キヤノンの「開放F1.4単焦点Lレンズ」シリーズは、静止画撮影と動画撮影のハイブリッド対応をうたう新しいタイプの高性能レンズ。2025年2月時点では、焦点距離24mm/35mm/50mmの3本がラインアップされている。キヤノンの新しい大口径“L”単焦点レンズ群ということで注目度の高い製品だが、どういった魅力を持っているのだろうか? キヤノンの担当者へのインタビューと実写レビューから探っていく。
静止画撮影でも動画撮影でも使いやすい高性能レンズとして企画された「開放F1.4単焦点Lレンズ」シリーズ。2025年2月27日時点では、「RF24mm F1.4 L VCM」(画像左)、「RF35mm F1.4 L VCM」(画像右、「EOS R5 Mark II」に装着)、「RF50mm F1.4 L VCM」(画像中央)の3本が発売されている
・静止画撮影と動画撮影の両方に対応できるハイブリッドなレンズ
・開放絞り値F1.4の大口径
・画質を徹底追求した光学設計(UD レンズや非球面レンズを使用)
・開放F1.4の明るさを生かした大きくて滑らかなボケ味(絞り羽根11枚)
・「VCM」と「ナノUSM」を組み合わせた「電子式フローティングフォーカス制御」を採用
・静止画撮影時の高速・高精度AFと動画撮影時の滑らかなピント合わせを両立
・フォーカスブリージングを大幅に抑制
・焦点距離24mm/35mm/50mmの3本がラインアップ(2025年2月時点)
・全長約99.3mm/重量500g台の小型・軽量設計
・フィルター径67mm
・防塵・防滴仕様
商品企画担当:キヤノン株式会社 IMG第一商品企画センター 奥村 麻由さん
メカ設計担当:キヤノン株式会社 IMG光学開発センター 長野 敏宗さん
電気設計担当:キヤノン株式会社 IMG光学開発センター 因 紘生さん
光学設計担当:キヤノン株式会社 光学技術統括開発センター 井野 友裕さん
価格.comマガジン 真柄:
まずは、「開放F1.4単焦点Lレンズ」シリーズの商品コンセプトを教えてください。
商品企画担当 奥村さん:
本シリーズは「静止画撮影と動画撮影の両方に高いレベルでシームレスに対応できること」をコンセプトに商品化しました。その背景には、一眼カメラ市場において動画撮影のニーズが高まっていることがあげられます。
特にフリーランスで活動するプロから動画対応を求める声が多くなっています。動画コンテンツの需要が拡大するなかで、制作の現場では静止画だけでなく動画を求められるケースが増えており、カメラだけでなくレンズにも静止画/動画の両方に対応できるハイブリッドな機材が必要とされているのです。
そうした状況のなか、プロ仕様の「Lレンズ」においても、ニーズの変化に応える製品を提供する必要があり、本シリーズを商品化しました。静止画だけでなく動画にも高いレベルを求めるプロのクオリティに応えられる機能を詰め込んでいます。
商品企画担当の奥村さん
価格.comマガジン 真柄:
開放F1.4の高性能な「Lレンズ」としてはとてもコンパクトです。3本並べるとサイズ感が揃っていることもよくわかります。
商品企画担当 奥村さん:
撮影の利便性を向上させることにこだわって、小型・軽量なサイズ感を実現しています。焦点距離24mm/35mm/50mmの3本でサイズを共通化(最大径76.5×全長99.3mm)しているうえ、重量も500g台に収めました。フィルター径も67mmで共通です。
ワンオペレーションや少人数チームで動画を撮影する場合、カメラは1〜2台程度でレンズを交換しながら撮り続けることが多いかと思いますが、こうした撮り方をする本シリーズのユーザーからは「サイズ感が揃っているのでジンバル使用時のバランス調整がやりやすく、レンズをスムーズに交換して撮影を続けられる」という声をいただいています。
3本のレンズのサイズは76.5(最大径)×99.3(全長)mmで共通
価格.comマガジン 真柄:
動画撮影向けの機能としては、クリック感のない「アイリスリング」を搭載していることが特徴だと思います。クリック感をなくした理由を教えてください。
商品企画担当 奥村さん:
