タムロンの「90mmマクロレンズ」は、“タムキュー”の愛称でプロ・ハイアマチュアから長く支持されてきた名レンズ。2024年10月24日、その“タムキュー”初のミラーレスカメラ用モデル「90mm F/2.8 Di III MACRO VXD(F072)」が発売された。
ファンにとっては待望のレンズで注目度も高い。10月31日時点での価格.com「レンズ」カテゴリーの人気売れ筋ランキングは9位、単焦点レンズに絞れば2位の位置につけている。
本記事では、マクロ作例とポートレート作例を交えながら進化点をレビュー。90mmという焦点距離の魅力にも触れながら解説していく。
「90mm F/2.8 Di III MACRO VXD」を装着した、ニコンのフルサイズミラーレス「Z6III」。今回はこの組み合わせでレビューする。本レンズはニコンZマウント用とソニーEマウント用がラインアップされている
掲載する写真作例について
写真はすべてJPEG形式(最高画質)で撮影。ヴィネットコントロール:標準、自動ゆがみ補正:する、回折補正:するに設定しています。人物撮影では美肌効果:標準を利用しました。
冒頭でも述べたとおり、タムロンの90mmマクロレンズの歴史は長い。初代機が1979年に発売され、最新モデルの「90mm F/2.8 Di III MACRO VXD」はそこから数えて11代目となる。そういった意味で本レンズは、タムロンレンズを語るうえで欠かすことのできない象徴的な存在と言えるだろう。
付属のレンズフードを付けた状態。レンズフードは窓付きで、回転式フィルターの操作を容易に行える
ニコンZマウント用のサイズは79.2(最大径)×128.5(全長)mmで、重量は640g。ソニー用は79.2(最大径)×126.5mm(全長)mm/重量630g。フィルター径は、タムロンのミラーレス用レンズの多くが採用する67mm。携行しやすいコンパクトなサイズ感が魅力だ。フォーカス方式には、ピント合わせ時に全長が変わらないインナーフォーカスを採用している。
カメラ側で割り当てた機能を使用できるフォーカスセットボタン、よりスピーディーなピント合わせを可能にするフォーカスリミッタースイッチを搭載。その近くにコネクターポートもある
タムロンの90mmマクロレンズの魅力は、何と言ってもその写りのよさにある。高性能なマクロレンズらしくピント面はシャープな特性ながら、滑らかでやわらかなボケ味も得られるのが伝統的な特徴だ。ここからは作例を交えて、「90mm F/2.8 Di III MACRO VXD」の描写力を解説していこう。
Z6III、90mm F/2.8 Di III MACRO VXD、F5.6、1/125秒、ISO100、WB:晴天、ピクチャーコントロール:ビビッド
撮影写真(6048×4032、17.7MB)
上の作例は最短撮影距離(0.23m)まで近づき、等倍撮影したカットだ。本レンズは12群15枚のレンズ構成。接写時もピントの合った部分はしっかり解像されてきめ細かい。立体感のある葉脈の質感を迫力いっぱいに再現できた。
Z6III、90mm F/2.8 Di III MACRO VXD、F5.3、1/640秒、ISO100、WB:晴天、ピクチャーコントロール:ビビッド
撮影写真(6048×4032、8.6MB)
Z6III、90mm F/2.8 Di III MACRO VXD、F5、1/80秒、ISO100、+0.3EV、WB:晴天、ピクチャーコントロール:スタンダード
撮影写真(6048×4032、7.5MB)
上の2枚の作例も等倍撮影したものだが、ピントの合った部分はしっかり解像しつつ、前後のボケは非常に滑らかでやわらかい。このメリハリのある描写がマクロレンズでは最も重要な要素だ。
そして、本レンズは12枚羽根の円形絞りを採用しているのも大きなポイント。最大撮影倍率1:1から1:4付近のマクロ領域において、絞り開放時に玉ボケが真円になるように配慮されているという。下の作例では美しい玉ボケを背後で確認できる。
Z6III、90mm F/2.8 Di III MACRO VXD、F3.2、1/2000秒、ISO640、+0.3EV、WB:自然光オート、ピクチャーコントロール:スタンダード
撮影写真(6048×4032、10.2MB)
「90mm F/2.8 Di III MACRO VXD」は中望遠の明るい単焦点レンズとしての側面もある。中望遠レンズとして用いつつ、マクロ機能を使って人物の表情にも迫りやすく、身に付けているアクセサリーなどもしっかりクローズアップできる。ポートレートでも大変扱いやすいレンズだ。
Z6III、90mm F/2.8 Di III MACRO VXD、F2.8、1/50秒、ISO800、+0.3EV、WB:曇天、ピクチャーコントロール:ポートレート
撮影写真(6048×4032、11.2MB)
上の作例は絞り開放で撮ったもの。背景ボケもダイナミックで美しい。人物をしっかり浮き上がらせている。
Z6III、90mm F/2.8 Di III MACRO VXD、F3.2、1/80秒、ISO160、+0.3EV、WB:自然光オート、ピクチャーコントロール:ポートレート
撮影写真(6048×4032、9.5MB)
