本日2024年6月6日、タムロンから焦点距離50mmスタートのコンパクトな望遠ズームレンズ「50-300mm F/4.5-6.3 Di III VC VXD(Model A069)」が発表されました。「広角端でよりワイドに撮れる軽量な望遠ズーム」を求めていた人にぴったりの新製品です。今回、この注目レンズを写真家の曽根原昇さんがいち早くレビューします。
※本記事前半の特徴紹介は価格.comマガジン編集部が制作。後半のレビューは曽根原昇さんが執筆しています。
焦点距離50mmから撮れる望遠ズームレンズ「50-300mm F/4.5-6.3 Di III VC VXD」(カメラボディはソニー「α7C II」)
「50-300mm F/4.5-6.3 Di III VC VXD」の主な特徴
・焦点距離50〜300mm対応の望遠ズーム(ソニーEマウント用)
・広角端50mm対応ながら重量665gのクラス最軽量ボディ
・14群19枚のレンズ構成による高い光学性能
・広角端でハーフマクロ撮影が可能
・タムロン独自の手ブレ補正機構「VC」
・高速・高精度AFを実現するリニアモーター「VXD」
・簡易防滴構造/防汚コート
・「瞳AF」などソニー製カメラの各種機能に対応
・「TAMRON Lens Utility」を使ったカスタマイズに対応
タムロンといえば、より広いズーム域をカバーするズームレンズや、マクロ撮影に強いコンパクトな単焦点レンズなど、ユニークなスペックのレンズを商品化するのに長けたメーカーです。性能を犠牲にせずに小型・軽量化と低価格化を徹底しているのも強みで、ユニークさと実用性のバランスがよく、カメラファンからの支持を得ています。
今回発表された「50-300mm F/4.5-6.3 Di III VC VXD」は、そんなタムロンらしさが随所に感じられる、ソニーEマウント用のズームレンズ。スペック面ではカバーするズーム域に特徴があります。望遠端の焦点距離が300mmのフルサイズ対応・望遠ズームレンズといえば、広角端の焦点距離が70mmの、いわゆる「70-300mmズーム」が一般的ですが、本レンズは、よりワイドな標準画角の50mmスタートを実現しているのです。
クラス最軽量(重量665g)の小型・軽量ボディを実現。フィルター径は、タムロン製ミラーレス用レンズの多くと共通の67mmです
一般的に、ズーム域が広がるとその分大きく重くなりますが、そこはさすがレンズの小型・軽量化に定評のあるタムロンです。本レンズは、手ブレ補正機構「VC」を搭載しながら、78(最大径)×150(全長)mmで重量665gというコンパクトなボディに収まっています。2024年6月6日時点では、手ブレ補正機構を搭載するミラーレス用のフルサイズ対応・300mm望遠ズームとしてクラス最軽量。広角端を焦点距離50mmまで拡張しながら、さらに軽量化を達成しているのだから驚かされます。
ちなみに、タムロンは、焦点距離50mmスタートのズームレンズとして、50〜400mmをカバーする超望遠ズーム「50-400mm F/4.5-6.3 Di III VC VXD」(2022年9月発売)も用意しています。こちらは超望遠400mm対応ということもあって全長183.4mm/重量1155gとやや大きめのサイズ感。「このレンズが気になっていたけど、もっと小型・軽量なものが欲しい」と思っていた人にとって、今回発表された「50-300mm F/4.5-6.3 Di III VC VXD」はまさにぴったりの製品と言えるでしょう。
レンズが最も繰り出す望遠端時の全長は約210mm。広角端時と比べると60mmほど長くなります
レンズ構成は14群19枚。LD(Low Dispersion:異常低分散)レンズ2枚、XLD(eXtra Low Dispersion)レンズ2枚をぜいたくに使用し、色収差を抑制しているとのことです。さらに、ゴースト・フレアの発生を抑える「BBAR-G2(Broad-Band Anti-Reflection Generation 2)」コーティングも採用しています。
さらに、タムロンのレンズらしくマクロに強いのも特徴。特に広角端50mmでは最短撮影距離が0.22mと短く、ハーフマクロ(最大撮影倍率1:2)撮影が可能です。望遠端300mmでも最短撮影距離0.9m(最大撮影倍率1:3.1)で撮ることができます。
実際の描写力は、次項目に掲載する曽根原さんのレビューをチェックしてみてください。
左手側のマウント部近くに、パソコン接続用のUSB Type-C端子を搭載。独自ソフト「TAMRON Lens Utility」を使用して、レンズの機能をカスタマイズすることが可能です。さまざまな機能を割り当てられる「フォーカスセットボタン」も用意されています
右手側に、広角端でズーム位置をロックするスイッチが備わっています
花形のレンズフードが付属します
いきなり私事で恐縮ですが、最近ソニーのフルサイズミラーレスカメラ「α7C II」を購入しました。