本シリーズの「アイリスリング」は、ワンオペレーションや少人数チームで動画撮影を行うプロが使用することを強く意識し、動画撮影前提の機能としてクリック感なしの仕様としました。絞りをスムーズに動かせるのはもちろんのこと、絞り値を視認しやすいデザインを採用したり、「CINEMA EOS SYSTEM」のシネマレンズとリングの回転方向や操作感を揃えたりと、細かいところにも動画撮影向けにこだわって設計しています。
ただ、静止画撮影で使用する人から、クリック感がない点を気にする声が寄せられていることも承知しています。静止画撮影でクリック感を求める場合は、レンズの「コントロールリング」に機能を割り当てて使用することをおすすめしています。
メカ設計担当 長野さん:
クリック感をなくした理由としては、クリックの有無を切り替える機構を搭載すると、どうしてもレンズのサイズ感が大きくなってしまうということもあります。本シリーズは、開放絞り値がF1.4の大口径タイプで大きなレンズを使用しているため、クリック機構を設けると筐体が太くなってしまいます。
「レンズのサイズは大きくなるもののクリック機構を設ける」という選択肢と、「絞りをスムーズに動かすことに特化して小型化を優先する」という選択肢のどちらが本シリーズの想定するユーザーにメリットがあるかを検討し、クリック感なしの構成を採用させていただきました。
メカ設計担当の長野さん
価格.comマガジン 真柄:
細かい仕様で恐縮なのですが、「EOS R1」と「EOS R5 Mark II」のみ静止画撮影時に「アイリスリング」を利用できるのはなぜなのでしょうか?
商品企画担当 奥村さん:
本シリーズは最初に「RF35mm F1.4 L VCM」を2024年7月に発売しましたが、「RF35mm F1.4 L VCM」の発売後にリリースするカメラから静止画撮影での「アイリスリング」操作に対応するという前提で商品化を進めておりました。そのため、2025年2月時点では、2024年8月発売の「EOS R5 Mark II」と、2024年11月発売の「EOS R1」のみの対応とさせていただいております。
価格.comマガジン 真柄:
技術面では、「VCM(ボイスコイルモーター)」と「ナノUSM」を使った「電子式フローティングフォーカス制御」が大きなポイントだと思います。この仕組みの採用で実現できたことを教えてください。
電気設計担当 因さん:
「電子式フローティングフォーカス制御」は、フォーカスレンズとフローティングレンズの2つのレンズ群を2つのモーターで駆動する技術です。本シリーズでは、「VCM」でフォーカスレンズを、「ナノUSM」でフローティングレンズを制御する設計を採用しました。この組み合わせによって、高速・高精度なAFと滑らかで静粛なピント合わせを高いレベルで両立しつつ、フォーカスブリージングの抑制も実現しています。
価格.comマガジン 真柄:
「VCM」は「RF35mm F1.4 L VCM」において「RFレンズ」「EFレンズ」として初めて採用されたモーターです。開発で苦労した点がありましたら教えていただけますでしょうか。
電気設計担当 因さん:
課題はいくつもあったのですが、特に難しかったのが制御アルゴリズムの開発です。
「VCM」と「ナノUSM」はそれぞれ特性が異なったモーターです。「VCM」はパワーがあって重たいレンズを動かすのが得意ですが、動作スピードを優先しすぎると、どうしても手に伝わる振動や動作音が大きくなってしまいます。いっぽうの「ナノUSM」は軽量で滑らかな動作が特徴です。両方のモーターの得意な部分を生かしつつ、片方の不得意な部分をもう片方で補うような制御を取り入れて全体の性能の底上げを図ったのですが、そのアルゴリズムの開発には苦労しました。かなり複雑な制御を行っています。
静止画撮影も動画撮影も本気で取り組む人に向けたレンズですので、静止画/動画のそれぞれのモードにおける最適解を強く意識し、静止画撮影ではAFの速度と精度、動画撮影では静音性と滑らかさにこだわって設計しました。このあたりの制御は、シミュレーション技術を活用して事前に精度検証を行っています。実際に組みあがった製品でシミュレーションと同じ効果が得られることがわかったときは安心しました。
電気設計担当の因さん
価格.comマガジン 真柄:
モーターを2つ搭載しているのにレンズを小型化できたのはなぜなのでしょうか?