上の作例では表情にクローズアップした。瞳をしっかりシャープにとらえている。背景ボケもとろけるように滑らかだ。90mmという中望遠域とF2.8という明るい開放絞り値はポートレートでは大きな武器になる(※ニコン Z マウント用では、絞り値は実効F値で表示されます)。
Z6III、90mm F/2.8 Di III MACRO VXD、F2.8、1/125秒、ISO100、+0.3EV、WB:曇天、ピクチャーコントロール:ポートレート
撮影写真(6048×4032、9.7MB)
壁越しに前後ボケを狙った。ピントの合った部分のシャープな質感と前後のボケ感が気持ちいい。90mmはポートレートレンズと呼ばれる85mm単焦点レンズに慣れ親しんでいる人にも扱いやすい焦点距離だろう。人物に対する周囲の入り込み方に違和感がなく、構図を組み立てやすい。
ポートレートでは“寄りたいところまでしっかり寄れる”ことが重要だ。等倍撮影するというよりは、近づいて撮れる表現域が圧倒的に広がることにマクロレンズを使う魅力がある。手元やピアス、表情のクローズアップなど、自分好みの距離感を自由に詰められるのがいい。
Z6III、90mm F/2.8 Di III MACRO VXD、F3.3、1/640秒、ISO400、-0.3EV、WB:曇天、ピクチャーコントロール:ポートレート
撮影写真(4032×6048、8.8MB)
Z6III、90mm F/2.8 Di III MACRO VXD、F3.3、1/250秒、ISO400、-0.3EV、WB:曇天、ピクチャーコントロール:ポートレート
撮影写真(6048×4032、9.2MB)
Z6III、90mm F/2.8 Di III MACRO VXD、F3.3、1/320秒、ISO400、WB:オート、ピクチャーコントロール:ポートレート
撮影写真(4032×6048、8.6MB)
「90mm F/2.8 Di III MACRO VXD」は、AF駆動にリニアモーターフォーカス機構「VXD」を採用している。タムロン史上最高レベルのAF動作を可能にしているとのことだが、ポートレートを撮っていても確かにAFはスムーズ。瞳を正確に追いながらピントを合わせ続けてくれた。「Z6III」との親和性も非常に高いことを実感できた。
前ボケを作りながら撮影。安定して瞳にピントを合わせ続けてくれた。寄っても引いてもピント合わせの精度は高くスピーディーだ
Z6III、90mm F/2.8 Di III MACRO VXD、F3、1/160秒、ISO160、+0.3EV、WB:自然光オート、ピクチャーコントロール:ポートレート
撮影写真(6048×4032、10.2MB)
動いてもらいながら撮影したが、ピント合わせは良好。追従性が高く、顔をしっかり抽出してくれた
Z6III、90mm F/2.8 Di III MACRO VXD、F2.8、1/250秒、ISO400、+0.3EV、WB:曇天、ピクチャーコントロール:ポートレート
撮影写真(4032×6048、11.5MB)
Z6III、90mm F/2.8 Di III MACRO VXD、F6.3、1/100秒、ISO800、-0.3EV、WB:曇天、ピクチャーコントロール:スタンダード
撮影写真(4032×6048、8.8MB)
Z6III、90mm F/2.8 Di III MACRO VXD、F3.2、1/250秒、ISO100、WB:晴天、ピクチャーコントロール:ビビッド
撮影写真(4032×6048、10.9MB)
Z6III、90mm F/2.8 Di III MACRO VXD、F2.8、1/320秒、ISO100、WB:晴天、ピクチャーコントロール:ビビッド
撮影写真(4032×6048、10.2MB)
Z6III、90mm F/2.8 Di III MACRO VXD、F3、1/250秒、ISO400、-0.3EV、WB:曇天、ピクチャーコントロール:ポートレート
撮影写真(4032×6048、8.6MB)
Z6III、90mm F/2.8 Di III MACRO VXD、F3、1/60秒、ISO800、WB:曇天、ピクチャーコントロール:ポートレート
撮影写真(4032×6048、9.4MB)
Z6III、90mm F/2.8 Di III MACRO VXD、F4、1/1250秒、ISO400、+0.7EV、WB:曇天、ピクチャーコントロール:ビビッド
撮影写真(4032×6048、9.3MB)
タムロン初のミラーレス用のマクロレンズとして、満を持して登場した「90mm F/2.8 Di III MACRO VXD」。描写性やAF性能など、純正レンズに引けを取らない仕上がりで、サードパーティーレンズらしく価格も良心的だ。2024年10月31日時点での価格.com最安価格はニコン用が102,960 円、ソニー用が97,020円(いずれも税込)。現在はニコンとソニーのみの対応だが、今後他メーカーへの広がりに期待したいところだ。
今回はポートレートでも本レンズを多用してみた。マクロレンズは接写を得意とするいっぽう、明るい単焦点レンズとしても大いに活用できる。特に中望遠マクロレンズは気軽に背景ボケや圧縮効果を演出できるので、ポートレート初心者にも扱いやすい入門レンズという側面もある。ぜひ手に取って、その使い心地を体験してもらいたい。
モデル:名取五葉