多くのバイクを乗り継いできたベテランライダーが最後に選ぶ1台のことを“上がりバイク”と呼称するが、ホンダ「ホーク11」は、まさにそうした層をターゲットとしたマシン。ロケットカウルを装備した精悍なルックスが目を引く、大人向けのスポーツモデルの乗り味を体感してみた。
冒頭で記したとおり、「ホーク11」は、“上がりバイク”が視野に入る年齢になったライダーを想定ユーザーとして開発された。それは外観からもうかがい知ることができる。ロケットカウルをまとい、従来のスポーツモデルに比べて高品質なメタリック調となった仕上がりは、まさに所有欲を高めるもの。さらに、エンジンは同社の「CRF11000L アフリカツイン」や「レブル1100」などに採用されている1,082ccの並列2気筒ユニットを搭載。組み合わされるトランスミッションは6速MTで、「アフリカツイン」や「レブル」に用意されている自動変速のDCTはラインアップされていないところなどにも、「経験豊富なライダーを想定したスポーツマシン」というコンセプトを感じる。
サイズは2,190(全長)×710(全幅)×1,160(全高)mmで、車重は214kg。カラーは、写真のパールホークスアイブルーとグラファイトブラックの2色が用意される。メーカー希望小売価格は1,397,000円(税込)
デザイン上のポイントとなっているロケットカウルはFRP製。リング状のLEDデイライトも目を引く
水冷並列2気筒エンジンは102PS/7,500rpmの最高出力と104Nm/6,250rpmの最大トルクを発揮
大きめのサイレンサーには2本の排気口を装備
足回りの構成もスポーツモデルらしいもの。セミダブルクレードルフレームに前後17インチホイールを組み合わせ、フロントフォークにはショーワ製SFF-BP(セパレート・ファンクション・フロントフォーク・ビッグピストン)を採用している。ホイールベースは1,510mmとスポーツモデルとしては長めだが、キャスター角は25度と立ち気味。クイックなハンドリングを期待させる。
フロントタイヤサイズは120/70-17。倒立式のSFF-BPフロントフォーク、ラジアルマウントキャリパーのダブルディスクと豪華な装備だ
リアのタイヤサイズは180/55-17と太め。前後ともにラジアルタイヤを履く
現代のスポーツバイクらしく、スイングアームは長め。このスイングアーム長を実現するためにホイールベースを長くしたのではないかとさえ思える
リアショックはシングルチューブ分離加圧式。ダイヤルで減衰力を調整できる
細かい装備に目を向けると、セパレートタイプのハンドルはトップブリッジ下にマウントされている。これも、スポーツバイクらしい部分だ。また、スタイリングをじゃましないように、ミラーは、カウルではなくハンドルに下向きにマウントする珍しい手法を採用している。シートはスリムだがクッションは厚めで、タンデムも余裕を持って対応できそう。
トップブリッジ下にマウントされたクリップオンタイプのハンドルを採用。カウルとのバランスもいい
スタイリングに影響しないように下向きにマウントされた丸形のミラー
メーターは丸形だが、デジタル式。シフトインジケーターや3段階に切り替えられるライディングモードも表示できる
サイドを絞り込んだタンクはニーグリップしやすそう。エッジの立ったシルエットがかっこいい
シートはスリムで後端を切り落としたようなシルエットだが、座り心地は悪くない
「ホーク11」はスポーツバイクに位置づけられるが、フルカウルをまとった、いわゆるスーパースポーツとは一線を画する設計を採用している。昨今のスーパースポーツは200PSを超えるハイパワーな4気筒エンジンを搭載し、キレのあるハンドリングも含めて公道で楽しむには過激すぎる性能だが、「ホーク11」にはスペックの数値を見ても過激な部分はない。それがどのような乗り味になるのか、高速道路を走ってワインディングに足を伸ばすショートツーリングに連れ出してみた。
シート高は820mmと、スポーツバイクとしては抑えめ。175cmの筆者の場合、両足のかかとがギリギリ接地しない程度だ。スリムな車体なので、片足で支える際も安心感がある
エンジン特性は低回転域からトルクがあり、街中でも非常に扱いやすい。特に、ライディングモードを「STANDARD」や「RAIN」にしておくと、パワー特性にも唐突なところがなく、外見から想像するよりも穏やか。2気筒らしいパルス感のある排気音も心地いい。スリムな車体は狭い路地などでも取り回しがよく、街中を走ってもストレスがないため、スピードを出して飛ばさなくても楽しい。
やや前傾気味だが、ハンドル位置が高めなのでキツすぎないライディングポジション。パルス感を感じながら流すような走りが気持ちいい
高速道路に入り、ライディングモードをパワフルな「SPORT」に切り替えると、かなり俊敏な加速を味わえる。合流や追い越しなどのシーンでもシフトダウンすることなく、アクセルの操作だけであっという間に車体が加速。2気筒らしいパルス感があり、何度もアクセルを開けてしまうほど気持ちよかった。ただ、ロケットカウルのウィンドプロテクション性能は見た目ほど広い範囲をカバーしてくれないので、風が体に当たらないようにするには、かなりの前傾姿勢でカウルに潜り込まなければならない。
そして、ワインディングに入ると「ホーク11」は本領を発揮。少しスピードを高めてコーナーに突っ込み、コントロール性の高いブレーキでフロントに荷重をかけたまま車体をバンクさせると、意図どおりに向きが変わる。コーナリング中の安定感が高く、バンク角も深いので安心して曲がることが可能だ。スーパースポーツ系のマシンは、コーナリング性能は高いものの、ハンドリング特性が過激なため公道では本領を発揮させることが難しい。その点、「ホーク11」は、限界性能は高いレベルでありながらクイック過ぎないので、公道でも十分に楽しさを味わえる。
ある程度スピードが出るコーナーでも安定感が高いので、安心して曲がって行ける
路面が濡れたタイトな峠道を走ってみても、トルクフルなエンジンは扱いやすく、滑ってしまうような不安感はまったくなかった
ブレーキのコントロール性もすばらしかった。ブレーキングでフロントフォークを縮めたままコーナーに進入し、立ち上がりでアクセルコントロールしながらの脱出もやりやすい。2気筒エンジンの地面を蹴っているようなトラクションを感じながらコーナーを立ち上がる感覚も気持ちよく、バイクでスポーツする楽しさを存分に味わうことができた。
“上がりバイク”として評価される「ホーク11」は、確かに多くのバイクを乗り継いできたベテランライダーでも満足できる懐の深さを持っている。ツーリングバイクやネイキッドに乗っていた人なら、よりコーナーを攻めるようなスポーティーな走りが味わえるだろう。それとは逆に、スーパースポーツに乗ってきたが最近やや疲れを感じるようになってきたという人でも、「ホーク11」なら、過激さを抑えつつスポーティーさを存分に味わえるので、新しい世界が見えるかもしれない。それだけでなく、初めてのスポーツバイクとして選んでも街乗りやツーリングも含めて楽しめるだろうし、将来的にスーパースポーツに乗りたいと考える人が「ホーク11」でライディングを身に付けるという選び方もありだろう。“上がりバイク”に限定してしまうのはもったいないポテンシャルを持ったマシンだ。
●メインカット、走行シーン撮影:前田雅章
カメラなどのデジタル・ガジェットと、クルマ・バイク・自転車などの乗り物を中心に、雑誌やWebで記事を執筆。EVなど電気で動く乗り物が好き。