BMWで主力モデルの「3シリーズ」の現行モデル(G20)に、エントリーグレードの「318i」が追加された。これまでは「320i」がそのポジションだったが、318iでは同じエンジンながらデチューンされたものが搭載されているものの、価格は約50万円も安くなっている。
これまで、BMW「3シリーズ」のエントリーグレードは「320i」だったが、新たに「318i」が加わった
今回、BMWの新型車試乗会が開催され、318iのセダンとツーリングの2台に試乗することができたのでレビューしよう。また、同日に試乗することができた「218iグランクーペM Sport」の印象についても、簡単に触れておきたい。
■BMW「318i」セダン、ツーリングのグレードラインアップと価格
※「320i」は「318i」との価格比較の参考として記載
※価格は、すべて税込み
-「318i セダン」-
318i:4,890,000円
318i M Sport:5,590,000円
-「318i ツーリング」-
318i ツーリング:5,230,000円
318i ツーリング M Sport:5,840,000円
-「320i セダン」-
320i:5,380,000円
320i M Sport:5,990,000円
-「320i ツーリング」-
320i ツーリング:5,720,000円
320i ツーリング M Sport:6,240,000円
318iは、最高出力156PS/4,500rpm、最大トルク250Nm/1,350-4,000rpmを発揮する2.0L直列4気筒ガソリンエンジンを搭載。320iは、最高出力184PS/5,000rpm、最大トルク300Nm/1,350-4,000rpmなので、318iは28ps、50Nmダウンしている。燃費(WLTCモード)は、320iは13.8km/Lで318iは13.4km/Lと、318iのほうがわずかではあるが下回っている。
318iと320iの装備差は、「M Sport」を選んだときに専用トランスミッション「8速スポーツAT」やオプションの「アダプティブ Mサスペンション」などが選択できなくなるほか、フロントシートヒーターなどがオプションになる程度で、肝要な安全運転支援システムがまったく共通なことに、BMWの良心を感じる。言い換えれば、318iは買い得感がかなり高いと言えるだろう。
「318i ツーリング」のフロントエクステリアとリアエクステリア
ここからは、実際に走らせた印象を記していこう。最初にキーを手に取ったのは、318iツーリングだ。今回のテストルートは、箱根ターンパイクと小田原の市街地を組み合わせたもので、その中には踏切を渡るなど、クルマのボディ剛性を知るに適したコースも走っている。その第一印象は、フロントの軽さとともに、乗り心地が抜群にいいということだった。
「318i ツーリング」の試乗イメージ
スタート地点の箱根ターンパイクの頂上から一気に下っていったのだが、あらゆる速度域でリアの挙動が落ち着いており、ひらひらとノーズがコーナーをクリアしていく。さらに、コーナーに段差があるとM Sport仕様では若干接地性が落ち、バタつく印象があったのだが、標準仕様ではしっかりとリアが接地し、安心した挙動を示してくれた。
こういった挙動は、ボディ剛性がしっかりと確保されていないとできないだろう。ボディが、路面からの影響をきちんと受け止められるからこそ、足回りの動かし方に自由度が生まれ、むやみに硬めることなく自然な挙動を示すことができる。まさに、これこそが新型3シリーズが目指した乗り心地とも言えそうだ。
では、ハンドリングに関してはスポーティーではなくなったのかと言えば、そんなことはない。BMWが謳う“駆けぬける歓び”は、このエントリーグレードの318iツーリングにも受け継がれており、ステアリングを握りながら思わず笑みがこぼれてしまうほどだった。特に、コーナーでステアリングを切ったときに、その舵角を修正することなく、一発で決まるのは見事だ。まさに、ドライバーとクルマが一体化したかのような気持ちにさせてくれる。
「318i ツーリング」の試乗イメージ
この気持ちよさは上り坂でも同様で、パワーダウンしたことでかったるさが出るということはまったくなく、必要にして十分以上にパワーを使い切る楽しさが味わえ、クルマを持て余すような感覚はなかった。また、エンジンを高回転まで回しても、息苦しさや一生懸命回っているようなエンジン音ではなく、軽々と回っている様子が感じられ、(残念ながらパドルシフトは装備されていなかったが)シフトレバーでマニュアル操作しながら走らせたくなるほどだった。
また、近年流行りのダウンサイジングターボではないので、加速途中から一気に吹け上がるような小排気量ターボ独特の癖もなく、自然なものであったことを付け加えておきたい。
市街地に降り立ち、渋滞時や低速での走りを試してみる。その印象も非常によく、大きなロードノイズは感じられず、静粛性が高い。また、アイドリングストップからの再始動もスムーズでショックがなく、きわめて自然なものだ。低速域での乗り心地は若干硬めだが、段差を超えたときのショックは角が取れており、不快ではない。
「318i ツーリング」には、テールゲートのガラス窓のみを開閉させることができる
なお、ツーリングのテールゲートはゲート全体だけではなく、ガラス部分のみの開閉も可能など、ワゴンとしての使い勝手も非常に高いと言える。
「318i セダン」のフロントエクステリア
次に、318i セダンに乗り換えよう。セダンの印象もツーリングとほぼ同じで、M Sportよりも乗り心地にしなやかさが感じられる。たとえば、アップダウンのあるワインディングロードで十分に楽しめるハンドリング感覚なども、ツーリングと共通だった。
しかし、細かく見ていくと、セダンとツーリングでいくつかの違いが見えてきた。まず、乗り心地だ。具体的には、セダンのほうがわずかに硬く感じられるのだ。特に、市街地でその傾向は顕著になり、路面の段差などを忠実に伝えてくるので、ツーリングと比べるとわずかに角を感じるフィーリングだった。
