パイオニアは、カロッツェリアブランドの主力商品であるAV一体型カーナビゲーション、「楽ナビ」を2023年3月にフルモデルチェンジすると発表しました。約3年半という時を経て登場した、新「楽ナビ」の進化ぶりをレポートします。
パイオニアは、カロッツェリアブランドの「楽ナビ」新モデルを2023年3月に発売。注目のオンライン機能や使いやすくなった検索機能、刷新されたメニュー画面や同社初のフローティングモデルなど、新しい「楽ナビ」の魅力を解説します
「楽ナビ」の初代モデルは、1998年に発売されました。当時の市販カーナビ市場は、各メーカーから毎年のように新モデルが発売される「群雄割拠」時代でしたが、その中でもカロッツェリアはすでにトップブランドとして市場を牽引していました。いっぽう、マニア向けで高めな価格設定のカーナビが、マーケットにおける裾野(規模)の拡大を妨げていました。
そこへ登場したのが、「楽ナビ」です。「高性能を使いやすく」のコンセプトはもちろん、ディスプレイ込みで20万円を切るという、当時としてはかなり戦略的な価格が設定されることで、ユーザーを一気に拡大。大ヒットモデルとなった「楽ナビ」は、現在までカロッツェリアブランドの中核を担う重要なモデルとなっています。
そして、今回発表された新しい「楽ナビ」は、これまでのコンセプトを継承しながら、ユーザーへ新たな価値を提供するカーナビへと仕上げられています。
「楽ナビ」の発表会にて、パイオニア モビリティプロダクトカンパニーCEOの高島直人氏(左)とパイオニア モビリティコンシューマーカンパニー 市販事業統括グループ 商品企画部 部長の田原一司氏(右)
新「楽ナビ」の発表会は、2023年1月19日に、東京都 千代田区にある「ベルサール秋葉原」で開催されました。この場所は、前モデルの「楽ナビ」発表会が行われた場所でもあり、コロナ禍を経て3年ぶりの開催となりました。なじみのある場所ゆえに、カロッツェリアの新しい旅立ちにはピッタリです。「楽ナビ」の担当者も、「万感の思い」があったのではないでしょうか。
さて、今回の「楽ナビ」フルモデルチェンジにおける最大の特徴は、「オンライン化」です。すでに、カロッツェリアではサイバーナビや車載用Wi-Fiルーターの「DCT-WR100D」、そして「NP1」にも車内Wi-Fiを構築できる機能が備わっています。
画像中央が、「楽ナビ」に同梱されている「ネットワークスティック」。同梱、もしくは別売の「ネットワークスティック」を新「楽ナビ」に接続すれば、車内をWi-Fiスポットとして、通信量を気にすることなくスマホなどでインターネットを楽しむことができます
カロッツェリアのオンライン機能は、NTTドコモが提供している「docomo in Car Connect」を活用しています。料金プランは3種類ありますが、どれを選んでもプラン内では高速のLTE通信網が使い放題になるというものです。
余談ですが、筆者はカロッツェリアの車載Wi-Fiルーター「DCT-WR100D」と通信型ドライブレコーダー「NP1」でオンライン機能を使っていますが、この仕組みのすばらしいところは、走行中でも通信品質が安定しているという点にあります。スマホやモバイルルーターのテザリング機能では、通信速度は出ていても走行時の安定性に欠けるのですが、「docomo in Car Connect」はトンネル内などでも電波が途切れることはほとんどないので、昨今人気の音楽配信サービスなども安心して楽しめるのです。
そして今回、新「楽ナビ」が「docomo in Car Connect」に対応したことによって、車内で音楽や動画配信サービスなどを、通信量を気にすることなく楽しむことができるようになりました。ですが、「楽ナビ」のオンライン化によるメリットは、これだけではありません。
「楽ナビ」のオンライン化によるメリットのひとつが、「自動地図更新」機能です。モデルにもよりますが、最大で3年分の地図(2025年10月31日まで、年2回)をオンラインによって更新できるのです。これまでは、PCなどから更新データをダウンロードしてメディア経由で行っていたのに対して、利便性が飛躍的に向上しています。
