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改造しすぎた個性的な「エクストレイル」も! 日産がオートサロン2024の出展車を公開

日産は、2024年1月12日〜14日に開催される「東京オートサロン2024」へ出展するコンセプトカーの実車をメディアに公開した。4台の個性あふれるコンセプトカーにおける特徴や魅力などを、担当デザイナーのインタビューも交えつつ解説していこう。

力強さを外観やボディカラーで表現した「エクストレイル」

まずは、SUVの「エクストレイル」をベースに、悪路や険しい岩場などを走破するロッククローリングの世界観が表現された、「X-TRAIL CRAWLER CONCEPT」だ。

「エクストレイル」のコンセプトである“タフギア”をさらに深掘りして、ロッククローリングの世界を表現した「X-TRAIL CRAWLER CONCEPT」

「エクストレイル」のコンセプトである“タフギア”をさらに深掘りして、ロッククローリングの世界を表現した「X-TRAIL CRAWLER CONCEPT」

想定ユーザーは、「愛車の『エクストレイル』をカスタマイズしていくうちに楽しくなってきて、止まらなくなってしまったアグレッシブなパパを想定しました」と話すのは、日産 コンバージョン&アクセサリー企画部の小野智也さん。

外観については、「荒削りですが、とても力強い印象に仕上げています。オフロードタイヤとホイールを四隅に配置し、クルマの重心をなるべく上げて機動性の高さを見せることを、もっとも重視しました」と、エクステリアデザインを担当した日産 アドバンスドデザイン部の山下徹さんは言う。

新たに作成されたフェンダーなどのアドオンパーツは、傷に強い耐久塗装を採用することでラギッドな雰囲気と力強さが表現されている

新たに作成されたフェンダーなどのアドオンパーツは、傷に強い耐久塗装を採用することでラギッドな雰囲気と力強さが表現されている

内装については、「ロッククローリングを楽しむお客様にも満足できるように、リジッドな構造の荷室をデザインしました」と、日産アドバンスドデザイン部でインテリアを担当した堀内治さんは話す。

具体的には、2代目の「エクストレイル」の道具感をオマージュ。嵩上げされたラゲッジフロアと、下部に引き出し収納のあるダブルフロア構造となっており、凹凸のフロアはノンスリップのラバー素材でできている。開口部周辺は、「鮮やかなグリーンのユニバーサルフックとメタルの素材をふんだんに使って、ゴリゴリの道具感を表現しました」。

ラゲッジ内のサイドパネルには穴開きのメッシュパネルが用意され、ユーザーが自由にカスタマイズできるような細かな配慮もなされている

ラゲッジ内のサイドパネルには穴開きのメッシュパネルが用意され、ユーザーが自由にカスタマイズできるような細かな配慮もなされている

鮮やかなピンクとグリーンが特徴的なカラーリングを担当したのは、日産 アドバンスドデザイン部の近藤あかりさん。「カラーコーディネーションは、一般的にSUVで使われるボディカラーとはかけ離れたピンクを基調としています。普通じゃない、と思っていただくためです。さらに、同じ彩度のグリーンを組み合わせることによって、ギラギラと目に飛び込んでくるような見え方を意識するなど、キャッチーな方向性を狙いました」と説明する。近年では、アースカラーやネイチャーカラーを採用するクルマが多い中、あえて異なる色相にすることで、「新しい領域を感じてもらいながら、インパクトを与えたい。そこで、ピンクを選択したのです」と言う。

また、車両後方のグラフィックについては現行「エクストレイル」の特徴であるパワートレイン「e-Power」を、「電気の底力と見立てて、タフで力強い雰囲気を大胆なグラフィックとエレメントで表現しています」とのことだ。

ピンクからグリーンへグラデーションを用いることによって、徐々に電気の力が満ち溢れていく様子をデザインでアピールしているという

ピンクからグリーンへグラデーションを用いることによって、徐々に電気の力が満ち溢れていく様子をデザインでアピールしているという

いざというときの災害支援車両として活躍する「キャラバン」

日産は近年、東京オートサロンへ「キャラバン」をベースとしたコンセプトカーを幾度も提案している。そして、4回目となる今回は緊急、災害時に防災拠点となる“支援車両”がコンセプトだ。

日産「キャラバン」のオートサロン車両第4弾として、緊急時のライフラインをサポートする支援車両として製作されたコンセプトカー「Disaster Support Mobile-Hub」

日産「キャラバン」のオートサロン車両第4弾として、緊急時のライフラインをサポートする支援車両として製作されたコンセプトカー「Disaster Support Mobile-Hub」

「自治体や役場に待機させておいて、災害などが発生した際には小規模の避難所へ駆けつけ、電力や照明、食事、衛生、情報通信などさまざまなサポートを行います。ポータブルバッテリーを複数(17台)搭載しており、緊急時や災害時の支援とともにモバイルハブとしての提案でもあります。防災アドバイザーから、実際にアドバイスをいただきながら開発しました」と、日産 コンバージョン&アクセサリー企画部の越川智輝さんは言う。

