動きのある被写体を撮影する際、シャッタースピードの選択が写真の印象を大きく左右する。動きを“止める”だけでなく、逆に“感じさせる”ためのシャッタースピード選びは、意外と難しいものだ。
本記事では、シャッタースピードの基本的なポイントを押さえつつ、被写体別に「シャッタースピードの目安」を詳しく解説。動きのあるシーンをどのように表現するか、撮影の幅を広げるための実践的なアドバイスをお届けしよう。
今回の撮影は、キヤノンのフルサイズミラーレスカメラ「EOS R5 Mark II」と標準ズームレンズ「RF24-105mm F4 L IS USM」の組み合わせで行った
掲載する写真作例について
写真はすべてJPEG形式(最高画質)で撮影しています。
シャッタースピードの数値が特に重要な役割を担うのは、動く被写体を撮影する時だ。動く被写体を止めたければ高速なシャッタースピードに、ぶらしたければ低速なシャッタースピードを利用しよう。
本記事では、“この被写体はこのシャッタースピードを利用しよう”というふうに、具体的な数値を参考にあげていくが、厳密にこれは被写体の動く速さによって変化することを踏まえておこう。
たとえば、滝や河川の水流をぶらして白糸のように撮ろうと思った場合、水の流れに勢いがないと、仮にシャッタースピードを遅くしても、思うようなブレ感が得られない。これはぶらさずに止めたい場合も同じだ。走り去る車を止めて撮ろうと思った場合、速度の速い車はそれ相応のシャッタースピードではないと止まらない。
以下は、シャッタースピードを変えながらメリーゴーラウンドを撮影し、描写の変化を比較したものだが、これも“このシャッタースピードで撮ればこうぶれる、またはこう止まる”ということではない。いずれも“この速さで動く場合に”という前置きがつくのである。シャッタースピードが遅くなるほど、ブレはダイナミックになっていくが、この描写はシャッタースピードだけでなく、メリーゴーラウンドの動く速さにも大きな影響を受けているのだ。
EOS R5 Mark II、RF24-105mm F4 L IS USM、24mm、F4、1/10秒、ISO640、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:風景
EOS R5 Mark II、RF24-105mm F4 L IS USM、24mm、F4、1/2秒、ISO160、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:風景
ご存知のように、昨今のデジタルカメラの進化は著しく、どんどん高精細、高解像に撮れるようになっている。その結果、被写体をしっかり止めて撮りたい場面では、高精細に拡大できるがゆえにごくわずかなブレも目立ちやすくなった。以前にも増して不用意なブレは見過ごせない存在になっているのだ。カメラが進化したことで、ブレに対しよりシビアになっていることも覚えておこう。
そういった意味では、被写体を止めて撮りたいシーンでは感度を上げ、余裕を持った高速シャッターを心掛けよう。カメラの進化は、高精細な高感度撮影も可能にしている。高速シャッターによる表現は、より行いやすくなっているのだ。
以下の作例は、水族館の魚を撮影したもの。シャッタースピードは1/200秒、感度はISO3200に設定した。なるべく動きの少ない被写体を選べば、その分ぶれるリスクを軽減できる。
EOS R5 Mark II、RF24-105mm F4 L IS USM、105mm、F4、1/200秒、ISO3200、ホワイトバランス:オート、ピクチャースタイル:風景
ここからは、被写体別にシャッタースピードの目安を紹介していく。前述のように、被写体の動く速さで変わるものなので、ひとつの目安として参考にしてもらうといいだろう。
滝や河川などの水流を撮る際は、「水(水滴)を止める」のか「ぶらす」のかで大きく設定が変わる。水滴の形をぶらさず、しっかりシャープに撮りたければ、1/2000秒以上の超高速シャッターがおすすめだ。ダイナミックな水の動きがとらえられる。
いっぽう、ぶらしたい場合のシャッタースピードは、水流の勢いに大きな影響を受ける。どんなブレ具合が好みなのか、撮り手の趣向によっても変わるだろう。水の流れる勢いが激しいと1/60秒程度でも白糸のようにぶれてくれるが、勢いがゆるやかだと1/15秒では物足りないことも。1/15秒から少しずつ遅くして、好みのブレ感を探るのが理想的だ。