「α7C II」は非常にコンパクトなボディなので、それに合うレンズとして、こちらもコンパクトなタムロンの広角ズーム「17-50mm F/4 Di III VXD(A068)」を入手しました。近ごろのタムロンのレンズは、どれも小さくて軽く、よく写ります。そのため、ほとんど迷うことなく購入を決めました。
「50-300mm F/4.5-6.3 Di III VC VXD」は最近のタムロンレンズらしく小型・軽量。ソニー「α7C II」との相性もバッチリでした
「α7C II」と「17-50mm F/4 Di III VXD」の組み合わせで撮影を楽しんでいたところ、「タムロンから50〜300mm対応の望遠ズームが発売されるのでレビューしてほしい」という依頼をいただきました。送られてきたレンズ「50-300mm F/4.5-6.3 Di III VC VXD」の箱を開けるとあらビックリ! 思っていたよりずっと小型で、なにより軽い。さすがタムロンです。
さっそく「α7C II」に装着してみましたが、カメラボディとのバランスは非常によいです。タムロンには焦点距離300mm対応の望遠ズームとして「70-300mm F/4.5-6.3 Di III RXD」がありますが、そちらよりも外装の質感は高く、なかなかのカッコよさです。
これで、描写性能がよく、AFが速くて、実用上の使いやすさがあれば言うことはありませんが、はたしてどうでしょうか? 試しに、動物や花、建物などをたくさん撮ってみました。
まずは「50-300mm F/4.5-6.3 Di III VC VXD」の解像性能を確認していきましょう。
α7C II、50-300mm F/4.5-6.3 Di III VC VXD、50mm、F4.5、1/160秒、ISO100、+0.3EV、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(7008×4672、23.2MB)
本レンズは、一般的な300mm対応の望遠ズームよりも広角端で広く撮れるのが大きな特徴です。ズーム域が広がると、どうしても画質が落ちてしまうものなのですが、広角端50mm/絞り開放F4.5で撮ってみたところ、すばらしい解像性能を発揮してくれました。画面の中央と周辺、さらには隅にいたるまで、解像感にほとんど差がないのが驚異的です。絞り開放でこれですから、絞り込めばさらに安定した画質が得られるのは言うまでもありません。
α7C II、50-300mm F/4.5-6.3 Di III VC VXD、300mm、F6.3、1/60秒、ISO100、-0.3EV、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(7008×4672、21.0MB)
望遠端300mmの絞り開放F6.3で撮影しました。望遠端でも解像性能は十分に高いのですが、広角端ほどの安定性はないようで、周辺はいくらか像が甘くなる傾向があります。とはいっても、それほど気にならないレベルですし、望遠域で主要被写体を周辺部に配置することはあまりないと思いますので、実用上問題はないと思います。300mm対応の望遠ズームとしては非常に優秀な結果です。
タムロンレンズは、最短撮影距離が短く、小さな被写体を大きく写すマクロ撮影に長けているのも魅力のひとつです。
α7C II、50-300mm F/4.5-6.3 Di III VC VXD、50mm、F5.6、1/1000秒、ISO400、+0.3EV、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(7008×4672、17.6MB)
「50-300mm F/4.5-6.3 Di III VC VXD」もマクロ撮影を得意としていて、広角端50mmでの最短撮影距離は0.22m、最大撮影倍率は0.5倍で、いわゆるハーフマクロに対応しています。レンズフードを装着していると被写体にフードの影が映ったり、油断していると被写体に衝突してしまいそうになったりするくらい、被写体に近づいて撮影できます。比較的カジュアルな部類の望遠ズームで、ハーフマクロ撮影ができるのは大きな魅力ですね。
α7C II、50-300mm F/4.5-6.3 Di III VC VXD、300mm、F6.3、1/500秒、ISO400、+0.3EV、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(7008×4672、17.9MB)
広角端以外の焦点距離、たとえば望遠端でのマクロ撮影性能もなかなかに高いです。上記の作例は望遠端300mmで撮影したもの。このときの最短撮影距離は0.9m、最大撮影倍率は1:3.1(約0.32倍)と十分なレベルです。このくらいのスペックだと、被写体をある程度大きく写しつつ、適度なワーキングディスタンスを確保できるので使いやすいと思います。
