デジタルカメラとしては異例とも言える人気を集めている「X100VI」
富士フイルムの「X100VI」は、35mm判換算で焦点距離35mm相当のレンズを搭載する高級コンパクトデジタルカメラ「X100シリーズ」の最新モデル。名称の「VI」が示すとおり、「X100シリーズ」の6代目にあたるスナップシューターで、2024年3月28日に発売が開始されました。
約4020万画素の高画素な撮像素子と、高性能な画像処理エンジンを採用し、なおかつ同シリーズ初のボディ内手ブレ補正を搭載するなど、最新機能を盛り込んでの登場です。驚きなのは世界中で爆発的な人気を集めていること。国内の一部ショップでは発売前の予約時に抽選が行われたほどで、2024年5月2日時点では、家電量販店やカメラ専門店のほとんどが販売を休止している状況です。
今回は、歴代の「X100シリーズ」を使ってきた筆者が、なぜそこまで高い人気を集めているのか? その理由を考えながら「X100VI」の魅力をレビューしてみたいと思います。
「X100VI」は、前モデル「X100V」のサイズ感を維持しながらスペックが大幅に向上しています
「X100VI」の仕様や長所については、すでに製品発表時のレビュー記事「富士フイルム「X100VI」最速レビュー! ついにボディ内手ブレ補正を搭載」にて紹介されています。ですので、本記事では、カメラの概要はおさらい程度にとどめておきましょう。
「X100VI」は前モデル「X100V」からさまざまな点が強化されています。なかでも大きいのは、撮像素子の有効画素数が約2610万画素から約4020万画素に向上したこと。同時に画像処理エンジンも「X-Processor 4」から最新の「X-Processor 5」へと変更されました。同社のミラーレス「X-H2」「X-T5」と同じ撮像素子・画像処理エンジンの組み合わせで、APS-Cサイズの撮像素子を採用するデジタルカメラとしては最高画素数を誇ります。
有効画素数が約4020万画素に向上し、「X-H2」や「X-T5」と同等の高い解像感が得られるようになりました
X100VI、23mm(35mm判換算35mm相当)、F2、1/1600秒、ISO125、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード
撮影写真(7728×5152、21.0MB)
また、「X100シリーズ」としては初のボディ内5軸手ブレ補正機能(補正効果最大6.0段分)を搭載し、ただでさえ手ブレに強かった「X100シリーズ」の撮影領域を広げてくれています。手ブレにシビアにならざるをえない高画素モデルとしては、搭載してくれてうれしい新機能ですね。
「X100シリーズ」として初めてボディ内5軸手ブレ補正を搭載。1秒のスローシャッターでもしっかりと手ブレを抑えてくれました
X100VI、23mm(35mm判換算35mm相当)、F5、1秒、ISO125、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード
このほか、光学ファインダー(OVF)と電子ビューファインダー(EVF)を切り替えられる自慢の「アドバンスト・ハイブリッドビューファインダー」を引き続き採用。仕上がり設定の「フィルムシミュレーション」には「REALA ACE」が加わり、6.2K/30p記録や4K/60p記録の動画撮影に対応するなど、外観デザインは(ほぼ)同じでも中身は最新の「Xシリーズ」に合わせて大きく進化しています。
「アドバンスト・ハイブリッドビューファインダー」を引き続き搭載。このファインダーの特徴は後ほど詳しく紹介します
約4020万画素へと大幅にアップした有効画素数ですが、これはやはり解像感の向上に寄与していることが、撮ってみるとすぐに実感できます。単に画素数が増えただけでなく、画像処理エンジンが最新の「X-Processor 5」になったことも大きいのでしょう。
「X100VI」の撮像素子と画像処理エンジンの組み合わせは、「X-H2」や「X-T5」で実績がありますので、本来の性能を使いこなすことにかけては堂に入ったものです。
X100VI、23mm(35mm判換算35mm相当)、F2、1/2000秒、ISO125、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード
撮影写真(7728×5152、23.8MB)
