日本の自動車メーカーの中で、電気自動車に力を入れているメーカーと言えば日産が挙げられる。日産は、2010年に世界初の量産型電気自動車「リーフ」(初代モデル)を投入して、2014年には商用電気自動車の「e-NV200」を発売。さらに、2017年にはリーフを2代目へとフルモデルチェンジし、2021年にはSUVの電気自動車「アリア」を発表、予約受注を開始した。
日産から、軽自動車タイプの電気自動車「サクラ」が2022年夏に発売される。サクラは日産として初の軽EVで、三菱自動車と共同で開発されたクルマだ。サクラの特徴は、補助金を差し引くと200万円以下から購入できる価格の安さ(後述)や、軽自動車らしからぬ質感の高さが魅力となっている
このように、他社に先駆けて電気自動車を次々と投入してきた日産だが、2022年5月20日に発表した新たな電気自動車が「サクラ」だ。サクラは、三菱自動車と共同開発されたクルマで、姉妹車として三菱では「eKクロスEV」を発売する。両車ともに、2022年夏の発売が予定されている。当記事では、サクラの魅力をベースとなった軽自動車「デイズ」との違いなどを交えて解説するほか、走りのフィーリングなどについてもお伝えしたい。まず、サクラのグレードラインアップと価格については、以下のとおりだ。
■日産「サクラ」のグレードラインアップと価格
※価格はすべて税込
S:2,333,100円
X:2,399,100円
G:2,940,300円
■日産「サクラ」の主なスペック
駆動方式:2WD
全長×全幅×全高:3,395×1,475×1,655mm
ホイールベース:2,495mm
搭載バッテリー種類:リチウムイオンバッテリー
搭載バッテリー総電力量:20kWh
最高出力:47kW
最大トルク:195Nm
一充電あたりの航続距離(WLTCモード):180km
「サクラ」のフロントエクステリアとリアエクステリア。ベース車である軽自動車の「デイズ」とはエクステリアが異なっており、サクラでは高級感のある外観デザインが採用されている
サクラのボディサイズは軽自動車の大きさで、プラットフォームも基本的に軽自動車の日産「デイズ」と共通だ。2019年に登場したデイズの開発段階で、電気自動車の追加が視野に入れられていたので、サクラを合理的に開発できたという経緯がある。
「サクラ」のインテリアイメージ。インパネやメーターなどは、エクステリアと同様に高級感のあるデザインに仕上げられている
「サクラ」のフロントシートとリアシート
この合理性は、車内に乗り込むとよくわかる。サクラの床下には駆動用リチウムイオン電池が搭載されているのだが、デイズと比べても床の位置は高められていない。そのために乗降性がよく、シートに座った時も膝が持ち上がるような窮屈な座り方にならないのだ。身長170cmの大人4名が乗車して、後席に座る乗員の膝先にはデイズと同じく握りコブシ3つぶんもの広々とした余裕がある。
そして、後席の座り心地はデイズよりもサクラのほうが快適だ。デイズの後席は柔軟性がやや乏しく、腰のサポート性もいまひとつなのだが、サクラはシートのボリューム感が高められている。一般的に、ベース車が共通のガソリンエンジン車と電気自動車を比較した場合、後者の居住性が上まわることはめずらしい。
「サクラ」の走行イメージ。滑らかな加速感などは、まさに電気自動車のもので力強く、パワー不足などを感じることはない
テストコースでサクラを試乗してみると、まず発進直後に感じたことは加速の滑らかさだった。ガソリンエンジン車は、回転の上昇にともなって駆動力を高めていくが、電気自動車はモーターによって瞬時に高い駆動力を発生させる。そのために、アクセルペダルを軽く踏んだだけで素早く発進することができる。この瞬発力は、660ccのガソリンエンジンを搭載する軽自動車では、まず味わえない軽やかなフィーリングだ。また、その後の加速もモーター駆動らしく滑らかなもので、速度が直線的に高まっていく。さらに、サクラは遮音も入念に行われているようで、走行ノイズはとても小さい。静かに、力強く加速するのは電気自動車の特徴だが、サクラもそのメリットを十分に感じ取ることができた。
「サクラ」の走行イメージ
そして、巡航中にアクセルペダルを踏み増せば、沸き上がるような駆動力で加速していくのも魅力的だ。モーターの最高出力は47kW、最大トルクは195Nm。電気自動車の性能は、ガソリンエンジン車とはスペックだけで直接比較はできない部分もあるが、後者の数値は排気量に換算すると2Lに相当するものだ。軽自動車の660ccターボエンジン車と比べても明らかに力強く、電気自動車特有の力強くてリニアな加速感を味わえる。
