「輸入車」というよりも「外車(ガイシャ)」という呼び方の方がなじんでいる人も多いかもしれませんが、日本以外の国の自動車メーカーおよびブランドで、日本で販売されているクルマのことを総じて「輸入車」と呼びます。
日本では2023年8月現在、主に欧州、北米、アジアの33に及ぶ自動車ブランドが販売されており、デザインも特徴も多種多彩。街中で見かけて、「すてきだな」と思った経験がある人もいるかもしれませんね。
ただ、実際に購入してみようかなと思うと、「どこで買えるのか」「価格が割高なんじゃないか」「壊れたりぶつけたりしたら、修理代が高いんじゃないか」などという不安があって、敷居が高く感じられるのではないでしょうか?
そこで今回は、初めて輸入車を買う人が不安になりがちなポイントや、メリットとデメリットに加え、300万円台くらいで輸入車ライフをスタートできるおすすめのモデルを紹介したいと思います。
日本車にない世界観を提供してくれる輸入車ライフも楽しいですよ
まず、輸入車のメリットは何かというところですが、何台も輸入車を乗り継いでいる人が口を揃えるいちばんの理由は、やはり日本車にはない「個性」や「ブランド力」でしょう。最近では正規輸入車で左ハンドルのモデルはごく少数になりましたが、日本車にはない左ハンドルの運転体験はそれだけで新しい世界かもしれません。
また、ドイツのメルセデス・ベンツやフランスのプジョー、アメリカのフォードなど、100年以上の歴史を持つ自動車メーカーがたくさんあるので、脈々と受け継がれている個性もあれば、伝統と革新が融合したような個性もあったりと、そのメーカーのことを深く知ったり、本拠地であるお国柄を感じさせる部分があるモデルが多いのも面白いところ。
近年は国をまたぐ自動車メーカーの統合や連携が相次いでいますので、そうした個性は薄れつつありますが、それでもまだ運転したり使ったりしているふとした瞬間に、異国の香りに気がつくところが魅力的です。
メリットの2つ目は、高速走行やロングドライブでの安心感や快適性が総じて高いモデルが多いということ。日本の高速道路では長い間、最高時速100kmが上限となっており、ようやく少しずつ120kmの区間が増えてきた状況ですが、世界を見渡してみると、たとえば有名なドイツのアウトバーン(高速道路)には今も速度無制限の区間があります。そのため、ドイツを始めとするヨーロッパ車は昔から、高速走行での安全性や快適性を必須事項としてクルマの開発をしてきた経緯があります。
今では日本車も欧米での競争力を高めるため、欧州車に負けないように高速走行性能を磨いていますが、同じ車種でも、欧州で売る個体と日本で売る個体ではサスペンションのセッティングを変えてあったり、タイヤの銘柄を変えていたりと、日本仕様と呼ばれる状態に変わることが多いのです。また、日本車は180km/hでリミッターがきくように設定されていますが、輸入車の多くにリミッターはなく、出そうと思えばメーターに表示される最高速度近くまで出ます。
「日本の道でそんなにスピードを出す必要はない」と言われてしまえばそれまでですが、サーキットなどクローズドの場所では速度制限はありませんので、そこに持ち込めば最高速に近い速度で走ることも可能。実際には出さなくても、「いざとなれば出せる」という気持ちの余裕が輸入車にはあるのかもしれません。
メリットの3つ目は、安全装備が充実しているモデルが多いこと。最近では日本車も、軽自動車から先進の運転支援技術が搭載されるようになりましたが、ひと昔前は同じ車格で日本車と輸入車を比べると、輸入車のほうが安全装備の充実したモデルが多いものでした。特に、コンパクトクラスでも大きなクルマと分け隔てなく、同じ内容の安全装備を搭載するのが欧州メーカーの方針として多く見られ、小さくても安全なクルマに乗りたいという理由で輸入車を選ぶ人もいたほどです。
輸入車は、日本で販売するグレード数に限りがあるため、なるべくバリューを感じてもらいやすい仕様に絞っているということもありますが、ベーシックなグレードからトップグレードまで、安全装備は同等としているモデルが多くあります。
メリットの4つ目は、最近の若い世代は気にしないかもしれませんが、会社内やご近所でのクルマによるヒエラルキーから逃げられる、という点。たとえば会社内では、上司よりいい(高い)クルマに乗るのは気が引ける……という場合もあるかもしれません。社宅や町内会などのご近所付き合いの中で、日本車だと高い安いがわかりやすいので避けたいという人もいるでしょう。営業職で自分のクルマでクライアントを訪ねる場合などにも、なるべく心象をよくしたいというような狙いもあるでしょう。みんながよく知るドイツ車は逆効果かもしれませんが、ちょっとマイナーな輸入車なら、その値段がわかりにくく、自分の満足度も両立できるのでちょうどいいという意見もあるのです。
