知っているとタメになるカメラ関連情報をお伝えする連載「曽根原ラボ」。第16回は、デジタルカメラの「仕上がり設定」を取り上げます。「仕上がり設定」は、モードを変更するだけの簡単操作で劇的な効果が得られる機能です。「初期設定のままで変えていない」という人もいるかと思いますが、正直使わないのはもったいないです。
ということで、今回は、筆者が所有する富士フイルム機の「フィルムシミュレーション」を使って「仕上がり設定の使いこなし」についてお話ししたいと思います。
今回は富士フイルムのミラーレスカメラ「X-H2S」などを使って「仕上がり設定」を解説します
「仕上がり設定」とは、撮影する写真の色やトーンを手軽に調整できる撮影機能のこと。「スタンダード」や「ビビッド」「風景」といった名称が付けられた複数のプリセットモードが用意されていて、狙いにあわせてそれらのモードを変更することで、より印象的な仕上がりの写真を撮影できます。
なお、「仕上がり設定」は便宜的な名称で、実際はメーカー(一部カメラ)ごとに機能名が異なっています。以下にその一例をご紹介します。
キヤノン:ピクチャースタイル
ニコン:ピクチャーコントロール
ソニー:クリエイティブルック(旧クリエイティブスタイル)
富士フイルム:フィルムシミュレーション
OM SYSTEM:ピクチャーモード
パナソニック:フォトスタイル
シグマ:カラーモード
ペンタックス:カスタムイメージ
「フィルムを交換するように」と表現されることの多い、これらの「仕上がり設定」ですが、デジタルカメラから写真を始めると、この表現は今ひとつピンとこないかもしれませんね。実際に、筆者の周辺の方々でも「使ったことがない」「そんな機能知らなかった」という声もちらほら聞きます。でも、この「仕上がり設定」は、モードを変更するだけで劇的に写真が変わる、基本的にして効果的な機能です。もし一度も使ってことがないのであれば、ぜひ活用してもらいたいです。
ここ数年に発売されたミラーレスの傾向をみると、各メーカーとも、基本性能の向上とともに、「仕上がり設定」の充実にも力を入れています。富士フイルムの場合、「フィルムシミュレーション」をもっと積極的に使ってほしいという願いからか、「X-M5」など「フィルムシミュレーション」の専用ダイヤルを搭載する機種が登場しています
デジタルカメラを手に入れて「仕上がり設定」を意識せずにいると、当然ですが「仕上がり設定」は初期設定のままです。たいていの場合、初期設定は、メーカーが画像仕上げの基準としている「スタンダード」か、シーンや被写体によって自動的にモードを変更する「オート」のどちらかになっています。
「仕上がり設定」の初期設定は「スタンダード」、もしくは「オート」が多いです
「スタンダード」はメーカーが「一般的に好まれる画像仕上げはこうだろう」と考えて設定したもので、「オート」は「この被写体ならこの画像仕上げがよいだろう」とカメラが判断するものです。どちらも、傾向としては「より多くの人に好まれる仕上がり」になっています。
メーカーの深い経験を基に培った技術で作り上げた両モードですので、多くのシーン・被写体に対応できます。しかし、カメラで写真を撮る以上、撮る者の意思を写真に反映させたくなるというもの。そういう声に応えてくれるのが「仕上がり設定」なのです。
大抵のデジタルカメラの「仕上がり設定」には、「スタンダード」のほかに「風景」や「ポートレート」などといった基本的なモードが用意されています。これらのモードを変更するだけでも、写真の雰囲気は大きく変わります。
富士フイルムの「フィルムシミュレーション」では、「PROVIA/スタンダード」が初期設定のモードです。多くの人にとって好ましいと感じられる色合いや彩度、コントラストで仕上げられていますので、普段の撮影に安心して使うことができます。今回は「仕上がり設定の使いこなし」がテーマですので、これを基準として、ほかのモードがどう違うのかを確認していきます。
X-H2S、XF16-50mmF2.8-4.8 R LM WR、F4.8、1/640秒、ISO160、+0.7EV、ホワイトバランス:日陰、フィルムシミュレーション:PROVIA/スタンダード
「フィルムシミュレーション」を「Velvia/ビビッド」にしてみましょう。「Velvia/ビビッド」は、その名のとおり、彩度が高くメリハリの強いビビッドな仕上がりモード。メーカーによっては、「風景」という名称である場合もありますし、「風景」と「ビビッド」の両方が搭載されている場合もあります。
「フィルムシミュレーション」の「Velvia/ビビッド」
「Velvia/ビビッド」は、風景写真やネイチャー撮影などの分野で好んで使われています。下の作例のように、鮮やかな緑のなかに、逆光に浮かぶネコの姿をクッキリと表現することができました。常用するには派手さが目立ちすぎてしまう嫌いはありますが、ここぞというところで鮮鋭な写真を撮りたいときなどに効果的なモードです。
X-T4、XF55-200mmF3.5-4.8 R LM OIS、F4.7、1/180秒、ISO1600、-0.3EV、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:Velvia/ビビッド