上の作例は、日中にもかかわらずあえて絞り開放(F2)で撮影しています。それでも隅々まで高い解像感を維持しているのは、搭載する焦点距離23mm/開放絞り値F2のフジノン単焦点レンズの性能がすぐれているからにほかなりません。交換式よりも固定式のレンズのほうが描写性能は相対的に高い、というのはよく言われることですが、その現実をまざまざと見せつけられた思いです。
「X100V」と同じ、焦点距離23mm/開放絞り値F2のフジノン単焦点レンズを採用しています
このレンズは、先代の「X100V」でリニューアルされており、「X100VI」ではそのまま引き継いだ形になりますが、画素数が有効約4020万画素に増えても描写に破綻は見られません。先を見越したレンズ設計を採用していたのですかね? 富士フイルム、なかなかやってくれます。
X100VI、23mm(35mm判換算35mm相当)、F4、1/1800秒、ISO125、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:Velvia/ビビッド
撮影写真(7728×5152、21.6MB)
常用感度のスタートが、「X100V」のISO160から、「X100VI」では(わずかではありますが)ISO125に拡張されたところも何気に使いやすいポイントです。シャッタースピードの選択肢が広がるだけでなく、ダイナミックレンジが広がって階調性が向上、つまりは画質がよくなっているということになります。
「X100シリーズ」の最大の特徴といえば、光学ファインダー(OVF)と電子ビューファインダー(EVF)を切り替えることで、1台で両方の撮影を楽しめる「ハイブリッドビューファインダー」の存在にあると思います。もちろん、「X100VI」にもこのタイプのファインダーが採用されています。
画像中央の「ファインダー切換レバー」を右に(グリップ側に)引くことでOVFとEVFを切り替えられます
「X100VI」のファインダーの実際の見え方をコンパクトデジタルカメラで撮影してみました。以下にそれぞれをまとめます。
まずはEVFから。ミラーレスカメラが全盛の今ですと、むしろ見慣れたファインダーと言えるのではないでしょうか。約369万ドットの0.5型有機ELファインダーで視野率100%、倍率0.66倍という仕様ですので、前モデルの「X100V」と同等ですね。
「X100VI」のEVFを撮影した画像
「X100VI」のOVFのスペックは、撮影範囲を示す電子式ブライトフレーム内の視野率が約95%、倍率が約0.52倍。EVFに比べると視野率も倍率も劣っているように思えるかもしれませんが、OVF好きとしては、EVFでは決して真似できない「自然」な見え具合と、フレームの外まで確認できる「余裕」に価値を感じるというものです。
「X100VI」のOVFを撮影した画像
OVFは「自然」で「余裕」のある見え方なのはいいのですが、いかんせん本当にピントが合っているのかどうかを確認できないのが玉にキズ。そんな問題を解決するために、3世代目の「X100S」から追加されたのが「エレクトロニックレンジファインダー(ERF)」という機能です。ちなみに、この機能の搭載によって「ハイブリッドビューファインダー」は「アドバンスト・ハイブリッドビューファインダー」に進化を遂げました。
ERFは、OVFの状態から「ファインダー切換レバー」を左に(レンズ側に)倒すと、ファインダー右下に電子式の小窓が出現するというもの。フォーカスエリアのみを電子式で表示してくれるので、OVFを覗きながらピント位置を確認できるのが便利なところです。
OVFからERF表示状態にしたところを撮影した画像
ハイブリッドファインダー自体は、初代「FinePix X100」から連綿と継承されているものですが、「X100シリーズ」を特徴づける大切な機能だけに、改めて掘り下げてみました。
一眼レフカメラの新モデルが減少しているなかで、このファインダーは貴重な存在だと思います。厳密な撮影が必要なときはEVFを使えるのも便利ですね。
「X100VI」は、最大6.0段分の補正効果を持つボディ内5軸手ブレ補正機能を搭載しています。ボディサイズをほとんど変えずに手ブレ補正機構を内蔵したのですからたいしたものだと思います。これなら少し(約43g)重くなってしまったのもご愛敬ということでいいのではないでしょうか。
X100VI、23mm(35mm判換算35mm相当)、F2.8、1/2.8秒、ISO125、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード
