バイク野郎 増谷茂樹の二輪魂

1度乗ったら最後。扱いやすいのに刺激的なヤマハの新型「MT-09 ABS」のトリコ!

今やヤマハのバイクの中核を構成していると言っても過言ではない「MT」シリーズを牽引する存在である「MT-09」が、初のフルモデルチェンジ。パワフルな3気筒エンジンはさらにパワーアップし、ルックスも過激さを増した新型「MT-09 ABS」はどんな進化を遂げているのだろうか。

フレームやエンジンも一新し、完成度を増した新型「MT-09 ABS」

2013年に発売された初期型から、2気筒エンジンのトラクションのよさと4気筒エンジンのスムーズさという、2気筒と4気筒のいいとこ取りを狙った3気筒エンジンを搭載し、過激な加速力がウリだった「MT-09」。2017年にマイナーチェンジして「MT-09 ABS」に車名が統一されたものの、基本的な設計は変わっておらず、2021年に登場した今回の新型は、フレームやエンジンまで新設計となった初のフルモデルチェンジを受けたモデルとなる。

サイズは2,090(全長)×795(全幅)×1,190(全高)mmで、メーカー希望小売価格は1,100,000円(税込)。なお、上級仕様の「MT-09 SP ABS」(メーカー希望小売価格は1,265,000円/税込)もラインアップされている

サイズは2,090(全長)×795(全幅)×1,190(全高)mmで、メーカー希望小売価格は1,100,000円(税込)。なお、上級仕様の「MT-09 SP ABS」(メーカー希望小売価格は1,265,000円/税込)もラインアップされている

デザインを一新したフロントマスクは、さらに個性を増した印象。どことなくモビルスーツを思わせるデザインだ

デザインを一新したフロントマスクは、さらに個性を増した印象。どことなくモビルスーツを思わせるデザインだ

3気筒エンジンを搭載している点は同じだが、排気量が従来の845ccから888ccにアップ。主にストロークアップで排気量が拡大されており、最高出力は120PS/10,000rpmと先代モデルから4PS高まり、最大トルクも93Nm/7,000rpmと6Nm向上している。ピストンやコンロッド、クランクシャフト、カムシャフト、クランクケースなど主要パーツのほとんどが新設計されたため、排気量が大きくなっているにもかかわらず、エンジン単体で300g軽量化され、車重は先代モデルから4kg軽い189kgとなった。

3気筒のレイアウトを維持しながら主要パーツを新設計とし、厳しくなった排出ガス規制に対応しながらもパワー&トルクアップ、そして軽量化まで実現している点に作り手の情熱を感じる

3気筒のレイアウトを維持しながら主要パーツを新設計とし、厳しくなった排出ガス規制に対応しながらもパワー&トルクアップ、そして軽量化まで実現している点に作り手の情熱を感じる

目を引いたのはマフラー。一瞬、排気口がどこにあるのかわからなかったが、下側に設けられていた。これは、排気音を路面に反射させてライダーの耳に届けるという狙いもあるのだとか

目を引いたのはマフラー。一瞬、排気口がどこにあるのかわからなかったが、下側に設けられていた。これは、排気音を路面に反射させてライダーの耳に届けるという狙いもあるのだとか

マフラー全体では、エンジンと合わせて1.7kgの軽量化を実現。ショート化されたことで、マスの集中化にも貢献している

マフラー全体では、エンジンと合わせて1.7kgの軽量化を実現。ショート化されたことで、マスの集中化にも貢献している

新設計されたフレームはCFアルミダイキャスト製。スーパースポーツのようなアルミパネルを溶接したボックス構造とすることで剛性を最適化し、特に、横剛性は先代モデルから約50%高められている。リアアームとの合算で、先代モデルから約2.3kg軽量化された。

フレーム単体で見ると、スーパースポーツなどに採用されているタイプのフレームと似た作りになっていることがよくわかる。直進安定性と操縦性の向上に大きく貢献している部分だ

フレーム単体で見ると、スーパースポーツなどに採用されているタイプのフレームと似た作りになっていることがよくわかる。直進安定性と操縦性の向上に大きく貢献している部分だ

足回りも大きく刷新されている。従来はスーパーモタード(オンロードとオフロードの混じったコースで競われるレースに参戦するオフロード車ベースのマシン)の要素を取り入れていたため、サスペンションのストロークはオンロードマシンとしては長めで、沈み込む動き(ピッチング)も大きかったのだが、新型では、フロントフォークの取り付け位置を下げるとともに、ピッチングの動きが抑制されるようになった。