次は「フィルムシミュレーション」を「ASTIA /ソフト」にしてみます。「ビビッド」とは逆に、コントラストが抑えられたやわらかい階調なうえ、彩度も控えめで落ち着いた発色です。メーカーにもよりますが、同様のやさしい印象の「仕上がり設定」を「ポートレート」という名称にしている場合もあります。
「フィルムシミュレーション」の「ASTIA /ソフト」
「ASTIA/ソフト」で撮影したのが下の作例。上記の「ビビッド」と比べると、全体的にやさしい雰囲気で、ネコの毛並みもやわらかく表現できていることがわかるのではないでしょうか。この雰囲気が好きで、「スタンダード」「ビビッド」「ソフト」の基本3種のなかでは、個人的に最もよく使う「フィルムシミュレーション」になっています。
X-T2、XF56mmF1.2 R APD、F1.2、1/4000秒、ISO200、+0.7EV、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:ASTIA/ソフト
「仕上がり設定」には多くのさまざまなモードが用意されています。特に最近は、メーカーの独自色が強いクリエイティブなモードがいくつも開発されていて、意欲的に新製品に盛り込まれています。ここでは、富士フイルムの「フィルムシミュレーション」のなかから、特に注目したい新しい3モードを紹介したいと思います。
モノクロ写真も「仕上がり設定」で選べる選択肢のひとつですが、「フィルムシミュレーション」には、通常のモノクロとは別に、同社のモノクロフィルムをシミュレートした「ACROS」というモードがあります。富士フイルムのほかにも、ニコンの「ディープトーンモノクローム」や、パナソニックの「LEICAモノクローム」など、本格的なモノクロの「仕上がり設定」を搭載するデジタルカメラが増えています。
「フィルムシミュレーション」の「ACROS」
名フィルムである「ACROS」をシミュレートしているだけに、ただ色情報を抜いただけのモノクロとは異なり、階調性にすぐれていて質感描写がとても豊かです。ミラーレスは電子ビューファインダーやモニターで、モノクロモードにするとどのように写るのかをあらかじめ確認できるのがいいところですね。微妙な仕上がりの変化がわかりやすく、モノクロで撮影するのが楽しくなります。
X-T2、XF56mmF1.2 R APD、F1.2、1/2400秒、ISO200、ホワイトバランス:オート、フィルムシミュレーション:ACROS
「ETERNA」は映画用として使われていたフィルムをシミュレートして作られた「フィルムシミュレーション」です。映画用らしく、先述の「ASTIA/ソフト」よりもずっと彩度もコントラストも低いのですが、暗部の諧調が豊かという特徴があり、地味ながらもリアルな画作りが好ましく感じられます。
「フィルムシミュレーション」の「ETERNA」
以下は、筆者が2020年に「富士フォトギャラリー銀座」で開催した写真展「関東牛刀ここにあり」で展示した作品のうちの1枚。「フィルムシミュレーション」の「ETERNA」で撮影した画像をもとに、ある程度のレタッチを施しています。包丁を作る伝統工芸士の重厚な雰囲気を表現できたのではないかと思っています。
X-H1、XF35mmF1.4 R、F6.4、1/9秒、ISO200、-0.3EV、ホワイトバランス:晴れ、フィルムシミュレーション:ETERNA
1970年代のアメリカで登場したカラーフィルムを使っての作品群であるニューカラーをイメージしたのが「ノスタルジックネガ」。アンバー調の明部と、再現性が高く表現豊かな暗部が特徴です。
「フィルムシミュレーション」の「ノスタルジックネガ」
この「フィルムシミュレーション」もコントラストは控えめで、スナップ撮影などには相性よく使えると感じています。アンバーな調子を好みに合わせてどこまで乗せるかが面白く、あわせてホワイトバランスの調整にもこだわりたくなります。上手くきまれば何気ない日常の光景を撮っても、どこか不思議と重厚さが漂うようになると感じています。
X-M5、XC15-45mmF3.5-5.6 OIS PZ、F3.5、1/150秒、ISO160、-0.3EV、ホワイトバランス:8000K、フィルムシミュレーション:ノスタルジックネガ
今回は、富士フイルムの「フィルムシミュレーション」を使って「仕上がり設定」の使いこなし」を紹介しましたが、本記事で触れたもの以外にも、「フィルムシミュレーション」にはさまざまなモードが用意されています。ほかのメーカーの「仕上がり設定」も同様で、実に多彩な表現が可能なモードを選べます。
本記事を通して、「仕上がり設定」のモードを選ぶだけで写真のイメージが大きく変わる、ということはおわかりいただけたのではないかと思いますが、たくさんあるモードのなかから自分の好みに合った1種類を選ぶというのは、簡単なようでいて意外に難しいところがあります。そんな場合は、RAWで記録しておいて後から純正のRAW現像ソフトで選ぶという方法もいいかもしれません。
「仕上がり設定」の1つひとつが、多くの知見と豊富なデータをもとに苦労して開発されたものです。なかなか個人では扱いきれない高度な画質設定ですが、それをユーザーが切り替えるだけで簡単に使えるようにしてくれているのですから、利用しない手はないと思います。