レビュー

トヨタ「GRヤリス」に試乗。この加速感はレクサス「IS-F」を超えるかも

2020年1月15日の「東京オートサロン2020」で世界初公開され、同年9月4日に発売が開始された、トヨタのコンパクトスポーツカー「GRヤリス」。

発売日に開催された、ピレリスーパー耐久シリーズ2020開幕戦「NAPAC 富士SUPER TEC 24時間レース」の予選では、スーパー耐久仕様のGRヤリスがST-2クラスのポールポジションを獲得。さらに、9月5〜6日に行われた24時間レースでは、デビューウィンとなるクラス優勝を果たすなど、発売直後に大きな華を添えました。

そして今回、そんなGRヤリスに一般道で試乗できる機会を得ることができました。試乗車は、「GR GARAGE東京蒲田」の「RZ “High performance”」グレード。ちなみに、読者の皆さんも販売店に予約を入れれば、同じ車両を試乗することができます。

■トヨタ「GRヤリス」の主なスペック
全長×全幅×全高:3,995×1,805×1,455mm
ホイールベース:2,560mm
車重:1,280kg(RZ)、1,250kg(RC)、1,130kg(RS)
エンジン:1.6L直列3気筒インタークーラーターボエンジン「G16E-GTS」(RZ・RC)、1.5L直列3気筒NAエンジン「M15A-FKS」(RS)
最高出力:200kW[272ps](1.6Lターボ)、88kW[120ps](1.5L NA)
最大トルク:370N・m[37.7kgf・m](1.6Lターボ)、145N・m[14.8kgf・m](1.5L NA)
トランスミッション:6速MT(RZ・RC)、Direct Shift-CVT(RS)
駆動方式:4WD(RZ・RC)、FF(RS)
サスペンション:ストラット式(フロント)、ダブルウィッシュボーン式(リア)

「272psの1.6リッターターボエンジン」。このスペックだけを見れば、「かなり乗りづらいのではないか?」と勘ぐってしまいます。2リッターターボエンジンでも、280psを超える出力を発生させるスポーツカーでは、ターボの効きに左右されて乱暴に発生するトルクによって、乗りづらさが目立つようなクルマも数多く存在するからです。GRヤリスは3気筒の1.6リッターターボエンジンで272psを叩き出していることから、さらにドッカンターボのじゃじゃ馬的なイメージが頭をよぎります。

そんなイメージから、恐る恐るGRヤリスに乗り込み、GR GARAGE東京蒲田を出発します。最初に、クラッチ操作からですが、個人的にはクラッチのつながる位置が手前過ぎず、奥過ぎない絶妙な位置でつながるので、操作しやすく感じました。また、2リッタークラスのハイパワーターボ車にありがちな、つないだ瞬間のギクシャク感も皆無です。

そして、クラッチをつないで感じたのは、予想以上に低速トルクがあることでした。「1.6リッターハイパワーターボ」という言葉から予想される低速トルクの薄さはみじんもなく、いい方向で裏切られました。GRヤリスは1,700rpmくらいでつないでもエンジンストールせず、試乗が終わるころには慣れてきたおかげで1,500rpmくらいでつないでも発進できていました。また、坂道発進は「ブレーキホールド機能」がついているのでなんの恐怖心もありませんが、ためしにブレーキホールド機能をオフにしてサイドブレーキ併用の坂道発進を試してみても、低速トルクが効いているので何の問題もなく発進してくれます。

GRヤリスには、マニュアルシフトのスポーツカーには珍しく「アイドリングストップ機能」が搭載されています。GRヤリスのカタログ燃費は13.6km/L(WLTCモード)と、最近のコンパクトカーにしては決していい値ではないこともあって、少しでも燃費を稼ぎたいがためにアイドルストップ機構が付いたのだろうと思います。

GRヤリスの、室内における静粛性の高さはかなりのものです。たとえば、混んでいる市街地などで制限速度の半分くらいの速度で走行していると、エンジン音やメカニカルノイズがまったく聞こえないので、普段乗っているAT車のような気分になってしまい、うっかりクラッチを切り忘れてブレーキをかけてしまうことが何度かありました。このとき、一般的なマニュアルシフト車であれば、ギヤが4速あたりなら速度が10km/hを下回ったくらいでノッキングが起こるので、あわててクラッチを切ることができます。ですが、GRヤリスは完全に停止する直前までノッキングが起こらないので、ノッキングが起こったと思ったらすぐにエンストしてしまうのです。マニュアル車に乗り慣れている筆者としては情けない話ではありますが、逆に言えばGRヤリスの1.6リッターターボエンジンのノッキング耐性がかなり高いことを、実感することができたとも言えるかもしれません。

ここまでお読みいただいておわかりのとおり、GRヤリスのエンジンとマニュアルトランスミッションは、普段の街乗りではノーマルヤリス並みに懐の広い仕様になっているので、「ハイパワースポーツカーだ!」と身構えて乗ると拍子抜けするほどに、乗りやすいクルマなのです。

また、エンジン始動時や低速走行時の排気音の静かさもかなりのものです。一般的な3ドアハッチバックのコンパクトカーではまずありえない、抜けのよさそうな極太センターパイプから、ドラム缶のようなサイレンサーを通って2本出しのマフラーから抜ける排気ですが、このサイレンサーがかなりよくできているのでしょう。早朝の住宅街などでも、ちゅうちょなくエンジンをかけることができそうなほどに静かです。ですが、このマフラー、音量は全域で低めなのですが、高速走行時にはかなりいい音色になります。3,500rpm以上回せば、3気筒独特のエンジン音が、思う存分楽しめるでしょう。

アクセルを踏み込めば、やっぱりガチのスポーツカー!

