ニコン「Z 8」は、フラッグシップモデル「Z 9」の基本スペックを継承した、ハイスペックなフルサイズミラーレスカメラ。2024年2月に公開されたファームウェアVer.2.00の大型アップデートによって、さらに使いやすいカメラに進化を遂げています。
本記事では、「Z 8」をメイン機として使っている写真家のJimaさんがファームウェアVer.2.00の内容を詳しく解説します。
ファームウェアVer.2.00で機能性が大きく向上した「Z 8」
皆さん、こんにちは。写真家のJimaでございます。今回は、私が愛用する「Z 8」のファームウェアVer.2.00のアップデート内容をレポートします。
「Z 8」は、フラッグシップモデル「Z 9」から体積比で約30%小型化したコンパクトなボディに、「Z 9」譲りの性能・機能を凝縮したハイスペックなフルサイズミラーレスです。2023年5月に「Z 8」が登場したときの衝撃は、今でも鮮明に覚えています。静止画・動画を問わず、さまざまな撮影に柔軟に対応でき、あらゆるシーンでクリエイティビティーを発揮できるのが魅力のカメラですね。
「Z 8」は、よりコンパクトなボディに「Z 9」譲りの性能・機能を搭載するのが魅力です
そんな「Z 8」が発売されて約9か月が経過した2024年2月、「Z 9」が持つ機能(一部「Z f」が持つ機能)を追加したファームウェアVer.2.00がリリースされました。これによって「Z 9」と「Z 8」でできることがほぼ同等になり、「Z 8」がさらに使いやすくなりました。細かいところの操作性と機能性が共通化したので、「Z 9」のサブ機としても運用しやすくなったと思います。
Ver2.00へのファームウェアアップデート時の設定画面
では、ここからは「Z 8」のファームウェアVer.2.00の特徴をひとつずつ紹介していきます。今回のアップデートは強化点が非常に多いため、実際に使ってみて便利だと感じたものを厳選しました。
AF関連では、被写体検出に「鳥」専用モードが追加されたのが大きなトピックです。「Z 9」ではファームウェアVer4.10で搭載された機能で、「Z 8」にも展開した形です。
被写体検出に「鳥」専用モードが追加されました。従来は「動物」で犬、猫、鳥の検出に対応していましたが、そこから鳥が独立しました
「鳥」専用モードで撮影している様子。小さな鳥の瞳を検出しています
これまで「Z 8」で鳥を撮影する際は、被写体検出の「動物」を選択していましたが、手前に障害物があったり、背景が複雑な状況だったりすると、どうしても鳥を検出できない場合がありました。今回、「動物」から「鳥」が独立したことで精度が向上しており、たとえば、鳥が後ろを向いたときなど、被写体を検出・追従しにくい場合でもAFの迷いが減少した印象を受けました。
AFからは少し話が脱線しますが、「Z 8」(「Z 9」でも)で鳥などの動体を快適に撮影できるのは、被写体の動きを常に表示する電子ビューファインダー「Real-Live Viewfinder」を搭載していることも大きいです。シャッタースピードなどの条件によって見え方が異なる場合もありますが、像消失なくリアルタイムで動きを確認できるのは、動体撮影においてとても使いやすいですね。
ニコンのフルサイズミラーレスでは、クラシックデザインを採用した「Z f」も人気を集めています。その「Z f」が初めて搭載して話題を集めたのが、「リッチトーンポートレート」「フラットモノクローム」「ディープトーンモノクローム」という3つの新しい「ピクチャーコントロール」です。
「Z 8」ではファームウェアVer.2.00で、これらの「ピクチャーコントロール」が追加されました。「このアップデートを待っていた!」という「Z 8」ユーザーも多いことでしょう。
「Z 8」のファームウェアVer.2.00で3つの「ピクチャーコントロール」が追加されました
「ピクチャーコントロール」は、スタンダードやニュートラル、ビビッド、風景、ポートレートなど多彩なモードが用意されている、いわゆる仕上がり設定。私は、「写真の雰囲気を作る(変える)絵作り設定」ととらえています。もっとシンプルに言えば、「スマートフォンで撮影した写真をSNSに投稿する際に活用するフィルター効果に近いもの」とも表現できるかと思います