EOS R5 Mark II、RF24-105mm F4 L IS USM、105mm、F5、1/2000秒、ISO1600、+0.7EV、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャースタイル:風景
EOS R5 Mark II、RF24-105mm F4 L IS USM、105mm、F14、1/15秒、ISO100、+0.7EV、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャースタイル:風景
激しい動きの被写体、予測しづらい動きをする被写体をしっかり止めてとらえたい場合は、1/1000〜1/2000秒程度の高速シャッターがいい。まれに1/1000秒では人物が被写体の場合、手先や足先がぶれることがあるので、1/1600秒以上が安心できる。以下のイルカショーの作例も、1/1000秒では水滴がわずかだがぶれたが、1/1600秒ではぶれずにシャープに止めて撮れた。
EOS R5 Mark II、RF24-105mm F4 L IS USM、72mm、F4、1/1600秒、ISO12800、+0.7EV、ホワイトバランス:日陰、ピクチャースタイル:風景
電車は速さがまちまちで、止めるのに必要なシャッタースピードは、カメラと被写体との距離にも影響を受けるため、厳密にはその都度大きく変化していく。とはいえ、確実に撮れる目安としては1/1000秒を念頭に置こう。
特にトップスピードで左右に走り抜ける電車は1/1000秒がひとつ目安になるだろう。1/500秒ではぶれる可能性がある。いっぽう、奥からこちらに迫り来る様子を撮る場合は、もう少し遅くできる。具体的には1/500秒以上が目安になる。
EOS R5 Mark II、RF24-105mm F4 L IS USM、67mm、F5.6、1/1000秒、ISO100、-0.3EV、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャースタイル:風景
運動会で子どもたちを撮るような場合も高速シャッターが必須。それほど動きが大きくなくても1/500秒以上であれば、どんなシーンも対応できて安心して撮影に集中できる。
EOS R5 Mark II、RF24-105mm F4 L IS USM、105mm、F4.5、1/500秒、ISO160、+1.0EV、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャースタイル:風景
ポートレートの撮影では、被写体(人物)がまったく動かなくても、撮り手が軽快なフットワークでカメラを構えている場合、手ブレを起こすリスクが増す。これは家族撮影などでも同様だ。
運動会やスポーツは、基本的にこちらは動かず被写体を狙えるが、通常のポートレート撮影では、相手は動かなくてもこちらが動き回ることがある。後述する手ブレ補正機構を有効にしていたとしても、ブレを気にせず撮影に集中するためには1/160〜1/250秒くらいのシャッタースピードが安心できておすすめだ。
EOS R5 Mark II、RF24-105mm F4 L IS USM、105mm、F4、1/160秒、ISO160、+1.0EV、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャースタイル:風景
一見、止まって見える自然風景も、風に煽られて動いているときがある。こうした場面で風景をしっかり止めて撮りたければ、1/250秒程度までシャッタースピードを高速にしよう。これは花をマクロ撮影するような場面でも同様だ。花は意外と動いている。静物でも高速シャッターが必要になるシーンは案外多い。
EOS R5 Mark II、RF24-105mm F4 L IS USM、76mm、F11、1/250秒、ISO500、-0.3EV、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャースタイル:風景
被写体に動きがなく、こちらもじっくり構えて撮れるシーンでは、1/125秒前後のシャッタースピードをひとつの目安にしていいだろう。
ただし、動く被写体が混ざるとその部分でブレ(被写体ブレ)が生じることは注意。以下の作例では、全体として手ブレは発生していないものの。走り去る車がぶれている。このあたりは、被写体の動きを完全に止めるのかそうでないのか、狙った表現にあわせて調整したい。