倒立式のフロントフォークはインナーチューブ径41mm。プリロードと圧側の減衰力調整を備える

倒立式のフロントフォークはインナーチューブ径41mm。プリロードと圧側の減衰力調整を備える

フロントフォークの取り付け位置が下げられたため、ハンドルにあるクランプの位置はゲタを履かせたような状態で高められている

フロントフォークの取り付け位置が下げられたため、ハンドルにあるクランプの位置はゲタを履かせたような状態で高められている

リアサスペンションは、リンクを介して寝かせて取り付けられている。プリロードと圧側・伸び側の減衰調整が可能だ

リアサスペンションは、リンクを介して寝かせて取り付けられている。プリロードと圧側・伸び側の減衰調整が可能だ

足回りでは、一新されたホイールも注目ポイント。「SPINFORGED WHEEL」と名付けられた新型ホイールは、量産に向いた鋳造ホイールでありながら、鍛造ホイールに匹敵する強度と靭性(じんせい:粘り強さの意味)を有している。これによって薄肉化が可能になり、前後で約700gの軽量化を実現。特に、慣性エネルギーの大きいホイールの外周部分が軽くなっているので、軽快なハンドリングが期待できる。

フロントタイヤのサイズは120/70で、ホイール径は前後とも17インチ。ブレーキはラジアルマウントされる

フロントタイヤのサイズは120/70で、ホイール径は前後とも17インチ。ブレーキはラジアルマウントされる

リアのホイールは慣性モーメントを約11%低減しており、運動性能を向上。タイヤサイズは180/55となる

リアのホイールは慣性モーメントを約11%低減しており、運動性能を向上。タイヤサイズは180/55となる

さらに、近年のスポーツマシンには欠かせない存在となりつつある電子制御も充実している。「IMU(Inertial Measurement Unit)」は6軸となり、車体の姿勢を検出。トラクションコントロールやスライドコントロールはバンク角に応じて介入度合いを制御できるようになり、コーナリング中にリアタイヤのすべりをより細かく制御可能に。大きくアクセルを開けた際に前輪の浮き上がりを制御するリフトコントロールシステムや、コーナリング中のブレーキを制御するブレーキコントロールも新たに搭載している。走行モードの切り替えは、もっとももパワフルな「1」から雨天時に対応した「4」までの4段階となった。

シンプルな形状のデジタル式となったメーター。走行モードの切り替えやトラクションコントロールの介入度合いなども好みに合わせて調整できる

シンプルな形状のデジタル式となったメーター。走行モードの切り替えやトラクションコントロールの介入度合いなども好みに合わせて調整できる

シフトアップとダウンに対応したクイックシフターも装備しているので、クラッチを操作しなくても変速操作が可能。シフトダウン時には空ぶかしするブリッピングにも対応する

シフトアップとダウンに対応したクイックシフターも装備しているので、クラッチを操作しなくても変速操作が可能。シフトダウン時には空ぶかしするブリッピングにも対応する

いつまでも走っていたい。走行性能も大きく進化

ここからは、新型「MT-09 ABS」に試乗した所感をお伝えしよう。過去に試乗した先代モデルとの乗り味などの違いもチェックする。

最初に、車体を押し引きした段階で軽さを感じた。まるで、400ccクラスのバイクを押しているような感覚なのだ。軽量化されているとはいえ、先代モデルとの差は4kg程度。それでもあきらかに軽く取り回せるのは、重心がバイクの中央部に集中しているからだろう。

そして、車体にまたがってみるとコンパクトな印象を受ける。これは、着座位置が前方なのでハンドルが近いライディングポジションになることに加え、タンクのニーグリップする部分が大きく絞り込まれているためだ。4気筒より幅の狭い3気筒エンジンのメリットを生かしたライディングポジションだ。

この角度から見ると、タンクが下に向かって大きく絞り込まれているのがわかる

この角度から見ると、タンクが下に向かって大きく絞り込まれているのがわかる

ニーグリップする部分が絞り込まれた形状のおかげで下半身のホールドが非常にしやすく、幅も抑えられているため、まるで250ccクラスのバイクにまたがっているような錯覚さえ受けた

ニーグリップする部分が絞り込まれた形状のおかげで下半身のホールドが非常にしやすく、幅も抑えられているため、まるで250ccクラスのバイクにまたがっているような錯覚さえ受けた

足付き性も良好。身長175cmの筆者の場合、両足のかかとがギリギリで接地しないくらいだ。重量バランスがいいので、片足でも大型バイクと思えないくらい支えやすい

足付き性も良好。身長175cmの筆者の場合、両足のかかとがギリギリで接地しないくらいだ。重量バランスがいいので、片足でも大型バイクと思えないくらい支えやすい

シートはコンパクトだが、しっかりとお尻を受け止めてくれる。タンデムシートも小さく見えるが、座り心地は悪くない

シートはコンパクトだが、しっかりとお尻を受け止めてくれる。タンデムシートも小さく見えるが、座り心地は悪くない

フロントフォークの取り付け位置は下げられているが、ハンドルの位置は高めのまま。ハンドルバーも幅広いタイプだ

フロントフォークの取り付け位置は下げられているが、ハンドルの位置は高めのまま。ハンドルバーも幅広いタイプだ

まずは、街中を走ってみた。軽快な操作性は走り出すと、さらに高まる。車体が軽くなり、マスの集中化もさらに進められたことに加え、ホイールの軽量化が効いているのか、先代モデルでも軽快だった印象が2割り増しくらい高まっている。本当に400ccクラス、それも軽量なマシンを操っているかのようだ。それでいて、加速力は先代モデルよりもさらにアップしており、アクセルを軽くひねれば、路上のほかのマシンはほぼ置き去りにできる。しかも、従来よりも扱いやすさも向上しているので、街乗りでもストレスを感じることはなかった。