メカ設計担当 長野さん:
「VCM」は直線的に動作するモーターですので、レンズの周囲をアクチュエーターが占める「リングUSM」と比べるとコンパクトに設計できるのが大きいですね。加えて、「VCM」と「ナノUSM」の伝送回路の配置を工夫することで小型化を実現しています。
価格.comマガジン 真柄:
光学的にはどんな特徴を持っているのでしょうか? 描写の傾向など教えてください。
光学設計担当 井野さん:
「Lレンズ」にふさわしい高画質を実現するために、「UDレンズ」や非球面レンズを採用するなどして、いっさい妥協のない光学設計を採用しています。中心だけでなく周辺まで解像力にすぐれるというだけでなく、ボケにもこだわり、美しい滑らかなボケ味が得られるように収差をまとめています。加えて、本シリーズは静止画と動画のハイブリッドなレンズということで、「VCM」による重たいレンズ群の駆動と「電子式フローティングフォーカス制御」によって光学的にフォーカスブリージングを抑制しているのも大きな特徴です。
電気設計担当 因さん:
フォーカスブリージングの抑制については、「電子式フローティングフォーカス制御」の動作精度にこだわりました。あらゆるフォーカスポジションでフォーカスブリージングを抑えるために、フォーカス駆動時の「VCM」と「ナノUSM」の位置関係をマイクロメートル単位で調整しています。
価格.comマガジン 真柄:
「RF24mm F1.4 L VCM」と「RF35mm F1.4 L VCM」の2本は、ボディ側の歪曲収差補正が自動で働く仕様になっています。電子的な歪曲収差補正を採用するメリットを教えてください。
光学設計担当 井野さん:
電子的な歪曲収差補正を前提に光学設計を行うことのメリットは大きく2つあります。ひとつはレンズの小型化です。光学的に歪曲収差を補正しようとすると、広角レンズの場合、どうしても前玉が大きくなってしまいますが、電子補正を前提にするのなら大きな前玉を使う必要がなくなり、大幅な小型化を実現できます。
もうひとつは画質面でのメリットです。広角レンズの場合、一般的には周辺が圧縮される樽型の歪曲収差が発生します。樽型の歪曲収差を電子的に補正するには、周辺を引き伸ばす必要があるのですが、この場合、どうしても画質は劣化してしまいます。この説明だけだと「画質面のメリットとは?」と疑問に思うかもしれませんが、ポイントは、歪曲収差を許すことで、像面湾曲収差など、電子的に補正できない収差を光学的に抑えやすくなることです。歪曲収差を許すことで、画質劣化により大きな影響を与えるほかの収差を補正しやすくなるんです。結果、よりコンパクトなサイズ感で、光学的に歪曲収差を補正する大きなレンズと同等の画質を得ることができるのです。
光学的な収差はないほうがよいと思う方もいらっしゃると思いますが、歪曲収差は電子的な補正ととても相性がよく、補正のシミュレーションが行いやすいこともお伝えしておきたいです。「RF24mm F1.4 L VCM」と「RF35mm F1.4 L VCM」においては、電子的に引き伸ばしても十分な画質が得られることをシミュレーションで確認したうえで、小型化と高画質化の両方でメリットがあると判断し、電子的な歪曲収差補正を前提にする仕様を採用しました。
光学設計担当の井野さん
価格.comマガジン 真柄:
静止画撮影における本シリーズの魅力を教えてください。どういった使い方に向くレンズだと考えていますか?
