バイク野郎 増谷茂樹の二輪魂

名車の仲間入り間違いなし! 30年の歴史に幕を降ろしたホンダ「CB400 SUPER FOUR」を惜しむ

2022年は、令和2年排出ガス規制が適用されることからいくつかのモデルが生産終了を発表したが、その中でも2022年10月に生産終了したホンダ「CB400 SUPER FOUR」は大きな話題となった。レースシーンでも活躍するなどベテランライダーも唸らせる性能を持ちながら、教習所のバイクに選ばれるほど乗りやすい「CB400 SUPER FOUR」は、“永遠のスタンダードバイク”とも呼べる存在だ。そんな名車に思いを馳せ、魅力を振り返ってみよう。

30年に渡って進化を続けた“走り”のネイキッド

各メーカーが性能を競い合ったレーサーレプリカブームがひと段落し、ネイキッドと呼ばれるカウルレスのマシンが人気となっていた1992年に、初代「CB400 SUPER FOUR」は登場した。ネイキッドブームの火付け役となったカワサキ「ゼファー」が空冷4気筒エンジンを搭載していたのに対し、「CB400 SUPER FOUR」は同じ4気筒でも水冷エンジンを搭載。このカテゴリーでも走行性能に手を抜かないホンダらしい姿勢を示したが、どちらかというと1970年代を懐かしむ風潮もあって、ライバルである「ゼファー」を追い落とすまでの存在にはならなかった。

ただ、妥協のない性能は、当時盛り上がっていたネイキッドレース「NK4」で大活躍する。1995年にはビキニカウルを装着し、ハイカムやアルミサイレンサー、専用のサススプリングなどを採用し、さらに性能を高めた「Version R」を発売。そのカウルを廃した「Version S」もその後に追加され、“走り”のイメージを確固たるものにした。

初代「CB400 SUPER FOUR」の最高出力は53PS。重量は193kgだった

初代「CB400 SUPER FOUR」の最高出力は53PS。重量は193kgだった

1995年に登場した「CB400 SUPER FOUR Version R」

1995年に登場した「CB400 SUPER FOUR Version R」

そして、1999年に「CB400 SUPER FOUR」を語るうえで欠かせない「HYPER VTEC」機構を採用。エンジン回転数に応じて開閉するバルブ数が変化するもので、低回転では2バルブ、高回転では4バルブが稼働する(4輪のVTECとは異なる)。6,750rpmを境に切り替わるが、高回転での排気音は官能的。現在にいたるまで多くのファンを引きつけるポイントだ。

「HYPER VTEC」を搭載した1999年式の「CB400 SUPER FOUR」

「HYPER VTEC」を搭載した1999年式の「CB400 SUPER FOUR」

その後、2002年に、バルブの切り替わるタイミングが6,300rpmと低くなった「HYPER VTEC SPECII」に進化。このタイプから、400ccクラスでは初となるイモビライザーも装備された。さらに翌年には、早くも「HYPER VTEC SPEC III」へと進化し、6速ギアのみ、切り替わるタイミングが6,750rpmに変更。そして、2005年にはハーフカウルを装備した「CB400 SUPER BOL D'OR」も登場した。

2005年にハーフカウルを装備し、高速巡航性能がアップした「CB400 SUPER BOL D'OR」が追加された

2005年にハーフカウルを装備し、高速巡航性能がアップした「CB400 SUPER BOL D'OR」が追加された

以降、燃料供給が電子制御のインジェクション(PGM-FI)に改められた2007年には、バルブ機構も「HYPER VTEC Revo」に進化。エンジン回転数だけでなく、スロットル開度も検知して駆動バルブ数が切り替わるようになり、より緻密な制御が可能となった。そして2017年には、平成28年度排出ガス規制(ユーロ4)に対応させながら吸排気系を見直すことで、最高出力を56PSにアップ。一新したマフラー構造により、排気音も迫力を増した。

また、走行性能だけでなく、バランスのよさにも定評があった「CB400 SUPER FOUR」は教習車にも採用されていた。きっと、教習所でこのバイクに触れたというライダーも多いことだろう。

2017年が最後のモデルチェンジとなったが、そこにいたるまで進化の手が緩むことはなかった

2017年が最後のモデルチェンジとなったが、そこにいたるまで進化の手が緩むことはなかった

教習車仕様の「CB400 SUPER FOUR」(2017年モデル)。教習所で「CB400 SUPER FOUR」に触れ、免許を取得した後、最初に乗るバイクとしてこのマシンを選ぶ人も少なくなかったようだ