環八羽田ランプから首都高速湾岸線を経由して、アクアラインの海ほたるを目指します。湾岸線に合流し、マニュアルシフトを2速に入れ、一気にアクセルを踏み込みます。すると、さすがトヨタのスポーツ4WD「GR-4」。一切乱れることなく、パワーを路面に伝えてくれます。そして、美しく流れるタコメーターの針。7,000rpmまで段差なく、躊躇なく回ってくれる、少し猛々しいビートの3気筒ターボエンジン。

そこで少し、頭に疑問が浮かんできます。「いや、ちょっと待て?これって、1.6リッターターボエンジンでしょ!?」。エンジン音のリズムを無視すれば、この加速感はレクサス「IS-F」よりも鋭いかもしれません。少なくとも、「RC350」よりも鋭い加速を見せます。

大排気量車のような加速力を見せながらも、アクセル開度に忠実に反応するエンジンの性格そのものは、2リッターNAエンジンのようです。と言ってもトヨタ「86」ではなく、チューニングされた「3S-G」(トヨタ「セリカ」や「MR-2」などに搭載されていたエンジン)のようです。

そこで、初めて気がつきます。GRヤリスが、「セリカGT-FOUR」の後継車種なのだということに。GRヤリスは、WRCを目指して開発されています。そのイメージは、かつてWRCで大活躍したST205型の「セリカGT-FOUR」。ST205から、21年ぶりに復活した市販4WDスポーツが、まさしくGRヤリスなのです。

首都高速湾岸線からアクアラインへの接続路は、タイトなワインディングともいえる道になっています。高速道路本線とは違って、舗装も多少ラフです。そういったコーナーを、GRヤリスはイメージ通りのラインでスーッと曲がっていきます。ステアリングを切った分だけ、曲がってくれるのです。コーナーの半径が体感的にわかっているような場所であれば、切り増しなども必要ありません。

少し攻めるようなコーナーリングをすると、多少はボディが傾きますが、そのロールスピードはとても穏やかで、ガッチリとしたボディが受け止めるスプリングとショックアブソーバーとのバランスがうまく取れているように感じます。また、コーナーリング中に路面の段差などがあっても極端な挙動の変化は起きず、ちょっとした突き上げがあるものの何事もなかったかのように通りすぎていきます。

GRヤリスに試乗した印象は、街乗りでも高速道路でも、気楽に乗っても攻めてみてもしっかりと応えてくれるクルマで、エンジンパワーと懐の深いボディがすべての操作に対して瞬時に反応してくれるところが好印象でした。スポーツカーにしては少々高めの着座位置も、さまざまな道を走るラリーには向いているかもしれません。

ヤリスと言ってもヤリスじゃない。まったく別物、専用設計の「GRヤリス」

GRヤリスの外観を眺めると、大きく張り出したオーバーフェンダーが特徴的です。ヤリスと名付けられてはいますが、GRヤリスはノーマルヤリスとは雰囲気からまったく違うクルマであることがわかります。

GRヤリスのボディサイズは、全長が3,995mm、ホイールベースが2,560mmと、ノーマルヤリスに比べて全長で55mm、ホイールベースで10mmサイズアップされています。また、オーバーフェンダーのボディを見れば一目瞭然ですが、トレッドはRZで80mm、RSで70mm拡大されており、GRヤリスは、ノーマルのヤリスとはプラットフォームからしてまったく異なることがわかります。

また、外側の構成パネルにも、実は共通の部品はありません。ボンネットはアルミ製、屋根はカーボンです。

RZとRZ“High performance”グレードには、ADVICS製対向ピストン式キャリパーのブレーキシステムが搭載されています。フロントは4ポッド、リアは2ポッドで強力なストッピングパワーを生み出します。また、RZ“High performance”では、日本製BBS鍛造ホイールが装着され、そこに履くタイヤはミシュランのPilot Sports 4S 225/40ZR18となります。

さらに注目したいのが、リアタイヤです。市販車かつ4WD車としては、タイヤがかなりハの字に傾いているネガティブキャンバーになっています。そのためでしょうか、リアバンパーのフェンダーアーチ部分には小さな突起が付いており、その突起のおかげでタイヤの接地部分がフェンダーからはみ出していません。

走ることを基本とした装備が充実

今回試乗したGRヤリスの最上級グレードRZ“High performance”は、インテリアの装備の充実ぶりにも目を見張るものがあります。

まず注目したいのが、ホールド性のいいシート。これは、RZ“High performance”専用の、ウルトラスウェードと高機能合成皮革が使われているプレミアムスポーツシートです。また、プレミアムスポーツシートも含めたGRヤリスの全グレードで「サイドエアバッグ」が内蔵されており、衝突時の安全性も向上しています。

