バイク野郎 増谷茂樹の二輪魂

普通二輪免許で乗れるハーレー「X350」! “回して走る”ネイキッドスポーツの愉楽

今回試乗するのは、2023年に最も注目されたバイクと言っても過言ではない、ハーレーダビッドソン「X350」。同ブランド初の、普通自動二輪免許で乗れる正規販売モデルだ。70万円を切るリーズナブルな価格も相まって大きな話題となった「X350」は、どのような乗り味に仕上がっているのだろうか。

2023年10月に発売されたハーレーダビッドソン「X350」に試乗

2023年10月に発売されたハーレーダビッドソン「X350」に試乗

エンジンは353ccの水冷並列2気筒

ハーレーダビッドソンは、大排気量のV型2気筒エンジンを搭載したクルーザーモデルでブランドイメージを築いてきたメーカー。大型自動二輪免許が必要な400cc以上の大型バイクのみしかラインアップされていなかったこともあり、“ハーレー乗り”であるということはひとつのステータスだったと言える。その半面、手を出すにはハードルが高いバイクでもあった。

「X350」は、そうした“憧れ”で留まっていた人にも手が出しやすい353ccの水冷並列2気筒エンジンを搭載した中型バイク。空冷V気筒エンジンのイメージが強いブランドとはいえ、近年は水冷エンジンが主力なため、水冷エンジンの採用は珍しくないが、小排気量で並列シリンダーとなるとだいぶ印象が異なる。しかも、最高出力36PS/8,500rpm、最大トルク31Nm/7,000rpm、ボア×ストローク比70.5×45.2mmというスペック値から、高回転型のエンジンであることが感じられる。これも従来のイメージを覆すものだ。

並列2気筒エンジンとしてはコンパクトな作り。複雑な形状のエキゾーストパイプも迫力がある

並列2気筒エンジンとしてはコンパクトな作り。複雑な形状のエキゾーストパイプも迫力がある

フラットトラッカースタイルの車体

車体は、ハーレーの象徴であるクルーザーではなく、ネイキッドタイプ。かつて存在した、フラットトラックレースと呼ばれるレースを中心に活躍していたレース向けモデル「XR750」を思わせるスタイルを採用しており、小排気量ながら同ブランドの血統を感じさせる見た目に仕上げられている。

車体サイズは2,110(全長)×785(全幅)×1,110(全高)mmで、重量は195kg。価格は699,800円(税込)。70万円を切る価格は同クラスの国産車と比べても競争力のあるものだ

車体サイズは2,110(全長)×785(全幅)×1,110(全高)mmで、重量は195kg。価格は699,800円(税込)。70万円を切る価格は同クラスの国産車と比べても競争力のあるものだ

ドラマティックブラック、ダイナミックオレンジ、スーパーソニックシルバー、パールホワイトの4色を用意

ドラマティックブラック、ダイナミックオレンジ、スーパーソニックシルバー、パールホワイトの4色を用意

シートカウルなどにフラットトラックマシンのイメージが受け継がれている

シートカウルなどにフラットトラックマシンのイメージが受け継がれている

タンクのグラフィックもかつてのフラットトラックマシンを思わせるもの

タンクのグラフィックもかつてのフラットトラックマシンを思わせるもの

フロントライトの中央にはブランドロゴが浮き出す。半円状のデイタイムライトも個性的

フロントライトの中央にはブランドロゴが浮き出す。半円状のデイタイムライトも個性的

コックピットは、やや低めのパイプハンドルに丸型のメーターをひとつだけ配置したシンプルな仕様

コックピットは、やや低めのパイプハンドルに丸型のメーターをひとつだけ配置したシンプルな仕様

アナログタイプのスピードメーター。中央下のデジタル部分には走行距離のほか、エンジン回転数も表示させられる。シフトインジケーターやガソリン残量計などはない

アナログタイプのスピードメーター。中央下のデジタル部分には走行距離のほか、エンジン回転数も表示させられる。シフトインジケーターやガソリン残量計などはない

マフラーはサイド出しのショートタイプ。消音室は車体の下に配置する現代的な設計だ

マフラーはサイド出しのショートタイプ。消音室は車体の下に配置する現代的な設計だ

足回りも現代的で、フロントには倒立式のサスペンションとペータルタイプのダブルディスクを装備。リアのモノショックが、フレームに沿うように斜めに配置されているのが特徴的だ。ホイールは前後とも17インチで、いわゆるスポーツネイキッドでは一般的なサイズ。

41mm径の倒立タイプのフロントフォークに、花びらのような形状のペータルタイプのダブルディスクを装備。フロントのタイヤサイズは120/70-17

41mm径の倒立タイプのフロントフォークに、花びらのような形状のペータルタイプのダブルディスクを装備。フロントのタイヤサイズは120/70-17

リアのスイングアームはパイプを組み合わせたような形状で、右側は「へ」の字に湾曲している。リアのタイヤサイズは160/60-17

リアのスイングアームはパイプを組み合わせたような形状で、右側は「へ」の字に湾曲している。リアのタイヤサイズは160/60-17

トラスタイプのフレームに沿うようにマウントされたリアショック。車体の右側に露出させた配置がユニークだ

トラスタイプのフレームに沿うようにマウントされたリアショック。車体の右側に露出させた配置がユニークだ

スポーツライディングの楽しさが味わえる

エンジンも車体構成も従来のハーレーとは異なり、排気量も353ccと小さいため、大排気量Vツインのような鼓動感を期待するのは酷だということはわかっている。しかし、そうしたなかにもハーレーブランドに共通する乗り味があるのか、まったく別物なのか気になるところ。ということで、高速道路やワインディングまで足を伸ばして体感してみた。