商品企画担当 奥村さん:
本シリーズは、静止画と動画の双方のユーザーに適したレンズとして打ち出しておりますので、もちろん、静止画撮影でも使いやすいレンズに仕上がっています。静止画撮影での魅力としては、まず、開放F1.4の「Lレンズ」としての画質があげられます。高画質と美しいボケ味を高いレベルで両立していますので、使っていただくと画質に満足いただけると自信を持っています。
加えて、開放F1.4の「Lレンズ」としては小型・軽量なのも静止画撮影で使いやすい点です。「RF35mm F1.4 L VCM」は、一眼レフ用の「EF35mm F1.4L II USM」を比べて重量が200g以上も軽くなっています。ミラーレスカメラの機動力を高める小型レンズですので、特にスナップ的な撮り方をする場合にメリットを感じやすいと思います。また、防塵・防滴仕様ですので登山などアクティブな使い方にも十分に対応できます。
開放F1.4の「Lレンズ」としてはコンパクトなサイズ感を実現
価格.comマガジン 真柄:
今後のシリーズ展開について教えてください。たとえば、超広角レンズや中望遠レンズなどを展開する予定はあるのでしょうか? また、今後は「RFレンズ」全体で動画撮影用の「アイリスリング」の採用が増えていくのでしょうか?
商品企画担当 奥村さん:
今後の製品展開については具体的にお答えできないのですが、「開放F値1.4単焦点Lレンズ」シリーズと銘打っておりますので、ぜひご期待ください。次に何が登場するのかを楽しみにしていただければと思います。
「アイリスリング」の採用は、レンズのコンセプトによって変わります。動画撮影のニーズが高まっているとはいえ、静止画撮影をメインで使用する人のほうが多いため、商品ごとに都度判断していきます。
価格.comマガジン 真柄:
最後に価格.comのユーザー向けてひとことコメントをお願いいたします。
商品企画担当 奥村さん:
いつもキヤノンの製品を楽しみにしてくださってありがとうございます。おかげさまで「RFレンズ」のラインアップは非常に増えてきております。今後も、「Lレンズ」からスタンダードなレンズまでラインアップの拡充をしてまいりますのでご期待ください。「VRレンズ」のような挑戦的なレンズや、「RF28-70mm F2.8 IS STM」のようなこれまでにない小型化を実現したレンズもございます。さまざまなコンセプトのレンズを提供していきますので、カメラボディとあわせてレンズの進化も楽しんでいただけたらありがたいです。今後も期待に応えられるような製品をお手元に提供できるようにがんばっていきます。
電気設計担当 因さん:
自分が設計した製品を中心に、価格.comに書かれているレビューは必ず全部目を通しています。お客さまがキヤノンの製品をどう感じているのかはとても重要で、いい意見だけでなく悪い意見であっても、今後の製品開発の参考にしていかないといけないと思っております。「開放F値1.4単焦点Lレンズ」シリーズについては、価格が少し高いという声もありますが、価格に恥じないような品質の製品を作ることができたと思っております。フォーカスの動きなどは実際にレンズを触って体感していただきたい部分ですので、ぜひ店頭で手に取っていただいて性能をチェックしてもらえるとれしいです。
光学設計担当 井野さん:
「開放F値1.4単焦点Lレンズ」シリーズに限らず、静止画向けだから、動画向けだから、ハイブリッドだからといって画質に妥協している部分はいっさいありません。ぜひ使っていただいて画質のよさを確認してもらいたいです。私もキヤノン製品に対する価格.comのクチコミやレビューはすべて目を通して参考にしております。いつも貴重なご意見ありがとうございます。今後ともよろしくお願いいたします。
メカ設計担当 長野さん:
因さん、井野さんと同じように、私も価格.comの書き込みはチェックしています。厳しいご意見を目にすることもありますが、ユーザーの貴重な声ですので開発の参考にさせていただいております。「開放F値1.4単焦点Lレンズ」シリーズにおいては、これまでと同様に、使いやすく性能の高いレンズに仕上がったと感じています。ぜひ一度手に取っていただき、使用感のよさを味わっていただけるとうれしいです。ダメだと思う部分は価格.comのクチコミ掲示板にどんどん書いていただければと思います。今後もよろしくお願いいたします。
