ニコン「COOLPIX P1100」は、光学125倍という驚異的なズーム性能で話題を集めたデジタルカメラ「COOLPIX P1000」(2018年9月発売)の後継モデル。より手軽に超望遠撮影を楽しめるのが最大の特徴です。今回は、野鳥撮影での使用感を中心に、本機を詳しくレビューしたいと思います。
※本記事に記載する焦点距離はすべて35mm判換算の値です
2025年2月28日に発売された「COOLPIX P1100」。野鳥や天体などの超望遠撮影用カメラとして支持を集めた「COOLPIX P1000」の後継モデルです
「COOLPIX P1100」の最大の魅力は、一眼カメラを含めて他を圧倒するズーム性能の高さです。焦点距離で広角24mm相当から超望遠3000mm相当までの広い画角をカバーする光学125倍ズームレンズを搭載しています。
3000mm相当というのは、後ほど掲載する作例をご覧いただきたいのですが、月を画面いっぱいに(満月なら画面を超えるほどの大きさで)撮影できるスペック。搭載する撮像素子が1/2.3型(有効1605万画素の裏面照射型CMOSセンサー)と小さいとはいえ、驚異的なズーム性能ですね。
ただし、このズーム性能を含めて「COOLPIX P1100」の基本的なスペックは、前モデル「COOLPIX P1000」と同等。端的に言えば、前モデルの性能をそのまま継承したマイナーチェンジモデルです。このように紹介するとネガティブにとらえるかもしれませんが、3000mm相当の超望遠性能というのは、新モデルでも唯一無二の存在であることは変わりありません。
前モデルと同様の小型・軽量なコンパクトデジタルカメラです。これでの撮影が可能だというのだから驚きです
「COOLPIX P1100」のボディは、前モデルと(ほぼ)同じです。サイズは約146.3(幅)×118.8(高さ)×181.3(奥行)mmで、重量は約1410g(バッテリーとメモリーカードを含む)。前モデルとサイズはまったく同じで、重量は約5g軽くなっています。重量が少しだけ減っていますが、これはカメラ内部のわずかな仕様変更にともなうものかもしれません。いずれにしても、サイズ感に関して、実用上気になるような変更はありません。
重量が約1.4kgというのは、レンズ一体型のデジタルカメラとしては大きいですが、それでも焦点距離3000mm相当の超望遠性能を考慮すると、一眼カメラではありえないほどの小型・軽量化を達成していると言えます。
少し注意しておきたいのはレンズ鏡筒の伸縮です。以下に、広角端時(24mm相当)と望遠端時(3000mm相当)の外観画像を掲載しますが、望遠側にズームすると一気に鏡筒が伸長することがわかります。とえいえ、3000mm相当の超望遠撮影を気軽にこなしたいと考えた場合、この程度で収まっているのはとてもありがたいことです。
広角端24mm相当の状態。大きめのデジタルカメラといったサイズ感です。広角端時の開放絞り値はF2.8
望遠端3000mm相当まで伸長した状態。かなり伸びますが、それでも3000mm相当と考えれば十分にコンパクトです。開放絞り値はF8まで暗くなります
操作性についても、前モデルと基本的にほぼ同じと考えて差し支えありません。ズーム操作はシャッターボタンと同軸のズームレバーで行います。レンズ一体型のデジタルカメラとしては一般的な操作方法と言えるでしょう。
シャッターボタンと同軸にズームレバーを配置
また、ズームレバーの代わりに、レンズ鏡筒の左側にある「サイドズームレバー」でもズーム操作を行えます。どちらでも同じことですが、カメラの構え方にかかわらずズーム方法を選べるのは案外便利なものだと感じました。
「サイドズームレバー」の前方には「クイックバックズームボタン」が装備されています。ボタンを押すと、現在のズーム位置から一時的に少し広くズームアウトされるもので、ボタンを離すと元のズーム位置までズームインしてくれます。とかく、どこを狙っているのか見失いがちな超望遠域では大変便利な機能だと思います。
レンズ鏡筒左側に配置された「サイドズームレバー」と「クイックバックズームボタン」
