近ごろ、ちょっとしたバイクブームが巻き起こっているが、ブームになる前から安定した人気を維持しているのが排気量125cc以下の原付二種クラス。最近では5速化されたホンダ「グロム」が人気を牽引しているが、同クラスでグロムに見劣りしないスペックと、コストパフォーマンスの高さで注目したい存在がベネリ「TNT 125」だ。どのような乗り味と走行性能なのか、街乗りからワインディングまで乗り回してきた。
ベネリの現行のラインアップは250ccクラスが中心で、今回紹介する「TNT 125」は末弟的な小排気量モデルとなる。ただ、小排気量モデルであっても、イタリアンブランドらしい細かい部分まで作り込みが感じられる仕上がり。ビビッドにカラーリングされたパイプをハシゴ状に組み合わせたトレリス形状のフレームや、複数のLEDを組み合わせた個性的なフロントフェイス、スラッシュ(斜め)カットされた2本出しのマフラーなどを備えたそのルックスからは、原付二種クラスとは思えないクオリティを感じる。
サイズは1,770(全長)×760(全幅)×1,025(全高)mm。車重は124kgと、このクラスとしては少々重め(ホンダ「グロム」は102kg)だ。「ブラック/レッド」「レッド/ブラック」「ホワイト/レッド」のカラーバリエーションに加え、特別カラーの「グリーン」が用意されている。メーカー希望小売価格は328,900円(グリーンのみ334,400円)※すべて税込
ビビッドにカラーリングされたトレリス形状のフレームは、エンジンを包み込むように作られている。トレリス形状は、パイプフレームで剛性を確保する手段として歴史のある手法だ
LEDを組み合わせたフロントライトは、欧州などで人気のあるストリートファイター的な顔つき
スラッシュカットされた排気口の2本出しのマフラーが、迫力あるリアビューを作り出している
マフラーと尖った印象のテールランプが作り出すリアビュー。ナンバーがスイングアームマウントなのもあって、すっきりとした印象だ
ハンドルは、前方が見やすいライディングポジションとなるアップタイプ。デジタルとアナログを組み合わせたメーターに、シフトインジケーターが装備されていないのは少し残念
厚みのあるシートは上に向かって幅が絞られ、ややオフ車的な形状。前後の移動もしやすそう
やや低い位置にマウントされたステップにはラバーが貼られているので、すべりにくい
キーは折りたためる構造。ヒンジの部分を押すとキーが出てくるので、片手で開けられる
空冷フィンの刻まれた125ccの縦型SOHC単気筒エンジンを搭載しているが、大きめのオイルクーラーを備え、そのオイルを冷却に使用するため、カタログでは「油冷」とされている。最高出力は8.2kW/9,500rpmと、高回転まで回してパワーを絞り出す作り。ちなみに、ホンダ「グロム」は7.4kW/7,250rpmだ。最大トルクは10.0Nm/7,000rpmで、グロムの11Nm/5,500rpmと比較すると、低速トルクよりも高回転での出力を優先していることが感じられる。
シリンダーを縦に置いたオーソドックスな作りのエンジン。SOHCだが10,000回転まで回る
前面に大型のオイルクーラーを装着。オイルで冷却を併用する油冷式だ
足回りも、なかなか本格的な装備に見える。前後12インチのホイールに倒立式のフロントフォークを採用し、リアサスペンションは1本タイプで調整式。前後油圧のブレーキは、フロントのブレーキレバーを握るとリアも連動して効くコンビブレーキとされている。
倒立式のテレスコピックフォークは120mmと、多めのホイールトラベルを確保
前後連動して効くコンビブレーキを採用。12インチのホイールに対して大きめの210mmディスクとなっており、キャリパーはサポートを介してマウントされている
リアサスペンションは中央からやや左にオフセットされて装着。イニシャルの調整機構を備える。リアのホイールトラベルは28mm
スイングアームはやや長めの作りで、ナンバーのマウントもスイングアームから伸びるデザイン
ここからは、走りの性能を検証する。同クラスのライバル車といえる、ホンダ「グロム」との比較も交えてお届けしよう。
車体にまたがって、まず感じるのはニーグリップのしやすさ。着座した状態でタンクとシュラウドに自然に内ももがフィットする。前後に着座位置を移動しても、この印象は変わらず。グロムでも同様だが、小さい車体のバイクと一体感を得るためには結構重要な要素だ。