「X100シリーズ」は振動の少ないレンズシャッターを搭載し、かつ35mm判換算で焦点距離35mm相当の準広角レンズということもあって、元々手ブレには強いカメラでした。とはいっても、持ち出し率の高い愛しいカメラですので、ときには風景や建築物を撮るといったこともあるでしょう。また、瞬間を押さえるスナップでは、思いがけず低速シャッターになってしまうことだってあるものです。
上記の作例はまさにそうした条件で撮ったものです。感度をISO125に固定していたばかりに、シャッター速度は1/2.8秒を記録。あわや失敗かとも思いましたが、結果的には歩いている人物や風になびく暖簾(のれん)が動体ぶれしているだけで、そのほかはピッタリ止まって写っていました。むしろ躍動感のある写真が撮れてラッキーといったところ。
手ブレ補正機能が必要かそうでないかでいえば、「あったほうが絶対にいい!」と思えた瞬間です。
個人的にとてもうれしいのは、「X100VI」に「被写体検出AF」が搭載されたことです。検出対象は「動物」「鳥(昆虫)」「クルマ」「バイク&自転車」「飛行機(ドローン)」「電車」の6種類。これはここ数年の「Xシリーズ」やラージフォーマット機の「GFXシリーズ」で培われた技術が、「X100シリーズ」にも導入されたということになりましょう。
計6種類の被写体検出に対応しています
搭載するレンズが35mm判換算で焦点距離35mm相当ということもあって、特に「動物」との相性がとてもいいと感じます。「被写体検出AF」とは別の設定として用意されている人物(瞳)の認識機能も強化されており、そちらも同様に本モデルと相性がいいと言えますね。
被写体検出「動物」で猫を撮影している様子。猫の瞳をとらえてくれています
X100VI、23mm(デジタルテレコン使用で35mm判換算50mm相当)、F2、1/250秒、ISO400、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード
「被写体検出AF」の搭載によって、「X100VI」では、犬や猫などペットの撮影で難しかった瞳へのピント合わせが非常に容易になりました。「被写体検出AF」を活用した上記の作例では、デジタルテレコン機能で画角を50mm相当としていますが、こういった自由度の高い機能と組み合わせることで、このカメラの活躍の場はずっと広がると思います
画質面では、富士フイルム独自の仕上がり設定「フィルムシミュレーション」に「REALA ACE(リアラ エース)」が追加されたのもトピックです。「REALA ACE」はラージフォーマット機の「GFX100 II」でお目見えしたモードで、「Xシリーズ」ではAPS-Cミラーレスを含めて「X100VI」が初搭載になります。
なお、「REALA ACE」は、今後のファームウェアアップデートによって「X-H2」や「X-T5」など「Xシリーズ」の第5世代ミラーレスにも追加される予定です。
「フィルムシミュレーション」に「REALA ACE」が追加されました
「REALA ACE」とは、1989年に発売された富士フイルムのカラーネガフィルムの名称です。忠実な色再現と、ネガフィルムらしいやさしく滑らかな階調性が特徴で、筆者も気に入ってよく使っていたものです。まさか、デジタルカメラの色仕上げ設定として、また会えるとは思ってもいませんでした。階調性が豊かで、とてもやさしい仕上がりになりますので、ポートレートやスナップなどにうってつけです。
X100VI、23mm(35mm判換算35mm相当)、F2.8、1/140秒、ISO125、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:REALA ACE
X100VI、23mm(35mm判換算35mm相当)、F2.8、1/140秒、ISO125、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード
上記の2枚の作例は、同じ被写体を「REALA ACE」と「PROVIA/スタンダード」で仕上げたものです。いかがでしょうか? 色再現と階調性の違いがわかりますでしょうか? 「REALA ACE」は、一見すると地味ではありますが、使い込むほどにそのよさがジワジワと感じられるようになると思います。