さて、デメリットはどんなところにあるでしょうか。いちばん大きいのは、「どこで買えばいいのかわからない」という正規ディーラーの少なさや、敷居が高くて入りにくいということでしょう。たとえばトヨタの正規ディーラーは日本全国に約5,000店舗ありますが、輸入車最大の店舗数を誇るフォルクスワーゲンは、全国約250店舗。それも関東・関西には多いものの、四国には全体で数店舗しかないなど、地域によってバラツキがあるので、自宅の近くにディーラーが見当たらないというメーカーも出てくると思います。テスラやヒョンデなど、ほぼネット販売のみで実店舗を持たないメーカーも出てきていますので、普段のメンテナンスはどこで行うのか、故障したときはどうすればいいのか、わからないことがあったらどこで聞けばいいのか、といった不安があるかもしれません。
ただ、自宅の近くに正規ディーラーはなくても、メンテナンスサービスなどを提携している整備工場などがある場合もありますので、まずは確認を。電話やチャットなどによる相談窓口も必ず用意されていますので、電話をしてみて対応がどうなのか、いざというときに信頼できそうかどうか、自分で判断することも大切です。
デメリットの2つ目は、輸入車は何ごとも輸送に時間やコストがかかり、昨今のウクライナ情勢や円安などの影響を受けやすいこと。メンテナンスでよく使うパーツなどは、あらかじめ在庫を確保している店舗も多いのですが、あまり壊れることがないような特殊なパーツは本国から取り寄せなければならないことがあり、数か月待ちになることも珍しくありません。ですので、今日壊れたから明日すぐ直す、という対応が難しい場合があることをあらかじめ覚悟して購入することをおすすめします。
ただ、メンテナンスや故障・修理に関する保証や、車検・点検を含めた維持費に関しては、あらかじめメンテナンスパック、保証プランといったものが用意されている輸入車が多いので、転ばぬ先の杖と思って加入しておくと安心です。
また、「輸入車は壊れやすいのか?」という不安に関して。これについては、絶対に壊れないと言い切ることはできません。クルマが工業製品である以上、日本車でも壊れる可能性はゼロではないという意味もあります。ただ、昔は日本の高温多湿な気候に対する耐久性などが備わっていない輸入車も多くあり、電機部品やゴム製品などの部分が湿気にやられて故障するといったトラブルも多かったのですが、そうした事例を日本のインポーターが本国にフィードバックすることを続けてきた結果、今日では飛躍的に改善していると感じます。運転する人の扱い方によるところも大きいので、すべてにおいてていねいに扱うことと、定期的な点検とメンテナンスをしっかり行うことで、快調に乗れるのではないでしょうか。
では、初めての輸入車ライフをスタートしたい人に、300万円台でおすすめしたいモデルをご紹介します。
フォルクスワーゲン「ゴルフ」
まずは、300万円台で買える数少ないドイツ車、フォルクスワーゲン「ゴルフ」です。1974年に初代が発売されて以来、日本車を含めて世界中のコンパクトカーが常にお手本にしてきた、コンパクトカーのレジェンド的な存在。
現行の8代目ではボディサイズが少し大きめになりましたが、運転のしやすさ、室内の心地よさ、走りの安心感、荷物が予想以上にたっぷり積める使い勝手と、すべてにおいて満足度の高い1台です。現行モデルはマイルドハイブリッド車となり、モバイルオンラインサービスも充実していて、新時代のカーライフが手に入ると思います。
BMW「MINI」
2台目は、デザイン性の高いコンパクトカーを探している人にすすめたい、BMW「MINI」。こちらも長い歴史を持つモデルです。もともとはイギリス車でしたが2000年にドイツのBMWが開発を手がけ、ニュー「MINI」として現代に復活しました。
イギリス国旗ユニオンジャックのモチーフをテールランプに取り入れていたり、インパネにデーンと鎮座する丸いナビ画面のモニターがクラシック「MINI」から受け継いだモチーフだったりと、随所に遊び心と「MINI」好きな開発者たちの情熱を感じることができるモデルです。3ドアと5ドアがあり、エンジンはガソリンとディーゼルをラインアップします。
“ゴーカートフィーリング”と呼ばれる、「MINI」ならではの元気でキビキビとした走りにハマる人が多数。インテリアは一見するとゴテゴテしているようですが、使ってみると理にかなったスイッチ配置などに感心することでしょう。5ドアモデルはファミリーでも使いやすい室内空間を持っています。
ルノー「ルーテシア」
1.6Lエンジンとモーターを組み合わせて、F1をはじめとするモータースポーツで培った技術を注いだ、ダイナミックな走りも楽しい「E-TECHハイブリッド」です。
デザインが大人っぽく、シートの座り心地がよくて疲れにくいのもルノー車の魅力。高速道路を走っていると、もっと大きなクルマに乗っているような安心感があります。
心躍るデザインや、遊び心あるインテリア、ガッシリとした走りなど、それぞれの個性が炸裂している輸入車たち。思い切って飛び込んでみたら、きっと新しい世界が広がるのではないでしょうか。
2006年より日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。日本自動車ジャーナリスト協会会員。誰でも今日からできる交通安全応援プロジェクト「OKISHU(オキシュー)」でイベント等も開催。