スマホの充電のほか、ギャレーを使った調理などもできる

スマホの充電のほか、ギャレーを使った調理などもできる

大きな特徴としては、2023年9月に発売された「ポータブルバッテリー from LEAF」を17個も搭載していることだ。寒暖に強く、クルマへ載せたままにでき、かつ自己放電が少ないという車載専用バッテリーのメリットを最大限に活用でき、さまざまな電力供給が可能になる。

さらに、もうひとつの特徴が、災害時に役立つ3つの室内空間を備えていることだ。ひとつは、けが人の救護や、授乳、おむつ交換などを安心してできる多機能ルーム。二つ目は、着替えや体をふくなどのプライバシー空間を確保できる防音個室。そして3つ目が、避難所の運営、管理や情報発信などをこなせる拠点となる防災本部だ。

画像は、上から「多機能ルーム」、「防音個室」、「防災本部」

画像は、上から「多機能ルーム」、「防音個室」、「防災本部」

車両の左後方とバックドアにはディスプレイが埋め込まれており、災害時などに最新の情報を知ることもできる

車両の左後方とバックドアにはディスプレイが埋め込まれており、災害時などに最新の情報を知ることもできる

“裏デニム”がコンセプトのビームスとの「ルークス」コラボモデル

日産の軽ハイトワゴン「ルークス」と、セレクトショップ「ビームス」とのコラボレーションモデルが「ROOX BEAMS CUSTOMIZED CONCEPT」だ。

“裏デニム”がデザインテーマとなっている「ROOX BEAMS CUSTOMIZED CONCEPT」。ボディカラーは、デニムの裏地をイメージしたグレージュと表地をイメージしたネイビーが採用されている

“裏デニム”がデザインテーマとなっている「ROOX BEAMS CUSTOMIZED CONCEPT」。ボディカラーは、デニムの裏地をイメージしたグレージュと表地をイメージしたネイビーが採用されている

同コンセプトカーを開発した背景について、日産コンバージョン&アクセサリー企画部の石井寛至さんは、「軽自動車へお乗りの方にインタビューすると、運転に自信がない、だからこそ気に入ったデザインのクルマで毎日気分を上げて、運転をがんばりたいといった声がありました」と言う。その課題に応えるために、ファッションブランドとのコラボを検討したのだという。

「ビームスは、ファッションで斬新な活動や提案をするとともに、最近ではファッションにとらわれないプロデュース業にも力を入れています。そこで、自動車以外の業界との接点を持ちたい日産と、同じくファッション以外の業界と関わりたいビームスという、根底に通じる考え方がマッチしたため、今回の協業に至りました」とのこと。

デザインテーマは、“裏デニム”だ。石井さんは、「デニムは、さまざまなシーンに応える定番の素材であり、ビームスもそこには自信を持っています。それを裏返しにしたのは、“本当によいものには裏表がない”というビームスの価値観を表現するのと同時に、色合いもやわらかくなり、とても親しみやすい雰囲気になるからです」と言う。また、デニムは「朝から夜まで出かけても元気でいられる、そういったアクティブなお出かけをサポートしてくれる力がある素材と考えました」と話す。ただし、「デニムをそのまま使うと、真っ青で少々気後れしてしまうかもしれません。そこで、ビームスが以前デニムメーカーと裏デニムという取り組みをすでに商品していることから、その発想をうまく活用しました」と説明する。

エクステリアのポイントは、大きく3つある。1つ目はボディ色だ。「デニムの裏地をイメージしたライトグレーと、足元をロールアップしたときに見える表地をイメージしたネイビーの色使いです」と言う。

2つ目はフロント、サイド、リアに施されたビームスのロゴだ。特にサイドは、「ルークス」の特徴的なデザインのDピラーへ浮島状にロゴを配置することで、「目立ちながらも、クルマのデザインと調和したおしゃれな仕上がりになっています」と石井さん。

エクステリアのさまざまな箇所に、ビームスのロゴが配置されている

エクステリアのさまざまな箇所に、ビームスのロゴが配置されている

最後は、足元とウエストラインに走るホワイトのラインだ。これは、「セルビッチと呼ばれる、高品質なデニムの裏地に走るほつれ止めをイメージしたもの」と言う。

インテリアも特徴的だ。まずシート生地は、ビームスの商品にも実際に使われているデニムの生地を使用している。ここにも、セルビッチというほつれ止めがデザインの要素として取り入れられた。また、後部座席のピスタグや大小のポケットもジーンズのデザイン要素をディテールまでこだわって落とし込むなど、好感の持てる仕上がりになっている。

インパネ周りやフロアカーペットやなども、デニムのテーマに沿ってコーディネートされている

インパネ周りやフロアカーペットやなども、デニムのテーマに沿ってコーディネートされている

“パティシエ”がテーマの「マーチ」

最後は、前回の「東京オートサロン2023」に日産が出展したコンセプトカー「キューブリフレッシュ&レトロコンセプト」に続く中古車ベースの第2弾、「マーチ パティシエコンセプト」だ。昨年の「キューブ リフレッシュ&レトロコンセプト」が好評だったため、引き続き中古車向けの展開を推進した結果という。