左から光学設計担当の井野さん、メカ設計担当の長野さん、電気設計担当の因さん
続いて、「開放F値1.4単焦点Lレンズ」シリーズを使って撮影した作例を掲載する。どの作例も絞り開放F1.4で撮影しているので、ピント位置の解像感やボケ味などをチェックしてほしい。
EOS R5 Mark II、RF24mm F1.4 L VCM、F1.4、1/400秒、ISO100、ホワイトバランス:太陽光、ピクチャースタイル:スタンダード
撮影写真(8192×5464、10.4MB)
EOS R5 Mark II、RF24mm F1.4 L VCM、F1.4、1/1250秒、ISO100、ホワイトバランス:太陽光、ピクチャースタイル:スタンダード
撮影写真(8192×5464、12.5MB)
EOS R5 Mark II、RF35mm F1.4 L VCM、F1.4、1/6400秒、ISO100、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャースタイル:スタンダード
撮影写真(8192×5464、38.3MB)
EOS R5 Mark II、RF35mm F1.4 L VCM、F1.4、1/40秒、ISO100、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャースタイル:スタンダード
撮影写真(8192×5464、11.4MB)
EOS R5 Mark II、RF50mm F1.4 L VCM、F1.4、1/1250秒、ISO100、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャースタイル:スタンダード
撮影写真(8192×5464、12.6MB)
EOS R5 Mark II、RF50mm F1.4 L VCM、F1.4、1/6400秒、ISO100、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャースタイル:スタンダード
撮影写真(8192×5464、12.2MB)
3本に共通して言えるのが、「Lレンズ」らしい良質な画質を実現しているということ。近接での撮影でも絞り開放からピント位置はシャープで、それでいてボケが自然なのが性能の高さを感じさせる部分だ。周辺にかけて劣化していく感じが少なく、画面全体で非常にクリアな画質が得られている。
3本の描写の傾向が非常に近しいことも押さえておきたいポイントだ。カラーバランスが揃っているというだけでなく、ハイライトやシャドーのトーンも似ている。もちろんボケの大きさなどは異なるのだが、レンズを交換した際に写りが変わる感じがなく、焦点距離だけが変わっていくという感覚で使用できた。シリーズに共通する個性で撮り分けわけられるので、撮影した写真に統一感を出しやすいのがよいと感じた。
また、開放F1.4のレンズとしてはコンパクトなのもこのシリーズの魅力だ。静止画撮影においても、やはりレンズは小さくて軽いほうが負担が少ない。「EOS R5 Mark II」とシリーズ3本を組み合わせた場合の総重量は2kg台前半。開放F1.4の高画質なフルサイズシステムとしては軽量で持ち運びやすかった。
使い勝手の面では、非常にスムーズなフォーカス駆動を実現していることを確認できた。屋外で使っているとAFの動作音はほぼ聞こえないうえ、レンズをホールドする手に伝わる振動も非常に少ない。小型・軽量と相まって、撮影していて負担を感じにくい大口径レンズだと感じた次第だ。
さらに、フォーカスブリージングが抑えられているため、同じ構図でピント位置を大きく変えても画角が変わらず、フレーミングしやすかったこともお伝えしておきたい。フォーカスブリージングの抑制は動画撮影向けという印象を持つかもしれないが、静止画の撮影においても心地よさをもたらしてくれる。
EOS R5 Mark II、RF35mm F1.4 L VCM、F11、1/50秒、ISO100、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャースタイル:スタンダード
撮影写真(8192×5464、36.8MB)