教習車仕様の「CB400 SUPER FOUR」(2017年モデル)。教習所で「CB400 SUPER FOUR」に触れ、免許を取得した後、最初に乗るバイクとしてこのマシンを選ぶ人も少なくなかったようだ

バイクの基本を思い出させる車体構成

30年の歴史に幕を降ろした「CB400 SUPER FOUR」の車体の細部を詳しく見ておこう。

エンジンや足回り、外観デザインなどは細かくブラッシュアップが繰り返されてきたが、車体の基本構成は30年の間ほぼ不変。4気筒エンジンに正立タイプのフロントフォークを備え、リアサスペンションは2本タイプという非常にオーソドックスな構成だ。細かい変更を繰り返しながらも、これだけの期間、大きく構成を変えることがなかったのは、基本の設計がすぐれていた証だろう。

車体サイズは2,080(全長)×745(全幅)×1,080(全高)mmで、車両重量は201kg。タンクやシートカウルは、時代とともにシャープなシルエットになっている

車体サイズは2,080(全長)×745(全幅)×1,080(全高)mmで、車両重量は201kg。タンクやシートカウルは、時代とともにシャープなシルエットになっている

初期のエンジンには空冷を思わせるフィンが刻まれていたが、最新型では目立たなくなっている。最高出力は56PS/11,000rpmで、最大トルクは39Nm/9,500rpm

初期のエンジンには空冷を思わせるフィンが刻まれていたが、最新型では目立たなくなっている。最高出力は56PS/11,000rpmで、最大トルクは39Nm/9,500rpm

電子制御のPGM-FIを採用しているが、キャブレターのころとシルエットは大きく変えていない

電子制御のPGM-FIを採用しているが、キャブレターのころとシルエットは大きく変えていない

マフラーには小型2室構造を採用。4気筒らしい伸びやかな排気音を実現する

マフラーには小型2室構造を採用。4気筒らしい伸びやかな排気音を実現する

フロントブレーキはダブルディスク。ホイールは幾度もデザインを変更しているが、最新型は10本スポークとなっている

フロントブレーキはダブルディスク。ホイールは幾度もデザインを変更しているが、最新型は10本スポークとなっている

正立フォークに丸型ヘッドライトというオーソドックスなデザイン。ライトはLEDを採用している

正立フォークに丸型ヘッドライトというオーソドックスなデザイン。ライトはLEDを採用している

リアサスペンションは2本タイプ。スプリングは不等ピッチでリザーバータンクも装備する

リアサスペンションは2本タイプ。スプリングは不等ピッチでリザーバータンクも装備する

シートやハンドルなどの操作に関わる部分は、何度もブラッシュアップを重ねてきたモデルらしい仕上がり。現代の目で見ると装備は豪華とは言えないが、教習車に採用されているだけあり、初心者でも扱いやすい構成だ。

シート高は755mmで、シートの両側が絞り込まれている形状もあり足付きはよさそう

シート高は755mmで、シートの両側が絞り込まれている形状もあり足付きはよさそう

サスペンションのボルトとグラブバーには突起が設けられており、ツーリングなどで荷物をくくりつけやすいように配慮されている

サスペンションのボルトとグラブバーには突起が設けられており、ツーリングなどで荷物をくくりつけやすいように配慮されている

2眼タイプのメーターにパイプハンドルという非常にオーソドックスなコックピット。ハンドルはやや手前に絞り込まれた形状だ

2眼タイプのメーターにパイプハンドルという非常にオーソドックスなコックピット。ハンドルはやや手前に絞り込まれた形状だ

アナログ式のメーターの間に、シフトインジケーターなどを備えるディスプレイを配置

アナログ式のメーターの間に、シフトインジケーターなどを備えるディスプレイを配置

タンク形状は絞り込まれており、ニーグリップがしやすそう

タンク形状は絞り込まれており、ニーグリップがしやすそう

マスターシリンダーもオーソドックスな横型形状。グリップは握りやすさに定評があるもの

マスターシリンダーもオーソドックスな横型形状。グリップは握りやすさに定評があるもの

クイックシフターは装備されていないが、操作しやすいシフトペダル

クイックシフターは装備されていないが、操作しやすいシフトペダル

入手できなかった人も、ともにラストランを味わおう

「CB400 SUPER FOUR」は、生産終了の発表から短期間で新車の入手が困難になったと聞く。入手できなかった人や教習所などで乗った思い出がある人……、初心者からレースシーンまで多くのライダーに支持されてきた「CB400 SUPER FOUR」の乗り味を、この試乗リポートで思い描いてほしい。