歴代の「楽ナビ」が受け継いでいる大きな特徴のひとつとして、「インターフェイスの使いやすさ」があげられます。過去には、音声認識や「Doリモコン」といった操作系の敷居を下げる機能を搭載したことによって、市場を拡大させたのは言うまでもありません。
そして、今回の新「楽ナビ」には、「Doメニュー」と「おでかけ検索」と呼ばれる新たなメニュー画面や検索機能が搭載されています。
新「楽ナビ」の新しいメニュー画面「Doメニュー」。ボタンを押すだけで近くのコンビニなどを探せる「ダイレクト周辺検索」など、便利で使いやすい機能が備えられています
まず、「Doメニュー」は「お出かけ」から「お帰り」までの一連の操作を、一画面で完結させるという新しいUIです。特に、スマホに慣れた人にとって「Doメニュー」の操作は、非常にわかりやすいUIとなっています。
まず、「Doメニュー」の画面上には、ボタンを押すだけで周辺の駐車場やガソリンスタンド、コンビニを探すことができる「ダイレクト周辺検索」機能が備えられていて、とても便利です。
「ダイレクト周辺検索」機能で、ガソリンスタンドのボタンを押した後の表示画面(上)と、コンビニのボタンを押した後の表示画面(下)。店舗名や店舗情報、自車位置から店舗までの距離のほか、店舗の場所が地図で表示されるなど、必要な情報が見やすく配置されているので迷うことがありません
また、よく使うカーナビ検索やAVソースなどのショートカットを、Doメニューの下に4つ設定することができる「ショートカットキー」も採用されており、利便性が高められています。
「お出かけ検索」では、検索ボックスに「地域」と「ジャンル」を入力するだけで目的地検索できるのが魅力的です。下の画像は、「横浜」「遊園地」と入力した検索結果
そして、極めつけが「オンライン」を活用した検索機能です。「楽ナビ」に収録されているデータベースは、これまでも充実した内容でしたが、最新スポット施設などはデータに反映されていないケースもあります。ですが、新「楽ナビ」はオンラインを活用することによって、最新の情報をいち早く検索し、目的地設定できるのです。さらに、「オンライン」につながっていれば、電話番号や住所、思いついたキーワードなども検索ボックスに入力するだけで、目的地をカンタンに検索できます。
新「楽ナビ」では、新たにスマホのようなフリック入力にも対応しています
新「楽ナビ」は、7V、8V、9V型の3つのディスプレイサイズがラインアップされており、全部で15モデルのワイドバリエーションとなりますが、その中でも注目は“待望”とも言えるフローティング構造を持つモデルが登場したことです。
「AVIC-RF920-DC」と「AVIC-RF720」は、カロッツェリアのカーナビでは初のフローティングモデルです。画像は「AVIC-RF920-DC」で、新「楽ナビ」全モデルに採用されているパネルのフラット化によって、スタイリッシュさもさらにアップしています
フローティングモデルは、ディスプレイがまるで浮いている(分離している)ように見える構造となっていることで、本体は2DINサイズに収めつつ9V型の大画面を設置できます。フローティングモデルは、「AVIC-RF920-DC」と「AVIC-RF720」の2モデルで、取り付け適合車種が発表時の段階で548車種と圧倒的なのが特徴です。
昨今の新車に備えられているカーナビなどのディスプレイは、専用パネルによる設計が増えていますが、多くの既存車オーナーや中古車は未だ2DINが主力です。その点でも、簡単な取り付けで大画面化が実現できるというのは、大きなインパクトがあります。
新「楽ナビ」は、すべてのモデルに「HDパネル」が採用されています。地図の見やすさは「楽ナビ」の得意分野ですが、新モデルではこのHDパネルをさらに生かすために地図画面やメニュー画面のチューニングが行われており、見やすさをさらに向上させています。
新「楽ナビ」は、ナビ案内画面などの圧倒的な見やすさやわかりすさは継承されながら、全モデルのHD化によって、機種を問わず高画質で表示されるようになっています
新「楽ナビ」を実際に見て感じたのは、上下左右の視野角がとても広いことでした。運転席はもちろんですが、休憩中など助手席の人もクッキリとした映像などを楽しむことができます。
また、同時発表された専用前後2カメラドライブレコーダーの「VREC-DS810DC」や、専用バックカメラの「ND-BC300」もHDの高画質に対応しており、鮮明な映像で「楽ナビ」の画面上へ映し出すことができます。