ちなみに、駆動用リチウムイオン電池の総電力量は20kWh。三菱「アウトランダーPHEV」と同じ容量で、リーフに比べると半分だが1回の充電で180kmを走行できる(WLTCモード)。1回の充電で180kmという距離が短いか否かは、使い方によって変わってくるだろう。一家に1台のファーストカーならば、航続可能距離が180kmでは使いにくいだろうが、複数のクルマを所有する世帯のセカンドカーとして使うのなら不満は少ないだろう。たとえば、長距離を移動する時には「セレナ」のようなミニバンをファーストカーとして使い、日常の買い物に出かける時などにサクラを利用するのなら、1回の充電で180kmを走行できれば十分と言えそうだ。
そして、サクラはボディが小さな電気自動車で、最小回転半径は4.8mに収まるので市街地での移動に適している。長距離を走るのが得意ではない電気自動車にとって、日常的な移動に使われる軽自動車のカテゴリーであることは親和性が高い。
いっぽうで、サクラは電気自動車らしく加速が滑らかでノイズが小さく、運転感覚は上質だ。さらに、特筆できるのが走行安定性の高さだ。たとえば、カーブへの進入でステアリングホイールを回し始めた時に、サクラはデイズに比べて車両の向きが正確に変わる。軽自動車にありがちな手応えの曖昧さが払拭されており、運転の心地よさを味わうことができる。
「サクラ」の試乗イメージ。サクラはカーブの安定性もすぐれており、タイヤが路面をとらえながらしっかりと曲がっていく
さらに、カーブに入った後の走行安定性もすぐれており、後輪の接地性が高いので運転操作が難しい状態などに陥りにくい。急なカーブを曲がる時にはボディが大きめに傾き、デイズに比べて軽快感が削がれるが、挙動の変化は穏やかに進む。そのために、安定性は下がりにくい。また、足まわりが柔軟に動くので、乗り心地も快適だ。低速域では少し硬めに感じるが、大きな段差を乗り越えた時の突き上げ感は小さく、コンパクトカーと同等か、それ以上に上質な走りを味わえる。
走行安定性と乗り心地をバランスよく両立できた背景には、電気自動車特有のレイアウトがある。駆動用リチウムイオン電池を床下に搭載しているので、重心が低く抑えられた。また、電池の搭載にともなってボディの下側を強化しているので、車体剛性も向上している。これらの相乗効果によって、走りの質が高められている。
「サクラ」のフロントフェイス。デイズとは異なる造形で、日産「アリア」にも通じる質感の高いデザインが採用されている
「サクラ」のリアイメージ。テールランプには、特徴的なLEDコンビネーションランプが採用されている
このような質感の高さは、日産がサクラという車種をどのように位置付けているかということからもわかる。サクラは、アリアやリーフなど日産の電気自動車におけるラインアップのひとつとして位置付けられており、デイズの派生モデルなどではない。外観のデザインも、ベースのデイズとは異なる。フロントマスクはアリアに似た形状へと変更され、軽自動車初のプロジェクタータイプの3眼ヘッドライトが採用されている。また、テールランプにはLEDコンビネーションランプが備わるなど、エクステリアには力が入れられている。
Gグレードでは、カッパー色のフィニッシャーがインパネなどに備わり、質感の高さがさらに強調される
また、内装も同様にデイズとは異なり、インパネは軽自動車としてはかなり上質な雰囲気のデザインが用いられている。さらに、上級グレードのGであれば、カッパー色のフィニッシャーが水平に配置され、さらに上質さを醸し出す。また、メーカーオプションの「プレミアムインテリアパッケージ」を選ぶと、シート生地が合成皮革/トリコットになるなど、こちらも高い質感が得られる。
サクラのグレード構成は、S、X、Gの3種類。このうち、S(2,333,100円)は法人ユーザー向けの仕様なので、一般ユーザーが選ぶのはXとGの2種類だ。車両価格は、Xが2,399,100円で、経済産業省による補助金の55万円を差し引くと1,849,100円。上級のGは価格が2,940,300円で、補助金の55万円を差し引くと2,390,300円になる。
Gは、Xに「アダプティブLEDヘッドランプ」、「インテリジェントアラウンドビューモニター」、「日産コネクトナビ」、「ETC2.0」、運転支援機能の「プロパイロット」、「SOSコール」などが加わる。Gの価格は、Xに比べて541,200円高いが、プラスされた装備の内容を考えると納得できる価格だ。市街地の移動が中心で価格を抑えたい場合はX、ある程度の長距離移動も視野に入れ、運転支援機能のプロパイロットがほしいユーザーはGを選ぶといいだろう。
昨今の軽自動車は、取り回しのしやすい小さなボディや税金の安さなどだけでなく、機能や装備が凝縮された独特の使い勝手の高さも魅力的だ。サクラは、電気自動車ならではの滑らかな加速やすぐれた走行安定性、乗り心地に加えて、軽自動車としての機能性の高さ、そして上質な魅力をあわせ持つ魅力的なクルマと言えそうだ。
「読者の皆さまに怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も大切と考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を心掛けるモータージャーナリスト