「リッチトーンポートレート」は、その名のとおり、ポートレート撮影用のモードです。人物の肌を明るく滑らかに表現する通常の「ポートレート」モードとは異なり、肌のディテールを残しつつ、透明感のある質感とトーンが得られるのがポイント。通常の「ポートレート」に比べてレタッチに適しているのも特徴です。
通常の「ポートレート」でも十分に美しい表現が得られますが、「リッチトーンポートレート」が追加されたことで、2種類のポートレートモードを選べるのは心強いですね。
Z 8、NIKKOR Z 50mm f/1.8 S、F1.8、1/800秒、ISO64、+1.0EV、ホワイトバランス:自然光オート、ピクチャースタイル:リッチトーンポートレート、アクティブD-ライティング:強め
撮影写真(5504×8256、13.6MB)
左が「リッチトーンポートレート」、右が通常の「ポートレート」で撮影したもの。肌の部分などの仕上がりが異なっていることがわかります
「美肌効果」などの撮影機能と組み合わせることで、肌の質感や明るさなどをさらに追い込めます
「フラットモノクローム」と「ディープトーンモノクローム」は、モノクロ撮影用のモードです。
「フラットモノクローム」は、中間調が豊かで温かくやわらかい仕上がりになるのが特徴。対して「ディープトーンモノクローム」は中間調が暗めで、シャドー部の黒つぶれを抑えつつダークトーンを再現するモードです。赤の感度が高く青の感度が低い特性なので、青空は暗く、赤い花や人物の唇などは明るめに描写します。結果、より引き締まった印象のモノクロに仕上がります。
Z 8、NIKKOR Z 26mm f/2.8、F8、1/500秒、ISO180、ホワイトバランス:自然光オート、ピクチャースタイル:フラットモノクローム、アクティブD-ライティング:より強め2
撮影写真(8256×5504、26.2MB)
Z 8、NIKKOR Z 26mm f/2.8、F8、1/800秒、ISO125、ホワイトバランス:自然光オート、ピクチャースタイル:ディープトーンモノクローム、アクティブD-ライティング:より強め2
撮影写真(8256×5504、16.6MB)
モノクロームは色がないからこその魅力があり、撮影していてとても楽しいです。ひと言でモノクロームといっても、光の当たり方や影の出方、コントラストなどで仕上がりは大きく変わります。通常の「モノクローム」を含めて3種類のモードで仕上がりを選択できるようになったのは、「Z 8」の使い道がさらに広がったと言えるでしょう。
ファームウェアVer.2.00では、ほかにも数多くの機能が追加されています。そのなかから主なものをピックアップして紹介します。
「Z 8」は、8K UHD/30p記録や4K UHD/120p記録に対応し、動画撮影機能が充実しているのも特徴です。120pのフレームレートでもクロップされないため、スローモーション動画の作成にも向いています。
ファームウェアVer.2.00では、より気軽にスローモーション撮影を楽しめるように、フルHDでの4倍/5倍スローモーション動画をカメラ内で作成できるようになりました。
フルHDの4倍/5倍スロー設定が追加されました。私は、APS-Cミラーレス「Z 30」などでVlogを撮影する際にこの設定をよく活用しているので、「Z 8」で使えるようになったのはとてもうれしいです
静かにゆっくりと動く映像は独特の面白さがあります。通常の動画にスローモーション動画を加えることで、普段は意識しないような意外なシーンや一瞬の出来事を表現できるようになるので、ぜひ積極的に活用してほしいです。
「Z 9」のファームウェアVer.4.00で追加されて話題を集めた「オートキャプチャー」機能が、「Z 8」にもファームウェアVer.2.00で搭載されました。この機能は、撮影条件をあらかじめ設定しておいて、被写体がその条件を満たした際にカメラが自動で撮影を開始するというスグレモノです。
設定できる撮影条件は、「モーション」(被写体が動く方向・速さ・サイズ)、「被写体検出」(検出する被写体の種類・サイズ)、「距離」(被写体までの距離範囲)の3つ。これらを組み合わせて撮影条件を具体化することで、撮影コマ数を抑えながら狙ったシーンを自動で撮影することが可能です。
「オートキャプチャー」機能では自動撮影の条件を細かく設定できます