175cmの筆者がまたがると、両足のかかとがべったりと接地する。400ccクラスとしては、かなり足付き性はいい

175cmの筆者がまたがると、両足のかかとがべったりと接地する。400ccクラスとしては、かなり足付き性はいい

街乗りでの扱いやすさは、教習車に採用されている理由が感じられるもの。重量は決して軽くないが、走り出すとその重さを感じることはない。ハンドルの切れ角も大きく、狭い路地でも小回りが効く。エンジンの出力やブレーキの効き味、サスペンションの動き、いずれも唐突なところがなく、穏やかで初心者でも乗りにくさを感じることはないだろう。大排気量車に比べると発進時にやや長めに半クラッチを使う必要があるが、それもバイクの乗り方の基本をマシンが教えてくれているようにすら感じる。

しかし、高速道路に乗り、やや大きめにアクセルを開けると印象は一変。「HYPER VTEC Revo」のバルブ稼働数が切り替わる回転数を超えると、排気音は4気筒エンジンらしい甲高いものに変わり、一気に車速が伸びる。その加速感と耳に届くエキゾーストノートが気持ちよすぎて、その回転数を保ったまま走り続けたくなる官能性だ。扱いやすいだけでない二面性を持っていることが、ベテランライダーをトリコにするポイントかもしれない。

低回転でも4気筒らしいなめらかなトルクで扱いやすいが、真骨頂はバルブが切り替わる6,500回転以上。官能的な排気音が心地よく、しかもその回転数を公道でも使えるのがすばらしい

低回転でも4気筒らしいなめらかなトルクで扱いやすいが、真骨頂はバルブが切り替わる6,500回転以上。官能的な排気音が心地よく、しかもその回転数を公道でも使えるのがすばらしい

コーナリングの特性も素直。車体をバンクさせるきっかけ作りは、シート荷重でも、ステップ荷重でも、タンクをヒザで押すような動作でもできるが、バイクの基本とされているステップ荷重がいちばんやりやすい。コーナリング中の安定感も高く、車体の重心が低い位置にあるように感じる。どのような曲がり方でも対応できるが、フロントブレーキを残してフロントに荷重をかける走り方よりは、きちんとブレーキをリリースし、リアを軸に曲がっていくような走り方のほうが安心できる印象。ブレーキとアクセルのメリハリをつけるような、基本の走り方が身につくマシンだと言えるだろう。逆に、現代のバイクに乗り慣れた人が乗ると、やや“旧車的”な乗り味に感じるかもしれない。

ハンドリングは素直だが、リアタイヤを軸に曲がる基本の走り方を思い出させてくれる。それが楽しくて何度もワインディングを往復してしまった

ハンドリングは素直だが、リアタイヤを軸に曲がる基本の走り方を思い出させてくれる。それが楽しくて何度もワインディングを往復してしまった

試乗を終えて

1日走り回ってみたが、ライディングポジションが自然でリラックスでき、車体も扱いやすいため体に疲れが残ることはほとんどなく、長距離ツーリングでも体の負担は少なそう。そして、街中からワインディングまで速度域を問わず楽しめるマシンだったことが印象に残った。スポーツマシンの多くはワインディングでは楽しいが、速度の乗らない街中などでは楽しさが半減するもの。だが、「CB400 SUPER FOUR」においては、ゆっくり走る街中や田舎道も楽しい。バイクの基本的な操作を思い出しながら、素直に動く車体とともに走っていると、スピードはどうでもいいと思えてくるほどだ。

ハンドリングはやや旧車的と記したが、近年は80年代頃の旧車の人気が高く、新型車でもネオクラシック的なマシンも多い。バイクの基本のようなオーソドックスなデザインと乗り味が評価されているといえるが、30年の歴史を積み重ねてきた「CB400 SUPER FOUR」は現行車でありながら、その魅力を備えていたといえるだろう。欲を言えば、「HYPER VTEC Revo」の気持ちいい回転上昇を現代のクイックシフターで味わってみたかった。このまま進化を続けてくれれば……と思わずにはいられない試乗体験だったので、それが望めなくなってしまったのが残念でならない。

田舎道を法定速度で走っているだけでも楽しく、それでいて高い運動性能を持っているマシンはなかなかない

田舎道を法定速度で走っているだけでも楽しく、それでいて高い運動性能を持っているマシンはなかなかない

増谷茂樹

増谷茂樹

カメラなどのデジタル・ガジェットと、クルマ・バイク・自転車などの乗り物を中心に、雑誌やWebで記事を執筆。EVなど電気で動く乗り物が好き。

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