シートからタンク・シュラウドまでなめらかなラインでつながっており、ニーグリップしやすい
またがるだけで自然に内ももにフィットする形状だ
シート高は780mmと、グロムに比べるとスペック値で19mm高い。その分、足付き性は犠牲になるものの、原付二種クラスなので両足はしっかりと接地する。逆にいうと、ステップとシートの間が広いので、ステップに足を置いた際にヒザの曲がりが窮屈にならないのはメリットだろう。
身長175cmの筆者は、両足のかかとがしっかり接地した。ヒザの曲がりはほとんどないので、個人的にはかなりラクだ。小柄な人の場合、シート高がTNT 125より19mm低いグロムのほうがラクに感じるかもしれない
クラッチをつないで走り出すと、低回転のトルクは薄め。TNT 125の最大トルクが10.0Nm/7,000rpm、グロムが11Nm/5,500rpmというスペック値のとおり、低回転で押し出すようなトルクはグロムに軍配が上がる。ただ、高回転まで回すとタコメーターの針の上昇とともにパワーが盛り上がり、車重の重さを感じることなく加速していく。回すとかなり速いエンジンだ。
エンジンを回すと、回転数とともにパワーが盛り上がってくる。グロムなどの横型エンジン搭載車ではなかなか味わえない感覚
低回転でトコトコ走るようなシーンではトルクが強くないので、エンストなどにやや気をつかう必要があるかもしれない
速度を上げていくと感じるのが、直進安定性の強さ。グロムよりホイールベースが15mm長い1,215mmということも関係しているのだろうが、高回転まで回しても安心して加速を楽しめる。半面、コーナリングでは、グロムのようにコンパクトにクルッと旋回する感覚はない。どちらかというと、フルサイズの車体に近い安定感。好みが分かれる部分かもしれないが、大きなバイクにステップアップすることを考えているならTNT 125のほうがスムーズに乗り換えできるだろう。
TNT 125は、しっかりきっかけを与えてバンクさせると旋回力を発揮する。コーナリング中の安定感も高い
とはいえ、TNT 125がコンパクトに曲がれないというわけではない。Uターンなどでもきちんとバンクさせると、想像以上に小さくターンできる。ただ、あまり意識せずに傾ければコンパクトにターンできたグロムに比べると、意識的に操作を行う必要があるということ。逆にいえば、正しい操作を意識させてくれる“ライダーを育てるマシン”と言えるかもしれない。
きっかけを与えてバンクさせると、かなりコンパクトにターンすることができる。ただ、何も意識せずにUターンしようとすると予想外に大回りしてしまうことも
リーンアウトで足を出すフォームも試してみたが、このスタイルでもしっかり反応してくれる懐が深いマシンだ
原付二種クラスのギア付きスポーツモデルには、大きく分けて12インチホイールのコンパクトなモデル(グロムやモンキー125など)と、ホイール径の大きなフルサイズモデルがある。このクラスのバイクに何を求めるかにもよるが、小さな車体と回転半径を生かしてキビキビ走りたいならホイール径が小さなモデル、安定感のある走りが好みならフルサイズモデルを選ぶことになるだろう。今回紹介したTNT 125は、12インチホイールを履いているが、乗ってみるとフルサイズに近いようなサイズ感で、ハンドリングも安定感がある。グロムやモンキーなどのレジャーバイクっぽいサイズやハンドリングが好みの人には、TNT 125は少し大きく感じるかもしれないが、“きっかけを与えてバイクを操る感覚”を覚えられるマシンでもあるので、ゆくゆくは大きな排気量にステップアップを考えているライダーにもうってつけだ。
価格のわりに装備が豪華で、細かい部分の仕上がりもよく、原付二種の車両ではあるがクラスを越えた魅力を持っているTNT 125。グロムと比べて約56,000円安い価格もお得感がある。バイク初心者はもちろん、ある程度の経験があるリターンライダーもTNT 125でマシンを操る感覚を思い出してから大排気量モデルに乗るというのもアリだろう。ただ、大排気量モデルに乗り換えたとしても、手元に残しておきたくなる魅力がTNT 12にはあるので、増車することになるかもしれないが……。
最近選択肢が増えてきた12インチのオフロード用タイヤを履かせて未舗装路で遊ぶのも楽しそう
●メインカット、走行シーン撮影:松川忍
カメラなどのデジタル・ガジェットと、クルマ・バイク・自転車などの乗り物を中心に、雑誌やWebで記事を執筆。EVなど電気で動く乗り物が好き。