ややロングストロークとなったエンジンは、パワーアップを果たしながらも低中速のトルクが増しているので扱いやすさも向上している

ややロングストロークとなったエンジンは、パワーアップを果たしながらも低中速のトルクが増しているので扱いやすさも向上している

強烈な加速力を持ちながら、それをアクセル操作できちんと制御できる。そんなマシンが、気持ちよくないわけがない

強烈な加速力を持ちながら、それをアクセル操作できちんと制御できる。そんなマシンが、気持ちよくないわけがない

続いて、高速道路に乗って郊外のワインディングを目指す。アクセルのひねり具合で加速を絶妙に制御できるので、高速移動も非常に楽しい。アクセルをひねらなくても一定速度で走行できる「クルーズコントロールシステム」も搭載されているが、アクセルで3気筒エンジンをコントロールするのが気持ちいいので、ほとんどオンにすることはなかった。車線変更も軽快で、中型バイク並の感覚で操れる。それでいて、加速力は大型スポーツバイクの中でも指折りの俊敏さ。公道を走るうえで必要なのは、飛ばしすぎない自制心だけだ。

ワインディングに到着すると、高揚感は最高潮に。大型バイクで曲がりくねった道を走る際は、大きな車体を操る気構えが必要になることもあるが、MT-09 ABSは曲がって行きたい方向に視線を向け、ラインをイメージするだけでバイクが勝手に動いてくれる感覚だ。思い描いた通りにバイクが走ってくれるので、ついついペースも上がりがち。先代モデルも思い通りに動いてくれるマシンではあったが、パワフルなエンジンとピッチングが大きめのサスペンションは、少々緊張を強いられる場面もあった。その点、新型はサスペンションの動きが適度に抑えられ、車体の剛性感が上がって安定感が高まったため、安心して走ることができる。走行モードをもっとも激しい「1」にしていても、コントロール性が向上しているので、少々路面が荒れたワインディングでもいたってスムーズに走れてしまう。少し大きめにアクセルを開ければ強烈なダッシュ力を味わえるが、車体はコントロール下に置かれた状態。あまりにも楽しいので、予定していたコースからさらに足を伸ばして山2つ分くらい余計に走ってしまった。

特別に気負うことなくワインディングを駆け抜けられるので、頭の中で快楽物質が分泌されていくのを感じる

特別に気負うことなくワインディングを駆け抜けられるので、頭の中で快楽物質が分泌されていくのを感じる

排気音とともに耳に届くエアインテークからの吸気音も気分を高めてくれる。ほかのバイクの排気音がしない山の中では、さらにクリアに聞こえて最高に気持ちいい

排気音とともに耳に届くエアインテークからの吸気音も気分を高めてくれる。ほかのバイクの排気音がしない山の中では、さらにクリアに聞こえて最高に気持ちいい

試乗を終えて

先代モデルに試乗した際の印象がよく、フルモデルチェンジを受けた新型は進化点も多いため、試乗前から期待値が非常に高かった。言葉を変えれば、それだけハードルも上がっていたということになるが、実際に乗ってみると期待値をはるかに超える仕上がりを実感。軽快で思い通りに操れる車体、ピシッと芯が通ったような新型フレームによる抜群の安心感、そして刺激を強めつつもコントロール性も増した強烈な加速力のエンジン。この組み合わせが楽しくないわけはないだろう。

そのうえで、先代モデルまではやや乗り手を選ぶところのあったじゃじゃ馬的な性格が、新型ではしっかりとコントロール下に置けるようになっている。これは、充実した電子制御のおかげもあるだろう。少し大きめにアクセルを開けた際はフロントタイヤが浮き上がるような感覚がありつつも、リフト量は抑えられ、電子制御が効いていることを感じさせられた。誤解を恐れずに言えば、大型免許を持っている人なら誰でもある程度は操ることができるはずだ。

これだけの楽しさと扱いやすさ、それに刺激的な乗り味をあわせ持ちながら110万円(税込)という価格は、ライバルに該当しそうな輸入車が200万円オーバーであることを考えるとお買い得な印象。正直なところ、試乗を終えてからも筆者はこの日の感覚が忘れられず、また乗りたくてたまらなくなっている。新型「MT-09 ABS」がガレージにあったら、アグレッシブなバイクライフを送れそうだ。

個人的には、ラジアルポンプとなったフロントブレーキのタッチも好印象だった。新型「MT-09 ABS」を入手したとしても、しばらくはカスタマイズしたくなるところはなさそうな完成度だ

個人的には、ラジアルポンプとなったフロントブレーキのタッチも好印象だった。新型「MT-09 ABS」を入手したとしても、しばらくはカスタマイズしたくなるところはなさそうな完成度だ

増谷茂樹

増谷茂樹

カメラなどのデジタル・ガジェットと、クルマ・バイク・自転車などの乗り物を中心に、雑誌やWebで記事を執筆。EVなど電気で動く乗り物が好き。

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