シート高は777mm。身長175cmの筆者の場合、両足のかかとまで接地した。足付き性は良好だ

シート高は777mm。身長175cmの筆者の場合、両足のかかとまで接地した。足付き性は良好だ

シートは肉厚だが、前方を絞ることで足付き性を向上させている。ただし、着座位置が固定される感じなのでポジションの自由度は低い

シートは肉厚だが、前方を絞ることで足付き性を向上させている。ただし、着座位置が固定される感じなのでポジションの自由度は低い

エンジンのフィーリングは、スペックから想像していたとおり高回転まで回して楽しさが味わえるもの。360度のクランク角とショートストロークなエンジン設計、そしてバランサーのできがよいためか、低回転域での鼓動感は希薄で、滑らかに回転が上昇する。ハーレーお得意の鼓動感を強調した大排気量Vツインエンジンのフィーリングとはまったく異なるものだが、これはこれで楽しい。

近年は360度クランクの2気筒エンジンは希少な存在となりつつあるため、軽快な回転上昇が味わえるエンジンはある意味貴重。アクセルを開けるのが楽しくなるフィーリングなので、公道でスポーツライディングを味わうには好適なパワーユニットとも言える。

トルクで押し出すというより、回転で引っ張るようなエンジン特性。アクセルをどんどん開けたくなる

トルクで押し出すというより、回転で引っ張るようなエンジン特性。アクセルをどんどん開けたくなる

ハンドルがアップタイプなので上体は起きるものの、ライディングポジションはスポーティー。ステップ位置はかなり後方に配置されており、前方に足を投げ出すフォワードコントロールのマシンが多いハーレーダビッドソン製と考えると、違和感を覚える人もいるだろうが、個人的にはこういうポジションはやる気にさせられて好みだ。

400ccクラスの2気筒マシンとしては、車重は195kgと軽いほうではないが、倒し込みの操作は軽快。倒立式のフロントフォークは動きがよく、ブレーキもコントローラブルなので、フロントに荷重を残したままコーナーに入っていく走り方もしやすい。既存のハーレーダビッドソンのマシンで、こうした走り方が楽しめるモデルは希少。同クラスのスポーツネイキッドマシンと比較しても、面白さという点では勝っていると感じた。

前後サスペンションは比較的よく動くので、それほどスピードを出していなくても操る楽しさを味わえる

前後サスペンションは比較的よく動くので、それほどスピードを出していなくても操る楽しさを味わえる

高速道路も走ってみたが、やはりエンジンを回して走るのが気持ちいい。排気音も回しただけ官能的になるので、ついつい低いギアで高回転域を使いたくなる。この点も、従来の大排気量Vツインエンジンクルーザーとは対極にあるフィーリングだ。400ccクラスの2気筒エンジンとしては特筆するほどパワフルではないが、高速道路を巡航するには十分。追い越しなどの加速も、アクセル操作だけというよりは、シフトダウンして高回転を使ったほうが気持ちいい。

【試乗を終えて】
ハーレー乗りの“セカンドマシン”としてもよさそうだ

「X350」は、イタリア生まれのベネリなどを傘下に持つ中国のQJモータースが製造を手掛けていることもあり、従来のハーレーダビッドソンのマシンとは異なる個性を持っていることが感じられた。設計のほかに、360度クランクの特性を生かしたエンジンフィーリングなど随所にベネリのマシンと共通する部分があるが、細部のデザインなどはハーレーダビッドソンのクオリティに仕上げられている。

既存のハーレーファンからすると、余計に眉をひそめたくなってしまうかもしれないが、純粋に400ccのネイキッドマシンと考えると、バランスの取れたよいマシン。特筆するほどパワーがあるわけではないものの、「X350」がターゲットとしているエントリーユーザーがスポーツライディングの楽しさを味わうのにちょうどいい。いや、きっと、既存のハーレー乗りがセカンドマシンとして購入しても、新しいバイクの楽しさを感じることができるだろう。

●メインカット、走行シーン撮影:松川忍

増谷茂樹
Writer
増谷茂樹
カメラなどのデジタル・ガジェットと、クルマ・バイク・自転車などの乗り物を中心に、雑誌やWebで記事を執筆。EVなど電気で動く乗り物が好き。
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中村真由美(編集部)
Editor
中村真由美(編集部)
モノ雑誌のシロモノ家電の編集者として6年間従事した後、価格.comマガジンで同ジャンルを主に担当。気づけば15年以上、生活家電の情報を追い、さまざまな製品に触れています。
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