EOS R5 Mark II、RF24-105mm F4 L IS USM、43mm、シャッター優先オート、F9、1/125秒、ISO100、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャースタイル:風景
歩く人の速さは大抵同じで、1/15秒前後のシャッタースピードだときれいにぶれて動感が演出しやすい。これより速いと動いている感じが伝わりづらくなり、逆に遅いとブレが大きくなって人の輪郭がぼやけ、存在感が弱まっていく。
EOS R5 Mark II、RF24-105mm F4 L IS USM、35mm、F5.6、1/15秒、ISO400、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャースタイル:風景
流し撮りはシャッタースピードが遅くなるほど、周囲のブレが大きくなって、ダイナミックな動きを表現できるようになる。いっぽう、カメラが追う被写体はシャッタースピードが遅くなるほどしっかり止めるのが難しくなる。いい塩梅の中間ポイントが1/30秒だ。まずこれを基準に撮ってみよう。
EOS R5 Mark II、RF24-105mm F4 L IS USM、29mm、マニュアル露出、F9、1/30秒、ISO125、-0.3EV、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャースタイル:風景
以下の撮影は、1/60秒のシャッタースピードで撮影している。周囲のブレは少なくなるが、人物を止めて撮りやすくなる。より動きの速い車や電車などでは、カメラを動かすスピードが増すため、1/60秒でも結構ダイナミックな流し撮りが楽しめる。流し撮りも、動く被写体の速さに大きな影響を受ける。
EOS R5 Mark II、RF24-105mm F4 L IS USM、42mm、F9、1/60秒、ISO160、ホワイトバランス:オート(雰囲気優先)、ピクチャースタイル:風景
ブレには被写体が動くことで生じる「被写体ブレ」と、カメラが動くことで生じる「手ブレ」の主に2種類がある。被写体ブレは動く被写体だけがぶれるのに対し、手ブレはカメラが動いて生じるため、画面全体がぶれて見える。
少しわかりづらいが、奥に見える星のマークがぶれている。これはわずかにカメラを動かしてしまったために生じた手ブレの現象。被写体ブレだけであれば、この星のマークは輪郭がはっきり見えてくる(冒頭、同じシーンでの別作例参照)
手ブレはもちろんシャッタースピードが遅くなっても起きるのだが、レンズの焦点距離が伸びるほど生じやすくなる特徴も合わせ持っている。つまり、広角レンズよりも望遠レンズのほうが手ブレしやすい。
一般的に手ブレを防げるシャッタースピードの目安は「1/焦点距離」と言われている。たとえば、焦点距離400mmのレンズであれば、1/400秒以上のシャッタースピードが安全ということだ。ここまでシャッタースピードの目安を記してきたが、これは手ブレしないことを前提に解説してきていることも踏まえておきたい。望遠レンズを使用する際は、手ブレも意識したいポイントになる。
ちなみに、望遠域を含むレンズでは手ブレ補正機構が大抵の機種に搭載されている。今回使用した「RF24-105mm F4 L IS USM」もシャッタースピード5段分の光学式手ブレ補正機構を搭載している。これは1/4秒で撮っても、1/125秒時と同じように手ブレを軽減してくれることを意味する。
「RF24-105mm F4 L IS USM」は筐体部分に手ブレ補正機構を切り替えられるスイッチを搭載している
「EOS R5 Mark II」自体も、ボディ内に5軸手ブレ補正機構を搭載している。シャッタースピードを意識する撮影では、こうした手ブレ補正機構にも注目して撮影に臨もう。
今回は被写体別にシャッタースピードの目安を解説してきたが、いかがだっただろうか。記事中にも書いたが、シャッタースピードの決定は最終的に動く被写体の速さで変化する。これらを参考に、自分好みの描写を目指してみてほしい。
本記事では省略したが、シャッタースピードは絞りや感度、露出と密接な関係にあることも大事なポイントだ。高速シャッターや低速シャッターを利用する際は、単に“被写体の動き”だけに影響を与えるのではなく、被写界深度や画質、写真の明るさなどにも多大な影響が及ぶことも本来的には踏まえておきたい。
いずれにせよ、写真撮影は動きを表現できるのがその醍醐味のひとつだ。今回の記事を参考に、“動きに注目した撮影”にどんどん出掛けてもらいたいと思う。