この機能を使えば「Z 8」のすぐれたAF性能を生かせるので、無人撮影でも浅い被写界深度を積極的に活用できます。特に、ワンオペレーションで複数のポイントから撮影したい場合に心強い機能と言えるでしょう。
細かい操作性では、ファームウェアVer.2.00でフォーカスポイント枠の太さを1〜3の3段階から選べるようになりました。この機能が追加されるまでは「フォーカスポイントはそういうもの」として特に気にしていませんでしたが、枠の視認性が上がるだけで、撮影画面がグッと見やすくなる印象です。
地味な機能ではありますが、フォーカスポイントの枠の太さを3段階から選択できるようになりました。私は細すぎず太すぎない「2」を選択しています
左からフォーカスポイント枠の太さが「1」「2」「3」の順です
ファームウェアVer.2.00では「ピクセルシフト撮影」にも対応しました。撮像素子の位置をずらしながら撮影した複数枚の画像を合成することで高解像度画像を生成する機能です。
撮影時はRAW(NEF)ファイルで記録し、それをRAW現像ソフト「NX Studio」で合成する仕組み。撮影コマ数は4/8/16/32コマから選べます。16/32コマでは約1億8000万画素の画像を生成可能です。
「ピクセルシフト撮影」の設定画面。撮影コマ数は最大32コマに対応しています
操作性では、カスタムボタンに使用できるボタンが増えたのがうれしいポイントです。静止画撮影時の設定では、新たに「BKTボタン」「WBボタン」「再生ボタン」「フォーカスモードボタン」がカスタムボタンとして設定できるようになりました。従来以上に多くのボタンを活用して、より効率のよい撮影が行えます。
カスタムボタンの数が増え、より柔軟なボタン操作が可能になりました
細かい操作性では、MF時に、シャッターボタンを半押しすることで拡大表示を解除できる機能が追加されました。拡大表示でピントの位置を確認した後に、素早く全体の構図を再確認できるのがとても便利です。リモート撮影でも同様の操作が可能です。
この機能は「Z 9」にはファームウェアVer.5.00で追加されていますが、「Zシリーズ」の他モデルにもぜひ展開してほしいです。
カスタムメニューに追加された「半押し拡大解除(MF)」。この設定をオンにすると、シャッターボタン半押しで拡大表示を解除できます
このほかのアップデートでは、
・「ハイレゾズーム」の速度が11段階に細分化
・「露出ディレーモード」の追加
・「AFエリアモードの循環選択」の追加
・「画像送り時の拡大位置」で「ピント位置優先(顔優先)」の選択に対応
・「パワーズームのボタン操作」に対応
などが便利だと感じました。
最大2倍のズームアップができる「ハイレゾズーム」は、動作速度をより細かく11段階で設定できるようになりました
カメラのブレを抑えたい場合に役立つ「露出ディレーモード」も追加。シャッターボタンを押してから約0.2〜3秒後にシャッターが切れるように設定できます
カスタムボタンの機能として「AFエリアモードの循環選択」が追加されました。この機能を割り当てたボタンを押すことで、AFエリアモードを素早く切り替えられます。循環対象のAFエリアモードを選択できるので、よく使うモードのみを残す形にするとよいでしょう
「画像送り時の拡大位置」設定で「ピント位置優先(顔検出)」が追加されました。ポートレート撮影時のピントチェックに便利な機能です
パワーズーム対応レンズを装着した際に、カメラ側のボタンで電動ズーミング(パワーズーム)ができる機能が追加されました。ボタンを押し続けることでズーム操作ができるので、より安定した映像を撮ることができます
私は、発売とともに「Z 8」を購入し、これまで仕事やプライベートでメイン機として活用してきました。本特集で紹介したファームウェアVer.2.00へのアップデートによって、より表現力豊かな撮影が行えるだけでなく、これまで以上に効率的に撮影をこなせるようになっています。ファームウェアVer.2.00で、カメラとしての使い勝手がワンランク上がった印象です。
「Z 9」と「Z 8」のどちらを選ぶか迷っている人もいると思いますが、よりコンパクトなボディで機動力を生かして撮りたいなら、やはり「Z 8」のほうが使いやすいと感じることでしょう。ファームウェアVer.2.00によってさらに使いやすくなった「Z 8」をぜひ選んでください。
なお、今回ご紹介した内容は、私のYouTubeチャンネルでも紹介しております。