「開放F値1.4単焦点Lレンズ」シリーズはレンズコーティングに「ASC(Air Sphere Coating)」を採用しており、フレア・ゴーストに強いのも特徴だ。「RF24mm F1.4 L VCM」については、「ASC」に加えて、入射角が大きな光に対して高い反射防止効果を発揮する「SWC(Subwavelength Structure Coating)」も採用している。
「RF35mm F1.4 L VCM」を使って撮影した上記の作例では、太陽を画面に入れているものの、気になるようなフレア・ゴーストは発生していない。強い光線を切るように撮っているとはいえ、「Lレンズ」らしく逆光耐性にすぐれるレンズと言えるだろう。
最後に、参考として、「開放F値1.4単焦点Lレンズ」シリーズの「RF35mm F1.4 L VCM」と、同じ開放F1.4のスペックを持つ一眼レフ用の「EF35mm F1.4L II USM」の比較作例を掲載する。「EOS R5 Mark II」を使って、強い逆光下での絞り開放の画質をチェックしてみた。「EF35mm F1.4L II USM」の装着には純正のマウントアダプター「EF-EOS R」を使用している。
EOS R5 Mark II、RF35mm F1.4 L VCM、F1.4、1/10000秒、ISO100、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャースタイル:スタンダード
撮影写真(8192×5464、11.4MB)
EOS R5 Mark II、EF35mm F1.4L II USM、F1.4、1/10000秒、ISO100、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャースタイル:スタンダード
撮影写真(8192×5464、11.1MB)
ピント位置をチェックすると、両レンズともシャープな写りで差は感じられない。ピント面前後の色収差の出方を見ると、「RF35mm F1.4 L VCM」のほうがわずかにフリンジが抑えられているようだが、画像を等倍で比較してわかる程度。ボケの輪郭の色付きも「RF35mm F1.4 L VCM」のほうが少ないようだが、これもごくわずかな違いだ。背景のボケについては、「EF35mm F1.4L II USM」のほうが若干大きいように見えるが、写真として仕上がりは両レンズで差がないと言っていいだろう。
この比較のポイントはレンズのサイズ感だ。重量は「RF35mm F1.4 L VCM」が約555g、「EF35mm F1.4L II USM」が約760gと約205gの差がある。より軽量な「RF35mm F1.4 L VCM」が、「EF35mm F1.4L II USM」と変わらない画質を実現しているのがすごい。レンズの進化を強く感じる点である。
「開放F1.4単焦点Lレンズ」シリーズは、静止画撮影と動画撮影のハイブリッドなレンズとして打ち出されているため、どうしても「動画撮影向け」という印象を持つかもしれない。しかし、キヤノンの担当者へのインタビューでも説明があったように、静止画向けの性能や機能をスポイルしていることはいっさいなく、静止画撮影でも非常に扱いやすいレンズに仕上がっている。
最大の魅力は、開放F1.4のスペックを持つ「Lレンズ」のクオリティを500g台の小型・軽量な筐体で実現していることだ。スムーズなAF駆動とフォーカスブリージングの抑制も特筆すべき点で、とにかく心地よく使うことができる。使えば使うほどによさがわかってくるレンズではないだろうか。
「EOS Rシリーズ」で使用する高性能な大口径レンズの購入を検討しているなら、選択肢に入れておきたいシリーズなのは間違いない。特に、スナップやポートレートなどをメインに撮影していて、機材をできる限りコンパクトにしたい人にぴったり。ぜひ一度手に取っていただき、このシリーズのよさを感じてみてほしい。
なお、担当者インタビューでもあったように、キヤノンの担当者の方は価格.comのクチコミ掲示板やユーザーレビューをチェックして開発の参考にしているとのこと。今回紹介した「開放F1.4単焦点Lレンズ」シリーズに限らず、キヤノン製品に関する評価や意見があればクチコミ掲示板・ユーザーレビューにどんどん書き込んでほしい。