コックピット全体のイメージはノーマルヤリスと共通で、コンソールトレイなども装備されます。ですが、要所はまったく異なります。たとえば、ステアリングは偏心タイプでGRマーク入り。また、メーターの液晶部やディスプレイモニターを操作するためのスイッチ類も、ノーマルヤリスとは違うものになっています。

メーターパネルは、速度計はフルスケールが280km/h、タコメーターはレッドゾーンが7,000rpmからとなっています。ターボエンジンとしては異例ともいえる高回転型ですが、前述のとおりレッドゾーンまできれいに吹け上がります。

センターコンソールには、6速マニュアルのシフトレバーと12Vのシガーライタータイプの電源、そして前後のトルク配分を変えられる「ドライブモードセレクター」が装備されています。ドライブモードは、「NORMALモード」が前60:後40、「SPORTモード」が前30:後70、「TRACKモード」が前50:後50になります。実際、NORMALモードとSPORTモードを少しだけ切り替えてみたところ、制限速度内でも回頭性が変わるのがわかりました。SPORTモードのほうが、ステアリングの切れ角に対してハナ先がより深く入っていきます。

運転席の右下には、「インタークーラーウォータースプレー」の操作ボタンがあります。吸気の冷却部品であるインタークーラーに、水を吹きかけることで吸気温度を低減し、外気温が高い過酷な走行時にもエンジン本来の高出力を維持する機構です。

リアシートは、RZ“High performance”では全面が合成皮革になっています。また、GRヤリスのリアシートは2名乗車(フロントシートを含めた最大乗員は4名)です。このあたりは、ノーマルヤリスと大きく異なる部分のひとつです。

そして、GRヤリスのリアシートは正直に言って狭いです。足元はそこまで窮屈さは感じませんが、それでも運転席のポジションによってはリアの乗員の膝先がシートバックに触れてしまいます。そして、もっとも窮屈に感じるのが頭上スペースです。たとえば、身長173cmの編集者Sが座ると、頭が天井に当たってしまいます。最大乗員が4人であり、リアドアのない3ドアハッチですから、大人4人が常に乗るということはあまり考えられていないと思われまが、リアシートにチャイルドシート用のISO FIXは付いているので、お子様をリアシートに乗せることは可能です。

GRヤリスの外見から想像すると、ラゲッジルームは狭そうなイメージがありますが、ラゲッジ内部がスクエアにデザインされているので、174リットルの容量とは裏腹に、意外な収納力の高さを見せてくれます。今回は、アジア・ラゲージ製「AliMaxII」92リッターのスーツケースと、17インチノートパソコンが入るテキスタイルのビジネスバッグを入れてみましたが、ほぼピッタリ入りました。ちなみに、リアシートをすべて倒せば、RZ“High performance”装着タイヤセットを1台分積むことができるように設計されています。

ライバルは「GRスープラ」?「718ケイマン」?

GRヤリスは普段使いにすぐれ、その気になればガンガン攻めることのできるスポーツカーです。しかも、リアシートが窮屈とはいえ4人乗りでラゲッジルームも広いとなれば、運転を楽しみたいけど使い勝手も外せない、という方には魅力的なモデルではないでしょうか。RZ“High performance”で456万円(税込み)という価格を考えると、ライバルは「GRスープラ」の2リッターターボと言えるかもしれません。また、性能を考えればポルシェの「718ケイマン」もライバルとして視野に入るでしょう。

ライバル車は、決して大げさに言っているのではなく、冒頭のスーパー耐久レースでの活躍なども考えてみても、実は遜色ない結果を出しています。2020年11月22日に開催された、ピレリスーパー耐久シリーズ2020第4戦「もてぎスーパー耐久 5Hours Race」でST-2クラスを優勝した「ROOKIE Racing GR YARIS」は138周、718ケイマンの「BRP★SUNRISE-Blvd718GT4MR」は140周、ひとつ前の世代のケイマンの「Diamango Cayman」が132周と言う結果でした。実は、GRヤリスとケイマンは、モータースポーツでも性能が肉薄しているのです。

GRスープラやケイマンのように目立たないGRヤリスの外観は、「羊の皮を被った狼」的な存在として、乗りやすさや使い勝手を含めてさまざまな方におすすめできるスポーツカーと言えそうです。

トヨタモビリティ東京 Webサイト
https://www.toyota-mobi-tokyo.co.jp/carlineup/testdrive

松永和浩

松永和浩

自動車系フォトジャーナリスト。主にモータースポーツ分野で活動中。自動車全般を取材対象とし、カメラ、写真用品にも精通。スマートフォン、通信関連、アプリゲームやIoT家電なども取材を行う。月刊AKIBA Spec発行人編集長も兼任。

記事で紹介した製品・サービスなどの詳細をチェック
GRヤリスの製品画像
トヨタ
4.22
(レビュー33人・クチコミ418件)
新車価格:265〜846万円 (中古車:208〜1300万円
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