圧倒的な氷上性能で、北海道を始めとした降雪地帯において絶大な人気を誇るブリヂストンのスタッドレスタイヤ、「ブリザック」。その最新モデルである「VRX3」に関しては、これまでにも何度か、その実力の高さについてレポートしてきた。だが、それらはスケートリンクや北海道など、かぎられた地域での試乗だった。
ブリヂストン ブリザック「VRX3」を、愛車のメルセデス・ベンツ「CLK200 KOMPRESSOR AVANTGARDE」へ装着してひと冬を過ごしてみたので、降雪時のほか乾燥路や雨天時などの印象についてもレビューしたい
そこで、今回は筆者の愛車に「VRX3」を装着して、冬の1シーズンを筆者の住む東京・八王子で使用してみたので、その印象についてレビューしたい。なお、氷雪路をメインとした「VRX3」のレビューについては、以下の関連記事をご覧いただければ幸いだ。
「ブリザック VRX3」をタイヤサイズ毎に見る
12インチ/13インチ/14インチ/15インチ/16インチ/17インチ/18インチ/19インチ/20インチ/21インチ
首都圏に降る雪は、北海道などとは異なり、水分を多く含むシャーベット状のものだ。そして、スタッドレスタイヤのウェット性能は、基本的にはサマータイヤよりも劣っているものが多い。そのため、氷雪路にすぐれる「VRX3」だが、あえて首都圏の水分の多い湿った雪で試してみたかったというのが、今回の大きな目的のひとつである。
また、冬の首都圏では雪が降るのは数日しかないため、ほとんどが乾燥路、もしくは濡れた路面での走行になる。「VRX3」における、ふだん使いによるドライ性能やウェット性能についても非常に興味があったためだ。
ブリヂストンの最新スタッドレスタイヤ、ブリザック「VRX3」を愛車に装着して、ひと冬を越してみた
今回、「VRX3」を装着した筆者の愛車は、平成13年式のメルセデス・ベンツ「CLK200 KOMPRESSOR AVANTGARDE」。タイヤサイズは205/55R16になる。ちなみに、履き替え前に装着していたサマータイヤは、ミシュラン「ENERGY SAVER 4」という低燃費タイヤだ。
さて、今回のタイヤ履き替えは、タイヤ館のめじろ台店(東京都八王子市)で行った。タイヤ館はブリヂストンタイヤの専門店なので、「VRX3」を初期性能段階からきちんと発揮させるセッティングをしてくれるだろうという期待とともに、バランス取りを含めてプロとしての仕事をきっちりとしてくれると考えたからだ。
結論から言うと、タイヤ館にお願いしてよかったと思えた。一つひとつの作業がていねいで、しっかりと説明してくれるので安心感がある。また、今回はホイールバランスだけでなくアライメント調整もお願いしていたのだが、その状況や結果などを正確に教えてくれたことなども、誠実な印象を受けた。
複数のスタッフにより声を掛け合いながら作業が進められ、危険度を下げる目的や作業忘れをなくす意図が感じられたことなども好印象だった
ちなみに、サマータイヤはそのまま持ち帰って自宅で保管ということも考えたのだが、保管スペースだけでなく温度管理や運ぶ手間などを考えて、今回はタイヤ館のタイヤ預かりサービス「タイヤクローク」を利用した。
「タイヤクローク」は、直射日光の当たらない専用倉庫や自社店舗内などでタイヤを預かってくれるサービスだ。金額は、タイヤサイズによってまちまちなので、興味のある方はお近くのタイヤ館へお問い合わせいただきたい
さて、「VRX3」を装着してドライ路面を走行した第一印象は、「若干、トレッドのあたりが固い」というものだった。しかし、これはすぐに慣れて10分も走れば気にならなくなった。そして、何よりも印象的だったのが、それまで履いていた「ENERGY SAVER 4」と比較して、ロードノイズが大きく低減していることだった。
写真は、「VRX3」の前に履いていたサマータイヤのミシュラン「ENERGY SAVER 4」。低燃費タイヤと言えど、路面からのあたりはしなやかさがあって、ドライ、ウェットグリップともに期待以上のレベルを体感できる優秀なタイヤだ
以前、オールシーズンタイヤのグッドイヤー「Vector 4 Seasons」を装着していたこともあったのだが、そのときにもかなりのロードノイズが発生していた。だが、「VRX3」はロードノイズがまったくと言っていいほど気にならない。また、ドライでのグリップ性能についても、少し勢いよく交差点を曲がった程度では、腰砕けになったりスキール音が発生したりすることなどもなく、街中を普通に走らせている限り不安感を抱くようなことはなかった。
