シグマの最高峰レンズ「Art」ラインに、対角魚眼レンズ「15mm F1.4 DG DN DIAGONAL FISHEYE」が加わった。フルサイズ対応ながら開放F1.4という明るさと、「Art」ラインらしい高画質を両立し、2024年3月14日の発売以来大きな反響を呼んでいる1本だ。今回は、対角魚眼レンズの効果的な使い方を交えながら、本レンズの魅力を紹介していく。
ソニーのフルサイズミラーレスカメラ「α7R V」と組み合わせて作例の撮影を行った。ラインアップとして、今回使用したソニーEマウント用のほかにLマウント用も用意されている
180度(前後)の画角を持つ対角魚眼レンズは、迫力ある歪曲効果を楽しめるのが魅力だ。一般的には画角優先で設計されるため、開放絞り値はどうしても暗くなりがちなのだが、「15mm F1.4 DG DN DIAGONAL FISHEYE」は、フルサイズ対応ながら開放F1.4という明るさを実現している。本レンズを語るうえで、この開放F1.4というスペックは最大の魅力と言えるだろう。
さすがに、ここまで大口径を実現しているため、レンズは相応に大きくて重い。ソニーEマウント用のサイズは104(最大径)×159.9(全長)mm(Lマウント用は104×157.9mm)で、重量は1360g(Lマウント用も同じ)。決してコンパクトなサイズ感とは言えないが、この大きさ・重さに見合う描写力と機能が備わっている。
特に注目したいのが、星景撮影に特化した機能を数多く搭載していること。大きなところでは、フォーカスリング操作が無効になる「MFL(マニュアルフォーカスロック)スイッチ」が用意されている。星景撮影ではピントは命。このスイッチによって、フォーカスレンズの誤操作によるピントずれを未然に防ぐことができるのだ。
「MFLスイッチ」は筐体左側に配置。ほかにも、絞りリングのクリックのオン/オフを切り替えられる「絞りリングクリックスイッチ」やAFLボタンなど、非常に多彩な操作性を備えている
アルカスイス対応の三脚座が付属するのもポイントだ。着脱式でマグネシウム合金製。縦位置・横位置の切り替えをスムーズに行えるので星景撮影時にも便利だ
フロントキャップは、ロック機能付きなうえ、シートタイプのリアフィルターを2枚収納できるフィルタースロットが付いているのが便利(本レンズは、レンズマウント部にシートタイプのリアフィルターを装着できる)。この細やかな仕様が何ともシグマらしい
付属品が充実しているのも魅力。リアフィルターを切り取る際に使用するフィルターホルダー(左)や、三脚座を外して使う際、三脚座取り付け部分を保護するために使用するプロテクティブカバー(右)も同梱されている。プロテクティブカバーはホールディング時の感触を向上させる効果もある
ショルダーストラップ付きの専用ケースも同梱されている
さらに、星景撮影用の機能としては、フロント周りに段差が設けられているのも特徴的。この段差によって、レンズヒーター(レンズ内部の結露を防ぐのに使用するヒーター。長時間の星景撮影で欠かせないアイテム)がレンズ前面に飛び出してしまうのを防ぐことができる。
筐体は防塵・防滴構造で高い耐候性と堅牢性を確保している。過酷な撮影条件にもしっかり耐えうるビルドクオリティーだ。
掲載する写真作例について
JEPG形式の最高画質「エクストラファイン」を選択し、歪曲収差補正:オフ、倍率色収差補正:オート、周辺減光補正:オートの設定で撮影しています。※一部の作例は「Imaging Edge Desktop」でRAW現像を行っています。
魚眼レンズの開放絞り値はズームレンズの場合でF4前後、明るい単焦点レンズでもF2.8程度のものが多い。そういった意味でも、「15mm F1.4 DG DN DIAGONAL FISHEYE」のF1.4という明るさは、星景写真を撮る際に大きな武器になる。F2.8と比較しても2段明るく、星をしっかり止めて高画質に撮りたいシーンでは大変重宝する。
以下の作例は、東京都多摩地区を流れる秋川の河川敷で撮影したもの。開放F1.4の明るさを利用することで、シャッタースピードを速くでき、星を流さずに撮ることができた。明るい開放絞り値は、暗い夜空を撮る星景撮影において、より低い感度を選択できるのがポイント。画質の安定感も特筆すべき点で、絞り開放でも画面周辺までしっかりシャープに写っている。
F1.4でこの画質だ。どこもネムくなく高解像。15群21枚のレンズ構成が高いレベルの高画質を実現している。星景撮影では、画面周辺の星に対し、鳥が飛んでいるような点像で写ってしまうサジタルコマフレアも生じやすくなるが、しっかり抑制されている
α7R V、15mm F1.4 DG DN DIAGONAL FISHEYE、F1.4、10秒、ISO200、ホワイトバランス:白熱灯、クリエイティブルック:VV、Imaging Edge Desktopでコントラスト、明るさを微調整してRAW現像
撮影写真(9504×6336、52.2MB)
三脚座を利用することで縦位置・横位置の切り替えもスムーズに行える。「MFLスイッチ」など星景撮影を強力にサポートする機能が充実しているのがうれしい
α7R V、15mm F1.4 DG DN DIAGONAL FISHEYE、F1.4、10秒、ISO100、ホワイトバランス:白熱灯、クリエイティブルック:VV、Imaging Edge Desktopでコントラスト、明るさを微調整してRAW現像
撮影写真(6336×9504、44.4MB)