手持ちで超望遠撮影をするときに強い味方となってくれる電子ビューファインダー(EVF)も、もちろん搭載されています。約236万ドットと十分な精細感はありますが、再生時の視野率が100%であるのに対し、撮影時の視野率が99%であることからか、ちょっとピントの確認に自信が持ちきれないこともありました。このあたりは慣れの問題もあるでしょう。
約236万ドットと、クラスを考えれば十分に高精細なEVFを搭載
三脚を運用する場合などは背面のモニターが大いに役立ってくれます。バリアングル式の可動タイプで、3.2型/約92万ドットと、こちらもクラスを考えれば撮影に支障がないだけの性能があると思います。
バリアングル式のモニターを搭載。ビデオ雲台の使用時や動画撮影時に便利です
花型のレンズフード「HB-CP1」が同梱します。広角域では大きな遮光効果を発揮してくれます
「COOLPIX P1100」は、撮影機能に関してもおおむねマイナーチェンジの範疇にあります。そのなかで、比較的わかりやすい進化点と言えるのが、モードダイヤルに独立して配置されている「鳥モード」の機能性です。
モードダイヤルに用意されている「鳥モード」。このモードを選択すると、鳥を撮影するのに適した設定で撮ることができます
「鳥モード」は、シャッタースピードや絞り値、連写モードなどを、自動的に鳥の撮影に適した設定にしてくれるのが特徴。また、「OKボタン」を押すことで設定した焦点距離まで一気にズームアップしてくれるため、とっさに鳥を大きく撮りたい場合にもとても便利です。
「鳥モード」時のモニター画面。「OKボタン」を押すと一気に設定した焦点距離(この場合は800mm相当)までズームアップされます
「鳥モード」自体は前モデルから搭載されていましたが、新モデルでは、「鳥モード」の「AFエリア選択」が、「中央(スポット)」「中央(標準)」「中央(ワイド)」の3種類から選べるようになりました。AFエリアの移動などには対応していませんが、被写体が画面の中央からズレているような場合でも、より的確にピントを合わせられるようになっています。
「鳥モード」時のメニュー画面。従来は固定されていた「AFエリア選択」が3種類から選べるようになりました
もちろん、絞り優先AEやシャッタースピード優先AEなどの撮影モードを使って自分好みの高度な設定で撮ることもできますが、とりあえず鳥を撮りたい場合や、細かな設定をする余裕のない急なシーンなどでは、とても心強い撮影モードとなってくれます。
COOLPIX P1100、144mm(35mm判換算800mm相当)、F5.6、1/500秒、ISO140、ホワイトバランス:オート、ピクチャーコントロール:スタンダード
撮影写真(4608×3456、7.2MB)
撮影モードでは、「鳥モード」と並んで「月モード」にも注目です。こちらも前モデルから引き続き搭載しています。
モードダイヤルに「鳥モード」と並んで配置されている「月モード」
「月モード」を選択すると、月を撮るのに最適な露出や、三脚ブレを抑えるためのセルフタイマーなどを自動的に調整してくれます。「OKボタン」を押すことで設定した焦点距離まで一気にズームアップしてくれるのは「鳥モード」と同じ。超望遠に強いデジタルカメラとしてはとても重宝する機能と言えるでしょう。
「月モード」時のメニュー画面。「画質」や「画像サイズ」、OKボタンを押したときの「焦点距離」などを設定できます。自動的にセルフタイマーになるのも「月モード」の特徴です
そんな「月モード」を使って、OKボタンの初期設定である1000mm相当で撮影したのが以下の作例です。1000mm相当ですと月を画面にとらえやすく、それでいて月の表情も肉眼では確認できない程度にはっきり写してくれるため、実に妥当な設定だと思いました。
COOLPIX P1100、180mm(35mm判換算1000mm相当)、F5.6、1/500秒、ISO125、ホワイトバランス:オート、ピクチャーコントロール:スタンダード
撮影写真(4608×3456、5.8MB)
