あたりまえですが、写真は光がなければ写りません。ではその光をカメラはどのように取り込んでいるのでしょう。そんなことを具体的に考えたことのある人は意外に少ないのではないでしょうか? 「考えなくてもカメラが自動でやってくれるんだから、いいんじゃない?」と言われればそのとおりなのですが、まぁそうおっしゃらずお付き合いください。今回は「シャッタースピード」、すなわち“光をカメラに取り込む時間をどう選択するか”がテーマです。
「シャッタースピードをコントロールすれば、日ごろ見えていない世界を覗くこともできます(くわしくは後ほど解説)」
いつもオートで撮っている方が、記事の最後には“シャッタースピードを変えて撮りたい!”と思ってくれればうれしいです。
(使用カメラ:ニコン「D5500」)
写真は、端的に言えばレンズをとおして光を撮像素子(CCDやCMOSイメージセンサーなど、昔でいえばフィルムにあたる部分)に取り込むことでできあがります。その時に光をどのくらいの間口(絞り)から、どのくらいの時間(シャッタースピード)で撮像素子に取り込むか。この「絞り」と「シャッタースピード」の組み合わせによって、写真はできているのです。その数ある組み合わせを変えるとどのように写真が変化するか、肉眼では捉えきれない世界をどうやったら撮ることができるのかを紹介します。
シャッタースピードとはズバリ、シャッターが開いている時間(秒)の事です。(普段シャッターは閉じています)。シャッタースピードを速く設定すると、光が撮像素子にあたる時間は短くなって被写体の動きを止めることができ、遅く設定すると撮像素子に当たる時間は長くなってブレが表現できるようになります。
まずは噴水の水の流れで比べてみましょう。今回はすべて「シャッタースピード優先モード」(SやTvと表記)に設定しての撮影です。この場合、絞り値はカメラが勝手に適正値を決めてくれるので、絞りとシャッタースピード、ISO感度の関係性はここでは割愛。気にせず楽しくバシバシ撮っていきましょう!
写真1 1/1600 秒、F5.6、ISO 800
写真2 1/100 秒、F/8、ISO100
写真1はシャッタースピードを1/1600と速く設定して撮ったものです。水が玉のように一粒一粒落ちる瞬間が止まって見え、噴水の水しぶき感が出ています。そして、写真2。シャッタースピードを三脚なしの手持ちカメラでもブレない安全範囲内の1/100に設定しました。写真1よりも粒粒感が減り、そうかと言って滑らかに流れているわけでもない中途半端な感じです。次は徐々にシャッターの速度を遅くしていきます
写真3 1/30秒、F/14、 ISO 100
写真3は、シャッタースピードを1/30にしました(この速度あたりから、手ブレ防止のため三脚の使用をオススメします)。ほぼ水の粒々感が無くなり、噴水の勢いが増したようにも見えます。滝のようにバシャバシャと跳ね返る音が聞こえてきそうです。
写真4 1/5秒、F/36、 ISO100
写真5 1/4秒、F/36、ISO100
写真4は1/5秒、さらに写真5は1/4秒とスローシャッターで撮ったものです。高速シャッターで撮った時のような躍動感はない代わりに、シルクのように滑らかで優雅な雰囲気になりました。不思議ですねぇ。水のはじけ落ちる音さえも消えてしまったように感じます。ここで注意しなければならないのが、晴天下でのスローシャッターの撮影は、ISO感度を一番低く設定してもいくら絞りを絞り込んでも、露出オーバー(明るすぎて真っ白)になってしまうことがあるということ。
そんな時は「NDフィルター」という減光フィルターをレンズの先に付けましょう。よく晴れた昼間の撮影でも安心して写真4、5のように撮ることができます。水に触れる機会が増えそうな夏。川や滝などを撮影する際は、意識して水の動きを止めたり流したりしてみてはいかがでしょう。
次は液体が1滴、上から落ちて跳ね返る瞬間を捉えた写真です。そう、皆さんも何かの広告などで1度ぐらいは目にしたことがあるのではないでしょうか。水やオイルなどでも面白い効果が表れますが、今回は牛乳で挑戦。うまくいけば冠のような形に見えることから「ミルククラウン」と呼ばれています。プロが本格的なコマーシャルフォトとしてミルククラウンを撮る場合は、スタジオでハイスピード対応のストロボをセッティングして撮りますが、今回は自宅の窓際やベランダのような明るい場所で撮ってみましょう。
<用意するもの>
1.浅めの白いお皿
(なぜ“白”か。撮ってみるとわかりますが、ミルクが跳ね返る時に底のお皿の色が見えて美しくないのです)
2.牛乳(ドリンクタイプのヨーグルトでもOK。私は跳ね具合をみて、両方をブレンドしてみました)
3.小さめのスプーン
4.レリーズまたはリモコン
(無くても撮れますが、片手でミルクを垂らしつつもう片手でシャッターを押さなけらばならないので、遠隔操作できるとラクです。ちなみに今回は使っていません)
まず三脚にカメラをセットし、カメラを連写モードに設定します。そして、最大のポイントとなるシャッタースピードは「1/4000秒」に設定してみました。レンズは今回マクロ機能付のズームレンズでマクロモードにして撮りました。