専用バックカメラの「ND-BC300」(左)と、専用前後2カメラドライブレコーダーの「VREC-DS810DC」(右)。どちらも新「楽ナビ」専用の製品で、一緒に購入することで新「楽ナビ」のHD高画質による恩恵をさらに享受できることになります
さらに、ドライブレコーダーの「VREC-DS810DC」は、前後2カメラ方式が採用されており、高い基本性能はもちろんのこと、リバースギアに入れることでバックカメラとしても使えるなど、一歩進んだユニークな設計も魅力的です。
そのほか、基本的なナビ機能のレベルアップについても見逃せません。冒頭で触れたように、オンライン化による「自動地図更新」のほか、同社のテレマティクス機能である「スマートループ」への対応、そして今回、新たに交差点などで曲がる際のタイミングを距離ではなく信号機の数で教えてくれる「信号機カウント交差点案内」も採用されています。
新「楽ナビ」では、新たに「信号機カウント交差点案内」が採用されています。曲がるタイミングが近づくと、曲がるまでの信号機の数を数えてくれるので、曲がる交差点をうっかり間違えることが少なくなります
さらに、6ルートを同時に探索する際、実用度の高いルートリストを一画面で表示することによって、ルート比較のしやすさを向上させるような工夫も施されています。
6ルート探索結果では、各ルートの詳細(左)と地図(右)が1画面で表示されるようになり、ルートをより選びやすくなりました
また、実機に触れた感触としては、全体的なタッチ操作やスクロールなどの性能も向上しているように感じられました。実際、パイオニアのエンジニアに話を聞くと、レスポンスを向上させているので操作感も向上しているそうです。
今回、発表会では「楽ナビ」以外にも、もうひとつうれしいニュースがありました。それが、スマホを接続することでカーナビやAV機能のアプリを操作できるディスプレイオーディオ「DMH-SF500」で、「楽ナビ」と同じく2023年3月に発売されます。
新「楽ナビ」と同時に発表されたのが、ディスプレイオーディオの新モデル「DMH-SF500」です。「Apple CarPlay」や「Android Auto」に対応し、9インチの大画面を搭載したフローティングモデルのため、数多くの車種に対応しています
カロッツェリアは、ディスプレイオーディオに関してもこれまで数多くのモデルをリリースしていますが、「DMH-SF500」にはフローティング構造が採用されることで、9インチの大画面を実現しています。また、本体は1DINサイズなので、過去に販売された輸入車などへの取り付けにも対応しているのがうれしいところです。そのほか、「Apple CarPlay」や「Android Auto」への対応はもちろん、iPhoneやスマホの画面を「DMH-SF500」の画面上でダイレクトに操作できる「WebLink」機能にも対応しています。
国産の市販ディスプレイで初搭載となる「WebLink」機能は、専用アプリ「WebLink Cast」などによって各機能をコントロールでき、さらに対応アプリを使うことで、YouTubeなどの動画配信サービスなどにも対応します。価格はオープンですが、店頭における市場実勢価格は8万円前後が予定されています。
新「楽ナビ」は、これまで述べたとおり「オンライン化」による利便性のアップや「Doメニュー」による検索機能など使い勝手の向上、フローティングモデルなどバリエーションの豊富さ、専用ドラレコや専用バックカメラといった関連機器との連携など、一気に数段飛ばしによるレベルアップが図られたと言っていいでしょう。新「楽ナビ」は、カーナビ業界に新たなるイノベーションを起こしてくれる素質を備えていると言えそうです。
ITS Evangelist(カーナビ伝道師)/カーコメンテーター/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。1959年生まれ。リクルートで中古車情報誌「カーセンサー」の新車&カーAV記事を担当しフリーランスへ。ITSや先進技術、そしてカーナビ伝道師として純正/市販/スマホアプリなどを日々テストし布教(普及)活動を続ける。