建物を入れて星空を撮ってみた。魚眼効果がアクセントになっている。こうした画作りが行えるのも魚眼レンズならではだ
α7R V、15mm F1.4 DG DN DIAGONAL FISHEYE、F1.4、5秒、ISO1000、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:VV、Imaging Edge Desktopでコントラスト、WBを微調整してRAW現像
撮影写真(9504×6336、41.7MB)
開放絞り値が明るいと、夜景も手持ちでスナップしやすい。過度に高感度を利用せず撮影に臨める
α7R V、15mm F1.4 DG DN DIAGONAL FISHEYE、F1.4、1/10秒、ISO6400、ホワイトバランス:蛍光灯、クリエイティブルック:VV、Imaging Edge Desktopでコントラスト、明るさを微調整してRAW現像
撮影写真(9504×6336、51.9MB)
建物内から屋外を狙ってみた。歪曲した壁がアクセントになっている
α7R V、15mm F1.4 DG DN DIAGONAL FISHEYE、F1.4、6秒、ISO1600、ホワイトバランス:白熱灯、クリエイティブルック:VV
撮影写真(9504×6336、48.1MB)
本レンズは一般的な対角魚眼レンズとして、星景だけでなく、自然風景や建物など、さまざまなシーンで活用できる。ここでは、対角魚眼レンズの効果的な使い方と合わせて、本レンズを使って撮影した作例を紹介していこう。
対角魚眼レンズは画面周辺が大きく歪む。いっぽう、中心に配置した被写体はそれほど歪まないので注意しよう。ラインのはっきりした被写体ほど歪みをわかりやすく強調できる。
周辺に被写体を配置し、歪みを強調した。F5.6まで絞って撮影しているが、元々魚眼レンズは被写界深度が深い。少し絞っただけで、全体にピントを合わせてをシャープに撮影できる。太陽に向けているがフレアは良好に抑えられている
α7R V、15mm F1.4 DG DN DIAGONAL FISHEYE、F5.6、1/640秒、ISO100、+0.3EV、ホワイトバランス:曇天、クリエイティブルック:VV
撮影写真(9504×6336、53.2MB)
歪みを強調するために地平線や手前の柵を生かして撮影した。魚眼レンズはダイナミックな遠近感もポイントだ。手前の桜の木と背後のスワンボートで遠近感を出している。躍動感のあるスナップ写真に仕上がった
α7R V、15mm F1.4 DG DN DIAGONAL FISHEYE、F5.6、1/250秒、ISO100、+0.3EV、ホワイトバランス:曇天、クリエイティブルック:VV
撮影写真(9504×6336、45.6MB)
日光東照宮にて。壁の模様にグッと迫りながら歪曲を強調した。こうした描写も魚眼レンズならではだ
α7R V、15mm F1.4 DG DN DIAGONAL FISHEYE、F4、1/400秒、ISO200、+0.3EV、ホワイトバランス:曇天、クリエイティブルック:VV
撮影写真(9504×6336、42.1MB)
被写界深度の深い描写が多くなりがちな魚眼レンズにとって、F1.4という明るさは表現力を広げるための大きな役割を担う。ボケを演出する際は、被写体への寄り引きも意識してみよう。本レンズの最短撮影距離は38.5cm、最大撮影倍率1:16。絞りを開き、被写体に寄ることで、ドラマチックなボケ描写が楽しめる。
開放値F1.4で最短撮影距離まで寄って撮影した。奥行きのある背景を利用することで、やわらかな背景ボケを表現できた
α7R V、15mm F1.4 DG DN DIAGONAL FISHEYE、F1.4、1/640秒、ISO100、-0.3EV、ホワイトバランス:曇天、クリエイティブルック:VV
撮影写真(9504×6336、31.6MB)
ローアングルからグッと被写体に寄って撮影。歪曲効果を利用しながら、前後ボケを演出した。F1.4という明るさだからこその描写が得られた
α7R V、15mm F1.4 DG DN DIAGONAL FISHEYE、F1.4、1/3200秒、ISO100、+0.3EV、ホワイトバランス:曇天、クリエイティブルック:VV
撮影写真(9504×6336、40.4MB)
花びらの散り敷かれた地面を寄り切って撮影。ドラマチックな光が印象的なカットになった。今年の東京の桜は遅咲きだったが、例年どおりこうしてさまざまな表情を見せてくれた
α7R V、15mm F1.4 DG DN DIAGONAL FISHEYE、F1.4、1/6400秒、ISO100、+0.3EV、ホワイトバランス:曇天、クリエイティブルック:VV
撮影写真(9504×6336、34.5MB)
「15mm F1.4 DG DN DIAGONAL FISHEYE」は、高いスペックと描写力で他を寄せ付けない圧倒的な存在感を放つ対角魚眼レンズだ。星景写真では大きく幅を広げる表現力を持っているし、単純に星や天体を撮るのが楽しくなる1本と言えるだろう。
価格は、ソニーEマウント用、Lマウント用ともに2024年5月13日時点での価格.com最安価格で28万円台(税込)。描写性に重点を置いたシグマの誇る「Art」ラインだけあって決して安くはないが、それに見合うパフォーマンスを発揮するレンズだ。
ひとつ残念なのは、選択できるマウントがソニーEマウントとLマウントの2種類しかないこと。対応マウントが増え、より多くのユーザーに手に取ってもらいたいレンズだと感じた。