「若者にクルマを所有する喜びを提供したい」という思いから進められた日産の中古車プロジェクト。その第2弾が「マーチ パティシエコンセプト」だ

「若者にクルマを所有する喜びを提供したい」という思いから進められた日産の中古車プロジェクト。その第2弾が「マーチ パティシエコンセプト」だ

中古車プロジェクトについて、日産 コンバージョン&アクセサリー企画部主担の得丸恵さんは、「夢を追う個性的な若者のライフスタイルに寄り添うクルマが、全体のコンセプトです」と言う。そして、今回の「マーチ」は特に「パティシエという職業にフォーカスをあてて、テーマを作り込んでいます」と述べる。

ところで、なぜ中古車なのだろうか。得丸さんは、「中古車の購入層は、20〜30代の若年層が多くいらっしゃいます。特に、初めてのクルマが中古車という方も多いのです。そこで、夢を追う個性的な若者のライフスタイルに寄り添うクルマというコンセプトを掲げ、彼らのライフスタイルのパートナーになれるような中古車のコンセプトを提案したかったのです」とその思いを語った。

「マーチ」のベースモデルは、2016年式で走行距離8万キロを超えた「K13」の中古車で、汚れや匂いなどが気になるところや、手の触れる箇所など目に見えるところを中心に、約100か所が新品純正保守部品へと交換されている。「パッと見は、新車のように生まれ変わっています」。また、マーチにした理由は「中古車というわかりやすさと、保守部品が手に入りやすいこと」を挙げた。このあたりは、今後を見据えた企画と感じられる。

カスタムのポイントは、「若手パティシエの高橋初姫さんという方を、コンセプトストーリーの主人公に据えました。彼女の、パティシエとしての活動に寄り添い、彼女のお店のデザインをできるかぎり踏襲することで、マルシェなどに出展する際の第二の店舗として活躍するようなデザインや機能性を作り込みした」とのこと。

たとえば、エクステリアはウッド状のフィルムを採用したリアのドアや、ピスタチオグリーン、ゴールドといったカラーは「彼女のお店の特徴」だそうで、そのカラーはホイールカバーやドアハンドルなどにも採用している。それはインテリアでも同様で、ピスタチオグリーンにこだわった専用のシートカバーやウッド調の加飾が施された。

ピスタチオグリーンが鮮やかな、「マーチ パティシエコンセプト」のインテリア

ピスタチオグリーンが鮮やかな、「マーチ パティシエコンセプト」のインテリア

そして、マルシェに出店する際の必需品として、ラゲッジには冷蔵庫が装備されている。これは、「生菓子の販売ができるようにしたもので、ポータブルバッテリーフロムリーフから電源を供給しています」とのこと。

リアのサイドには、脱着可能な黒板も装備。マルシェ出店時に自由にメニューをチョークで書けるようにしたものだ

リアのサイドには、脱着可能な黒板も装備。マルシェ出店時に自由にメニューをチョークで書けるようにしたものだ

シュークリームが100個ほど入る冷蔵庫(ラゲッジ奥)なども、高橋さんのアドバイスを受けて作られたものだ

シュークリームが100個ほど入る冷蔵庫(ラゲッジ奥)なども、高橋さんのアドバイスを受けて作られたものだ

前回の「キューブ リフレッシュ&レトロコンセプト」は市場の反響に応えて、奈良日産から20台限定で販売されることになった。得丸さんによると、「『東京オートサロン2023』へ出展した後、我々のお客様問い合わせセンターに多くのお電話やお問い合わせがあったのです」と市場の反響が大きかったことを明かす。

いっぽう、市販にあたっては物流、商流やパーツの手配加工などのハードルも高かった。そこで、奈良日産がみずからテスト的に加工して、販売の手を挙げたようだ。この状況次第では、今後はより広い地域での販売だけでなく、今回の「マーチ パティシエコンセプト」の市販も(冷蔵庫を搭載した2シーターは難しいとしても)考えられるだろう。

日産の「東京オートサロン2024」出展モデルは、どれも地に足の着いた提案が込められた、魅力的なコンセプトカーばかりに思えた。特に、筆者としては「ルークス」と「マーチ」が現実味に溢れており、「いま、販売してくれたらぜひほしい!」 と思わせてくれるような、高い仕上がりとなっていたことも付け加えておきたい。市場反響によっては、「キューブ」のように市販化に結び付いてくれるととてもうれしい。

内田俊一
Writer
内田俊一
1966年生まれ。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を生かしてデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。長距離試乗も行いあらゆるシーンでの試乗記執筆を心掛けている。クラシックカーの分野も得意で、日本クラシックカークラブ(CCCJ)会員でもある。
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桜庭智之(編集部)
Editor
桜庭智之(編集部)
自動車専門メディアで編集者として10年間勤務した後「価格.comマガジン」へ。これまで、国産を中心とした数百の新型車に試乗しており、自動車のほかカーナビやドラレコ、タイヤなどのカー用品関連も担当する。
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