「フジノンレンズ XF16-55mmF2.8 R LM WR II」は、富士フイルム「Xシリーズ」のAPS-Cミラーレスカメラ用の新しい標準ズームレンズ(2024年12月20日発売)。ロングセラーモデル「XF16-55mmF2.8 R LM WR」の後継機で、開放F2.8通しの高性能な標準ズームとしては驚くほどの小型・軽量を実現しているのが大きな特徴です。
「Xシリーズ」の多くのユーザーから選ばれており、価格.com「レンズ」カテゴリーの人気売れ筋ランキングの順位は2025年3月17日時点で6位。「Xシリーズ」の純正レンズのなかで最も高い人気を誇ります。今回は、そんな「XF16-55mmF2.8 R LM WR II」の実力を、前モデルとの比較を交えながら紹介していきたいと思います。
「XF16-55mmF2.8 R LM WR II」は、35mm判換算で焦点距離24〜84mm相当の画角に対応するAPS-C用の標準ズーム。人気のAPS-Cミラーレス「X-T5」に装着してレビューしました。性能を考慮するとレンズもカメラも小さく、スマートさを感じる組み合わせです
「XF16-55mmF2.8 R LM WR II」のいちばんの特徴は、富士フイルム「Xシリーズ」用レンズの最高峰「レッドバッチ」シリーズの大口径・標準ズームでありながらコンパクトなこと。前モデルと比べると、最大径は5mm、全長は11mm小さく、重量については約245gも軽くなっています。
XF16-55mmF2.8 R LM WR II
サイズ:約78.3(最大径)×95(全長)mm
重量:約410g
XF16-55mmF2.8 R LM WR
サイズ:約83.3(最大径)×106(全長)mm
重量:約655g
数値を見てもわかりにくいと思いますので、両レンズを並べた以下の画像をご覧ください。こうして比べてみると、「前モデルよりもひとまわり小さい」というのが実感できるのではないかと思います。
左が「XF16-55mmF2.8 R LM WR II」で、右が「XF16-55mmF2.8 R LM WR」。並べてみると、単体で見るよりもサイズ感の違いは明らかですね。このコンパクトさが本モデル最大の特徴です
続いて、やや余興的になりますが、筆者所有の開放F4通し・標準ズーム「XF16-80mmF4 R OIS WR」とも並べてみました。ズーム域/開放F値が異なるのでフェアな比較とは言えませんが、「XF16-55mmF2.8 R LM WR II」は開放F2.8通しの高性能・標準ズームながら、F4通しズームとさほど違わない大きさであることがわかります。ちなみに、「XF16-80mmF4 R OIS WR」の重量は約440g。「XF16-55mmF2.8 R LM WR II」のほうが約30g軽いです。
左が「XF16-55mmF2.8 R LM WR II」で、右が「XF16-80mmF4 R OIS WR」。さほど変わらないサイズで開放F2.8通しの高性能を実現しています。しかも重量は「XF16-55mmF2.8 R LM WR II」のほうが軽い!
「XF16-55mmF2.8 R LM WR II」のリング類に関しては、レンズ先端から「フォーカスリング」「ズームリング」「絞りリング」が並ぶ配置で、前モデルと同じです。前モデルからの移行であっても、大まかな操作性で迷うことはないでしょう。
レンズ先端から「フォーカスリング」「ズームリング」「絞りリング」の順。リング類の並びに変更はありません
前モデルから進化しているのはスイッチ類で、絞りリングの「ロックスイッチ」と「絞りクリックスイッチ」がそれぞれ追加されています。
絞りリングの「ロックスイッチ」は、絞り設定の「A」とそれ以外を切り替える用途で使用するもの。今では比較的多くのレンズが搭載している機能です。いっぽう、絞りリングのクリックのオン/オフを切り替えるための「絞りクリックスイッチ」は、少なくとも「Xシリーズ」用の純正レンズのなかでは、本モデルが初搭載。やや遅ればせながらの感はありますが、現代的に、静止画撮影だけでなく動画撮影にも配慮した結果といったところでしょう。
絞りリングの「ロックスイッチ」と、クリックのオン/オフを切りための「絞りクリックスイッチ」を搭載しています
本レンズはインナーズームではありませんので、望遠端にズームするほど鏡筒は伸長しますが、これは前モデルも同じです。
望遠端方向にズームするほど鏡筒は伸長します。広角端での全長は95mmで、望遠端は122mm。それほど極端な伸長ではありません
専用の花型レンズフードが付属します。オーソドックスなフードですが、実用的には十分な遮光効果を発揮してくれるように設計されています
ここからは、「XF16-55mmF2.8 R LM WR II」の解像性能を確認していきたいと思います。今回は、前モデル「XF16-55mmF2.8 R LM WR」と比較してみました。最高峰「レッドバッジ」の新旧・標準ズームでどのような差があるのかに注目です。
X-T5、XF16-55mmF2.8 R LM WR II、16mm(35mm判換算24mm相当)、F2.8、1/900秒、ISO125、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード
撮影写真(7728×5152、25.5MB)
