初代モデルが1997年に登場して以来、約25年間にわたって進化を続けてきた、ホンダを代表するFFスポーツカー「シビックタイプR」。ベースモデルの「シビック」は、2021年に先んじてフルモデルチェンジを受けているが、シビックタイプRも2022年9月にいよいよ新型モデルが発売される。
当記事では、2022年7月28日に世界初公開された新型シビックタイプRの概要のほか、独自の販売店への取材によって、大まかな価格や最高出力などの情報もわずかではあるが判明したので、そちらもあわせてお伝えしたい。
新型「シビックタイプR」のフロントエクステリアとリアエクステリア。ボディ一体型のワイドフェンダーはサイドから流れる造形となっており、フロントからリアへと流れる空気をコントロールすることによって空力性能を向上させている
まず、新型シビックタイプRのエクステリアデザインは、新型シビックをベースに一体型のワイドフェンダーとなっているのが特徴的だ。
アルミダイキャストステーが採用され、性能や質感が高められたリアスポイラー
3本出しの「トリプルエキゾーストシステム」と、高いスタビリティを実現する「リアディフューザー」
また、前方にはアルミ製のフロントフードやフロントフェンダーダクトが備わり、側方にはサイドシルスポイラーが、後方にはリアスポイラーや3本出しのトリプルエキゾーストシステム、リアディフューザーなどが備えられている。
リバースリム構造が採用されたマットブラックの19インチアルミホイール
タイヤは、19インチ(265/30ZR19)の「ミシュランパイロットスポーツ4 S」が、リバースリム構造のアルミホイールに組み付けられる。ブレーキはブレンボ製で、フロントにアルミの対向4ポットキャリパーを備える。強力なブレーキシステムは、アルミホイールの隙間からよく見えて、走行性能の高さを窺わせてくれる。
サポート性能が強化され、軽量化も施されたバケットタイプのフロントシート
インテリアは、フロントのレッドのバケットシートが個性的だ。ベースモデルのシートよりも、限界走行で体を支えてくれるのはもちろんのこと、新型のフロントシートに用いられている赤色は先代と少し異なっており、より高揚感を高める赤色に変更されているという。
2人掛けのリアシートには、ホールド性を高めるスエード調表皮が採用されている
リアシートは、座面の中央部分にカップホルダーが備わり、2人掛けになる。乗車定員は、4名だ。シート表皮は滑りにくいスエード調で、後席に座る乗員の着座姿勢を安定させるといった配慮がなされている。
インパネは、ベースモデルの「シビック」と基本的に同じだが、細部にレッドの差し色が用いられていたり、メーターの仕様などが異なっている
センターコンソールパネルはアルミ製で、質感の高さを覚えるものだ
インパネについては、基本形状はベースモデルと同じだが、レッドとブラックの組み合わせがスポーティーだ。また、メーターは新型シビックタイプR専用にデザインされた10.2インチデジタルグラフィックが備わる。スピードメーターは320km/hスケールで、メーターの針はタイプR伝統の黄色指針にデザインされているといったこだわりようだ。また、6速MTのレバーが装着されるアルミ製のセンターコンソールも、質感が高い。
新型「シビックタイプR」には、最高出力をさらにアップさせた2L直列4気筒ターボエンジンが搭載されているという
エンジンは、先代と同様の2L直列4気筒ターボだが、販売店では「新しいシビックタイプRのエンジンは、最高出力が330PS、最大トルクは420Nm(42.8kg-m)にチューニングされている」と言う。ターボを装着しない、標準仕様の一般的な2Lエンジンに比べると、約2倍の動力性能を発生させる。
ちなみに、先代の動力性能は320PS、400Nm(40.8kg-m)なので、新型ではさらにパワフルになっている。特に、最大トルクの向上は実用回転域の駆動力が高められ、日常的な走りの余裕にも結び付く。最大トルクは、2Lエンジンでは最高峰の数値になる。そのほか、フライホイールを軽量化することで吹け上がりを軽快にしたり、6速MTに改良が加えられるなど、新型は動力性能に関する細かな改良点も多い。
新型「シビックタイプR」の走行イメージ
また、フルモデルチェンジによって、ボディやサスペンションの性能も高められている。先代も走行安定性はすぐれていたが、新型ではリヤ側の捩り剛性を15%向上させた。さらに、軽量化も施されており、リヤゲートはスチール製から樹脂製に変更することで約20%軽くなった。
サスペンションも、各部の剛性が最適化されており、アルミホイールも剛性を制御することで適度なしなりを持たせた。これらのチューニングによって、タイヤの路面接地性や乗り心地を改善させている。
新型「シビックタイプR」では、ドライブモードへ新たに「+R」モードが加わった
運転状態に応じて、エンジンやサスペンション、パワーステアリングなどを調節するドライブモードスイッチには、+Rモードが加わった。同モードでは、ショックアブソーバーの減衰力が最も高く設定され、アクセル操作に対するエンジンの反応も機敏になる。
販売店に、新型シビックタイプRの価格を尋ねると「499万円少々になる」と言う。先代モデルの価格は4,752,000円だったので、約24万円の値上げだ。昨今の原材料費や輸送費の価格高騰を反映させたが、車両の機能も進化したので、先代との比較では妥当な価格設定と思われる。
ただし、1997年に発売された初代モデルのシビックタイプRは、1.6L直列4気筒のVTECエンジンを搭載して、価格は1,998,000円であった。消費税の扱いは異なるが、金額だけを見ると現行型の約40%だ。これが、2001年に登場した2代目モデルは、エンジンを2Lに拡大して価格も2,200,000円に高まり、2007年の3代目モデルはセダンボディになって2,835,000円になった。
ここまでは300万円以下だが、2015年に登場した4代目モデルは、2Lエンジンにターボを装着して、価格を4,280,000円に値上げした。その後、5代目モデルの先代は発売時点では4,500,360円で、生産終了時点では前述の4,752,000円となった。つまり、シビックタイプRの価格は、ターボを装着した4代目モデルから大幅に上昇している。安全装備なども充実しているし、クルマの値上げはシビックタイプRにかぎった話ではないのだが、フルモデルチェンジされるたびになじみやすさが薄れているようにも思える。また、パワーを使い切るといった醍醐味も得にくくなってきている。その意味では、たとえば「フィットタイプR」などを開発すると、1.6Lエンジンを搭載した初代シビックタイプRに近い存在になるのかも知れない。
最後に、話がフィットに逸れるが、販売店では「フィットが、2022年10月頃にマイナーチェンジを実施して、ネスを廃止する代わりにRSを復活させる」と言う。今のフィットでは、NAエンジンの排気量は1.3Lのみだが、「追加グレードのRSには1.5Lを搭載して、6速MTも設定するらしい。1.5 LNAエンジンを搭載するRSの価格は、190〜200万円」とのことだ。そうなると、多くのクルマ好きにとってフィットRSはなじみやすいだろう。たとえば、スズキ「スイフトスポーツ」も、1.4Lターボエンジンを搭載して価格を2,017,400円(6速MT)に抑えている。スイフトスポーツもかなりの人気車で、スイフトに占めるスイフトスポーツの販売比率は約50%にも達するほどだ。高性能なシビックタイプRは魅力的だが、フィットRSを200万円前後、さらに性能を高めたフィットタイプRを240万円前後で設定したら、クルマ好きのユーザーにはよろこばれるはずだ。
※当記事の価格、最高出力、最大トルク、フィットマイナーチェンジの情報については、販売店への独自取材に基づく内容となっております。
「読者の皆さまに怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も大切と考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を心掛けるモータージャーナリスト