もちろん、ズームレバーを使って焦点距離を変えることもできます。光学ズームの最大値である3000mm相当で撮影したのが以下の作例ですが、半月でもぎりぎり画面内に収まるくらい大きく撮れてしまいますので、満月でしたら画面からはみ出すほどの迫力になります。ただし、画面内に適切に収めるのにはそれなりに苦労しますので三脚は必須です。
COOLPIX P1100、539mm(35mm判換算3000mm相当)、F8、1/200秒、ISO500、ホワイトバランス:オート、ピクチャーコントロール:スタンダード
撮影写真(4608×3456、6.5MB)
続いて、「COOLPIX P1100」のズーム性能をもう少し掘り下げたいと思います。前モデルと変わらないとはいえ、光学ズームで最大125倍(24〜3000mm相当)という超絶な高倍率を誇っており、本機の最も重要なスペックです。このスペックに憧れて購入したいと考えていると人も多いのではないでしょうか。
まずは、広角端の24mm相当で撮影した作例から見ていきましょう。何ということもない広々とした光景なのですが、このなかに比較的大きな鳥が1羽います。
COOLPIX P1100、4.3mm(35mm判換算24mm相当)、F5.6、1/500秒、ISO100、ホワイトバランス:オート、ピクチャーコントロール:スタンダード
撮影写真(4608×3456、5.9MB)
具体的には、下の画像の矢印の先にある赤枠内に被写体(大きな鳥)がいます。
画面の赤枠のなかに鳥が1羽います
1200mm相当までズームインしてみると、大きな鳥(カワウ)が枝にとまっているのがはっきりとわかるようになります。このときのズーム倍率は50倍で、ズーム性能にはまだ余裕があります。ここまで大きく写せるのは驚異的ですね。1/2.3型センサーを搭載するデジタルカメラならではで、一眼カメラではなかなかこうはいきません。
COOLPIX P1100、216mm(35mm判換算1200mm相当)、F5.6、1/500秒、ISO160、ホワイトバランス:オート、ピクチャーコントロール:スタンダード
撮影写真(4608×3456、7.4MB)
ここからさらに3000mm相当にまでズームできるのが、本機のすごいところ。遠く離れたカワウですが、画面に収まらないくらい大きく詳細に写すことができました。
COOLPIX P1100、646.8mm(35mm判換算3000mm相当)、F8、1/500秒、ISO320、ホワイトバランス:オート、ピクチャーコントロール:スタンダード
撮影写真(4608×3456、7.2MB)
さらにもっと大きく写したいという場合には、デジタルズームである「ダイナミックファインズーム」の利用も可能です。望遠端に達したらズームレバーをそのまま望遠方向に倒すだけで、デジタルズーム域に切り替わります。デジタルズームでは、光学ズームの最大値である3000mm相当からさらに拡大して6000mm相当までズームできるようになります。
ただし、デジタルズームですので、画素数こそ同じですが補完処理されたものになるため、現実的には画質が低下することになってしまいます。しかしそれでも、撮りたい被写体を、可能な限り大きくに写したいという欲求にはよく応えてくれていますのでありがたいことでしょう。
COOLPIX P1100、2156mm(35mm判換算6000mm相当)、F8、1/500秒、ISO200、ホワイトバランス:オート、ピクチャーコントロール:スタンダード
撮影写真(4608×3456、3.5MB)
最後に、「COOLPIX P1000」を使って撮影した野鳥の作例を掲載します。いろいろな使い方な可能なカメラではありますが、本機を選ぶ人の多くは超望遠域での利用、特に野鳥撮影を想定していることかと思います。
まず初めに撮ったのはスズメです。ありふれた鳥かと思いきや、最近は少なくなってあまり見かけなくなったとよく言われていますね。とっさのことだったので「鳥モード」で画面に収めてからズームを調整して構図を整えました。
COOLPIX P1100、108mm(35mm判換算600mm相当)、F5.6、1/250秒、ISO250、ホワイトバランス:オート、ピクチャーコントロール:スタンダード