画面中央およびその付近での画質は細部まで解像感にすぐれており、すばらしいものがあります。さすがは「レッドバッチ」の大口径・標準ズームといったところですが、周辺部分になるといくらかの像の乱れが見られます。とはいっても、開放F2.8通しの明るさを持つ標準ズームの広角端であることを考えれば、十分に許容範囲内と言えるのではないかと思います。
X-T5、XF16-55mmF2.8 R LM WR、16mm(35mm判換算24mm相当)、F2.8、1/850秒、ISO125、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード
撮影写真(7728×5152、24.2MB)
基本的には「XF16-55mmF2.8 R LM WR II」と遜色のない高画質であることは間違いありませんが、画面中央とその付近に限っては、後継機にやや譲るところがあります。しかし、画面周辺部に目を移すと、ゆるやかに続く安定した画質を見てとることができます。画面全体での安定性という意味では、こちらのほうが勝っている印象。携帯性では後継機に劣るものの、サイズが大きいだけの描写性能は備えているということでしょう。
X-T5、XF16-55mmF2.8 R LM WR II、55mm(35mm判換算84mm相当)、F2.8、1/1400秒、ISO125、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード
撮影写真(7728×5152、25.1MB)
広角端と同様、画面中央およびその付近は、さすが最新レンズと言えるほどのすぐれた解像性能を示しています。また、画面周辺部においても、広角端時とは打って変わって、高い解像感が維持されているのも見どころです。
X-T5、XF16-55mmF2.8 R LM WR II、55mm(35mm判換算84mm相当)、F2.8、1/1100秒、ISO125、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード
撮影写真(7728×5152、25.0MB)
画面全体における安定した高画質は、後継機と比べても遜色がありません。厳密には、画面の細かな位置における描写性能は異なりますが、前モデルも高性能・標準ズームとしてふさわしい描写性能を備えているといって問題ないでしょう。
総合すると、新旧レンズとも高い解像性能を持っていることに間違いはありません。新モデルの「XF16-55mmF2.8 R LM WR II」は、昨今のミラーレス専用らしく、特に周辺部の歪曲収差はカメラ側のデジタル的な補正を前提にしている感はありますが、実用上まったく問題ありません。逆に言えば、大幅なコンパクト化を達成しながら高画質を維持しており、さらに使いやすく進化していると言えるでしょう。
X-T5、XF16-55mmF2.8 R LM WR II、16mm(35mm判換算24mm相当)、F2.8、1/220秒、ISO400、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード
撮影写真(7728×5152、18.0MB)
「XF16-55mmF2.8 R LM WR II」の広角端16mmでの最短撮影距離は30cm。このときの撮影倍率は公表されていませんが、35mm判換算で焦点距離24mm相当の画角で30cmですので、最新の高性能な標準ズームとしては妥当なところで、納得できるのではないかと思います。
X-T5、XF16-55mmF2.8 R LM WR、16mm(35mm判換算24mm相当)、F2.8、1/170秒、ISO400、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード
撮影写真(7728×5152、17.8MB)
「XF16-55mmF2.8 R LM WR」の広角端16mmでの最短撮影距離は、「XF16-55mmF2.8 R LM WR II」と同じく30cm(※撮影倍率は非公表)。広角端での近接撮影性能は新旧でほぼ違いがありません。
X-T5、XF16-55mmF2.8 R LM WR II、55mm(35mm判換算84mm相当)、F2.8、1/480秒、ISO400、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード
撮影写真(7728×5152、16.2MB)
「XF16-55mmF2.8 R LM WR II」の望遠端55mm(35mm判換算84mm相当)での最短撮影距離は30cm。このときの撮影倍率は0.21倍で、「マクロレンズのように」とまではいきませんが、大口径レンズならではの大きな背景ボケのなかに、十分なサイズ感をもって被写体を大きく表現できます。
X-T5、XF16-55mmF2.8 R LM WR II、55mm(35mm判換算84mm相当)、F2.8、1/420秒、ISO400、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード
撮影写真(7728×5152、16.7MB)
いっぽう、「XF16-55mmF2.8 R LM WR」の望遠端55mmでの最短撮影距離は40cm。後継機と比べると一歩引いた性能で、このときの撮影倍率は0.16倍です。寄れないというほどではありませんが、最新の標準ズームの多くが近接撮影性能の向上に力を注いでいる現状では、やっぱりちょっと不満が残ってしまいます。