浅めのお皿にミルクを入れ(深いと跳ね返りが弱くてイマイチでした)ミルクが落ちるあたりを予測してスプーンを液面に置いてピントをMF(手動)で合わせておきます。ピントが合ったらその位置に向けて、40センチから50センチぐらい上のほうからスプーンでミルクを垂らしていきます。落ちる寸前ぐらいから連写でバシャバシャ撮っていきます。うまい具合にクラウンができるまで、落とす高さや落とすミルクの量を調整しながら根気よく撮りましょう。初めはうまくいかなくてもタイミングが合ってくれば、クラウンはもう目前! あきらめてはいけません(笑)! その過程でもミルクが見たこともない色々な形に変化していく様が撮れるので、気がつくとハマっています。注意点として、マクロレンズでミルククラウンを撮る場合はミルクがレンズにかかってしまうこともあるので、レンズ保護のフィルター(プロテクター)は必須です。
さて、こうして撮れたのが写真6です。
写真6 1/4000秒、F/9、ISO800
他にもイメージフォトとして使えそうな写真7や8のようなカットも、誰にでも偶然に撮れてしまいます。日ごろ見えていない世界を覗けるのは楽しいもの。ぜひ挑戦してみてくださいね。
写真7 1/4000秒、F/9、ISO 800
写真8 1/4000秒、F/3.5、ISO 1000、+1補正
ちなみに、写真6、7と写真8の色味が違うのは、ホワイトバランスを変えたから。写真6、7を撮っているときはピカピカに晴れていたので、明るくカチッとはじけるように撮ろうと、あえて白熱蛍光灯モードでピンクっぽくしてみました。しかし大変! 撮影中に突然曇ってきて露出が落ちてきました。でも、シャッタースピードは1/4000のまま撮りたい。そのためのシャッター優先モードですから、そこは絞りのほうに一歩譲ってもらいました。絞りについては、光が足りなくなった分をカメラが自分で“間口”を開いて多くの光を取り入れようとします。絞りを開けるということは、同時にピントの合う範囲が狭くなるということを意味します(第4回参照)。
でもそれは悪い事でもありません。ピントの合う範囲が狭くなるということは、どこかがボケるということ。大きなクラウンを作って後ろをボケさせれば、もしかしたら独特な世界が表現できるかもしれません。そうなるとホワイトバランス(WB)も明るい感じよりしっとり落ち着いた本来のミルクっぽい感じがよいと思い、WBをオートモードに設定し直して出来上がったのが下記の写真8というわけです。横道おしまい(笑)。
次は、ガラッと変わって、サーキット走行のクルマで流し撮りをしてみました。流し撮りとは、動く被写体に合わせてカメラを振ることにより、被写体の動きを止めて背景だけが流れ(ブレ)て、被写体の高速感が強調できるというテクニックです。これは動くものであればいいので、クルマや電車に限らず、運動会でお子さんが走る様子やボールなどを追う愛犬などを躍動感をつけて撮る時にも活用できるテクニックです。
写真9 1/250秒、F/11、ISO200
被写体の動く速さによってシャッタースピードを変えますが、今回に関してはタイヤのホイールが完全に止まってしまわないぐらいの速度1/250秒で切りました。1/60秒ぐらいのもっと遅いシャッタースピードのほうが背景は流れやすいのですが、下手すると被写体自体も流れてしまうので、1発で決めようとしないで、シャッタースピードやカメラの振り幅、
振る速度などを考えて何度か試し撮りをしましょう。
次の写真10は流し撮りとは逆に、“背景が止まっていて被写体が動いている”パターンです。動く被写体をスローシャッターでそのまま撮るだけなので、流し撮りに比べると簡単です。ただしこの時のシャッタースピードはスローなので、三脚は必須。無い場合は両脇をしっかりしめてカメラをきちんと構え、できれば何かに寄りかかって体を支え、なんなら呼吸も止めましょう。シャッターを切るときに息は吐いたほうがいいか止めたほうがいいかは個人差があるようです。私の場合は、大きく息を吸ってから吐いた途中で止めるかな。
写真10 1/10秒、F/9、ISO100
写真10では、右側から自転車が来るのがわかったので、あらかじめカメラを構えて待ちながらファインダーに入ってきた瞬間にパシャッ! 何気ない街角のスナップ写真ですが、写真の中に動きが出てなんだかオシャレ!
最後は、スローシャッターで車のライトの光跡を撮ってみました。露光時間は6秒。でも人や車が行き来する陸橋の上から撮ったため、三脚が立てられず、手すりの上にカメラを乗せてセルフタイマー(2秒)で撮影。なぜセルフタイマーかというと、シャッターを押すときが一番手ブレしやすいため。それを回避するためです。
写真11 6.0 秒、F/29、ISO800
三脚が使えないのは夜景撮影では致命的。でも、周りの環境やカメラの機能をうまく応用すればまあなんとかなるものです。美しい光跡を撮りたければ、まずは場所を選びましょう。ちゃんと三脚が立てられて、車がたくさん走っているのを見下ろせて、できれば高層ビルの夜景などが背景に入るような場所があったらもう最高!
このように様々な時間の流れを長短自在に切り取る事ができる「シャッタースピード」って凄いですよね。絞りを変えてボケのテクニックを使うのと同様に、今日からはシャッターの速度を変えてブラしたり流したり止めたりと、自分の技を増やしていきましょう。技と言ってもやることはカメラをシャッタースピード優先モードにして、被写体によってシャッタースピードをチョチョイと変えるだけでOKですよ!
今回使用したカメラは、ニコン「D5500」(写真は「AF-S DX NIKKOR 18-55mm f/3.5-5.6G VR II」を装着)。使用感については、次回くわしくお伝えします!
デジカメ普及の黎明期における専門誌での連載・ガイドブック監修など、早くからデジタル分野での仕事を手がける一方で、時間−空間−存在をテーマとした銀塩フィルムでの作品も多数。