上記は、高速道路でも同様の印象だった。直進安定性が高く、何よりも真円度が高いためか転がり抵抗が少ない。この影響なのか、街中、高速道路ともに「ENERGY SAVER 4」と燃費の差がほとんどなかったことも印象的だった。また、たとえば高速道路の継ぎ目や段差などもきちんといなしてくれるのも好印象であった。
唯一、気になる点としては、「ENERGY SAVER 4」と比較して路面からのフィードバックが若干甘くなっていることだ。たとえば、コーナーリングなどでステアリングを切り込んでいくと、「VRX3」は操作に対して若干遅れ気味になることがある。だが、これはあくまでもサマータイヤの「ENERGY SAVER 4」と比較したうえでの話だ。同等の性能を求めるのは、酷というものだろう。いっぽう、他銘柄のスタッドレスタイヤなどは、路面からのフィードバックがもっと少なく、剛性が低いものも多数あるので、「VRX3」は乾燥路を走るには十分と言えるほどの実力を持ち合わせていると感じられた。
そして、筆者が最も気になっていたのがウェット性能だ。こちらも、雨の日に街中や高速道路などを走り込んでみたのだが、流れに乗って走らせている限りハイドロプレーニングなど危険な状況に陥る、またそのような片鱗を見せるようなことは一度もなかった。
さすがに、ゲリラ豪雨時などは試していないが、危険と感じられたら速度を落とすことを守れば、まず危ない状況には陥りにくいだろう。ただし、サマータイヤに比べると限界域の排水性能は劣るはずだから、その点は十分認識しておく必要があるが。
もうひとつの課題である、シャーベット状の雪ではどうだろうか。結論から言うと、さすがに排水性能が追い付かなくなり、たまにズルッと滑ることがあった。
首都圏特有のシャーベット状の雪では、まれに滑ることがあったが、グリップはすぐに回復する
たとえば、軽い下り坂を降りていくようなシーンで、アクセルを抜いてエンジンブレーキを使おうとしたとき、荷重移動が起きてフロント側に荷重がかかると、前兆なくリアタイヤが一瞬滑ることがあった。だが、そこからは再び、しっかりと路面をとらえてグリップしてくれる。ちなみに、上り坂ではFRということもあってか、滑るような気配はほとんど感じられなかった。
そして、アイスバーンも経験したので記しておこう。自宅マンションの駐車棟は、屋上まで自走で上がっていくタイプだ。さすがに、屋上は雪が降った後は人が歩くのも大変なくらいのアイスバーンだった。これまでも、「VRX3」でアイスバーンを経験はしていたが、それはほぼ平坦な路面やスケートリンクでの体験であった。
愛車を止めていた屋上の駐車場はアイスバーン状態だったが、「VRX3」が装着されていたことで脱出できた
しかし、屋上の駐車場は若干の傾斜がついていることから、正直に言うと少々緊張した。Dレンジでブレーキを併用しながら、速度は2km/h程度でクルマをゆっくり進めていくのだが、やはりズルッとすべって、ABSがすぐに介入する。「これは、さすがに厳しいかな」と思いながらステアリングを切ると、切った方向に若干遅れながら(つまり滑りながら)も、方向を変えながら完全停止してくれた。そこからは、勾配を利用してNレンジを選択し惰性で動かしたのだが、アイスバーンを超えてしまえば滑ることはまったくなく、しっかりと氷をつかんでくれた。この出来事だけでも、「VRX3」を選んでよかったと感じられた。
以上、「VRX3」を冬の1シーズン履いてみて、降雪時だけでなく乾燥路や雨天時にも問題無く、快適に運転できることを記した。ここまでご覧頂いた読者の中には、「それなら、夏でもスタッドレスタイヤでいいのではないか」とおっしゃる方もおられるかもしれない。前述のとおり、「VRX3」はドライでのグリップ力はもとより、ウェット性能もなかなか高いので使い勝手はよさそうだ。だが、すべてにおいて万能なタイヤは、まだ市場にはない。「VRX3」は、あくまでも氷上性能を重視して開発されたスタッドレスタイヤだからだ。
「VRX3」では、氷の表面にあるわずかな水分を吸着してグリップ力に変えているので、それがオーバーフローするとグリップ力は低下する。これまでの経験で言えば、多少の雨では何ともなさそうだが、具体的にどのくらいの降雨量でオーバーフローするかは、目で見ても確認できない。そのため、冬時期は「VRX3」で過ごすとして、降雪がないと判断できる時期がきたら、サマータイヤへ履き替えることをやはりおすすめしたい。路面とクルマをつないでいるのは、ハガキ1枚分程度の面積しかないのだから、そこへ命を預けている限り安全をおろそかにしてはいけないと思うからだ。
(写真:内田俊一、ブリヂストン)
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