「X100シリーズ」は、シャッタースピードダイヤルや絞りリングの存在によって、カメラ本来の「操作する楽しみ」を味わえるのもいいところです。上質なクラシックデザインも気分を盛り上げてくれることでしょう。楽しくて目についたものをパシャパシャ撮った写真が、1つひとつ「X100シリーズ」史上最高の画質なのですから、これはもうたまりません。
X100VI、23mm(35mm判換算35mm相当)、F2.8、1/1500秒、ISO125、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード
撮影写真(7728×5152、19.2MB)
近接撮影性能にすぐれ、自由度の高い撮影に対応できるのも見逃せません。最短撮影距離は約10cmと短く、うまく構図を作れば中望遠マクロで撮ったかのような印象的な写真を撮ることも可能です。近接撮影でも解像感が落ちず、背景のボケ味も良好なのはさすがです。
X100VI、23mm(35mm判換算35mm相当)、F2、1/120秒、ISO125、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード
撮影写真(5152×7728、17.0MB)
以下の作例は、モノクロ設定の「ACROS」で撮ってみました。「ACROS」は高感度で撮ると本来の粒状性に近い写真が撮れると言われているので、ISO6400にしたうえで絞りは開放で撮影しています。この設定だとシャッタースピードは「X100VI」のメカシャッターの限界最高速度1/4000秒を超えてしまうのですが、内蔵NDフィルターを活用することで1/2000秒のメカシャッターで撮影できました。
電子シャッターを使えば最速1/180000秒(1万8千でなく18万)まで設定できるので内蔵NDフィルターは不要といえば不要なのですが、そこはフォーカルプレーンシャッターでなくレンズシャッターを搭載している「X100シリーズ」の特徴を尊重したいです。こうした、それほど意味のないこだわりを持ちたくなるのも「X100シリーズのカメラならでは」ではないでしょうか。
X100VI、23mm(35mm判換算35mm相当)、F2、1/2000秒、ISO6400、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:ACROS
撮影写真(7728×5152、25.2MB)
「フィルムシミュレーション」といえば、「ノスタルジックネガ」の搭載も「X100シリーズ」としては初です。「ノスタルジックネガ」は、1970年代に新しいカラーフィルムを使った表現として登場した「ニューカラー」をイメージしたモード。こちらも、低めのコントラストと落ち着いた彩度がスナップ写真によく合います。アンバーな色調を特徴とするニューカラーを生かすため、ホワイトバランスは「日陰」など6000K以上に設定するのがおすすめです。
X100VI、23mm(35mm判換算35mm相当)、F5.6、1/350秒、ISO125、ホワイトバランス:日陰、フィルムシミュレーション:ノスタルジックネガ
撮影写真(7728×5152、24.0MB)
外観デザインはほぼ前モデルそのままに、デジタルカメラとして大幅な内部進化を遂げたのが「X100VI」だと言えるでしょう。クラシックな見た目と、マニュアルライクな操作性、OVF/EVFを選べるファインダーによって、撮る楽しさを純粋に味わえるという、「X100シリーズ」のコンセプトはそのままです。
あまり難しいことを考えずに、素直に写真撮影を楽しむのが「X100シリーズ」の醍醐味ですが、「X100VI」は、それに加えて、高画素センサーや手ブレ補正機能などの性能進化によって、これまで以上に高品質な写真を撮ることができます。写真機としてのすばらしいコンセプトと、デジタルカメラとしての最新機能が絶妙なバランスで融合したのが、このカメラが圧倒的な人気を集める最大の理由ではないでしょうか。
悲しいことに数は減ってしまいましたが、日本の高級コンパクトデジタルカメラって本当にいいですね。「X100VI」は、そう感じさせてくれる名機だと思います。
ただし、冒頭でも触れたように予想を大きく上回る人気を集めており、2024年5月2日時点では家電量販店でもカメラ専門店でも購入できない状況。一部販売しているショップもありますが、市場想定価格(税込281,600円)を超えるプレミア価格が付いていますね。
この先、いつ適正な価格で購入できるようになるかはわかりませんが、待ってでも手に入れたいと思わせる魅力的なカメラなのは間違いありません。