撮影写真(4608×3456、6.7MB)
続いて、枝にとまったカワラヒワです。この日は結構な強風でしたので、風で枝が揺れるため画面内に被写体を収めるのに苦労しましたが、連続撮影でたくさん撮ることで、後からちょうどイイ感じの構図を選びました。この鳥もさして珍しくはありませんが、本機を使えば簡単に写真が撮れてしまうことから、普段何となく軽んじていたかもしれない鳥をちゃんと記録しようという心意気になります。
COOLPIX P1100、503mm(35mm判換算2800mm相当)、F8、1/500秒、ISO200、ホワイトバランス:オート、ピクチャーコントロール:スタンダード
撮影写真(4608×3456、6.7MB)
珍しくヒクイナが撮りやすいところに出ているということで、多くの人が周辺でカメラを構えていました。先にいた人たちのじゃまをしないように後方から手持ちで撮影しましたが、比較的簡単に撮れてしまいました。本機の超望遠パワーと手ブレ補正効果は絶大なものがあります。
COOLPIX P1100、155mm(35mm判換算860mm相当)、F8、1/500秒、ISO280、ホワイトバランス:オート、ピクチャーコントロール:スタンダード
撮影写真(4608×3456、6.8MB)
せっかくでしたので、同じヒクイナを(光学の範囲内で)ズームアップして大きく撮影。ファインダーやモニターの詳細感はさすがに最新ミラーレスの上位機種に及ばず、現場での画像確認では不安を感じてしまうこともあるのですが、帰ってからPCモニターで確認するとしっかりシャープに撮れているものですからうれしくなります。ブレやピンボケとの闘いが繰り返される超望遠域での撮影も、本機ならかなり自信が持てそうです。
COOLPIX P1100、306mm(35mm判換算1700mm相当)、F8、1/500秒、ISO250、ホワイトバランス:オート、ピクチャーコントロール:スタンダード
撮影写真(4608×3456、6.5MB)
普段なら小さいうえになかなか近寄れないカワセミも、なんなく大きく写すことができました。3000mm相当は本当にすごい。ここも多くの撮影者が先着されていたので集団後方からの手持ち撮影です。3000mm相当ともなると被写体を画面に収めるのにも苦労しますが、「クイックバックズームボタン」と、強力な手ブレ補正機能、比較的小型・軽量なボディのおかげで、思ったよりも簡単に撮れてしまいました。
COOLPIX P1100、539mm(35mm判換算3000mm相当)、F8、1/500秒、ISO320、ホワイトバランス:オート、ピクチャーコントロール:スタンダード
撮影写真(4608×3456、7.0MB)
さらにあろうことか色気を覚えてしまい、カワセミの“表情”を抑えるために、「ダイナミックファインズーム」を駆使して6000mm相当で撮影しました。真剣に獲物を狙うカワセミの面持ちを端的にとらえることができました。「遠くのものを大きく写したい」という撮影者の欲求を、期待以上にかなえてくれるカメラだと思います。
COOLPIX P1100、2156mm(35mm判換算6000mm相当)、F8、1/400秒、ISO400、ホワイトバランス:オート、ピクチャーコントロール:スタンダード
撮影写真(4608×3456、4.0MB)
一眼カメラではありえないような超望遠撮影を、いともたやすく実現してくれる「COOLPIX P1100」。作品作りに使うというよりも、「とにかく大きく写したい!」というときに最適なカメラではないかと思います。重量約1.4kgというコンパクトさでこれは本当にスゴイことです。
前モデルと比べると、「鳥モード」時の「AFエリア選択」が可能になったり、「シーンモード」の「比較明合成」に「花火」が追加されたりといった程度の小進化にとどまるのですが、唯一無二の存在だった超望遠対応デジカメを新モデルとして継続してくれるのはとてもありがたいことですね。
「COOLPIX P1100」の2025年5月15日時点での価格.com最安価格は13万円台(税込)。ほかにはない超望遠性能を持つことを考慮すると、この価格はとてもお買い得だと思います。