実のところ筆者は、前モデルの「XF16-55mmF2.8 R LM WR」をメインレンズとして愛用していたことがあったのですが、悲しいことに望遠端の近接撮影性能に不満を覚えて、結果的に手放してしまったという経緯があります。後継機の「XF16-55mmF2.8 R LM WR II」は、広角端での近接撮影性能こそ前モデルとほとんど同じですが、望遠端での近接撮影性能が現代的に向上したことによって、あらゆる撮影分野における標準ズームとしての活用性を増したと感じられました。
「XF16-55mmF2.8 R LM WR II」は、最新の高性能レンズだけにゴーストやフレアの抑制が図られているようで、逆光性能はなかなか高くです。太陽などの強い光源が画面内に入りがちな広角域であっても、比較的安心して撮影できます。ただし、オーバー露出気味にすると、光源まわりにフレアやゴーストが発生することもあるので注意したいところです。
X-T5、XF16-55mmF2.8 R LM WR II、16mm(35mm判換算24mm相当)、F5.6、1/2400秒、ISO125、ホワイトバランス:10000K、フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード
撮影写真(7728×5152、16.0MB)
レンズ名称中の “LM” はリニアモーターが採用されていることを意味します。前モデルと同様、速く正確で静かなAF駆動を実現していますので、スナップ撮影はもちろん、ポートレート撮影などでもストレスのない快適なAFを楽しめます。レンズを小型化しても引き続きリニアモーターを採用してくれているのはポイントが高いです。
X-T5、XF16-55mmF2.8 R LM WR II、22.6mm(35mm判換算34mm相当)、F2.8、1/1100秒、ISO125、ホワイトバランス:晴れ、フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード
撮影写真(7728×5152、17.9MB)
本モデルを使ってみて、ちょっと驚いたのが被写体の質感を艶めかしく表現してくれる描写性能のよさでした。良好な解像性能については、方向性の違いがあるとはいえ、前モデルから引きついていますが、質感表現においては本モデルに軍配が上がります。さすが最新の高性能・標準ズームといったところです。
X-T5、XF16-55mmF2.8 R LM WR II、55mm(35mm判換算84mm相当)、F4、1/90秒、ISO400、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード
撮影写真(7728×5152、20.2MB)
以下の写真は、少し絞り込んだF5.6で都市景観を撮影したもの。APS-C用のレンズですので、35mm判換算でのボケ量はF8相当になります。絞り込みの量がフルサイズより少なくても、パンフォーカスならではの、画面全体でキリキリとした高い解像感を得られるところはAPS-Cの醍醐味と言えるのではないかと思います。APS-Cサイズのメリットを生かしきれるレンズだと感じました。
X-T5、XF16-55mmF2.8 R LM WR II、35.1mm(35mm判換算53mm相当)、F5.6、1/110秒、ISO400、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード
撮影写真(7728×5152、22.9MB)
富士フイルムのレンズは、時として解像感を重視してボケは硬めになる傾向があるかのように感じていますが(個人の感想です)、本レンズはそのようなこともなく、高性能ズームにふさわしいだけのやわらかくて美しいボケ味を楽しむことができると思います。
X-T5、XF16-55mmF2.8 R LM WR II、55mm(35mm判換算84mm相当)、F2.8、1/250秒、ISO400、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード
撮影写真(7728×5152、18.6MB)
「XF16-55mmF2.8 R LM WR II」は、細かく見ていくと、現代的なデジタル補正を前提としている部分があるだけに、前モデル「XF16-55mmF2.8 R LM WR」よりも劣って見えるところがあるかもしれません。しかし、総合的には、今どきのミラーレス用の高性能・標準ズームらしさが全面的に押し出された良レンズだと感じました。
何よりも、小型・軽量なミラーレスにとって、レンズもコンパクトで軽いというのは絶対的な正義であります。サイズをいとわず最良の設計が施された前モデルに対して、描写性能を維持しながらも、コンパクト化と操作性の向上を引き出した本レンズは、革新的な正統進化を成しているものだと思います。
そんな「XF16-55mmF2.8 R LM WR II」の価格.com最安価格は17万円程度(2025年3月17日時点)。安いとまでは言えませんが、開放F2.8通しの高性能・標準ズームとしてはお手頃な価格です。APS-Cサイズの特性をよくわかっている人なら、きっと魅力的に感じるのではないでしょうか。