023年12月31日時点での価格.com「デジタル一眼カメラ」カテゴリーの人気売れ筋ランキングは2位に位置している。
ソニー「α7C II」
キヤノンは、フルサイズミラーレスのスタンダードモデル「EOS R6 Mark II」(2022年12月発売)の下位モデル「EOS R8」(2023年4月14日発売)をラインアップに追加した。フルサイズの入門機で、重量約461g(バッテリー、カードを含む)の軽量ボディに、「EOS R6 Mark II」と同等のAFや連写性能を搭載するのが特徴だ。
キヤノン「EOS R8」
2023年はAPS-Cミラーレスとして以下の4モデルが登場した。
ソニー「α6700」(2023年7月28日発売)
キヤノン「EOS R50」(2023年3月17日発売)
キヤノン「EOS R100」(2023年6月22日発売)
富士フイルム「X-S20」(2023年6月29日発売)
このなかで最も話題を集めたのがソニー「α6700」(2023年7月28日発売)。「α6000シリーズ」としては約4年ぶりの新製品ということもあったが、撮像素子に「αシリーズ」のAPS-Cミラーレスとして初めて裏面照射型「Exmor R」CMOSセンサーを搭載するなど、スペックの高さに注目が集まった。高画素フルサイズ「α7R V」など「αシリーズ」の静止画撮影機能と、「FX3」「FX30」など「Cinema Line」シリーズの動画撮影機能のいいところを組み合わせたような、静止画撮影と動画撮影の両方が充実した、ハイスペックなカメラに仕上がっている。
ソニー「α6700」
キヤノンからはエントリー向けのAPS-Cミラーレスが2モデル登場。特に人気が高いのは上位機の「EOS R50」(2023年3月17日発売)。一眼カメラの代表的なエントリーモデル「EOS Kissブランド」のコンセプト「かんたん・きれい・コンパクト」を継承した、「EOS Rシリーズ」の入門機で、上位モデル「EOS R10」ゆずりの基本性能を搭載している。
キヤノン「EOS R50」
富士フイルムは、APS-Cミラーレス「Xシリーズ」の中ではエントリー向けに位置する「X-S20」(2023年6月29日発売)をリリース。最新の画像処理エンジン「X-Processor5」や、上位モデルと共通のバッテリー「NP-W235」を採用するなど、着実な進歩を遂げた1台だ。
なお、富士フイルムの2023年に関しては、インバウンド需要の増加などの影響で「X-S20」や「X-T5」(2022年11月発売)の注文受付が一時停止したのも報告しておきたい点だ。年末になって徐々に受注が再開しているものの、ユーザーにとっては欲しいカメラがなかなか手に入らない状況が続いた1年だった。
富士フイルム「X-S20」
このほかでは、富士フイルムからラージフォーマット機「GFXシリーズ」の新しいフラッグシップモデル「GFX100 II」(2023年9月28日発売)が登場。リコーイメージングからモノクロ撮影専用の一眼レフ「PENTAX K-3 Mark III Monochrome」(2023年4月28日発売)が登場したのも話題を集めた。
富士フイルム「GFX100 II」
リコーイメージング「PENTAX K-3 Mark III Monochrome」
2023年の一眼カメラを振り返ると、特にニコンが話題を集めた1年だったと言っていいだろう。「ミニZ 9」を評せる「Z 8」に加えて、ヘリテージデザインのフルサイズ機「Z f」もリリース。新製品の数ではなく質が高いのがポイントで、どちらもニコンファンが「欲しい」と思える魅力的なカメラに仕上がっている。ファンにとっては「財布のひもが緩む年」だったのではないだろうか。
一眼カメラの市況に目を向けると、2023年は、ニコンの「Z f」や富士フイルム「X-T5」など一部の人気機種を除いて、全体的に品薄状態が改善した1年だったと言える。CIPA(一般社団法人カメラ映像機器工業会)が公開している一眼カメラの出荷数量を見ても、2023年3月〜10月は同年前月を上回っており、少なくとも2022年前半のような「どのショップにもカメラの在庫がない」という状況は脱している。市場はほぼコロナ禍の前の状態にまで戻ったと言っていいだろう。
2021年〜2023年のレンズ交換式デジタルカメラの出荷数量グラフ(2023年10月まで)。黒線が2022年、オレンジが2023年。2023年は3月以降、前年同月を上回る水準で推移している(出典:一般社団法人カメラ映像機器工業会)
来年2024年は、1月26日に注目度の高いソニー「α9 III」が発売される。このカメラは、フルサイズ対応の一眼カメラとして世界で初めて「グローバルシャッター方式」の撮像素子を搭載し、動体の歪み(画像の歪み)が発生しなかったり、全速でのフラッシュ同調が可能だったりと、従来の一眼カメラのメカシャッター(フォーカルプレーンシャッター)では不可能なことをいくつも実現した画期的なモデルだ。
また、2024年はオリンピックイヤーということで、ソニー、キヤノン、ニコンのフルサイズ機のフラッグシップや超高速モデルが登場するかもしれない。特に、まだミラーレスでフラッグシップ機をリリースしていないキヤノンの動きには注目だ。