「318i セダン」の試乗イメージ
もうひとつは、ワインディングにおける、特にリア周りの接地感だ。ツーリングと比較して、少しふわつく印象が感じられたのだ。車検証を見ると、セダンは前770kg、後770kgという荷重に対し、ツーリングは770kgと870kgとリア側に100kg余計に荷重がかかっていることがわかる。これが、リアの接地感の違いにつながっていることがうかがえる。もうひとつ考えられるのは、セダンと比較してツーリングは大型のリアゲートなどを備えていることから、ボディ剛性は不利になる。そのために補強されているのだが、その補強ポイントが非常に的確な部位になされたことから、乗り心地やハンドリングにいい影響を与えているのでは、というものだ。実際のロードノイズの侵入などもほぼ同様であったことを踏まえると、この可能性は高いと言えよう。
「318i セダン」のインテリア
車内のスイッチなどの使い勝手は、過去に3シリーズをレビューしてきた印象とまったく同じだ。いずれのグレードにも、3眼カメラやハンズオフ機能が装備されている点は大きく評価できるが、いっぽうでカーナビやシフト周りのスイッチ類は操作しにくく、先代の3シリーズと比較すると改悪と言っていいだろう。
「318i セダン」のエアコンなどのスイッチ関連
エアコン関係は、物理スイッチで操作が可能なのはいいのだが、そのスイッチが小さいのはいかがなものか。このあたりは、ぜひ見直していただきたい。
これまで、320iなどいくつもの3シリーズを試乗してきたが、今回318iをテストしたことで、318iが3シリーズの中でベストバイということがわかった。価格はもちろんだが、他グレードと比較しても遜色のない装備レベルを備えているからだ。さらに、走りに関してもBMWらしい運転する楽しみが十分に感じられるものであった。もちろん、上級クラスの340iは6気筒エンジンであり、パワーやトルクはあふれるほどで、静粛性やスムーズさもより一層増している。しかし、日本の道路事情では持て余すだけだし、その分アクセルを踏めないというストレスにもなりかねない。それであれば、クルマを自分の手のひらの中で自在に操れる318iをドライブするほうが健全だと思うのだ。また、320iとの比較においても、一部オプションで320iしか選べないものはあるものの、あえて積極的に320iを購入したくなる理由は見つけられなかった。
そして、セダンとツーリングではどちらを選ぶか。その差異はこれまで述べた通りだが、これは比較して初めて気付く程度と言っていいので、好みで選んで間違いないだろう。個人的には、使い勝手のよさとともに、リアの接地性を考えてもツーリングを積極的に選びたい。
「218i グランクーペ M Sport」のエクステリア
ここからは、318iと一緒に試乗した「218iグランクーペM Sport」の印象について、少し述べておきたい。
BMWの4ドアクーペは、2012年に「6シリーズ グランクーペ」が初めて発売された後、「4シリーズ」や「8シリーズ」など、各セグメントに投入された。グランクーペは、優雅なデザインやスポーティーな走行性能に、4ドアならではの高い利便性を組み合せていることが特徴だ。なお、今回の2シリーズ グランクーペの導入によって、BMWにおけるすべてのセグメントに、4ドアクーペがラインアップされたことになる。
「218i グランクーペ M Sport」のフロントエクステリアとリアエクステリア
ボディサイズは、全長4,526mm、全幅1,800mm、全高1,420mmで、多くの機械式駐車場を利用することができる。エンジン排気量は1,499ccで、直列3気筒ガソリンエンジンを搭載し、最高出力140PS(103kW)/4,600-6,500rpm、最大トルク220Nm/1,480-4,200rpmを発生させる。また、駆動方式がFFであることも特徴のひとつだ。
218iグランクーペ M Sportに乗り込んで走り始めると、3気筒にもかかわらず振動がなく、静粛性の高さが印象的だ。また、ワインディングや一般路においても、M Sportにもかかわらずキチンとサスペンションが動くことによって、ショックを吸収してくれる。確かに、硬めではあるものの、むやみに硬められていないのには好感が持てた。
そして、FFであることのデメリットは、ほとんど感じられない。唯一の例外は、ステアリングを切った状態で乱暴にアクセルを踏んだときに、フロントタイヤが少し滑ることで初めて気づくといった程度だ。こういったシチュエーションはふだんではありえないので、FFやFRに関しての議論は、218iグランクーペに関しては気にする必要はないだろう。
もちろんハンドリングは素直で、かつ車幅もそれほど広くないので、ワインディングでも狙ったラインをキレイにトレースできる。
「218i グランクーペ M Sport」の試乗イメージ
エンジンの出力やトルクは、必要にして十分以上だ。さらに、トランスミッションとのマッチングも最適で、思った通りのタイミングでシフトアップ、ダウンをこなしてくれる。218i グランクーペ M Sportの上位には、「M235i xDrive グランクーペ」と呼ばれるグレードが存在するが、エンジンに関してはそこまでパワフルな必要性は感じられなかった。
なお、シートに関してだが、ホールド性などは高いものの前後のスライド量が短く、165cmの私でも最前端にスライドさせてちょうどいいくらいなので、購入を検討される小柄な方は、ぜひ実車で試してみていただきたい。
いま、4ドアクーペは多くのメーカーからラインアップされているが、その中で2シリーズグランクーペは、日本で扱うには適度なボディサイズであることが大きな魅力だ。その上で、こういったデザインを求め、運転することの楽しさをも魅力を感じる方にとっては、最適な1台と言えるだろう。
日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かし試乗記のほか、デザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。