「50-300mm F/4.5-6.3 Di III VC VXD」は、AF駆動にリニアモーターフォーカス機構「VXD」を採用しており、高速かつ高精度なAFが可能です。これは、ステッピングモーターの「RXD」を採用する「70-300mm F/4.5-6.3 Di III RXD」と比べて、大きなアドバンテージと言えるでしょう。
α7C II、50-300mm F/4.5-6.3 Di III VC VXD、84mm、F5.0、1/1250秒、ISO400、+0.3EV、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(7008×4672、20.1MB)
少なくとも日常で出会う程度の「素早く動く被写体」には、高い精度でピントが追従してくれました。また、最短撮影距離から無限遠にピントを合わせにいくような、レンズが大きく動く場合でも動作はスピーディーです。
α7C II、50-300mm F/4.5-6.3 Di III VC VXD、300mm、F8.0、1/1250秒、ISO400、+0.3EV、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(7008×4672、19.7MB)
望遠端300mmでニホンザルを撮影。条件がよかったのでF8まで絞りましたが、期待どおりのすばらしい解像感が得られました。今回のレビューでは2日間で2000枚ほどシャッターを切りましたが、撮るたびに感動していたのが解像性能の高さです。合焦部付近では非常にシャープな描写が得られます。
α7C II、50-300mm F/4.5-6.3 Di III VC VXD、300mm、F8.0、1/125秒、ISO400、+1.0EV、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(7008×4672、19.3MB)
同じく望遠端300mmでお昼寝中の3匹のネコを撮らせてもらいました。ピントを合わせたのは真ん中のネコです。ピントが合ったところの解像感の高さは、前述のとおり、すばらしいものがありますが、半面、解像性能を重視したためか、距離によってはやや「ボケ味が硬めかな?」と思える場合も。しかし、すべての条件でボケ味が硬くなるわけではなく、良好な場合が多いのも事実ですので、これは本レンズの個性と受け取って作画に生かしていくべきでしょう。
α7C II、50-300mm F/4.5-6.3 Di III VC VXD、50mm、F5.0、1/25秒、ISO800、-0.7EV、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(7008×4672、18.2MB)
300mm対応の望遠ズームながら、広角端を標準域の50mmまで広げてくれたのは、まことに僥倖(ぎょうこう)ではないかと思います。おかげで室内でのペット撮影やテーブルフォトなどもすごく撮りやすいです。「基本の焦点距離は50mmだけど、次に得意なのは望遠域」という人にとっては、まさに打ってつけのズームレンズではないでしょうか。
α7C II、50-300mm F/4.5-6.3 Di III VC VXD、70mm、F5.6、1/320秒、ISO400、-1.0EV、ホワイトバランス:オート、クリエイティブルック:ST
撮影写真(7008×4672、21.8MB)
竹の切り株とドクダミの群生が印象的だったので中望遠70mmで撮ってみました。絞り値をF5.6にしたことによって解像感が向上し、きわめてナチュラルな印象で画面を構成することができました。表現力の豊かなレンズだと思います。標準から望遠まで自由に画角を選べる本レンズは、1本あればとても頼もしい存在になることでしょう。
「50-300mm F/4.5-6.3 Di III VC VXD」は、対応する焦点距離が50〜300mmという、ユニークなズーム域を持つ、軽量な望遠ズームレンズです。携帯性の高さに、きわめて高い解像性能とすぐれたAF性能が融合したおかげで、撮影していて楽しいレンズに仕上がっていると感じました。条件によってはボケ味がやや硬めに振られることもありましたが、総合的に見れば大きな問題ではないと思います。
ズーム域に標準画角の50mmを内包したことで、望遠ズームでありながら、日常的な撮影との親和性が高いのが面白いです。つい最近、同じくタムロンの「17-50mm F/4 Di III VXD」を購入した筆者からすれば、ズーム域がピッタリ重なって、わずか2本で超広角から超望遠までの広い範囲をカバーしてくれることになります。
本レンズの希望小売価格は154,000円(税込)で、「70-300mm F/4.5-6.3 Di III RXD」よりも少し高めの設定です。しかし、純正レンズと比べても侮れないほどの性能を考慮すると、コストパフォーマンスは十分に高いと思います。少なくとも、いち早く試すことに恵まれた筆者にとって、本レンズは「すごく欲しいレンズ」の1本です。